Shinken01.jpg 『劇場版 仮面ライダーディケイド オールライダー対大ショッカー/侍戦隊シンケンジャー 銀幕版 天下分け目の戦』絶賛公開中
©石森プロ・テレビ朝日・ADK・東映 ©2009 テレビ朝日・東映AG・東映 劇場版「ディケイド・シンケンジャー」製作委員会

隙間を通って現れてきては、この世を恐怖に陥れる”外道衆”を、何百年も親から子へと受け継いで戦って来た”侍”たち。現代に現れた外道衆を退治するために、志葉家の殿様と家臣たちは侍戦隊シンケンジャーとして、代々受け継いできた不思議な文字の力”モヂカラ”で戦う──。

テレビ朝日で毎週日曜朝7時半から放送されている戦隊シリーズが『侍戦隊シンケンジャー』だ。戦隊シリーズは、直後の仮面ライダーシリーズとあわせて、スーパーヒーロータイムとして編成されている。このスーパーヒーロータイムに連動したストーリーが、劇場版映画として毎年夏に公開されている。2009年も『劇場版 仮面ライダーディケイド オールライダー対大ショッカー/侍戦隊シンケンジャー 銀幕版 天下分け目の戦』として、2本立てで劇場公開された。

2009年夏に劇場公開された映画作品にはステレオスコピック3D上映を行ったアニメーション映画もあったが、『侍戦隊シンケンジャー』は実写作品として、通常上映に加えて全国約50館でステレオスコピック3D上映された。「実は、前テレビシリーズ(『炎神戦隊ゴーオンジャー』、2008年2月~2009年1月)までは16mmフィルムで撮影して、毎年夏に公開する劇場版についてはスクリーンサイズを考慮して35mmで撮影してきました。音声などはいずれも、全てアフレコしていたんです」と話すのは、東映テレビ・プロダクション業務部の八木明広課長だ。東映テレビ・プロダクションは、『侍戦隊シンケンジャー』の撮影と制作ワークフローを担当している。2009年2月からのテレビシリーズの制作にあたり、撮影部分をフィルムからデジタルに変更。RED ONEによる収録を開始した。

キャメラマンが意図する可変フレームレートを生かす

「戦隊シリーズはフィルムの質感を重視しながら、30年以上にわたりフィルム撮影をしてきました。フィルム供給、フィルム事故、運用コスト面での改善に加え、監督から収録時の空気感を重視してサウンドも同時収録したいとの要望もあり、フィルムのテイストを生かしながらデジタル移行をするためには何が必要なのかを、2008年夏に検討を重ねていました。カメラ運用については、ミッチェル、ARRIFLEX、RED ONE、Varicam HDを同一ライティングで並べて比較しました。CineAltaが候補にならなかったのは、10、12、20、60、70、90など、フィルムキャメラマンが意図的に撮影中にフレキシブルなコマに変更しながら撮影したかったためです」

これまでのスーパー16でのワークフローは、フィルム現像、テレシネとカラー調製、オフライン編集、VFX、フィニッシング、アフレコという流れで行って来た。デジタルワークフローへは、このフィルムワークフローを崩さずに移行することを検討したそうだ。フィルム撮影スタイルのまま撮影をしたいと考えた時に、RED ONEは、2K撮影であれば既存のスーパー16に使用しているレンズ群が使え、VE(ビデオ・エンジニア)を配置せずに撮影できることが決め手となったという。

「35mmで撮影していた、劇場版については2KスキャンでDI(デジタル・インタメディエイト)を作成し、2KでVFXも行い、そのままフィルムレコーディングする流れでした。RED ONEを使って劇場版も2K収録すれば、テレビシリーズのワークフローをそのまま生かせます。しかし、今春になって、ステレオスコピック上映することも決まりまして。(笑)」

Shinken02.jpg 『劇場版 仮面ライダーディケイド オールライダー対大ショッカー/侍戦隊シンケンジャー 銀幕版 天下分け目の戦』絶賛公開中
©石森プロ・テレビ朝日・ADK・東映 ©2009 テレビ朝日・東映AG・東映 劇場版「ディケイド・シンケンジャー」製作委員会

テレビシリーズと同一クルーで劇場版も制作

2008年12月にテレビシリーズの収録を開始し、2009年2月から毎週放映を開始。このテレビシリーズの収録を縫って、同一スタッフで4月に劇場版の収録を行った。今回公開した劇場は約350館。そのうち約300館は通常上映館で、ステレオスコピック上映をしたのは約50館だ。そのため、通常上映用の制作に加えて、ステレオスコピック上映用の制作をする必要があった。

「ステレオスコピックの撮影が決まってから、撮影までの準備期間は3カ月弱しかありませんでした。そのため、このショットでは、このカメラに、このレンズを付けて収録し、得られたデータをこう処理するというように、現場のスタッフができるかぎりシンプルに運用できるようにすることが必要でした。RED ONE本体は大きいですから、人間の目幅である6.5cm間隔に2台のカメラをどう並べるかという制約もありました」

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RED ONEのステレオスコピック撮影システム
写真提供:3Dテクニカルディレクター 小林真吾氏

ステレオスコピック上映も行うことが決まった段階で、ステレオスコピック技術検証とカラーグレーディングを東映ラボ・テック(東京都調布市)で行うとともに、キューテック(東京都港区)に3D視差調整部分について技術協力を依頼したという。キューテックは、2008年11月にクォンテルiQ Pablo 4K Neoを使用したステレオスコピック対応編集室を開設しており、初のステレオスコピック実写映画制作として参加している。

ステレオスコピック制作では、REAL D、Xpan D、Dolby 3Dという3つのステレオスコピック方式によって、スクリーン上の色味が微妙に異なると言われている。その色味の確認については、東映ラボ・テックのXpan D環境に加え、東映直営シネマ館T-JOYのDolby 3D環境、キューテックのREAL D環境を使用して行った。本来は、上映館のステレオスコピック方式に合わせたDCP(デジタルシネマパッケージ)出力が必要になるが、今回は確認作業だけに留めたという。

「準備期間の短さもあって、通常版とステレオスコピック版のデータ互換性、Avidオフライン環境からのデータ互換性を確認しつつ、現場機材の選択などを同時並行で行う必要があり、最低限クリアすべきことを確認しつつ全体のワークフロー構築に集中しました」

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収録は8GBコンパクトフラッシュカードベースで運用している。「8GBカードが400ftマガジンとほぼ同等の収録時間なので,計算がしやすいんです。劇場版では30枚用意しました。紛失を避けるのと、これまでのフィルム運用に合わせるとの両面から、フィルム缶ケースに入れて収録現場からデジタル現像に渡しています」(八木氏)

全体的な制作ワークフローは次のようになる。まず撮影収録後に、ステレオスコピック上映に適したカット、3D変換で使用するカット、使用できないカットに分けるカットチェックを最初に行った後、東映撮影所内でR3Dファイルの使用可能カットをデジタル現像処理を行っている。これを用いて通常上映版の2D作品を完成させ、その後にステレオスコピック制作を行うという流れだ。通常劇場版は、東映撮影所内で左目映像を使用してアビッドのMedia Composerでオフライン編集行い、東映ラボ・テックでクォンテルのiQ/iQ Pabloを使用してオンライン編集、VFX/フィニッシングとカラーグレーディングを行っている。通常劇場版が完成した時点でステレオスコピック版の実制作に移行。通常劇場版の左目映像に右目映像を組み合わせ、左目映像のVFX設定を移行して右目映像に追加したり、2Dから3Dを作成するカットを3D変換して組み合わせる作業を行っている。

「収録段階では8型モニタを使用して確認していたのですが、スクリーンで見た時の印象とは違い過ぎます。最終段階のDCPチェックではスクリーンサイズで確認できますが、その段階まで確認できないとなると、他の工程のスケジュールを緻密に設定する必要が生じます。今回は、例年よりも1カ月早くクランクインしてもらうことで制作期間を伸ばしましたが、それでもギリギリでした。監督と3Dスーパーバイザーに3D空間内に配置するタイトル位置や文字の大きさなども含めてカットチェックをしてもらうために、制作段階でキューテックの試写室に5~6回足を運んでもらう必要もありました」

ステレオスコピック収録だけでなく3D変換も活用

八木氏は、収録は全てをステレオスコピック収録したわけではないと話した。収録を肩乗せや手持ちで行っている部分では、2台を使用するステレオスコピック収録は厳しいことから、2Dから3Dへ変換して使用した素材を使った。この変換技術には、マーキュリーシステム(千葉県柏市)のものを採用した。

「デジタル化移行にあたり、2Dの旧作品を3D化するにはどうすればよいかということも検討していました。その段階でマーキュリーシステムの3D変換技術が使えそうだとピックアップしていました。キューテックで3D変換技術をテストさせてもらおうとお話をしたところ、キューテックの取引先であることが分かり、ハンドリングも含めてキューテックにお願いすることができました」

こうした制作環境での取り組み以外にも、今回新たに、撮影から完成品まで技術演出を担当する3Dスーパーバイザーを配置した。3Dスーパーバイザーは、ステレオスコピックで上映したときに視差を有効に生かせる距離感や、シーンのアングルで有効な演出方法など、具体的な指示を行う役割を担う。VFX制作に通じたスタジオガラパゴスのVFXディレクター小林真吾氏を起用した。撮影段階では、小林氏が撮影監督とキャメラマンの間に入ることで、カットに応じて、ステレオスコピック収録をするのか、2D収録にして3D変換するのかを話し合い、効率的に進められたという。

TOEI_Red04.JPG RED ONEによるステレオスコピック収録現場の様子
画像提供:Visual Communications inc 小山一彦氏(立体映像産業推進協議 会・運営委員)

「テレビシリーズは2話で12日間の収録ですが、劇場版は3週間かかりました。収録日数では3倍強かかったことになります。今回はクォンテルが取り扱う3DプロセッサーSIP 2100を収録段階で利用することはできなかったのですが、収録後にカットのチェック用には使用し、ステレオスコピック上映に適したファイルだけで編集作業に取りかかっています。収録段階に利用できれば、もう少し効率化できそうです」

作品中のCGは合体シーンなどに限定して使用して、多くを特撮収録することで、テレビシリーズの制作と劇場版の制作とを変更して行えるように工夫している。爆発シーンなどについても、合成にかかる制作時間や費用などを考慮して、多くを実写段階で実際に爆発させたものを収録しているという。この特撮を中心にした制作手法が、ステレオスコピック制作でも生かされた。

「特撮カットは、ほとんどがRED ONEによるステレオスコピック収録です。ここに別撮りしたステレオスコピック素材を乗せたり、2D収録した素材を3D化した素材を追加したりしています。爆発に関しては、左右の見え方を揃える必要があるので、2Dから3D変換したものや、補正をかけた素材を乗せたもの、さらにステレオスコピック収録したものなど、シーンに応じて使い分けたり、組み合わせたりしています」

CG制作についても、VFXアーティストがステレオスコピック使用を考慮して、立体的に見せられるようなコンテンツとして制作をしてきた。テレビシリーズのカットを使用して合成のテストも行ってきたが、フィルムを変換したデータと合成するのに比べ、RED ONEの映像データとの色味のマッチングが良かったそうだ。

「クリエイト作業に入る前の準備段階の時間が大幅に軽減されました。フィルム収録では、フィルム現像/スキャニング/データ化にかかる時間短縮だけでなく、切り抜き作業や合成での作業効率も上がり、クオリティも改善し凧と、大きなメリットでした」

メーカーはより現場の声に耳を傾けよ

八木氏は、実写でのステレオスコピック映像制作での課題はずいぶん整理できたとしながらも、本格的にステレオスコピック制作をするには、制作環境の改善と低価格化がまだまだ必要だと話した。収録、オフライン、本編集、VFX/フィニッシングの各工程でステレオスコピックで確認しながら作業を進められるようならないと、より効率的でスピーディな制作は難しいとの見方を示した。サウンドについてもまだまだ研究が必要だとしながらも、立体に見えることでサウンドの感じ方も変わることを考慮し、ダビング環境についてもステレオスコピックに対応させる方法を独自開発したのだという。

「毎年、その年に放映し始めたシリーズの劇場版は夏に上映することが確定している。撮影時間も制作期間も限られるし、特殊な機材を劇場版制作のために購入できる予算もない。現在の制作機材は機能重視で、現場の声が生かされていると感じるものが少ない。タイムリーなスピード感のある制作現場で利用でき、プロレベルで仕上げるための機材が、もっと出て来て欲しいですね」

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新たな表現手法として広がりを見せるステレオスコピック映像。しかし、まだまだ市場にステレオスコピック対応の機材が少なく、撮影現場・制作現場においては試行錯誤しながらクオリティを上げる努力を続けていることが垣間見えた。現段階で工夫しながら模索し続けることが、次世代のステレオスコピックワークフローでの課題の整理や改善において必要なノウハウ構築につながっていくはずだ。