txt:小島真也 構成:編集部

堅実な進化を遂げた「Z 6II」

映像系の記事が多いPRONEWSなのだが、今回はいつもとは違い写真家の立場からレビューしてみたい。ニコンは2020年10月14日に新型フルサイズミラーレス「Z 6II」を発表した。従来機Z 6の良いところをチョイスして完成度を高めたモデルとして、静止画と動画のバランスがとれたハイブリット機と言えるだろう。

最初にお断りしておくが、目を見張るようなモノ凄い進化を遂げたわけではないが、実際どうなのであろうか?画像処理エンジン「EXPEED 6」をデュアル(2基)搭載することの恩恵として、静止画の連写コマ速度とAFの基本性能を上げ、ダブルスロット搭載をはじめとした細部にいたるまでの使い勝手をブラッシュアップしている。

これは従来機ユーザーからのフィードバックにより不満点を徹底的に改善した堅実な進化モデルと言って良いだろう。これは、カメラという道具を仕事として使いこなすプロフェッショナルにとって最も重要な「安心・安全・余裕」をもたらすものだ。

それ故なのか、外観上では従来機との差異はほとんどなく、ひと目で判別がつくのは「Z 6II」のエンブレムぐらいだ。

以下、筆者が感じたポイントを中心に述べて行こう。

「EXPEED 6」をデュアル搭載することの恩恵

「EXPEED 6」とは、派手過ぎず、忠実な色の再現を目指して開発を続けてきたニコンの画像処理エンジンの6代目のことである。従来機Z 6では1基だったものを「Z 6II」ではデュアル搭載してきた。

その第一の恩恵は、連写性能の向上。

画像処理エンジンを2つにすれば処理速度は上がる。当然と言えば当然な話だ。「Z 6II」は、従来機の12コマ/秒から最高14コマ/秒に高速化されている(高速連続撮影(拡張)12bit RAW設定時)。ちなみに筆者が常用している14bit RAWでは10コマ/秒である。連写コマ速度14コマ/秒は、フルサイズ・ミラーレスカメラの中でも上位にランクされるものだろう。

二つ目の恩恵は連続撮影コマ数の大幅増加。

バッファ(メモリーカードに書き込む前に一時的にカメラ内に保存しておく領域)増大との相互作用により、一度のシャッターで撮影できる連続コマ数が約35コマから約3.5倍の124コマに増加した。

カードの書き込み速度に依存するところはあるのだが、連写後に再連写したい時にも、「ああっ…、シャッターが止まってしまう…」という心配なしに余裕をもって撮影に集中できる。どうやら連写時のクーリングタイムも改善しているようだ。

これは、アスリートやモータースポーツ、野鳥など動きの速い被写体はもちろんだが、ポートレートやグラビア、ドキュメンタリーでも撮影時の気持ちや動作に余裕を生むことになる。

試しに書き込み速度が異なる2種類(CFexpressとXQD)のメモリーカードで連続撮影枚数を3回続けて計測してみた。

  • XQD(書き込み速度150MB/秒):1回目/約80枚で連写が続かず失速、2回目/約76枚、3回目/約72枚

  • CFexpress(書き込み速度1480MB/秒):1回目/約155枚で失速、2回目/約150枚、3回目/約147枚

  • ※高速連続撮影(拡張)、12bit RAW、マニュアルフォーカス、マニュアル露出の設定

連写をくりかえすと”HOT CARD”が表示される

私見だが、公称数値よりも連続撮影枚数が多いのは、フォーカスと露出をマニュアルにしたせいかもしれない。また連写をくりかえした場合に枚数が減少するのはカードの発熱やCMOSセンサーのヒート現象が関係しているのかもしれない。

三つ目の恩恵は、ダブルスロットの実現である。

CFexpressとSDの2枚刺し

CFexpress(typeB)またはXQDカードのスロットと、SDカード(UHS-II対応)スロットの2つが搭載されている。各スロットの役割として、「順次記録」「バックアップ記録」「RAW+JPEG分割記録」が設定可能だ。

「バックアップ記録」と「RAW+JPEG分割記録」は、メモリーカードの書き込みエラーや破損といったトラブルを恐れるプロフェッショナルユーザーから強く要望されたと聞く。これは筆者自身が光学一眼レフから先代ミラーレスに乗り換えられなかった理由のひとつにもなっている。高速連写性能を上げながら、連続撮影枚数も増やし、各スロットへ速度を落とさずエラーなしに書き込むには、「デュアルEXPEED 6」による演算処理の高速化なくしては実現しなかっただろう。

「デュアルEXPEED 6」はAFも進化させる

AFの性能について見てみよう。

「ワイドエリアAF(S)」モードを使って、遠くの被写体(今回は黒いクルマ)であってもロックオンしてしまえば、被写体が目の前に来てもフォーカスは外れない。かなり優秀なAFだと思う。

低速連続撮影の5コマ/秒にて撮影

また、273点のフォーカスポイント数こそ従来機と変わらないものの、低輝度性能が改善された。低輝度の限界は従来から1段分の性能向上を実現し、-4.5EVの暗さまでAFが可能。なお、「ローライトAF」に設定すれば、-6EVまでAF可能なことは従来通り。

筆者が肉眼で感じた暗さの印象を表してみた。緑の四角形フォーカスポイント

実際にAF、露出オートにて撮影(ISO:51200、1/10、f4)

実は、今回のAFの注目すべきポイントは「ワイドエリアAF(L)」モードで「瞳AF」「動物AF」に対応したこと。これは従来ならば「オートエリアAF」モードでのみ動作した機能だ。「オートエリアAF」ではフレーミング全体から顔や人物の瞳、動物の瞳を“カメラ”が検出するのだが、今回の機能追加により検出領域を“撮影者”が絞り込み、フォーカスを合わせたい顔を事前に選択できるようになった。仮に複数の顔がある場合でもフォーカスしたい人物を選ぶことができるということだ。

iメニューからのAFモード切り換えメニュー画面

この「ワイドエリアAF(L)」での「瞳AF」「動物AF」は、動画撮影時にも対応した。フォーカスしたいエリアや顔を背面モニターの「タッチAF」機能でタッチ選択し、撮影を続けられる。動画撮影中は被写体(人物でも犬、猫でも)の言動に注力したいものだが、このAF機能を組み合わせることでワンマンオペレーションの強力な味方になってくれるだろう。

メインメニューからのAFモード選択画面

これらAFの機能向上も「デュアルEXPEED 6」が大きく貢献している。

フォーカスの話題ついでに、もうひとつ。

「電源OFF時のピント位置維持機能」という、地味だが嬉しい機能が搭載された。これは電源を切っても、そのレンズのピント位置を覚えていてくれるもの。風景や星空の撮影時に電池の消耗を防ぐため一旦電源を切りたい場合などに役立つ機能だ。

星空撮影と言えば“長時間露光”が付きものだが、ユニークな新機能が加わった。それは最長900秒までのシャッタースピード延長が可能になったこと。これは60秒以上の長時間露光の場合、上面液晶画面に残時間のカウントダウンが表示される仕様だ。時計やストップウォッチを片手に撮影しなくてもカメラがカウントしてくれるのだ。

まだあるユーザーからの声

ダブルスロットと共にユーザーの要望が多かったものに、縦位置グリップへの対応がある。これはポートレート撮影する機会が多い筆者も大賛成の対応だ。

「Z 6II」と同時発売予定のバッテリーパワーパック「MB-N11」は縦位置撮影時にも手に馴染むグリップ形状をしており好感がもてる。セレクターレバーやコマンドダイヤルの配置も、撮影時に横位置から縦位置に持ち替えても違和感を感じない。

防塵・防滴についてもカメラやレンズと同等性能を持つという

2つのバッテリーを収納するので撮影可能コマ数が増えるのは当然だが、特筆すべきはバッテリー交換のホットスワップ対応だ。2つのバッテリーのうち、手前のバッテリーだけを電源オンのまま交換できるので、長時間の野外撮影でも安心だ。

電源オン時でも、黄色ストッパーを押し下げることで手前のバッテリーだけを交換できるホットスワップに対応

電源つながりで言えば、カメラ本体へのUSB“給電”が可能になったことも朗報だ。従来から、電源オフ時にはUSB“充電”は可能だったのだが、撮影中にもUSB“給電”できる仕様になった。つまりモバイルバッテリーやパソコンから給電しながら撮影が可能になったのだ。インターバルタイマー撮影やタイムラプス動画撮影、テザー撮影(カメラとパソコンをUSBケーブル結線し、データを取り込みながら撮影する方法)の際にもカメラのバッテリー消耗を気にせず撮影に集中できる。

背面モニターのブラックアウトにも要望があった。背面モニターとファインダーの表示を「自動表示切り換え」モードにした場合、従来は何かの拍子にファインダーをふさいでしまうと背面モニターが消えてしまい慌てることがあった。今回は背面モニターをわずかでもチルトして(引き出して)いればファインダーには切り換わらず、背面モニターが常時点灯する仕様に改善された。

さらに、ファインダーと背面モニターのアイコンや撮影情報表示を消す機能を追加した。静止画、動画ともに、隅々までフレーミングに気を配りたい時には便利な機能だ。

フォーカスポイントと動画撮影中のRECサイン、タイムコードは消せない

動画の追加機能についても

ここまでは静止画の話だったが、動画機能についても見て行こう。

先述の「ワイドエリアAF(L)」での「瞳AF」「動物AF」以外にもいくつかの機能が追加された。現状、「Z 6II」はUHDが最大30p、FHDでは最大120pに対応している。UHDでも“フルフレーム”撮影が可能なのでクロップされない。そして全画素読み出しによる豊富な映像情報を取得できる。

なお、2021年2月にはDXベース(1.5倍にクロップされる)ながら、4K60Pへのファームウェアアップデートも予定されているそうだ。

HDMI(10bit出力時)経由での外部レコーダー収録の場合には、以下の記録フォーマットが可能となる。

  • 12bit ProRes RAW/UHD、FHD(有償対応)
  • 10bit N-Log(簡易LUTでのビューアシスト可)
  • 10bit HDR(HLG方式)

12bit RAW収録にはAtomos製Ninja Vが、10bitのN-LogとHDRにはAtomos社製Monitor Recorder(SHOGUN、NINJA、SUMOシリーズ)が対応

ファームウェアアップデートによる12bit Blackmagic RAW出力と「Blackmagic Design Video Assist 12G HDR」外部レコーダーへの対応も予定しているとのこと。12bit RAWも10bit Logもカラー処理の耐性に優れているので、カラーグレーディングを活用する人には選択肢が広がることになる。

ニコンはフルサイズ・ミラーレスとして、現状できることの“最適解”を「Z 6II」として発表した。CMOSセンサーは変更しなかったが、従来の画像処理エンジン「EXPEED 6」をデュアル化することでユーザーの要望にしっかりと応えている。

仕事での活用に初めてミラーレスカメラの導入を考えている、また光学一眼レフカメラからの乗り換えを考えているプロフェッショナルにも“最適解”となるのではないだろうか。

WRITER PROFILE

小島真也

Blackmagic Design認定トレーナー、写真家、撮影監督。商業/自主映画では撮影監督として撮影・照明・カラーグレーディングも担当。