はじめに

このレビューを依頼された時、DJI社製のワイヤレスマイクと聞き、正直なところ、あまり期待していなかった。DJIといえば業界では言わずと知れた、ドローンやジンバルで知名度を上げてきたメーカーだが、DJIが製品ラインナップにワイヤレスマイクシステムを投入してきた。

ただ、今回この製品を触れば触るほどその可能性を感じざるを得なかった。驚くなかれ、そのクオリティーの高さは使い勝手や、収録ワークフローのスムースさを向上させるだけではなく、音質もかなり高いと言える結果となった。そんなまさかのDJIからのワイヤレスマイクシステムをいろいろな角度からチェックしたので参考していただければと思う。

プロダクトとしての完成度

まずそのパッケージがとてもユニーク。最近のBluetoothイヤホンを彷彿とさせる充電バッテリーを内蔵したケースは、約10㎝×6㎝×4㎝の手のひらサイズ感だ。たったの約260gと軽量なのに関わらず、レシーバー、トランスミッター2基、アクセサリー類がすべてこのケースの中に格納されてる。

ケースを開ければ瞬時にリンクされ、すぐに収録が始められる。バッテリーの残量やトランスミッターに内蔵されるレコーダーの収録残時間もレシーバーのディスプレイで確認できる。 今まで、ワイヤレスマイクシステムを稼働させる際に、トランスミッターやレシーバーの電池の残量を常に気にしなければならなかった。細かいことだがこの仕様はありがたい。

DJI Micの最も特徴的な機能が、トランスミッターにアイソレーション収録できることだ。これでバックアップ体制も万全となる。ちなみに、2基あるトランスミッターは、単体でもレコーダー機能あるので、シーンによってはボイスレコーダーとして使用することも可能だ。現場でちょっとした音声収録、アンビエンスの収録などをする際には重宝するだろう。

収録に至るスピード感も素晴らしく、ケースを開けて、RECボタンを押せばすぐに収録できるので機動力は抜群だ。アイディア次第でいろいろなことに活用できるだろう。

ユニークなのが、ライン入力も用意されている点だ。2基を使えばステレオのラインの収録もワイヤレスで行える。少し残念なことではあるが、ファンタム電源やプラグインパワーといった電源供給機能がないので市販のコンデンサー型ラベリアマイクなどを直接接続することはできないので注意してほしい。

実際に使ってみた

さて、実際に撮影ワークフローでどのようにセッティングするのかを試してみた。

レシーバーをホットシューに接続できるアクセサリーが用意されているので、このようにセッティングする。そして3.5mmのミニTRSプラグをレシーバーとカメラ本体に接続すれば、これでカメラ側のセッティングは完了。余談ではあるがホットシューアダプターをレシーバーに付けたまま充電ケースに収納できる。

レシーバーにモニター出力(イヤホンアウト)があるので収録時のモニターチェックも万全だ。ただし、トランスミッターからのカメラへの適正なレベルが取れていないとせっかくの音質も担保されなくなるのでカメラ側でのレベル調整はしっかり行うことが前提だ。

さてそんな事前の調整を行う上で重要なのが、UI(ユーザーインターフェース)だ。小型化する機材は運搬や装備する際はありがたいが、設定や調整をするときに苦労することが多いことは皆さんもよく経験されることであろう。 当初、設定やゲイン調整などは、小さい画面上で大変かな?と思いきや、なんとレシーバーのディスプレイはこのサイズでタッチスクリーン仕様になっている。

上下からスワイプさせると各種設定ページへと進む構造だ。動作も今どきのスマホと同じ感覚で、操作感もとてもよい。

ぜひこの動画を見ていただきたい。レシーバー側からトランスミッター側のRECも左側を下からスワイプさせるとトランスミッター1のコントロールができ、右側を下からスワイプさせるとトランスミッター2をコントロールできるようになる。一度使い方を知れば、設定やトランスミッターのコントロールはとても簡単だ。画面が小さくてもストレスなく操作ができる。聞くところによるとDJI統一のUIであるという。

飛距離はどうだろう?

さて、読者の皆様が気になるのは、このワイヤレスシステムがどのくらいの距離を飛ばせるかということであろう。 まずは見通しの良いところで確認をしたところ、問題ないと思われるのは100m前後。150mを越えてくると状況によっては音にノイズが乗ったり、音が途切れたりすることがあった。

考えてみれば、そんなに遠い距離で収録することは稀だと思われるので、カバーエリアは十分広いと考えて問題ないだろう。 ただし、2.4GHzの周波数帯を使用しているのでBluetooth機器やWi-Fiとの干渉も無いとは言えないため、使用する際にはチェックをする必要があるだろう。 ただ、筆者が本機をチェックする際はこのような干渉によるノイズや音声の途切れは確認されなかった。 もしそのような問題が生じたとしても、このシステムはトランスミッターがレコーダーとしての機能を持つので、ポストで問題になることはほぼないと考えてよいだろう。

生成される音声ファイルは48KHz、24bitのwavファイル一択となる。十分な音質を担保するためのファイルフォーマットとは言えるが、音楽などを収録することを考えると、もう少し高いサンプルレートや他のフォーマットオプションを選びたいところではある。 主な使用目的が、カメラでの音声収録であれば、設定項目が減ることはトラブル回避にもつながるのメリットもあるのである意味潔い。

そしてもう一つ特筆すべきが、「セーフティーチャンネル」機能だ。この機能は、万が一収録途中で予期せぬ大きな音が入り込んで、音声ファイルがクリップして割れてしまった場合、別チャンネルで-6dbの音声ファイルが生成されてるので、事故を回避することができるのだ。収録時はこのモードをぜひ活用して頂きたい。ただしこのモードには注意が必要だ。まず、トランスミッター側の内部レコーダーではこの機能は動作せず、レシーバー側の出力でちょっとした工夫がされているのだ。

モノラルで収録する場合、TX1(トランスミッタ―1)とTX2(トランスミッター2)の音がミックスされ、モノステとして出力される。ステレオモードを選択した場合、TX1がL、TX2がRに出力される。これを逆にすることも操作画面で可能だ。そこでセーフティーチャンネルモードを選択した場合は以下の通りになる。

  • Lチャンネル=TX1とTX2をミックスした音声
  • Rチャンネル=-6dBされたTX1とTX2のミックス音声

上記よりセーフティーチャンネルを選択した場合、音声はミックスされてしまうので注意だ。もし個別の音声ファイルが必要になった場合はトランスミッターからファイルを取り出せば良いことになる。

したがって、DJI Micでの収録する場合は、セーフティーチャンネルを選択し、両トランスミッターのアイソレーションRECを回しておけば、おおよそのトラブルは回避できるだろう。

さて、ここまではカメラにDJI Micの検証を行ってきたが、実はスマホやタブレットにもDJI Micは接続可能だ。ホットシューアダプターを外し、ライトニングアダプターを使えばスマホにも簡単に接続可能だ。

クラス・コンプライアントに対応で特に設定なくそのまま使用できる。ただし、iPhoneに接続した場合、ステレオ、セーフティーチャンネルモードの選択はできない。iPhoneをはじめとするスマートフォンも動画撮影機能が向上し、撮影をスマートフォンのみで完了させるユーザーも増えてきていると聞く。ミックスされるとは言えハイクオリティ―なサウンド2chを同時に収録できる恩恵は大きく感じる。ちなみにホットシューアダプターと同じく、ライトニングまたはUSB3.0アダプタを付けたままレシーバーはケースに収納できる。

肝心の音声クオリティーはどうだ?

肝心な収録された音声のクオリティーだが以下の動画を見てほしい。

DJI Micのみ収録、DJI Micのライン入力にラベリアマイクのスタンダードSankenのCOS-11とSONYのワイヤレスシステムUWP-V1を使用し、入力したサウンドとの比較を用意した。 いかがだろう、多少の差異はあるもののそのクオリティーはとても高いといって過言ではない。筆者も正直この価格帯でこのクオリティーには少し驚いた。

普段ラベリアマイク収録をされている方には、このマイク内蔵のトランスミッターは大きくて使いにくいのでは?と思う方もいるかと思う。ところがこのマイクを内蔵したトランスミッターを隠したい際には、本体のクリップに強力なマグネットで服の内側に隠すことも簡単にできる。

そして何よりトランスミッターの内部にマイクが仕込まれているので、服の中に仕込んでも衣擦れしにくいといっメリットもある。一般的なラベリアマイクのようにケーブルを持たないので不意な事故による断線の心配もない。いくらか使用後、気付いたのだが、この形状が意外と便利なのだ。

まとめ

このDJI Micは先進的なワイヤレスシステムと言えるだろう。マイクを内蔵したトランスミッター2波とレシーバーのシステムがこの価格帯で実現し、簡単かつ、いろいろなワークフローにもフィットする仕様になっている。 そして肝心な音質のクオリティーも高い。カメラバックの片隅に入れて持ち歩けるサイズ感も嬉しい。 もしかすると、DJIのドローンが、ドローン業界のゲームチェンジャーになったように、DJI Micも十分その可能性を感じた。筆者はDJIのドローンも誰よりも先んじて購入したが、このDJI Micも早々に一式購入することを決めた。

WRITER PROFILE

江夏正晃

音楽家、DJ、エンジニア。多くのアーティストのプロデュースをするかたわら、エレクトロユニットFILTER KYODAIとしても活動中。同時にCM音楽、映画のサントラ、自動車のサウンドデザインなども多数手掛ける。marimoRECORDSを兄弟で牽引する。