縮小傾向の展示フロア

展示会場の様子も変わった。サウス・ホールの会場は、アート展示とニューテック・デモがブース出展のフロアとつながっており、ブース出展エリアの左右をまたぐ形になっていた。SIGGRAPHの展示スペースが縮小している事実、それが見え見えにならないよう回避した格好をとったようだが、参加者の中には、片方の出展ブースエリアだけを回ってしまって、「やけにブース数が少ない」と思った人たちも少なくない。

展示スペースが縮小しているのは出展社数の減少が大きな原因ではなく、各ブースのサイズの縮小のほうが原因だろう。1コマと2コマベースがほとんどで6コマ以上のブースは20社も満たなかったようだった。各企業以前のようにブースの大きさを争うようなことはなく、フロア全般に同規模のブースが並び、新バージョンの展示とユーザ事例のプレゼンテーションで収まっていた。

 

アプリケーション部門では、エイリアス(Maya)やオートデスク(3ds Max)、Avid (Softimage XSI)、NewTek (LightWave 3D)といった大手3DCGソフト会社が、最新版の発表をするのが恒例だった。しかし今年は、既に新バージョンをリリースしてしまったところがほとんどで、オートデスクだけが新製品をイヴェントに合わせて発表したようだった。

オートデスクからはMayaの機能強化した誕生10周年記念バージョン「Maya2009」が発表された。ノードを集約して効率化を図るツール「Mayaアセット」をはじめ、複雑な物理シミュレーションを可能とする「Maya nParticles Dynamic Simulation」モジュールや、Mayaマッスルなどのツールも追加された。

また、キャラクターアニメーション・ソフトウェア「Motion Builder 009」、ビジュアルエフェクト・ソフトウェア「Toxik 2009」、デジタルスカルプティング&テクスチャ・ペインティング・ソフトウェア「Mudbox 2009」、それとパノラマイメージを生成できる「Sticher Unlimited 2009」と、2D画像から3D画像を生成できる「Image Modeler 2009」の4製品も発表した。後者2製品は今年5月に買収したRealViz社の移行製品である。

ハードウェアとしては昨年に引き続き、画像認識、画像処理用の機器が目立っていた。モーションキャプチャ関連のブースはいくも見られた。大御所のモーション・アナリシス社とVicon社は例年通りのステージを構えて登場。オーガニック・モーション社のマーカーやスーツの装着なしでリアルタイムにデータ生成できるモーションキャプチャ・システムは昨年初登場に引き続き、ステージでのデモは目立つものがあった。

軽装なスーツスタイルで、ワイヤレス操作のためアクションフロアに制限がない、Xsens Technologies社の「Moven」、Animazoo社の「IGS-190」は、慣性センサとライカスーツに装着されたジャイロスコープでリアルタイムに尚且つ200メートル四方範囲でアクターの動きをキャプチャできるシステムのデモンストレーションも見られた。

国産としては、クレッセント社の高視野角、高解像度の透過投影型ウェアラブルディスプレィ「HEWDD-768」が展示されていた。Point Grey Reserch社、Panoscan社やImmersive media社といった、全周囲画像の取り込みができるカメラシステムや、デジタル・スキャナーの出展も目立った。Point Grey Reserch社が展示していたのは、方向デジタルビデオカメラシステム「Ladybug3」を実装した車で、中にはDell PCに装備したGISマッピングシステムも実装していた。Ladybug3は全周の約80%の視野をカバーしたパノラマ画像を生成する。IEEE-1394bインターフェースにより800Mbpsの高速転送ができ、最大のフレームレートは、15FPS (JPEG圧縮)、非圧縮で6.5 FPS。車に装着してパノラマ画像を収録する際は走行60マイル/時までは検証済みだという。

ちょうど話題のGoogleストリートビューのようなものだ。また、Cell(セル)に関連した新情報も見られた。Cellは、ソニー・ソニーコンピュータエンタテインメント、IBMと東芝の三社が開発したマイクロプロセッサで、プレイステーション3に搭載されている。ソニーでは、「Beyond HD」とテーマを掲げ、Cell/B.EとグラフィックスプロセッサRSXを搭載した、マルチコア・プロセッシング・プラットフォーム”ZEGO”コンピューティングユニット「BCU-100」を発表した。このBCU-100は、米国市場向けとして年内に出荷予定だという。IBM社ブースでは、Cell最新モデル「PowerXCELL 8i」を搭載した、ブレード・サーバ「QS22」で顔認識のデモンストレーションをしていた。

 

来年のSIGGRAPHは東海岸側のNYでの開催と決定している。また今年から冬季としてSIGGRAPH ASIAがシンガポールで開催されることになっている。ちなみに、アジア地域で開催される2年目(来年)は横浜で開催される予定だ。

ブースレポート
Geek Barの入り口には、Quasiというリアルタイムで対話できる男の子のロボットが。言語認識と学習能力が非常に優れている。その彼のところに遊びにきたのが女の子のロボット(彼女の頭にはディスプレイがあって、女の子の顔が表示されている)。Quasiは「いいなあ、君はどこにでも行けて。僕はずっとここにいるんだよ。でも、ダンスはできるよ!」と言って、一緒にダンスを楽しんでいたシーンも。 アストロデザインが初出展。4Kx2K高解像度映像表示、HDマルチスキャン表示にも対応できる、大画面液晶モニタ「DM-3400」を展示。
全方向デジタルビデオカメラシステム「Ladybug3」を実装した車を展示。車の中にはDell PCに装備したGISマッピングシステムも実装している。 大手CGプロダクションもブース展示、作品を通して次なるプロジェクトの製作スタッフを募集する。
OrganicMotionのシステムは、スーツもマーカも装備する必要なくモーションキャプチャできる。 昨年から登場したNextEngine。A4サイズ高さのコンパクトな3Dスキャナーを今年も展示しているが、新しく用途別にスキャンデータを変換してくれるアプリケーションを揃えたパッケージとしてデモンストレーションしていた。標準装備の”Scanstudio CORE”アプリケーションではスキャンしたポイントをMeshとしてエクスポートする(STL、OBJ、VRML、US3D)。オプションアプリケーションには”Scanstudio PRO” “RAPID Work”sとリリースしたばかりの自動データアナライザー”QASCAN”が揃っている。
株式会社イーフロンティアが開発した海外向けの「Manga Studio EX」。 IMAGICAテクノロジーズのブースでは、オートデスク社製品のSPARKSプラグイン『扇』(O-gi)を展示。扇は、5つの補正処理機能をセットにしたもので写真はWrinkle Diminisher。
セッション「Great Failed Ideas in Production」。モデレーターはこのセッションテーマの発起人、ソニー・ピクチャーズのビジュアルエフェクツ・スーパーバイザー、Rob Bredow氏。パネリストに3名の巨匠を迎え、1人ずつ、過去採用されなかった提案や失敗談など1つだけ打ち明けてもらおうという、というもの。Pixer Animation Studiosのエフェクト・スーパーバイザーApurva Shah氏をはじめ、視覚効果のエキスパートであり、「Photoshop」や高機能なレンズフレアを生成するプラグインの開発者としても知られているJohn Knoll氏、ILMのビジュアルエフェクトの巨匠、John Dykstra氏からは30年前にさかのぼって多様な思い出話も登場した。Dykstra氏はジョージルーカス氏と並び、映画製作におけるコンピュータグラフィックスの使用を発展させた先駆者である。 「Machines and Monsters」のセッションでは、CloverfieldとIronManの主役、モンスターとロボットの製作話が開催された。スピーカーはプロダクションのTIPETTとILM。「アイアンマン」について、ILMからアニメーション・スーパーバイザーのHal Hickel氏とデジタルプロダクション・スーパーバイザーのDoug Smythe氏(写真は、Smythe氏)。最終バージョンのアーマーは、約1万5千ジオメトリ、400万ポリゴンというボリュームになった、という。