txt:小寺信良 構成:編集部

ついに発売!Roland「V-600UHD」の気になる機能

今年2月に発表、4月のNABで実機が展示されていたローランド初となる4Kスイッチャー「V-600UHD」が、いよいよ発売となる。6入力/4出力の1M/E型スイッチャーで、System5での価格は税込1,382,400円。

そもそも入出力をHDMI中心に据えた4Kスイッチャーは、業界でも珍しい。もちろん同社得意の全入力スケーラー対応で、実質的に関係しそうなソースなら大抵は「食える」機能は健在だ。今回は発売を前に、最終ファームに近い実機をお借りすることができた。

多彩な機能を持つV-600UHDだが、今回は特に気になる機能をピックアップしてレビューしてみたい。

ローランド流のオペレーションスタイル

洗練されたデザインは健在

2017年のInterBEEでV-60HDがお披露目されたとき、その洗練されたデザインに「シンセサイザーっぽい!」と、映像業界だけでなく楽器業界をも震撼させたのは記憶に新しいところである。今回のV-600UHDのコントロールパネルもV-60HDと同じテイストでデザインされており、シャープな印象を与えている。

入力は、HDMI4系統、12G-SDI2系統。また入力1(HDMI)はアナログRGBとも切り換えできる。出力はHDMI3系統、12G-SDI1系統。HDMI3出力は、PGM/PVWだけでなく、AUXにも変更できる。

HDMI4入力、SDI2入力。ほかアナログRGBも1系統装備

出力は4系統。オーディオ入出力がある点も見逃せない

入力は6だがクロスポイントは8で、残り2つはフレームメモリーやバックカラーにアサインできる。キーセレクトは、V-60HDでは小さいプチプチボタンだったが、今回は小型ながらもクロスポイント用スイッチを採用しており、視認性が高まっている。

セレクト段はスイッチングしやすいボタンとなった

このセレクト段は、入力信号の有無も表示しており、入力があるところは緑色に点灯する。こうした表示は、普通はPGMとPSTのほうに白で点灯するのがセオリーで、ベテランのオペレーターになるほどなにも点灯していないクロスポイントを押すのに躊躇してしまうだろうが、こういうところがローランドのスイッチャーのクセがあるところである。

入力信号があるクロスポイントは、セレクト段が緑色に光る

今回はユーザーメモリーのストアと呼び出しに専用のボタンエリアを設けている。V-60HDではセレクト段がメモリー読み出しも兼用しており、使いこなすほどオペレーションが複雑化する傾向にあったが、そうした点が解消されている。

ユーザーメモリーボタンが独立して使い勝手が増した

今回は4K対応のハイエンド機ということで、ポジショナーとしてジョイスティックが搭載された。PinPや後述するROIのポジションを、いちいちメニューに入らずに動かせるのは便利だ。ただ従来のセオリーからすると、ジョイスティックは右手で操作する人が多く、普通こうしたコントローラは右手側に設置されるものである。左側にあるのは、そこしか置き場所がなかったのかもしれないが、右利きの人は微調整に苦労するかもしれない。

多彩な機能を提供するポジショナー部分

メニュー操作系としては、マルチビューにオーバーレイされるメニュー画面のみとなり、パネル上の液晶パネルはなくなった。

メニューはマルチビュー画面に表示される

キーヤーは、M/E段に1つと、DSKが1つ。機能的には同じで、どちらが上になるかだけの問題である。キーヤーとしては、ルミナンスキーかクロマキーが選択できる。もしくはPinPとの切り換えとなるが、PinPした中身をルミナンスキー/クロマキーで抜くこともできる。そうとしか言いようがないメニュー構成なので一見ややこしいが、慣れたオペレーターには2DのDME付きキーヤーと言ったほうが話が早いだろう。

使い出のあるComposition

最近のローランドのスイッチャーは、Keyerという言葉は使わず、Compositionという言い方をしている。一番最初に使われたのは恐らくV-1200HDからだと思われる。これは、従来のKeyerの概念では説明しきれない機能を積み始めたからだろう。

V-600UHDのCompositionは、Keyerとしての機能として、ルミナンスキーやクロマキーはあるが、エクスターナルキーがないという、独自仕様となっている。おそらくエクスターナルキーを使わなければならないような、ポストプロダクション的な合成が必要なユーザー層がターゲットではないからだろう。

その代わり、PinPの機能が非常に充実している。PinPは1と2でそれぞれ別のポジション・サイズ、ボーダーが記憶できる。DSKにもPinPの1と2があり、同様に別々のポジション・サイズ、ボーダーが記憶できる。すなわち、同時に使えるPinPは2つだが、4種類のPinPがプリセットできるという事になる。

各キーヤーごとに2つのPinPポジションが持てる

PinPの子画面の位置やサイズは、新搭載されたジョイスティックとサイズノブですぐに調整できる。加えて「PinP View」として、PinPの中の映像も枠の位置やサイズを変えずにスケーリングしたり、位置をずらしたりできる。PinPの「困った」を徹底的に分析した結果だろう。

これらの機能は、DSKでも全く同じだ。放送のマスターに近いスイッチャーでは、DSKは時報や緊急速報をオーバーレイする時に使う程度なので、M/E段のキーヤーよりも機能が低いものも少なくない。V-600UHDのDSKは、位置づけとしてはDSKと呼ぶしかないが、実際にはキープライオリティが上位にある、2つめのCompositionだと言っていいだろう。

DSKでもPinPとキーを組み合わせることができる

4K資産が無駄にならないROI

ネットライブ配信の主力は、まだまだHDだろう。だが昨今、新規でカムコーダを購入しようとすると、4Kが当たり前になってきている。HDカメラのほうが逆に高級機だったりして、現状撮影には4Kカメラを持ち出すが、HDモードで撮影するなどしている人も多いのではないだろうか。

4Kカメラを使ったソリューションで以前から提唱されているのが、いわゆる「切り出し」だ。高解像度の広い絵から必要なサイズを切り出し、複数台のカメラであるかのように使うわけである。英語圏ではROI(Region of Interest)というらしいが、日本ではあまり定着しておらず、皆「切り出し」で理解しているように思う。

ローランドのスイッチャーは、元々入力にスケーラーを持っているので、こうした切り出しには向いている構造となっている。これまでも、入力スルーをケーブルで別チャンネルへ接続するという力技で切り出しを行っていたが、V-600UHDでは内部的に信号を分配できるようになっている。

Input設定の一番上にある、Assign/Scalingにこの設定が集まっている。各チャンネルのSourceで、シェア元のチャンネルを選ぶことで、映像が分配されてくる。分配してスケーラーを通すことでディレイが気になるところだが、見た限りでは元ソースと分配先でのディレイはないようだ。そのあたりは1フレーム内で全部吸収しているという事だろう。

SourceでShard Chをアサイン

あとはScalerで拡大率と切り出し位置を決める。拡大率は、200%で縦横が1/2、つまり面積としては1/4となる。パーセンテージは辺長を表していると覚えておけばいいだろう。

この位置と拡大率は、コントロールパネルのジョイスティックとサイズノブでも調整する事ができる。調整できるチャンネルは、PST列で選択されているソースだ。

倍率とポジションは、メニューのほかポジショナーでも設定できる

これは、次に来るであろう映像のポジションをあらかじめ「盗む」というオペレーションを想定しての事だろう。それはわかる。だがベテランのオペレーターは、「次」を仕込むのではなく、「次の次」を仕込むものなので、むしろメニューでスケーラーをいじり始めたら、ジョイスティックは自動的にそのチャンネルの操作に切り替わってくれた方がうれしい。メニューを出してなければPST列、メニューでいじっているときは該当チャンネル、というアクションで問題ないように思う。

HDRを使い倒す

昨今の4Kカメラは、高解像度だけでなく、ハイダイナミックレンジ、高色域にも対応しているものが増えている。制作サイドからすれば、高解像度のメリットに比べると、HDR/Rec.2020対応は、フィニッシュのディスプレイが対応しなければ意味がないので、4K放送以外にはあまり積極的に活用されていない印象がある。

V-600UHDは、4K対応だけでなく、HDRおよびRec.2020にも対応している。しかもそこからSDR/Rec.2020にも変換できる。変換できるからなんだよ、とおっしゃるかもしれないが、イベントの現場では、HDRじゃないとうまく撮影できない事例も出てきている。例えば高輝度のLEDディスプレイを背景にしたステージ中継などだ。

4K解像度だけでなく、HDRと高色域に対応する

普通なら、100万円クラスのHDR-SDRコンバータを導入し、複数のパラメータを調整しなければ、綺麗に変換できないところだ。V-600UHDは、その変換調整をたった1つのパラメータだけに集約した。

Correctionというのがそれだ。このパラメータの内部は複数の変換カーブからできており、それを+64から-64までの間で繋いでいく、という仕組みになっている。明るいところから暗いところまでのうち、そのシーンではどの部分を注視すべきかで感覚的に決められる。ビデオエンジニアならば、別途波形モニターを用意して波形の動きを観察すれば、このパラメータが何をやっているのか掴めるはずだ。本番投入する前に、一度実験して感覚的に掴んでおくといいだろう。

変換パラメータは「Correction」1つに集約された

まとめ

ローランドのスイッチャーは、HDMIを軸に据えることで、放送用スイッチャーとは別の業務ユーザーを掴んでいる。カメラマンにはV-1HDやV-02HDといった小型スイッチャーが人気の同社だが、6入力や8入力のスイッチャーも、イベント会社を中心に広く導入が進んでいる。今回のV-600UHDも、まさにイベント会社の「困った」をカバーする機能が数多く搭載された印象だ。

すでに各メーカーともに4Kスイッチャーは出そろったところだが、ローランド初の4Kスイッチャーも、コンパネ+本体一体型、全入力スケーラー搭載など、これまでの路線を継承した作りとなっている。加えてHDR/Rec2020対応、SDR/Rec.709への変換機能など、他社にはないユニークなところを攻めてきた。スイッチャーとしてだけでなく、コンバータのバケモノ的な意味合いも兼ね備えているという事になる。

使いこなすにはある程度じっくり向き合う必要のあるスイッチャーではあるが、とにかくこれ1台持っていけば現場でどんな変なことになっても対応できる、という強さがある。現場のオペレーターだけでなく、会社経営陣にとっても安心して現場を任せられる機材だと言えそうだ。

WRITER PROFILE

小寺信良

18年間テレビ番組制作者を務めたのち、文筆家として独立。映像機器なら家電から放送機器まで、幅広い執筆・評論活動を行う。