業務用ディスプレイの中でも最高クラスの最大・全白輝度2000cd/m2を実現

キヤノンは9月6日、最大・全白輝度2000cd/m2や全黒輝度0.001cd/m2を実現した31インチ4Kリファレンスディスプレイ「DP-V3120」を発表した。発売は2019年11月下旬で、市場想定価格税別420万円。

DP-V3120は、業界定番のマスターモニターと言われているソニーの「BVM-X300」「BVM-HX310」を上回る最大・全白輝度2000cd/m2や、Dolby Vision認証への適合などが話題のモニター。キヤノンが4K業務用マスターモニター業界に参入したのは2014年と後発だが、DP-V3120の発表でマスモニマーケットでも存在感が増しつつあるようだ。新製品の特長や意気込みを、キヤノンの大川原裕人氏と永嶋義行氏に聞いてみた。

――業務用ディスプレイシリーズやDP-V3120のキヤノンならではのこだわりを教えてください。

大川原氏:ディスプレイは映像機器であり、計測機器であるとも思っています。ありのままの状態を忠実に再現する映像表示の機器であり、かつ入力信号を定量的に数値化、もしくは映像化する機器であると思っています。

キヤノンは、リアルな現実世界をいかに見た目のまま再現できるかをテーマにディスプレイを開発しております。そのため、解像度は4K以上かつHDR対応をコンセプトとし、ラインナップ全体を構成してまいりました。

そこで、パネルタイプは、IPS液晶パネルを採用しました。他のパネルデバイスには明るさが一定の面積を超えた場合、全体の輝度を落とすものもございますが、DP-V3120にはこのような制約はございません。長期的にも環境的にも強い液晶パネルをラインナップ全製品に採用し、用途に応じて、17インチ、24インチ、31インチと様々なサイズをお選びいただける製品構成とさせていただいております。

また、ルックはもちろんのこと、持たせる機能もファームアップですべて同じ使い方ができるようにファミリー化を重要視し、マスモニ(マスターモニター)の計測機器としてのディスプレイビジネスを進めております。

執行役員の大川原裕人氏

永嶋氏:大川原も紹介しましたが、DP-V3120でのこだわりは、安定した最大・全白輝度2000cd/m2を実現したことです。世の中のモニターには、明るさの状態によって全体輝度を下げるローディングと呼ばれる技術を搭載したものもあります。当社のモニターは、どんな画を出しても2000cd/m2で安定した表示を行えることを特長としております。

さらに、液晶パネルでは、そのままでは黒の輝度レベルが0.1cd/m2や1cd/m2という明るさになってしまいます。キヤノンのモニターは、ローカルディミング制御を搭載し、暗い映像はバックライトの輝度を下げることで、黒輝度を0.001cd/m2まで落とすことを実現しております。

ディスプレイの開発を担当したイメージソリューション事業本部の永嶋義行氏

――新しく発表されたDP-V3120は、どのようなシーンで使用されることを想定していますか?

大川原氏:これまでの当社の業務用4Kディスプレイは放送局の編集室やOB Vanが中心で、放送素材の確認用として多く使われていました。当社は、映像制作のグレーディングやカラーコレクションに使われるマスターモニターを目指しており、DP-V3120はそこを狙える位置づけとして発表させていただきました。

――30インチクラスのマスターモニターは多数のメーカーから発売されていますが、その中から御社が選ばれる理由は何でしょうか?

大川原氏:例えばEOS C500 Mark IIではCanon Log 2ガンマ搭載により1600%のダイナミックレンジを確保することができます。そこに対してモニターの仕様が400cd/m2や600cd/m2、800cd/m2、1000cd/m2では、撮った映像のクオリティをそのまま確認することができません。DP-V3120は全白・ピーク輝度が最大2000cd/m2となるため、2000%の入力ダイナミックレンジまで対応することができます。

また、液晶パネルの場合、黒が有機ELと違って沈み切らないという多数のご意見をいただきました。ですので、DP-V3120では全黒輝度を0.001cd/m2として低輝度側の階調性を高めつつ、全白・ピーク輝度を伸ばし、全体のコントラスト比(200万:1)を実現する仕組みを搭載しました。

有機ELと比べても全く見劣りせず、かつ有機ELではできない輝度の表現までを含めたリアルな現実世界を、HDR技術で表現いたします。カメラやレンズがとらえた映像をそのまま確認できるという点が、DP-V3120をお選びいただきたい一番の特長と考えております。

キヤノン内部の話として、カメラの画やレンズの画をきちんと表現できるモニターがあることは、トータルの画作りにとって非常に大事なことです。技術を進化させていく意味でも、DP-V3120で実現した2000cd/m2は非常に意味がありました。

EOS C500 Mark IIとDP-V3120の組み合わせでは、4K60Pを12G-SDIのケーブル1本で伝送が可能

対応カメラとSDI接続すると、色温度、F値、ISO、シャッタースピード、ガンマ、カラーガマット、解像度、フレームレートなどのメタ情報を取得し、その内容を表示する機能がある。さらに、取得したメタ情報に基づき、自動的にディスプレイの設定を切り換える画質連動することも可能

――DP-V3120を実現する上でもっとも苦労された点などを教えてください。

永嶋氏:2000cd/m2化への課題は、静音設計の確立と、画質面では色や輝度の精度向上でした。デジタル撮影の色調整を行うカラーグレーディングルームは、映画館のように静かな環境です。そこで、お客様から、冷却ファンのノイズが気にならないように静音化を図ってほしいというご要望を多数いただき、DP-V3120の製品開発にあたり、静音化にチャレンジしました。

2000cd/m2の高輝度化を実現すると、発熱が増えて冷却ファンをより高速に回す必要がありました。2000cd/m2と静音化はトレードオフの関係にあるため、両立に非常に苦労しました。

そこでDP-V3120の開発では、放熱構造をゼロべースで見直しました。当社は8K映像のディスプレイの要素検討もしておりますので、そこで得られた知見も盛り込みました。具体的には、発熱源や発熱分布、発熱量をシミュレーションによって厳密に解析して、試作実験を経て、新たな放熱構造を確立いたしました。これによって、一般的なHDRディスプレイよりも、静音化した構造を確立できているため、カラーグレーディングルームであってもストレスなく使用いただけると考えております。

――なぜ液晶パネルを採用されたのでしょうか?

永嶋氏:理由は安定性です。長期に渡って安定した輝度、色で表示することができます。マスモニは、一度導入したものを長期にわたって使われるのが大前提です。そこでそれなりのクオリティや品質を担保できるものでないと、選んではいけないと考え、液晶パネルを採用いたしました。

もちろん、世の中にある有機ELや二重液晶などのパネルデバイスも検討いたしました。当然、いい面もあれば、どうしても気になる点もあります。キヤノンのマスターモニターは、液晶パネルでラインナップを構成しており、どの機材を選んでいただいても同じクオリティ、かつ同じ絵や色合いで見ることができることを特長としております。2つのモニターを並べても同じ色できちんと確認できることも液晶パネルを選んだ理由です。

――入出力の部分で使い勝手を改善されたところはありますか?

永嶋氏:今、放送局や中継車でもHDから4Kに置き換えが進んでいますが、その際にお客様からは、配線に関しては同じ取り回しでモニターだけ置き換えたいというご要望を多数いただきました。

この要望に応えるために、DP-V3120では12G-SDIを4系統搭載しております。従来の3G-SDIですと、ケーブルの本数は4本の4倍になってしまうのですが、12G-SDIを搭載することで、HDの運用と同様にケーブル1本で4Kが伝送できるというご提案をさせていただいております。

また別の特長としては、12G-SDIを4系統搭載することにより、8K映像のSQD(SquareDivision)を縮小して表示したり、8K映像の2SI信号を切り替える必要はありますが、各チャンネル分切り替えて4チャンネル分表示できるという新たなメリットも提供させていただいております。

12G-SDI端子(IN/OUT各4個)を搭載。3G-SDI端子では4本のケーブルを必要とした4K60P映像の入出力が、12G-SDI対応ケーブル1本で可能

――最後に機能面などの特長があれば、教えてください。

永嶋氏:カラーグレーディングでは、画質を見て官能的に調整する面と、入力されたデータがどのデータなのかを定量的に把握する必要があります。

それに応えるため、当社のディスプレイにはHDRモニタリングアシスト機能を搭載しております。例えば画面上の輝度分布をグラフで表示して可視化するヒストグラムの表示機能や、画面の明るさを疑似色で直感的に表示するフォルスカラー表示など、入力信号を定量的にカラーリストの方が把握できる機能を搭載しています。

波形モニターとベクトルスコープを表示して輝度レベルを確認でき、同一画面内に同時表示できる

Hybrid Log-GammaやPQに対応したHDR対応のフォルスカラーを搭載。 入力輝度の信号に応じて異なる色で着色表示する

また、HDRの制作が進んでいますが、撮影はHDRで完パケはHDRとSDR両方の制作が主流になってきております。そういった場合でも弊社のモニターでは、HDRの映像とHDRをSDRに変換した映像を縮小して並べて表示することで、一台のモニターでHDRとSDR、双方確認しながらグレーディングや画質のチェックができる機能を搭載しております。

このような機能は、DP-V3120だけでなくて、既存のモデルにも入っています。例えば一番小さい17インチの「DP-V1711」を撮影現場の確認用モニターにして監督が「HDR撮影ではこうだけど、SDRのときも大丈夫だね」といった確認が現場でもできます。

HDRとSDRの比較表示が可能

さらに、HDRとフォルスカラー/波形モニター表示などを並べて表示ができる

また、リファレンスディスプレイは、画質の高さをいかに保つかが重要だと考えております。そのため、キャリブレーションアプリをご用意しており、発売と同時に無償提供させていただく予定です。そちらをお使いいただければ、高精度で長くお使いいただけると考えております。