今年のNAB Showに合わせてコーポレートロゴを変更し、ユーザーの声を積極的に採り入れていく姿勢をアピールしたAvid Technology(米マサチューセッツ州テュークスベリー)。このNAB Showを受けて日本でも、アビッド テクノロジー(東京都港区)が5月21日にPost NABイベントを東京・恵比寿のイーストギャラリーで開催した。このPost NABイベントで注目を集めたのは、ステレオスコピック3D映像制作とREDワークフローへの対応であった。ここでは、REDワークフロー部分について整理しておこう。

これまで、RED ONEのデータをアビッドの編集システムを使用して取り扱おうとするには、RED Digital Cinemaの標準ツールREDCINEなどを使用して現像処理を行ってDPX連番ファイルなどに書き出し、これをノンリニア編集・合成フィニッシングシステムAvid DSで読み込むという必要があった。ノンリニア編集システムのMedia Composerで編集をするためには、さらに1段階の作業を必要となる。アビッドが提供するフリーウェアのデジタルインタミディエイト用ファイル変換ソフトウェアMetaFuzeを利用して、DPX連番ファイルからAvid DNxHDを作成し、ようやくMedia Composerでの編集が可能になるという状況だった。

2008年秋にAvidは、RED社とR3Dソフトウェア開発キットライセンス契約を交わし、正式にREDワークフローへの対応を表明した。最初に行った変更は、Avid DSにおいてREDCODE RAWのR3Dファイルにネイティブに対応し、さらにR3DファイルからHD RGB4:4:4プロキシを作成可能にしたことだ。既存のDPX連番ファイルを利用したワークフローからプロキシ利用へと変更したことで、長尺の編集もしやすくなったと言える。

しかし、Avid DSはハイエンドな編集システムだ。R3Dファイルをより手軽に編集できるようにする必要もあった。Media Composerでのタイムライン編集をしやすくするために、AvidはMetaFuzeをバージョンアップ。R3Dファイルをネイティブに読み込めるようにした。DPX連番ファイルの作成という工程を省き、より短時間で作業できるようになったと言える。

MetaFuzeRED.JPG

Media Composerでの編集がしやすくなったことで、Avid DSも含めたワークフローも再構築できた。オフライン編集をMedia Composerで行い、書き出したAFEファイルを使用してAvid DSでR3Dファイルとコンフォームを行い、フィニッシングするといったことも可能になってきた。アビッドは、ベースとなるREDワークフローを確立した段階になったと言えよう。

R3Dを扱えるようにしたMetaFuseは、より高速化を目指す

今回、新たに構築し直したアビッドのREDワークフローについて、アビッド テクノロジーの技術統轄本部プロフェッショナルサービスグループの西岡崇行氏に聞いた。

──MetaFuzeの役割について教えてください。
西岡氏:Windows XP、WINEを使用するLinux、MacでVM Fusionを利用したWindows環境で利用できるMetaFuzeは、もともとはDIワークフロー用に作られたフリーウェアです。テレシネした際のファイルサイズの大きなDPX連番ファイルやTIFF連番ファイルなどを、Media Composerなどで取り扱いしやすいAvid DNxHDファイルや非圧縮ファイルへと変換するために利用します。DIワークフロー用に作られているので、メタデータの維持、追加、修正といったことにも対応していることが特徴です。今回のバージョンアップで、REDCODE RAWのR3Dファイルの読み込みとステレオスコピック3Dに対応しました。

──DPXやTIFF、R3Dの4K解像度など、扱うファイルサイズが大きいが、動作速度については?
西岡氏:今回のバージョンアップでは、まずR3Dファイルを取り扱いできるようにすることに重点を置いています。動作速度については、今後も引き続き改善していきます。フリーウェアなので、複数台のマシンにインストールして作業してもらえればと思います。

MetaFuzeMeta.JPG

R3Dファイルに含まれるメタ情報を利用した編集が可能になった

──実際の作業の流れは?
西岡氏:R3Dファイルの入っているフォルダを選択するだけです。これまでR3DファイルからAvid DNxHDを作るには、REDCINEを使ってDPX連番ファイルを作っておき、さらにMetaFuzeで変換する必要がありました。今回のバージョンアップにより、直接Avid DNxHDに変換することが可能になり、R3Dファイルに付加されているメタデータも生かせるようになりました。MetaFuzeで、感度やトーン、LUT(Look up Table)、RLXの読み込み設定といった現像処理もでき、オフライン編集用にシーンナンバーやタイムコードを画面内に表示させた映像も作成できます。このAvid DNxHDファイルを使用して、Media Composerでオフライン編集を行い、AFEファイルをエクスポートすることでAvid DSにオフラインデータを渡すことが出来ます。Avid DSでは、プリセットからR3D 4Kの設定を選択してシークエンスを作成し、R3Dファイルをコンフォームするという流れになります。

──MetaFuzeを使用する際に、RED社が提供しているRED QuickTime Codecをインストールしておく必要はありますか?
西岡氏:その必要はありません。スムースな再生をするためにはREDCINEが必要になりますが、R3DファイルをAvid DNxHDへ変換するのであるならばMetaFuseのインストールだけで大丈夫です。マシンスペックにもよりますが、現在は2000フレームの変換に20分前後かかります。今のバージョンでは、MetaFuzeがデュアルコアまでしか対応していないことが原因です。先ほど「まず取り扱いできるようにした」と話したように、今後は処理スピードを向上させるためのバージョンアップを行っていきます。フリーウェアで提供されているメリットを生かして、しばらくの間は複数のマシンで作業を分担してもらえればと思います。

──今年のNAB ShowでAvidは、ユーザーの要望に応じたより現実的な機能向上をしてきたと感じたが。
西岡氏:各社の編集ソフトウェアでも編集作業はできるようになってきました。しかし、4K解像度という大容量ファイルをどう活用して、より高画質でフィニッシングするためのワークフローはどのようなものが必要か、と考える段階に入ってきたのではないでしょうか。アビッドは、リファレンスファイルを使ってオフライン編集が速くできればよいという取り組みではなく、最終段階の出力を見据えたワークフローを念頭に置いて開発しています。オフライン、オンライン、フィニッシングの各作業が、スムースに連携できることでワークフローは使いやすいものになりますし、より高品質な映像制作に専念できるようになると思います。