FX9の設計を担当したソニーの村上哲也氏(左)と商品企画を担当した大石崇氏(右)

より“美しく”、より“速く”。ソニーの秘術が集結した「FX9」登場

ソニーはIBC 2019初日となる2019年9月13日、VENICEやFS7 II、αで培った技術を結集したメモリーカムコーダー「FX9(PXW-FX9)」を発表した。FS7 IIの使い勝手を継承しつつ、「6K」「フルサイズ」「16ビットRAW出力」「高感度耐性の高さ」「高性能なオートフォーカス」など、「こんなの待っていました!」と思わせる仕様が反響を呼んでいる。そこでソニーのFX9開発陣に、新機能や開発の裏側について話を聞いてみた。

FX9はFSシリーズのフラグシップモデルとしてラインナップ

――当初2020年1月15日発売予定としていたFX9ですが、2019年12月10日へ発売日が変更されることが発表されました。一ヶ月以上も早くなり、ビッグニュースですね。でも開発陣には、相当なプレッシャーなのではないでしょうか?

大石氏:FX9はIBC 2019で発表しましたが、大変好評の声をいただきました。設計開発を鋭意進めており、順調に進捗している実態を踏まえて、発売日を再度見極めた結果、発売日変更を決めました。

村上氏:発売日が早まって、凄いプレッシャーです(笑)。皆様の期待に答えられるように頑張ります。

――ちなみに、現在の完成度はどれぐらいでしょうか?

大石氏:難しい質問ですね。ハードウェア的にはほぼ最終です。外見はご覧の通り、ほぼ100%に見えると思います。ソフトウェアは鋭意最終開発中です。8~9割は完成しており、細かいところを調整しています。

村上氏:FX9はほぼ完成状態で、最後の量産はこれからです。私からすると、9割5分の状態というところでしょうか。

――さっそくFX9のコンセプトから質問させていただきます。ソニーのラージフォーマットにはVENICEやFS7など、さまざまな機種がラインナップされていますが、FX9の位置付けを教えてください

大石氏:FX9は、FSシリーズのフラグシップモデルとして導入したいと考えております。

CineAltaシリーズのVENICEは、カメラマンとフォーカスマンが別になって撮影するシネマやCMなどの撮影を想定したカメラです。私自身はプロジェクトスタイルと呼んでおり、大掛かりな撮影現場でよく使用されるカメラです。

一方、今回のFX9や発売中のFS7はコンパクトな筐体が特長で、カメラマン一人で撮影可能なカメラです。ディレクター的な役割や監督的なポジションをこなしながら撮影をする、ワンマンなオペレーションで使っていただくところをターゲットとしています。FX9はVENICEの持つ表現力、αの最新のオートフォーカステクノロジー、FS7シリーズの使い勝手という、現在のソニーが持つ技術を結集したモデルと考えています。

――CineAltaカメラシリーズは「F」シリーズ、FS7やFS5などのカムコーダーは「FS」シリーズとして発売されてきました。FX9は新シリーズとなる「FX」と名称を打ち立てた理由を教えてください

大石氏:FS7やFS5は、スーパー35mmのイメージセンサーを搭載したカメラで、FX9はフルサイズの非常に大きなイメージセンサーを特長としています。センサーサイズの変化は、お客様がより大きな進化を感じていただけるきっかけになると考えております。そこで、既存のFSシリーズとは違う進化感を表現できるネーミングとして、FXという名称になりました。

――FX9本体のみの想定価格は120万円前後で、FS7 IIとそれほど大きく変わりません。FS7シリーズは今後、どのようになりますか?

大石氏:FS7 IIも引き続き併売を予定しています。もちろん、新しいお客様にはFX9をぜひ使っていただきたいと思います。FS7 IIの発売は2017年1月と、発売から時間が経っておりますが、おかげ様で大変な引き合いをいただいており、今後のラインナップは、2ラインナップで構築していきたいと考えております。

――FX9の特長はなんといってもフルサイズセンサー搭載ですが、そこに至った経緯を教えてください

大石氏:初代FS7は2014年、FS7 IIは2017年に発売しておりますが、導入からだいぶ時間も経ちました。その裏で弊社αシリーズや、他社からもフルサイズセンサー搭載デジタルカメラに動画機能を強化したモデルが登場して、そちらのカメラを使って動画を撮るケースが増えてきています。

そこで、ワンマンオペレーションクラスのカメラにフルサイズのイメージセンサーを搭載したモデルを導入したいと思いまして、FX9の企画に至りました。

XAVCの4K収録ですでに確立されているノンリニア編集のワークフローに対応

――6Kフルサイズイメージセンサー搭載には驚きました。フルサイズ6Kのスキャニングサイズは35.7mm×18.8mmとのことですが、16:9のイメージセンサーを搭載しているのでしょうか?

大石氏:弊社のVENICEやαであれば、基本的にデバイスサイズとしてはすべて共通サイズの横36×縦24mmで製造しています。このFX9のイメージセンサーでも横36×縦24mmのサイズで新規開発を行いました。

しかし、動画撮影のお客様は、基本的に16:9のアスペクトでの撮影が主流ですので、36mm×24mmのイメージセンサーを搭載しつつ、横35.7mm×縦18.8mmの16:9と17:9の読み出し領域を記録する仕様になっております。

新開発6KフルサイズCMOSセンサーを搭載。レンズを外すと3:2のイメージセンサーが見える
※検証用の試作機のため、外観に関しては最終状態ではない

――FX9のように、3:2のイメージセンサーを搭載して、16:9で使う例は他製品でも結構あるものでしょうか?

大石氏:弊社としては、特別に珍しいことではありません。1インチのカムコーダー「PXW-Z90」でも、3:2のイメージセンサーを搭載していますが、動画撮影の読み出しとしては16:9で使用しています。

――イメージセンサーは6Kでスキャニングしますが、内部収録は4Kというところも興味深いです

大石氏:補足させていただくと、FX9の記録コーデックは、弊社が開発したXAVCに対応しており、XAVCには4K解像度に対応する仕様が定義されています。すでに4K/XAVCでの撮影から他社のノンリニア編集ワークフローが確立されております。そのワークフローに対応させることを優先した結果、6Kイメージセンサーですが、4Kで収録ということにさせていただいております。

また、6Kから4Kに切り取っているわけではなく、6Kの情報を4Kにオーバーサンプリングを行っています。画質的な解像感やノイズ感は、4Kのイメージセンサーで記録する場合よりも大幅に綺麗に撮れます。決して無駄な6Kではありません。

RAW出力に関しては、別売の拡張ユニット「XDCA-FX9」から4K RAW出力し、対応の他社製レコーダーで収録が可能です。6K RAWの対応については、市場の声を聞きながら検討したいと思っています。

ナイトシーンの撮影にも対応しやすい800と4000のデュアルベースISO搭載

――デュアルベースISOはVENICEで好評の機能でしたが、ついにFX9にも搭載されました。御社の製品でこのクラスで搭載されるのは初めてだと思いますが、こちらも搭載に至った経緯を教えてください

大石氏:FX9では、新開発のイメージセンサーによってデュアルベースISOを実現することができました。2つの基準ISO感度を使い分けることで、暗いシーンや明るいシーンのノイズ感を犠牲にすることなく映像表現が可能になります。VENICEで導入したときに、大変評判がよく、お客さまからもポジティブな反応をいただくことができました。

基準ISO感度が一個で暗部撮影を行う場合は、ゲインを上げるしかなく、ノイズ感が大変に悪くなってしまいます。デュアルベースISOの場合は、基準ISO感度を高いほうに切り替えることでノイズ感を犠牲にすることなく綺麗な画を撮ることができます。

FX9の基準ISO感度は、800と4000です。屋外の明るいシーン撮影は800に設定し、室内の暗いシーンの場合は4000に設定して撮影できますので、大変使いやすいと考えています。

シネマティックな画を簡単に撮れる「S-Cinetone」を新たに搭載

――VENICEはシネマ業界で評価が非常に高いカメラですが、そのVENICEから継承した機能はほかにもありますか?

大石氏:弊社は放送局のスタジオカメラを長く手がけているため、どうしてもクリエイターの方からは「画質がビデオチックだ」とか、「ソニーさんは放送局のカメラだよね」と言われることが多く、悔しい思いを経験してきました。

そこで実はVENICEのときにがらっとトーンを刷新して、クリエイターの方がフィルムを撮っている印象を得られる新しい画作りのLUT「S709」を導入させていただきました。それがVENICEが好評いただく一つの大きな要因になりました。FX9には、このLUTを搭載しております。シネマティックな表現をしたいクリエイターの方からは大変画質の評判が高く、ポジティブな反応をいただいております。

ただS709は、LogやRAW記録でカラーグレーディングをしてコンテンツを作るハイエンド向けのソリューションであり、FX9のすべてのお客様に使っていただけるものとは考えておりません。そこで、カラーグレーディングを前提としないお客様でもシネマティックな画を簡単に撮っていただける「S-Cinetone」という新しいルックを開発し、搭載しております。また、機能とは異なりますが、VENICEのDNAを踏襲している点を見た目でも表現できるように、外装にもこだわって同じグレーカラーを採用しました。

VENICEの開発を通じて得られた知見を元に作られた「S-Cinetone」をデフォルトのルックとして搭載

――これまで紹介していただいたこと以外で、FS7から使い勝手が向上している部分はどこでしょうか?

村上氏:お客様の声をもとに、使い勝手を少しでも向上させるべく、細部までこだわって作りこんでいます。例えば、LCDビューファーの解像度は、FS7 IIのときは960×540で解像度が低いと指摘されていました。FX9では、約1.8倍の1280×720のHDクラスに解像度が上がっています。

グリップにズームコントロールのシーソーがありますが、FS7シリーズではレスポンスがいまひとつと言われていました。ここはMULTI端子によりレスポンスが向上しました。

起動時間は、FS7 IIでは約10秒かかっていましたが、FX9では2~3秒に短縮しています。ニュースやドキュメンタリーなどで使用される場合に、早く起動したいお客様には、使いやすくなったかと思います。FS7シリーズでは、INPUT LEVELダイヤルはCH1とCH2だけでしたが、FX9では物理的なスイッチを4チャンネル分搭載しており、触れて操作できます。

パネルに4CHオーディオボリュームを搭載

FSシリーズではNDフィルターダイヤルで4つ切り替えを調整していましたが、FX9ではボタンで切り替えられるように変更しました。ダイヤルはメニュー操作で使用可能です。

NDの操作がダイヤルからスイッチに変更となり、操作性が向上した

大石氏:あとは、出力のインターフェイスも充実しております。SDIが2つあり、片方は12G-SDIに対応しております。4K60Pの映像が、ケーブル1本で出せるようになりました。加えて、TCとGen-lockのインターフェイスは、FS7では拡張ユニットをつけないと使えなかったのですが、FX9ではカメラ本体に搭載しました。

2本のSDIのうち、1本は12G-SDIに対応。TCとGen-lockを本体に搭載した

LCDビューファーは、肩載せの際にはビューファインダーとして使用できますが、簡単に取り外せるようになりましたので、FX9から覗くタイプ、フードと組み合わせて使う、どちらのシーンにも合わせてお使いいただけるようになりました。しかも現場で簡単に変更できるため、大変便利かと思います。

LCDビューファーのアイピースとビューファインダーフードの切替がワンタッチでできるようになった

拡張ユニット「XDCA-FX9」を使用することでRAW出力が可能です。16ビット非圧縮の非常にクオリティの高いRAWが出力されます。報道現場や屋外でのドラマや映画撮影でお使いいただいている、弊社のDWXシリーズというデジタルワイヤレスマイクのスロットインレシーバーが、将来のファームウェアで対応となる予定です。

また、Dタップやヒロセ4PのDC出力が搭載されています。カメラの周りにアクセサリーをつけていただくときの電源供給が容易になりました。Ethernet端子もついており、無線LANが多く飛び交っていてネットワーク環境が厳しい場合は有線で安定したストリーミングを実現します。

拡張ユニット「XDCA-FX9」装着時

――Blackmagic Design「Pocket Cinema Camera 6K」、パナソニック「S1H」、キヤン「EOS C500 Mark II」など、各社6Kカメラが一斉に揃いました。最後に、競合他社6Kカメラと御社のFX9を比べた場合のアドバンテージをご紹介ください

大石氏:基本的には各社カメラと弊社のカメラは、コンセプトが大きく違います。弊社のカメラは、現場で長時間カメラを持って動き回るのに適した撮影ができます。肩載せがしやすく、手持ちもしやすいのが特長です。

また、他社にはない機能面でリードしている点としては、FS7 IIでも搭載されていた電子式可変NDフィルターが特長です。FX9ではフルサイズのイメージセンサーに合わせて新しく作り直しました。

NDフィルターは、他社製カメラでも内蔵モデルが多いですが、基本的に2、4、6、8ストップと切り替えていくタイプです。それですと、切り替えた瞬間の画が動画記録中に記録されてしまいます。FX9は、一度NDを入れてしまえば電気的にコントロールが可能です。撮影の途中でもNDの設定を変更可能な点も、注目していただけたらと思います。