txt:松本和巳 構成:編集部

■FE C 16-35mm T3.1 G SELC1635G
価格:税別700,000円
問い合わせ先:ソニー

α7シリーズよりもCinema Lineの上位機種との相性が良さそうなシネマレンズ

筆者は 前回、「新世紀シネマレンズ漂流:NewTrend 2021編」でシネマズーム「DZOFILM Pictor Zoom」を紹介したが、今度は国産の雄、ソニーのシネマレンズのテストを書くことになった。新進気鋭と重鎮の両極端な対比になるが、個人的にも重鎮がどんな感じに仕上げてきているのかが気になっていたので、絶好の機会である。

今回テストするのはソニーのシネマレンズでありサーボズーム、オートフォーカス、自動露出の搭載を特徴とする「FE C 16-35mm T3.1 G」(以下:FE C 16-35mm)である。ネット上に情報が公開されてから、ソニーが新しい「シネマレンズ」を出したとザワザワしたもので、しかもお題が「映画・CM・ドキュメンタリーなど映像制作市場に向けたシネマレンズ」と銘打っている。前回の記事でも書いたが、低予算でパフォーマンスが良いレンズを探している身にとっては、若干高めのプライスレンジではあるがワンオペ撮影を考えた時には、このタイトルはちょっと響いた。

そのような気持ちを抱きながらレンズが送られてきて、開封の儀を済ませ箱から取り出した時の第一印象は想像していたとりもはるかに大きい!レンズを手にしてみると、重さもそこそこあって、パッと見た目の重厚感もある。主にスチルレンズと違うところは、3連リングの搭載とマットボックスアクセサリーと互換性のある114mmのレンズフロント径を搭載し、オートズームが付いている点だ。

三連リングとマットボックスアクセサリーと互換性のある114mmのレンズフロント径を搭載する

外径は118.5mmとかなりの大きさで、独自の大口径な光学設計を採用しているかと期待したがそうではないようだ。フロントエレメントは、一般的な大口径レンズと同じもので、仕様を見ると光学系は開放絞り値T3.1でF値に換算するとF2.8(メーカー発表数値)。「あれっ?」と思ったのが、「これはFE 16-35mm F2.8 GMじゃないの?」と。スペックを見比べてみると、13群-16枚のレンズ構成や最短撮影距離、最大撮影倍率までやはり同じである。そうなるとレンズ径が82mmクラスなのもうなずける。

メーカーは正式に公表していないが、恐らく光学系はFE 16-35mm F2.8 GMと同じものだと思われる

さて、実際にα7S IIIに装着してみると、「あれ?」と思った。取り外し可能なサーボユニットの出っ張りと径も大きいため、筐体の小さなスチルカメラだと光軸の高さが足りなくてカメラ底面がテーブルに乗らないのである。

また、Manfrottoのベースプレートを付けると、三脚にカメラの前側から差し込めない。カメラの後ろ側から差し込んで雲台への搭載が可能になった。

それらを俯瞰で考えた時に、FE C 16-35mmはα一眼デジタルカメラからVENICEまでのすべてのEマウントカメラとの互換性はあるものの、スチルカメラユーザー(正確に言うとスチルベースでの映像制作者)を対象にはしていないのかな?と思った。

恐らくプロフェッショナルシリーズ(業務用)のラインナップなので、FX6はじめ、FX9などの上位機種を対象にしてるのだろう。それらの機種は光軸の高さがあるので三脚問題もクリアできる?かもしれない(あいにくFX6は持っていないので検証できないが)。ただEマウントはスチルレンズという認識が一般的で、実際にα7S IIIのユーザーが検討してる姿も目に浮かぶので、ターゲットが説明しづらい仕様だと思った。

ビデオ系に慣れている人に向いたレンズかも

では実際に使用したインプレッションだが、やはり操作系も映画というよりビデオ系と感じた。カメラを構えた時のポジションでスイッチ類の場所だが、これは個人差もあるので一概に良し悪しは言えないが、筆者は左側にあるパワーズームの位置が少々慣れなかった。AFモードでの撮影であれば問題はないと思うが、マニュアルフォーカスでの撮影となると親指の移動だけでは済まないので、やりづらさだけが印象に残ってしまう。

POWER ZOOMレバーは左側面にある。一番左のフォーカスリングと一番右のPOWER ZOOMレバーには相当の距離がある

これは個人的な嗜好によるかもしれないが、ズームスイッチがフォーカスリング(一番左のリング)とズームリング(中央のリング)の間にあれば、指の移動が少なく、MFで合わせながらの操作性は良くなると思う。AFが定まらない時にMFに切り替えるのだが、特に外環境で外光が強くモニター輝度が足りてない状況の時は、目を凝らしながらモニターに食らいつきフォーカスリングに集中している。その時にはスイッチなどを探る作業は避けたいものだ。なぜかと言えば、構えた時に大きく指や手を動かすことはブレの原因にもなるからだ。

右側にはサーボとマニュアルの切り替えスイッチがあるが、これが結構固く、その都度切り替わっているかの確認のために覗き込まなくてはならなかった。ナレーティブの映画(劇映画)なら位置決め、セッティングをしてからの撮影だから許容範囲だろうが、ドキュメンタリーだと機動性を求められるので、確認作業が必要になるのは改善をしてほしいところだ。しかもサーボ側に設定されていると、ズームリングの手動での動作がかなり重く、やはり集中力が切れる原因にもなる。

右側にはZOOMスイッチを搭載。「SERVO」と「MANUAL」を切り替えられる

この感覚はあくまでマニュアル操作のシネマレンズに慣れている人に当てはまるものなので、テレビなどのビデオ系に慣れている人にはそれほど違和感はないのかもしれない。

またオートズームもスピードを変えることができるが、これも2段階のスイッチ式でバリエーションを作れないのは改善を望みたいところだ。オートの方が間違いなくスムーズな動きなのだが、速いか遅いかの選択しかできず、例えばゆっくり寄っていきながらグッと一気に寄ることができない。まあ、この撮り方はマニュアル操作でやるべしと言うことなのだろうが、どうせなら民生ハンディカムでも使っているズームスイッチのスライド量での可変の方が良さそうな気がする。

この辺からもシネマレンズと銘打っている以上、MFを基本とした操作性の整理は行った方が良いと思えた。

ズームスピードスイッチを「H」(高速)または「L」(低速)の切り替えで、POWER ZOOMレバー操作によるズームの最高速度設定を切り替えられる

ネガティブに振れてるファーストインプレッションに感じるが、AFとMFの切り替えをレンズ側で行なえ、その設定が本体にも連動するところはありがたい。しかもフォーカスリングを前後させての切り替えはギミックではあるがとても使いやすい。

フォーカスリングの前後で「AF/MFモード」(カメラをAFモードに設定すると、オートフォーカス撮影が行え、カメラをMFモードに設定するとマニュアルフォーカスになる)と「FULL MFモード」(カメラのAF/MFモード設定にかかわらず、マニュアルフォーカスになる)を切り替えられる

またアイリスリングも「A」(AUTO)の設定刻みもあり、マニュアルとの切り替えがカメラを構えたまま行え、さらにアイリスロックも付いているので、間違ってリングに触れてしまった時の誤作動がなくなることは良いと思う。

歪みの少ない正統派

操作性の疑問を感じることころがあったが、実際の撮影に持ち出してみた。現在撮影中のドキュメンタリー映画の現場では、主カメラをRED KOMODO、サブカメラとしてα7S IIIを回しているが、今回はあるシーンで「α7S III+FE C 16-35mm T3.1 G」の組み合わせで、主カメラとして撮影してみた。テイストが変わる可能性はあるが、そこはグレーディングなどでの自主努力でなんとかするつもりである。

描写へ話を移すと、これはまんざらでもない感は受けた。ベースがG Masterグレードの光学系がそのまま使われていると思われるので、当たり前といえば当たり前。それ以上に、フルセンサー+16-35mmの表現力が圧倒する画作りになることだろう。RED KOMODOはスーパー35mmのセンサーなので、約1.45倍の画角になってしまう。16mmレンズの超広角だとしてもスーパー35センサーであれば大体24mmくらいの表現になってしまう。逆に16mmの画を撮りたいとなると11mmのレンズを用意しなくてはならない。

超広角の美味しいところを余すことなく撮るには、フルセンサーシリーズをラインナップしているソニー群は一歩前に出ている感はある。しかも後日レポートするが、S-Cinetoneを搭載している機種であれば手軽にシネマライクな画作りができる点は面白い。が、映画の場合は結局RAWかLogで撮ってグレーディングが基本なので、そこは大きなファクターではないが…。

実際の本編とは違うグレーディングだが仕上げの参考に。ドキュメンタリー映画「折り鶴のキセキ」の撮影フッテージより。広島の原爆の子の像の禎子さんの甥、佐々木祐滋氏が平和活動を始めるきっかけとなった、当時高校生で平和活動していた岡安氏(現在難病治療中で余命宣告も受けた)に再会

映りは優等生的な画ではないだろうか。16mm側での歪曲収差も抑えられており、端の色収差もそれほど気になるレベルでもない。厳密に言えば、人が周辺に入り込むと収差は出るが超広角レンズの宿命なのでレスコメントにはならない。また脚を立てて固定で長いシーンになるのであれば、この辺は気にしていかなければならないだろうが、直線物の大きな湾曲が出ておらず、流しのショットであれば許容と思えた。

ただし人合わせで湾曲を修正すると奥行き感、造形物の形が不自然になるので、どのようにカットを使うのかで構図を決め判断することが大切である。またこの収差を抑えるのであればさらにランクも金額も高いシネマレンズを調達するしかないので、コンセプトから外れてしまうし、個人レベルで所有できるものでもない。しかし35mm側は使いやすい画角である。ここでフルセンサーの旨味付が活かされた感じだ。

レンズ補正前
レンズ補正後
16mm
35mm

AFに関しては、ソニーの得意とするところの優位性をとても感じた。とにかくワンオペでの撮影の場合、フォーカスを機械に任せられるというのは、撮影の負担が半分以上軽くなるのでありがたい。ただ、それはAFが信頼できることができての話である。フォーカスを合わせるに行ったり来たりしたり、なかなかポイントを決められないAFもよく見かける。これだと逆にストレスになり、MFでやった方が速いとなり、「AFなのに…」の気持ちも加わって負担増に傾く。

その意味からもソニーのAFは個人的には信頼に値し、画角や構図、動きのある画作りに集中できる。ただし、大きく振る時のAFの追従が少し甘くなるが、動きをキャプチャーしての見え方なので、動画として見た時の違和感はそれほど感じはしない。むしろそこまで合わせられたら、パキパキ過ぎて逆に気持ちが悪いかもしれない。

映画監督の中でも、画のテイストの好みはそれぞれである。8K、4Kでレンズもくっきりなパキパキな画を好むタイプもあれば、オールドレンズで収差など気にせず味わいを求めるタイプもある。それぞれの表現方法なのでどれが正解というものはないが、面白いデータ(データとまでは言えないが…)がある。数名の監督にHDと4Kの映画を観せ、どちらが好みか聞いた時に半数以上がHDの方が良いと答えたそうである。4Kや8Kの描写力が発揮されるのは、風景などが精細に再現される疑似体験感であり、人に向けた時に果たしてそれが良いものかは再度一考するべきかもしれない。

その意味からも、α7S IIIとの組み合わせはセンサー画素数が1200万画素と抑えられているカメラに、しっかりと映し出すスチール系の最新の光学技術が重なることで、行き過ぎないパキパキ感と優しい人感が表現しやすいのかもしれない。ただしこれは映画目線での話で、CMなどで精細さを追求する撮影では当てはまらないと思う。まあ、CM撮影でこのレンジの機材は使わないとは思うが…。

スチルレンズと差別化され独自光学系と操作性が整理された後継製品を期待

総評として、フォーカス、ズーム、アイリスの3つの独立したリングがシネマレンズとしての役目を果たすところであり、それは操作性からの導かれているのであろう。細かなフォーカスの合わせはスチールレンズだと回転角が少ないので行き過ぎたりしてしまう。シネマレンズはより精細にフォーカスを合わせられるように回転角も大きく取られており、フォローフォーカスとの組み合わせでボケからのピン合わせなどがスムースにでき、表現に広がりができる。アイリスもカメラ側で設定するのがスチールでは当たり前(アイリスリングがないAFレンズが主流)になっているが、レンズ側で調整できるのはとっさの対応の時には優れている。

特に手持ちローアングルでボケを入れたい時などにレンズ側で変えられるのはありがたい。それらを踏まえながら、アイリスリングにオートモードを設置したり、リングのスライドでMF/AF切り替えができるのは良い傾向であり、MF+AFのハイブリットシネマレンズというコンセプトのこのレンズは一考するポイントではないだろうか。

ただこのレンズを選べるユーザーは、カメラ側をFX9で決められる予算に余裕がある方だろう。ただそうは言っても、どうしても同じ仕様のスチルが頭の中に入ってくるので、T値をもう少し頑張って明るくするとかの差別化がされると迷いもなくなると思う。そして個人的な望みを言えば、指移動などの操作性が整理されると、グッと前のめりになるであろう。

松本和巳(mkdsgn/大雪映像社)
東京と北海道旭川市をベースに、社会派映画、ドキュメンタリー映画を中心とした映画制作を行っている。監督から撮影まで行い、ワンオペレーションでの可能性も追求している。本年初夏に長崎の原爆被爆者の証言ドキュメンタリー映画の劇場公開に続き、広島の原爆被爆者の証言ドキュメンタリー映画の製作中でもある。また"シンプルに生きる"をテーマに生き方を問う映像から、人に焦点をあてたオーラルヒストリー映画を積極的に取り組んでいる。代表作:「single mom 優しい家族。」「a hope of nagasaki 優しい人たち」「折り鶴のキセキ」など

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PRONEWS編集部による新製品レビューやイベントレポートを中心にお届けします。