txt:江夏正晃(FILTER KYODAI / marimoRECORDS) 構成:編集

Aston Microphones社からコンデンサーマイク「Spirit」「Origin」が登場

近年、制作を取り巻く環境は大きく変わり、デジタル化が当然のようにワークフローに取り込まれていき、効率化やハイクオリティー化の発展が目覚ましい。ところがマイクだけはいまだ、アナログが主流で、半世紀前のテクノロジーがゆっくりと進化し続けている。

そんな時代を象徴するような新製品コンデンサーマイクロホンがイギリスの新興メーカーAston Microphones社(以下:Aston社)から発売された。同社は2015年に創業したマイクブランド。社長のジェームス・ヤング氏は、同じくマイクブランドsE Electronics社の創業メンバーだったとのことだ。

Aston社のリフレクションフィルターHALO(写真はHALO SHADOW(黒))

同氏はsE Electronics社のマイクの企画・開発はもちろんのこと、宅録ユーザーの間では一気に広まったリフレクションフィルターの企画・開発に携わったとのこと。Aston社の主力製品にリフレクションフィルターHALOがラインナップされているのも頷ける。

今回はそんなAston社より満を持して発表になった、2つのコンデンサーマイク「Spirit」と「Origin」をレビューしたいと思う。

「Spirit」と「Origin」レビュー

まず、その双方ともカタチの面白さが一目を置く。一見すると、マイク?なのか?と思わせる外観はビンテージ感すら感じさせ、重厚感は見た目より重く、実際に手に取ると伝わるかもしれない。「Spirit」は625g、「Origin」は450gと持った感触は見た目よりもずっしりとしている。マイク胴体部はステンレススチールにタンブル加工が施され、まるで亜鉛メッキを施したような外観になっている。傷が付きにくい仕様だ。

※タンブル加工とは洗浄液と研磨剤が入った専用タンクに加工素材を投入し、微振動を加えながら加工する方法。Astonのマイクの胴体は4時間じっくりと研磨し、美しくも、耐摩耗性を残した仕上がりになっているとのこと

そしてヘビーデューティーな造りは、内部に簡易ショックマウント構造を持ち、多少の衝撃にも耐えられるように設計されているとのこと。2本のネジを六角レンチで簡単に分解することが出来るが、シンプルな構造ではあるもの、しっかりと組み上げられたパーツからこの強靭な本体が構成されていることがわかる。

本体にマイクスタンドに直接取り付けられるネジが切られている

簡易ショックマウントが内蔵されているので、直接マイクスタンドに取り付けても振動の影響は受けにくくなっている。ただし、ライコート社製のショックマウントInVisionUSMも対応しているので直接マイクスタンドに取り付けることに抵抗がある方はこちらを使っても良いだろう。

また、コンデンサーマイクを使う方なら驚くことと思うが、この2本のマイクはポップガードが不要とのこと。マイク上部に配置されているスチールメッシュがポップガードの役目を果たすのだ。スチールメッシュの内側はエクスバンドメタルでしっかり補強されているので衝撃で変形したりする心配も少ない。

堅牢な作りのグリル。ポップガードの役目も果たす。見た目もとても個性的だ

また、このスチールメッシュは規則性を持たないメッシュ構造なので、耐電磁波シールドの役目も果たすとのこと。とにかく、初めてコンデンサーマイクを手にする方も、取扱いについては従来のコンデンサーマイクよりもかなり扱いやすい。このポップガードの役目を果たすスチールウールメッシュが汚れれば、取り外して簡単に掃除も出来る。堅牢な作りで、対衝撃に強く、ポップガードが不要、まさにダイナミックマイクのような扱いが出来るコンデンサーマイクなのだ。

グリルは2本のネジで簡単に外せ、メンテナンスもしやすい

実際の音の印象

ここまでの印象だと、サウンドの印象はダイナミックマイク的な出音を想像するかもしれないが、驚くなかれ、外観とは反して、この2本のマイク、それぞれに個性はあれど、とても繊細で高解像度なキャプチャをしてくれる。まず、2種類のSpiritとOriginの違いについて比較する。

Spirit Origin
トランスの有無 ×
指向性パターンの変更 ◯(単一指向性、双指向性、全指向性) ×(単一指向性)
PAD(-10dB)
PAD(-20dB) ×
ローカット(80Hz)
最大入力SPL 138dB 127dB

Spiritは3つの指向性パターンが選べる

SpiritはPADは-20、-10dBと2種類のPADが選べる

OriginはPADは-10dBのみ

ローカットは両者ともについている。ともに80Hz

細かい差異はあるが、大きく音質に差をもたらすのが、トランスの有無。Spiritはトランス回路を持ちナチュラルな印象ではあるものの。高域に明るさとのびやかさを持たせている。反対にOriginはトランスを持たないが、周波数特性はとてもフラットで芯のある中低域サウンドを特徴としたマイクだ。

Spiritは言うまでもなく、細かいニュアンスや伸びやかさを重視するボーカル録音などにとても向いている。逆にOriginはトランス回路を持たない。素材に対してのレスポンスが良いので、打楽器やアタック成分の強い素材の収録に向いているだろう。

そして、PRONEWSの読者の方であれば気になるのが、ナレーション収録に向いているかどうかということだろう。試用してみた結果、この2本はナレーション収録にはとても向いている。Spiritはダイナミクスを大きく取った演出に重きを置くナレーション収録などに向いており、反対にOriginは聞き取りやすく、滑舌をはっきりさせたいナレーションものなどに向いていると言えるだろう。とはいえ、個性の差はあれど、両方ともナレ録りには向いているのでサウンドの好みで選んでみるもの良いだろう。

さて、実際に使用してみての印象は、Spiritのサウンドはとてもメリハリがあり現代的でありながらも決して派手な印象では無い。高域にSpiritならではの独特の伸びやかさを持つので、Neve系などの高域に特徴があるマイクプリなどを使うと、ミックス時にEQやコンプを使わなくてもしっかり前に出てくる印象だ。もちろんデジタル系のマイクプリでもその相性が良いことは言うまでもない。

Originの印象はトランスレスでレスポンスが良い分、固い出音を想像すると思うが、意外に中域に粒立ちの良さが前に出てくるために、サウンドは柔らかい印象になる。実際のMAの現場でナレーション収録に使用したところ、クライアントからはサウンドは柔らかいのにナレーションがしっかり前に出て聞きやすいと評判は良かった。この価格帯でこのクオリティーはまさに今までの低価格帯のコンデンサーマイクでは考えにくかったことだ。

MAスタジオ等を借りることなく、事務所や自宅でナレーション録りをする方にはこのOriginは価格、扱いやすさからも考えて、オススメだ。その際に併せて同社のリフレクションフィルターHALOを使うことでさらにOriginの良さは引き出されるだろう。

他のコンデンサーマイクと比較して

Spirit、Originともに「Art of Audio」と刻印されており、その両者の製品の仕上がりにAston社の自信が伺える

コンデンサーマイクロホンのスタンダード的存在のNeumann U87Aiと比較すると、その違いは明白だ。どちらが良い、悪いということではなく、U87Aiに対してSpiritのサウンドは明るめで現代的なサウンドだ。近年、テレビの薄型化やスマホやタブレット視聴など。視聴環境が悪くなってきていると言われる中、クライアントからはナレーションなどは出来るだけ前に出したい、目立たせたいといった要望が多い。収録後の後処理で、EQやコンプで明るさを出す処理をされていた方などには、後処理が少なくなるであろうSpiritは向いているだろう。

また、余談だが、ポップガードを必要としないので、かなりマイクに寄った収録が可能になる。ダイナミクスのあるナレーション収録をする際にはナレーターが声色に表情をつけやすくなるといったメリットもあった。

逆にOriginはクセが少ない分、U87Aiと比べると両者のサウンドの印象は近い。細かいニュアンスは違うものの、両者の価格差を考えると、そのパフォーマンスは高いと考えてよいだろう。同じくOriginもポップガードを必要としないため、ナレーターさんからは仕事がしやすいと評判も良かった。

U87Ai以外にも、audio-technicaのAT4040、SonyのC100との比較テストも行った。例えば、AT4040とOriginを比較すると、すっきり、はっきりとした印象のAT4040の重心を少し低くしたのがOriginといった印象だろうか。またハイレゾマイクのC100とSpiritを比較すると、両者ともハイはしっかりと伸びているもの、C100が滑らかでスムーズな印象に対して、Spiritはトランスらしさをしっかりと持った元気の良さを感じさせられた。

Spirit、Originともに見た目の印象とは逆に、とても現代的なサウンドに仕上がっており、最近の設計のマイクと比べても多少の個性の差はあれど、いろいろな現場で活躍しそうだ。とにかく、扱いやすさは他のコンデンサーマイクと比べてもかなり高いので、これから初めてのコンデンサーマイクの購入を考えておられる方ならば、Origin、少し個性のあるものをもう一本と言う方はSpiritを導入されてみてはどうだろうか。どちらもそのクオリティーとコストパフォーマンスには驚くはずだ。

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編集部

PRONEWS編集部による新製品レビューやイベントレポートを中心にお届けします。