txt:井上晃 構成:編集部

概要

IBC 2019を目前にした2019年9月13日、Blackmagic Designは低価格の新しいライブプロダクションスイッチャー、ATEM Miniを発表した。

この製品はATEMファミリーながら、YouTubeのライブ配信やSkypeを使ったビジネスプレゼンテーションに特化して設計されたという。実機を見てみても実に小さく軽量な筐体に、物理ボタンが多数配置されてイージーオペレーションを予感させてくれる本機は、従来のATEMスイッチャーとは一味異なる風味のスイッチャーであるようだ。この小さなHDスイッチャーが、どのようなシーンで役立つのか。実機を前に早速探ってみよう。

外観

本体サイズは、横幅237.5mm、奥行き103.5mm、高さ35mmと、一般的なB5サイズの漫画雑誌を縦半分にしたほどの大きさであり、550gという重量もペットボトル1本程度の重さだ。このサイズ実感としてとても小さい。本当に機材バックの片隅に放り込んでおけるようなサイズであり、この運搬の気軽さは非常にありがたい。

この小さく軽量なプラスチック製の筐体のバックパネルを見てみると、このスイッチャーの能力の片鱗が伺える。入力はHDMI INが4系統。ラインレベル入力と切り替えが可能なMic入力が2系統。そして出力はHDMI OUTが1系統と、WEBCAM OUTが1系統。そしてコントロール用のRJ45LAN端子が1つだ。

フロントパネルに目を向けると、ソースの切り替えとCUT、AUTO(映像の切り替えをカットで行うかトランジションを使うか)FTB(フェイド・トゥ・ブラック、全黒へのフェード)など基本機能の切り替えには大きなボタンが配置されイージーな操作となるように配慮されている。また小さなボタンではあるが、各チャンネルには音声のON、OFF、AFV(オーディオ・フォロー・ビデオ、チャンネルが出力された時、音声も自動的にONになる)、レベル操作ボタンなどが配置され、音声の素早い操作も可能だ。

音声はHDMI経由の音声だけでなく、2つの独立した3.5mmステレオオーディオ入力が扱え、MicレベルとLineレベルを切り替えることで、多くのオーディオ入力に対応が可能だ。ちなみに△▽ボタンは音声レベルコントロールボタンであり、±3.0dB単位でコントロールできる。

またパターンは固定されているがPnP機能の直接操作ボタン、トランジションの種類選択ボタン、トランジションタイムの設定ボタンなども装備されている。

映像スイッチャーとしての基本機能

入力はHDMIオンリーの4系統ながら、全チャンネルにスケーラーが搭載されており、対応しているFHD1920x1080/59.94pまでの解像度であれば(FHD以上の解像度は非対応)接続する機器のビデオフォーマットに気を使う必要がない点は、気軽で嬉しい。

実際複数のビデオフォーマット以外にも、PC用のディスプレイ出力として代表的な解像度を入力してみたが、FHD未満であれば対応不可となった解像度はなく、ビデオフォーマットの対応能力は十二分にあると確認できた。

ただ、入力されたPC映像のアンダースキャン、オーバースキャンなどの扱いは、出力するPC側に依存する。同じ解像度でもPCが異なると、入力は異なる結果となることはままあり、入力結果が期待に添うかどうかは、接続するPC次第であるようだ。どのように表示されるかは事前に確認が必要であるかと思う。

内部に目を移すと、ATEM MiniはATEMのファミリーらしく、ATEMソフトウェアコントロールで全機能にアクセスが可能だ。その機能を簡単に紹介すると、

  • アップストリームキーヤー×1
  • ダウンストリームキーヤー×1
  • Advanced Chroma Keyer×1
  • リニア/ルマキーヤー×2
  • トランジションキーヤーDVEのみ
  • レイヤー数×4
  • パターンジェネレーター×1
  • カラージェネレーター×2
  • ボーダー/ドロップシャドウ付きDVE×1
  • メディアプレーヤー×1
  • メディアプールのスチルイメージ容量×20
  • オーディオミキサーFairlightオーディオエンハンサー(コンプレッサー、ゲート、リミッター、6バンドのパラメトリックEQ)、マスターゲインコントロール

と、ほぼ ATEM Television Studio HD相当の機能が搭載されているが、Advanced Chroma Keyer、FairlightオーディオエンハンサーなどTelevision Studio HDを凌ぐ機能も一部搭載されている。つまり小さな筐体ながら、他ATEMと同等以上の本格的な機能が本機には詰め込まれているのだ。

USBウェブカム出力&HDMI出力

ATEM Miniが他のATEMと最も異なるのは、本機に搭載されたUSB TypeC 3.1 Gen1端子の存在だ。PCとこのUSBで接続されたATEM Miniは、UVC(USB Video Class)機器として動作し、WEBカメラのように振る舞う。つまり1080HDのフル解像度でスイッチングされたビデオ出力がそのままWEBカメラとして、ライブ配信用のOpen Broadcasterやビデオ通話用のSkypeなど、お好みのソフトウェアに受け渡されるのだ。ライブ配信用などでは既にBlackmagic DesignでもUltraStudioやIntensityなどビデオキャプチャ用の機器はあったが、これに対応してくれるソフトウェアはそれほど多くはない。

これとくらべて、UVC機器に対応するソフトウェアは多く、Open Broadcaster、XSplit Broadcaster、YouTube Live、Facebook Live、Skype、Twitch TV、Periscope、Livestream、Wirecast等、様々なソフトウェアで対応が期待出来る。

今回は特にビデオ機器に神経質なSkypeでビデオ入力が可能であるか試してみた。ちなみにSkypeは執筆時点でのWindows用最新版、Skype-8.54.0.91を使用した。

設定は簡単である。ATEM MiniをUSB接続した後にSkypeを立ち上げて、設定内の「音声/ビデオ」でカメラに「Blackmagic Design」を選ぶ。音声もマイクを同様に「Blackmagic Design」を選択するだけだ。Skypeは最も普及したビデオ通話ソフトであり、これを使うと簡単に遠距離間での双方向中継が可能で、遠距離中継という新たなライブプロダクションの世界を切り開いてくれる。

なお、ATEM MiniのUVC接続にはいくつか必須要件があり、WindowsならOSは10が、MacOSなら、MacOS 10.14 Mojave以降が必須となる。ATEMソフトウェア8.1以降のインストールも必須である。またUSB接続はTypeCによる3.1接続が必須という訳ではなく、USB Aコネクターによる、USB3.0接続でも同じ様に動作するようだ。

本機のまとめと課題

本機をどのようなシーンで使ってもらいたいか?Blackmagic DesignのWebページでは次のようなシーンが紹介されている。

  • インタビューをライブ配信
  • Skypeを使用したビジネス・プレゼンテーション
  • eスポーツ大会をライブ配信
  • よりプロフェッショナルなプレゼンテーション
  • 教育&トレーニング

ATEM Miniはなりは小さいが、柔軟な入力用スケーラー、多彩なトランジション、DVEで自在なPnP機能、高精度なクロマキーヤー、20個もストック出来るメディアプール、4レイヤーと凝った画面構成が可能なアップ/ダウンストリームキーヤー、とビデオスイッチャーとしても同社の上位プロフェッショナルATEMに比肩しうる、本格的な能力を備えている。

これに独立したマイク/ライン音声入力を備え、出力はUVC出力可能なUSB端子も装備。と様々なシーンで役立ちそうな機能を満載してきた。

ただ何点か課題も散見される。

まずビデオ出力用のHDMI OUTだが、本機の電源投入時に相手機器を自動検出し出力フォーマットを制御するのだが(EDID制御であると思う)これが時には相手機器が完全にスタンバイ状態でないと動作せずHDMI OUTが出力されない場合が多々ある。

周辺機器に電源を投入した後、最後にATEM Miniの電源を投入した方が良い場面が多いので、出画されない場合などは焦らずに電源の入れ直しをする事を覚えておいた方が良いだろう。だがHDMI機器は機器同士が通信を行った上に接続が確定するという仕様なので、焦って抜き差しを繰り返すのはタブーだ。

これに関連してだが、相変わらずBlackmagic Designの機器には電源スイッチが存在しない。機器のリセットを電源の抜き差しで行うのは、どうしても乱暴なように感じてしまう。

もう一つ、ここがどうにかならないかな~と感じたのが、プロジェクターとの相性問題だ。本機はビデオ信号を扱うビデオスイッチャーが中核にある。このためアスペクト比率つまり縦横比は基本的に16:9のアスペクト比に支配されている。

扱う信号がビデオ信号が中心で、16:9のアスペクト比で問題ない場合にはまったく問題がない。だがプロジェクターによるプロジェクション中心のプレゼンテーションの場合、パワーポイントの比率などを考えると4:3のアスペクト比が欲しい場合が多々存在する。

これはビデオ信号を基本とするスイッチャーである本機では無いものねだりなのだろうが、XGA(1024×768 4:3)やSXGA(1280×1024 5:4)といったアスペクトで作成されたパワーポイントなどが、16:9のアスペクトの中で黒パネル付きで表示されるのをみると、それが16:9のプロジェクターでもスクリーンいっぱいのフルサイズ上映にならないことが容易に予想できる。入力信号と出力機器を検知して、4:3信号はスルーでプロジェクターに流せるようになれば最高なのだが、それはやや高望みし過ぎか。

と、課題を何点か挙げたが、これだけの機能を詰め込んだにも関わらず、相変わらずのBlackmagic Design価格、税別35,980円(直販価格)というコストパフォーマンスには目を見張る。

本機1台では解決出来ないようなシーンも、複数台組み合わせるとずいぶん楽に出来ちゃうようなシーンも考えられる(eスポーツ用の中継とか)。またUVC出力機能を持ったことでネット配信用には最適な製品になったかと思う。YouTubeなどを見るとずいぶん凝った編集をされた動画が現在の主流だが、ATEM Miniによってこのような世界にもライブ・プロダクションが普及していくのでは?と感じさせられる新製品であるかとも思う。

価格も価格だ。まずは一台ポチってから活用方法を考えても遅くはないぞ!

Blackmagic Design ATEM Mini Multi Resolution Sample

WRITER PROFILE

井上晃

有限会社マキシメデイア代表。FacebookグループATEM Tech Labo、Grass Valley EDIUS UGで世話人をしてるでよ。