ソニーのデジタルサイネージへの取り組みは、2002年にネットワークプレーヤーNSP-100を投入したのが最初。現行の最新サイネージ商品として、2008年1月にデジタルサイネージプレーヤーVSP-NS7を投入したのをきっかけに、本格的に展開し始めた。VSP-NS7は、セットトップボックス型のハードウェア機器で、パブリックディスプレイの背面に取り付けてサイネージディスプレイとして活用できるようにしていた。運用は、マネジメントソフトウェアVSPA-D7を使用して、ユーザー自身が行うというものだった。

ソニーは、より手軽にデジタルサイネージを実現する製品として、一部のディスプレイのオプション製品に、ディスプレイ背面に組み込むデジタルサイネージアダプターBKM-FW50を提供している。BKM-FW50に収めたコンテンツをディスプレイ単体でサイネージ表示する簡易デジタルサイネージだ。コンテンツを差し替える頻度も少なく、1カ所で繰り返し表示すればいいという場合に使われている。

こうした、ユーザーが製品を購入して運用する必要のある2種類のデジタルサイネージに加え、2008年3月から提案を始めたのがデジタルサイネージサービスプラットフォームBEADS(ビーズ)だ。B2Bソリューション事業本部サービス&ソリューション事業部サイネージ事業開発部商品企画課の坂尾勝利氏は、BEADSについて次のように話した。

「BEADSは、インターネットを活用して、最大1万台のデジタルサイネージに対するオペレーションを、ソニーが代行して行うサービスフラットフォームです。ユーザーが機材を導入した後、コンテンツを更新していく作業は、ユーザーにとって負担がかかります。そこで、ディスプレイを配置した場所や時間に応じて、ソニーのオペレーションセンターからコンテンツ配信をコントロールします。施設別に、施設のフロア別に、ディスプレイ別にといったきめ細かい配信も可能です」

BEADSは、専用線やVPNを使用しなくても運用できることがポイントだ。インターネットでコンテンツを送るために、コンテンツへのセキュリティも強化。RSA公開鍵暗号や、情報読み取りや改ざんに対する耐性をもたせたUSB挿入機器「BEADSセキュリティドングル」を採用して、信頼性を向上させている。

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このBEADS運用の仕組みを利用し、ソニーは2008年4月からBEADSを使用したデジタルサイネージ マネージド(運営受託)サービスも開始している。マネージドサービスはソニーの関連会社と連携することで実現。ソニーが、機器導入にあたってのコンサルティングを行い、ユーザーが必要なサービスを組み合わせる方法を採る。サービス開始後の窓口と機器設置と設置後の監視・保守はソニーブロードバンドソリューションが担当し、コンテンツ制作とプレイリスト編成がソニーPCLが担当する。ネットワーク回線の設置も必要な場合は、法人向け回線設置事業をしているビットドライブを通じて行っている。

さらに、2008年6月からはBEADS向けのデジタルサイネージ アドバタイジング(広告配信)サービスも開始した。設置場所に応じたコンテンツを配信する形態はマネージドサービスと変わらないが、ユーザーはディスプレイ設置場所を貸し出し、機器導入・設置・運営はソニーが行うというものだ。ユーザー側の負担は最小限にへらし、機材やコンテンツ制作に伴う費用は広告代理店を通じて広告出稿による収入で賄うというビジネスモデルだ。

伊勢丹、Olympic、いなげやなど商業施設で導入

BEADS提供の開始から1年が経ち、導入事例も出始めている。2008年に新宿伊勢丹が新宿副都心線地下通路に51台のディスプレイを設置し、マネージドサービスで運用している。アドバタイジングサービスでは、大型量販店Olympicが首都圏22店舗の食品部門で151台の運用しているほか、2009年3月からスーパーマーケットチェーンのいなげやが首都圏30店舗の食品売り場で254台の運用を開始した。

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デジタルサイネージマネージドサービスを使用しているOlympic(左)と、デジタルサイネージアドバタイジングサービスを活用している いなげや(右)

デジタルサイネージマネージドサービスを使用しているOlympic(左)と、デジタルサイネージアドバタイジングサービスを活用している いなげや(右)

ソニーは、スーパーマーケット向けのコンテンツ配信やアドバタイジングサービス用に、デジタルサイネージ専用チャンネル「ミルとくチャンネル」の配信を開始。ディスプレイ設置場所に合わせて情報をカスタマイズした独自編成で、お料理レシピや地域天気予報、ニュースなどの一般情報と組み合わせて、広告、店舗情報、特売情報、イベント情報などの販促情報を配信している。いなげやの設置においては、東京・花小金井駅前店において、導入前に2カ月間の実証実験を実施。「ミルとくチャンネル」を通じて商品やサービスの付加価値情報を配信したところ、実験対象の商品のなかで、ある調味料の売上数が3倍になる効果があったことから、サービスの本格導入に至ったという。

「ミルとくチャンネルのコンテンツ制作は、ソニー内にコンテンツ制作チームを持っており、コンテンツは、雑誌やインターネットなどの他媒体ともタイアップして、「みんなのきょうの料理」(株式会社NHKエデュケーショナル)から料理レシピ情報を、「オレンジページ」(株式会社オレンジページ)から生活の知恵情報を、「ファミリーウォーカー」(株式会社角川クロスメディア)からお出かけ情報を、「サンキュ!」(株式会社ベネッセコーポレーション)から女性のライフスタイル情報を、といったように、コンテンツ強化もしています。設置場所は、通路上とレジ前に設置することが多いのですが、レジ前などでは買い物が済んで待ち時間がある場所なので、映画の予告編など娯楽的な要素のあるコンテンツも流しています」

ソニーは、今後のデジタルサイネージへの取り組みとして、FeliCaカードやおサイフケータイなど非接触型ICカードを使用したクーポン連動サービスなども検討していくという。