最高峰の交換レンズと呼ばれる「Gマスター」とは?

ソニーは9月20日、東京都中央区のスタジオで、同社最高峰の交換レンズシリーズ「Gマスター」を中心に使ったメディア向けのポートレート撮影体験会を開催した。従来のソニーの交換レンズは、「ツァイスブランド」と「Gシリーズ」があり、ユーザーは2つのブランドの幅広いラインナップからレンズが選べるようになっていた。それに加えて2016年2月、ソニーは独自開発による高解像力とぼけ味が特徴の最高峰ブランド「Gマスター」を発表。2017年7月に発売をしたFE 100-400mm F4.5-5.6 GM OSSやFE 16-35mm F2.8 GMを加えて現在計6本まで拡充して話題となっている。

今回のイベントは撮影の体験だけでなく、ソニーのレンズメーカーとしてのこだわりや、ソニーのレンズ技術、Gマスターのコンセプトなどをご紹介するプレゼンテーションも行われた。まずはそこで紹介された中から気になった内容を紹介しよう。

■Gマスターとツァイスは何が違うのか?

現在ソニーの交換レンズは、「ツァイスブランド」、「Gマスターブランド」、「Gブランド」の3つのブランドと「冠のないソニー製レンズ」をラインナップしている。「Gマスター」ブランドが気になりはじめた人は「ツァイスブランドと何が違うの?」と思うはずだ。そのあたりの答えはこうだ。

  • ソニーのツァイスブランドとは?
    ツァイスとソニーの共同開発をしたツァイスの品質規格に基づいたレンズシリーズ。解像とコントラストが特長。
  • Gレンズブランドとは?
    ミノルタから受け継いだ高性能レンズシリーズとしてお馴染みのブランド。現在では、ソニー独自の新技術とソニーの設計基準による解像とボケが特長のシリーズ。
  • Gマスターブランドとは?
    2016年2月の展示会「CP+」で発表したGレンズの中の最高峰となるシリーズ。ソニーのGブランドはもともと解像とボケが特長だが、そこをさらに一段高めたのが「Gマスター」シリーズとなる。

解像とボケの関係を整理すると、レンズのさまざまな収差をレンズ構成で取り除いて解像感を上げたりコントラストを上げていく。すると同時に描写としてはボケが固くなる。一方で、ボケを柔らかくすると描写が甘くなってしまう。その両立が非常に難しいという中で、両立を高い次元で実現を目指そうというのがGマスターだ。

■Gマスターがシャープな写りや美しいボケが実現できる仕組み

Gマスターは、ズームレンズの広角側、望遠側の両端であっても単焦点に匹敵するようなシャープな写り方が特徴としている。このような解像力を実現できる理由はこうだ。

これまでのレンズはMTF40本/mmをベースにしていたが、GマスターはMTF50本/mmという高い周波数での設計基準や製造基準設けて設計や調整を行う。また、XAレンズと呼ばれる非球面を自社開発。非球面レンズは、薄いところと厚いところの落差が大きいと生産しにくくなり、それが大口径になるとさらに困難になる。ソニーはそれを自社の内製で実現している。また、非球面レンズは表面が荒れる可能性が高いが、0.01ミクロン単位で表面精度に仕上げることにより、切り株みたいなボケが汚くなる現象を防いでいる。

このほかにも、ミノルタの技術で7枚絞りの円形絞りを実現していたが、11枚絞りを実現など工夫が行われている。

■自社開発のアクチュエーターを自由に組み合わせて高い性能を実現

Gマスターシリーズは、光鏡筒の部分にも特長があるという。特にα9のような最大60回/秒の演算によるAF/AE追随機能を搭載したカメラは、ボディ側からのオートフォーカスに関する入力が非常に細かく、ミクロンオーダーの停止精度を実現する制御技術が必要になっている。そこでGマスターでは、各レンズの光学特性に最適化した機構と組み合わせることで、理想的なフォーカシングを実現している。

例えば、「FE 70-200mm F2.8 GM OSS」には、自社開発によるアクチュエーターを2個搭載。1個だけでは力量が足りない場合には2個使用する「ダブルリニアモーター」で1つの群を素早く精度よく動かすようにしている。FE 16-35mm F2.8 GMに関しては「ダイレクトドライブSSM」と呼ばれるレンズ駆動用モーターを2個使用。「ダイレクトドライブSSM」はコンパクトにできる利点もあるという。

FE 16-35mm F2.8 GMとα9の瞳AFを使った撮影

対面キッチンのある開放的なスタジオで、自然光を使ったポートレート撮影を体験してみた。α9とFE 16-35mm F2.8 GMを組み合わせて撮影を行った。FE 16-35mm F2.8 GMのレンズ側面には「フォーカスホールドボタン」と呼ばれるボディのメニューから機能を割り当てることができる。ここに瞳AFを割り当てて使用した。

Gマスターの「FE 16-35mm F2.8 GM」と「FE 24-70mm F2.8 GM」やα9とα7IIRのボディがずらりと用意されていた

α9の瞳AFを初めて体験してみて感心したのはAFピントの精度の高さだ。F2.8の開放で瞳AFだけを頼りに何枚も撮ったがピントを外しているカットはなかった。植木鉢が手前にあって前ぼけとして顔にかかるシーンであっても、瞳AFは奥にいる女性の瞳を検出してくれる。瞳AFは強力な機能になると感じた。

また、作例ではわかりづらいが16mmや35mmなどのズームの両端でも最短距離のボケはきれいだ。絞らず開放で撮っても面白い写真が撮れそうだ。

左はフルトリミング。右は左の写真の拡大

次にFE 85mm F1.4 GMを絞り開放の状態で撮影をしてみた。実際に使って見逃せないと思ったのは女性の瞳がフレーミングの端にきても瞳AFは問題なく追従してくれるということだ。また、85mmは開放がF1.4なので、Gマスターの特長であるボケ味をしっかりと楽しむことができると感じた。

女性をフレームの端にフレーミングしても、瞳AFは画面の端まで追従してくれる

α7S IIとFE 85mm F1.4 GMを使った低感度の撮影

女性を低照度の環境で撮影してみた。メーカーが企画する低照度の撮影というのは、多少は間接光などがあって部屋の明るさが上げられていたりすることが多かった。今回の低照度の撮影は本当にローソク1本しか光源がなく、極限まで暗くしている攻めまくった企画といっていいだろう。ここではダイナミックレンジの広さが特長のα7S IIにFE 85mm F1.4 GMを付けて撮影をした。

ずらりと並べられたα7SIIにFE 85mm F1.4 GM
暗くする前の撮影現場の様子。椅子に座った女性をローソク1本の明るさで撮る

設定は2600ケルビンでISO6400、絞りはF1.4、シャッタースピードは1/30で撮影をした。感心したのは暗いシチュエーションでありながらノイズがなく、ディテールに解像感があるところだ。唇の艶感や服の質感も確認ができる。α7S IIを使えばポートレート撮影の領域を広げられそうだ。

部屋の電気を消してローソク1本の明かりだけでポートレート撮影

上写真の拡大。ISO6400であってもα7S IIであればノイズを感じない撮影が可能

きれいな円形ぼけを実現するFE 100mm F2.8 STF GM OSS

STFと呼ばれるレンズを使ってシーンに点光源を入れて前ぼけや後ろぼけを入れたポートレート撮影をしてみた。STFレンズとは、「アポダイゼーション光学エレメント」と呼ばれる周辺光量をグラデーションであえて落とすエレメントを搭載していることや、口径食と呼ばれるレモン型に点光源がかけてしまうのを防ぐ設計を実現したレンズのことだ。

ソニーのSTFレンズといえば、Aマウント用の「135mm F2.8 [T4.5] STF」が優秀なボケ味として有名だ。しかし、マニュアルフォーカスのレンズというマイナスポイントも兼ね備えていた。Gマスターの「FE 100mm F2.8 STF GM OSS」は、待望のオートフォーカス対応や手ぶれ補正も搭載している。

FE 100mm F2.8 STF GM OSSで気になったのは絞りリングを搭載しているところだ。また、STFレンズはアポダイゼーション効果により透過光量が減少するため、絞りリングにTナンバーを表記している
レンズを正面から覗くと、中央から周辺に向かって濃くなっていくグラデーションがかかったエレメントが入っている。これがアポダイゼーション光学エレメント

一般的に、ボケの描写は前ボケを美しくするか、後ろボケを美しくするかどちらかバランスをとらないといけないのだが、アポダイゼーション光学エレメンとが入っていると両方を美しくすることができるという。

実際に撮ってみると、点光源の輝きは円形ぼけになっている。このような円形ぼけを出せるのは唯一無二のレンズとのこと。

少しわかりずらいが、液晶モニター内の写真が「FE 100mm F2.8 STF GM OSS」で撮影したもの。点光源が円形ぼけになっている。カメラの周囲の光源は一般的なズームレンズで撮ったもの。形や濃さが均一になっていない

Gマスターとα7やα9を組み合わせて体験してみた感想は、瞳AFが想像していた以上に実用的なことだ。これまでのポートレート撮影というのは、ファインダーを覗き込んでピント合わせに神経を集中してシャッターを切るという形で行っていた。瞳AFを使えばピント合わせのことを一切忘れて、フレーミングのみに集中した撮影ができそうだ。

今後は、瞳AFをオンにしてフレーミングは背面のモニターを使って撮影をする。ファインダーを覗いた状態ではできなかった背伸びをしたハイアングルやローアングルの写真など、多彩なアングルの撮影ができるのではないかと感じた。