DSLRの登場はジャーナリズムの画作りを変える

sukeda_01.jpg

DSLRの登場は、ENGの世界にも少しずつ変化を起こしはじめている。実はこの現象は世界中で起きてきており、日本でもそうした潮流に刺激される人たちが動き始めてきたようだ。

TOKYO ART BEATはアート系ポータルサイト。ここでバイリンガルの記事を担当しているnewwavech主宰でありジャーナリスト、助田徹臣氏は、EOS 5D Mark IIを武器に新しいENGスタイルを模索している。

助田氏の前職はテレビ制作会社の番組ディレクターで、民放キー局でTV番組制作を担当してきた。現在でもフリーディレクターとして何本かの番組制作を手がけているが、元々は写真家であり、雑誌などの写真も手がけるなど、多彩な経歴の持ち主だ。助田氏はEOS 5D Mark IIを新時代のENGツールと捉えている。

「報道番組等ではそもそも良い映像で物事を伝えるためにENGを使用することが多く、何かを伝えるということに加えて、レンズを切り替え、ちゃんと画を作り、キレイな映像で伝えるENG的な感覚はビデオジャーナリズムにおいて今でも重要な要素の一つだと思います」

ここで助田氏がENGと定義するのは、現状のキー局レベルにおいて主にHDCAMで撮影するものを指している。そこにHDVのようなハンディで撮るディレクターカメラ的なものは含まれない。世界的にもすでにENG機材としてDSLRが使われ始めているという。

Battle for Hearts and Minds Trailer from Danfung Dennis on Vimeo.

「アフガニスタンの戦況をEOS 5D Mark IIで撮っている海外のジャーナリストがいるのですが、彼もこのカメラを選んでいるのはやはりきれいな映像だと伝わる内容や質も大きく変わってくるからだ思います。EOS 5D Mark IIであれば映画のような画質で撮れるので、CNNの方などは本当に多くの人がすでに使っていますし、特に個人のジャーナリストの付加価値としても、画がきれいなことは大きいと思います。いまやテレビの方がハンディカメラ映像が増えて画質が落ちてきているのに対して、Webの方がEOS 5D Mark IIなどの台頭によって画質が上がっているという世界的潮流はありますね」

情報を重視するTV的な内容だけならば、従来のハンディビデオカメラでも充分だが、写真画質で画がきれいだと伝える内容の深度が変わってくる。またハンディのビデオカメラで撮影する場合、手ぶれを気にするあまりにちゃんと画作りが出来ていないというケースも多いという。大きいカメラなら三脚を使って撮影するので、ちゃんと画作りをするという感覚が自然に生まれるという。また海外のTV局にはステディカムが必ず機材庫に多数保有されているが、日本のTV局には非常に少ない、という点も画質重視ではない指向性の現れだろう。

映像クオリティーアップと機材量の減少の関係性

sukeda_02.jpg
「僕はEOS 5D Mark IIで撮影するときはいつも一脚を使用しており、移動もバックパック一つでENGクオリティを実現出来るセットで取材しています。従来のENGでは、車一台で4人のクルーを要するサイズのものと比べても、画質はそれを上回るものが撮れますよ」

ところで、日本にはアート番組が非常に少ない。現在、海外などでは、この時期、ニューヨークタイムスなどをリストラにあったジャーナリストたちが、独自に団体を作っており、そこでアート番組などが頻繁に作られているという。そうした活動は世界的にもかなり盛んに行われている。TOKYO ART BEATも高画質で今までに無いジャンルを伝える、これまで日本にない映像メディアとして各方面からの評価は高いようだ。

「日本では映像の制作費は凄くかかると思われているので、世界に比べて映像コンテンツ化されていない、ビデオアーカイブが存在しないジャンルがかなり存在するんです。アートの世界もまさにそのジャンルで、博物ものなどNHKしか番組化しないようなものは、まだ映像未開拓の分野が多いです。それがEOS 5D Mark IIのようなキレイな画質で撮れるとなると、今後は撹拌作用を起こして広まると思うのです。あとはこれをアーカイブ化できる人材育成の問題ですね。誰でも撮れる機材環境は揃ってきたので、あとは編集技術の問題だと思います」

映像化できる人材という意味では、単に映像編集の技術面というだけでなく、通常のTV番組を作るときには必須の構成台本を作成する作業が重要だという。インターネットだけで映像配信している人たちは、構成台本自体の存在すら知らない。海外に行けば構成台本の書き方などのノウハウ本は数多くあるが、国内ではそういうものが無いというのも実態だ。このノウハウがあれば一般のライターが映像を作れるようになると助田氏は言う。

「僕は番組を作るときに必ず構成台本を書きます。でも、これを始める前に色々と勉強し直そうとして、関係のノウハウ本や資料を探したのですが、構成台本などの作り方、構成の考え方などを教える本はほとんどないのです。ここが訴求されて人材さえ揃えば、角の呉服屋さんが自身でCMを作れる時代が来ると思うんです。EOS 5D Mark IIも使いこなすとなれば、それなりに努力は必要ですが、それほど難しいわけではない。あとは本人の資質次第で、構成能力と編集技術さえつければ誰でもENGが可能なのです」
sukeda_03.jpg

DSLRの登場は、こうしたことノウハウと掛け合わせることで、映像制作の文法が大きく変わることを意味しているとも言えるだろう。助田氏はこのDSLR機の登場によって、これから大きく報道系の映像世界にも革新が生まれると予想している。

「昔、IT業界にインターネットが入ってきてベンチャー企業が増殖した時代がありましたが、DSMC/DSLR機の登場によって、映像業界もそうした状況と似たものになってきており、個人で映像発信ができる個人放送局などのベンチャーが出てこれる土壌が出来てきたのではないでしょうか?今まさに、そういう時代に突入したと思っています」

NEWWAVEch
TOKYO ART BEAT
Special thanks to CASHIinc.

◀ [DSMC・DSLR ]03[DSMC・DSLR ]05