アドビのイマーシブメディア(VR)への取り組みを統括するイマーシブ担当ディレクター Chris Bobotis氏

360°コンテンツの制作者が活用するプラグインをアドビが提供中

昨年アドビが取得したMettle社のSkyBox技術の開発に携わり、現在アドビのイマーシブ担当ディレクターを務めるChris Bobotisが来日。東京・品川のアドビ システムズのオフィスで、VR業界の過去、現在、これからの取り組みについて紹介する記者発表会が開催された。その様子を紹介しよう。

最初に、イマーシブストーリーテリングの提唱者であり360°VRビデオ業界に変革をもたらしたと言われるBobotis氏自身のVRの黎明期を紹介。GoProのカメラを自転車から抜いた歯車にガムテープでつけて、360VRカメラアレイを自作してコンテンツ制作を実現。そんなパーツから作り上げた全部DYI的でアバウトなやり方に見えるが、「最高のコンテンツが作れた」という。

ツール側に関しても、After Effectsで複雑なプロセスを構築してゼロから作り上げなければならず、「今見ても自分が作ったプロジェクトにもかかわらずわけがわからないですが、このようなプロジェクトを作るしかありませんでした。しかし、これがはじまりでした」と振り返った。

Bobotis氏がVRの初期に制作したAfter Effectsのプロジェクト

その後、Mettle社はこれまで市場に存在しなかったコア機能を提供するVRの制作向けのプラグインを製品化して発売。ほぼすべての360°コンテンツのプロフェッショナルな制作者が活用するまでに広まる。アドビはMettle社のSkyBox技術を2017年の夏に取得し、イマーシブ対応のアドビ製品は「After EffectsとPremiere Pro、Photoshop、Dimensionの4つ」と名前を挙げた。

負担や処理時間を減らす目的で、妥協すべてきときは妥協することが大事

Bobotis氏いわく、「人間は見えるよりは聞こえる」。VRはオーディオが大切で、ビデオより大事だという。それに関連して、現在開発中で昨年10月のAdobe Maxで紹介したイマーシブオーディオの制作向けの新機能「SonicScape」を紹介。

イマーシブのVRコンテンツのオーディは、モノとかステレオという話ではなく、適切な角度から聞こえないと違和感があるという。そのため、これまでは聞きながら微調整といった感じで行われてきた。しかし、SonicScapeを使えば全方位の音を録音したアンビソニックス・オーディオをビジュアライズすることができるようになる。「聞きながら微調整をする必要はなく、その音を見ながらより正確に調整が可能になる」とのことで、聞きながらより正確に調整できると紹介。

Bobotis氏は、「イマーシブオーディオはオーディオがすごく大事」と強調した。

続けて、もう1つのMettle社が2年前にFacebookとのコラボレーションにより実現する新技術「Sidewinder」を紹介。通常、360°ビデオを撮ると、ピッチ、ヨー、ロールの3つの自由度で撮ることになり、ユーザーも違和感のないイマーシブな体験が可能になる。しかし、「ビデオを撮った場所が1点からしか撮っていないので、しゃがんだりジャンプをしたり、ズームイン、ズームアウト的な動きをしてもビデオの写りがそれに反応しない」と指摘。

Sidewinderは、ステレオで撮ったRGBのデータから奥行きの情報を推定する技術で、ヘッドセットをかぶっている人が上下左右、前後に動くとある程度は壁の向こう側が見えるようになる。「その奥行のデータを加えると、ある程度は6度自由度のような体験として、立体感のあるような再生環境に対応できる」とアピールした。

Sidewinderの技術を使ってデプスマップを生成

頭を左右に動かせば壁の横が見えるようになったり、少しかがむと下のほうが見えるようになる

After Effects、Premiere Pro向けの7種類のデプスベースエフェクトをパブリックベータとして公開していると紹介。

続けて、VRの制作上の課題を紹介した。VRの解像度が上がって奥行きデータも加わると、データの量や処理とか負担が上がる課題が発生するという。

Bobotis氏は、アセットは巨大になりデータ管理の部分が増えればクリエイティブに作業ができる余裕が減っていくと指摘。8Kになるとデータ管理はさらに増え、奥行きデータを加えるとさらにクリエイティブの部分が少なくなる。

4K平面視のプロジェクト

8K立体視、デプスデータ、ポイントクラウドデータ

巨大化の障害に関して、「負担とか処理時間を減らす目的で妥協すべきときは妥協しないと、やむを得ないんじゃないか」と考えはじめたという。そこで、負担や処理時間を減らす方法として、RGBに片面の奥行きデータに変えるRGBZをサポート。「RGBZは、片面しかRGBが入らないのですが、奥行きデータではステレオを推定できます」とのことで、シンプルでよりサイズの小さいフォーマットで作業ができる。また、アドビでは、PDFと並ぶVRに関するデータフォーマットとしてVDF(Volumetric data format)を提案中だという。

Bobotis氏は「アドビ側でデータの管理の負担を減らして、制作者がクリエイティブの部分をより出せる状況にならないとリアルコンテンツが面白くならない」と指摘。VDFとは、データのフォーマットやコンテナのフォーマットを、アドビが1社ではなく、いろんなパートナーと協力しながらみんなが使えるような標識的なフォーマットを目指したものだと示した。

また、FacebookとGoogleがそれぞれ力を入れ始めてアドビも協力しているVR180をサポート。VR180はVR360ほどイマーシブではないが、制作の編集部分の負担がかなり減るので、同じ要素でより深いコンテンツを作れると話した。

最後に、リーダーシップの企業が導くのではなく、「コンテンツクリエイターの話を聞きながら、協力しながらツールの行方を見ていくのが大事」と語り、話をまとめた。