「当社では画像処理関連の技術を持っているのですが、ステレオスコピック3D(S3D)関連の取り組みは、もともとは画像処理の延長線上の機能として生まれてきたんです」

こう話すのは、朋栄S3D推進担当の小宮正夫 部長だ。朋栄は2010 NAB Showで、S3D関連製品として、S3D収録時に左右の色合わせを行うHD/SDカラーイコライザCEQ-100HS、センサーレスバーチャルスタジオシステムVRCAM S3Dのほか、2系統同時切り替えが可能な2M/EサイズのHD/SDデジタルビデオスイッチャHVS-3800HSや2系統同期再生が可能なMXFクリップサーバMBP-100PDを出展した。

「今回のNAB Showの出展で、当社が初めてS3Dに取り組んだという印象があるかと思いますが、実は数年前からアナグリフ形式ではありますが、立体映像を活用するためのシステムの提案をしてきましたので、今回が全く初めての取り組みというわけではないんです。しかし、S3D製品は他の製品に比べてマーケットやターゲットの想定が難しく、各現場によって必要とされる機能もさまざまです。そのため、S3D製品についてはさまざまなニーズを集約し、具現化できるように態勢を整えています」

画像処理を中心とした視差調整機能

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HD/SDカラーイコライザ CEQ-100HS。コンバージェンスポイントの修正もリアルタイムで行える。

朋栄が各種S3D関連製品の開発を本格化させることに決定したのは、昨年の2009 NAB ShowでS3D制作が再注目されたことがきっかけだったという。NABから帰国してまもなく、最初にS3D機能の搭載に踏み切った製品がCEQ-100HSとなる。

「CEQ-100HSはHD/SDカラーイコライザとして提案しているように、収録映像の中で再撮映像の色味を合わせるために開発を始めた製品で、6月より発売開始します。スタジオカメラで再撮モニタを映した時に、適正な色味をもった映像になるように色補正したり、複数台のカメラの映像が同一になるように色補正したりする目的のために開発を続けていました。CEQ-100HSがフレームバッファを持っていることを生かし、S3D市場向けに左右の映像の自動色補正機能や視差調整機能、視差計算機能、3Dモニタリング機能を搭載しました」

朋栄は、新たなS3D製品としてではなく、開発中だったカラーイコライザの機能を応用して機能追加し、通常収録/S3D収録問わず利用可能な製品として実現した。視差調整は、3Dリグに補正データを返してリグ側で調整するのがいいのか、画像処理で補正した方がいいのか、各社でさまざまな取り組みがなされている。朋栄では、3Dリグの調整後、収録段階の調整は可能な限り画像処理で行うことを提案している。画像処理であれば、収録時に3Dリグの視差調整を補助することも、収録後の編集段階で補正することにも使え、活用範囲が広がるからだ。さらに、S3D収録で違和感の元になる左右の映像の色ズレについても、画像処理であれば収録時あるいは編集時に同時に処理できる。

「S3Dにおける色補正についてはカラーチャートを使用して合わせることも、カラーチャートを使用せずに一方の映像の色味を元にもう一方の色味を補正することも可能です。視差調整機能は、光軸の縦の自動補正と、横方向のコンバージェンスポイントの調整に対応しています。S3Dではレンズの焦点距離やアイリスによって奥行き感の違いも生じます。これについても、当社が扱っているバーチャルスタジオに搭載されている3DCGと実写の映像をうまく合成するためのレンズキャリブレーション機能を、S3Dの視差補正用に活用できないかと研究開発を続けています。2009年末からS3D制作での視差補正範囲やワーニング機能に対する関心がより高まっている状況にあるので、さらにスピーディに正しく調整するためにはどうするべきかといった視点で開発に取り組んでいます」

バーチャルスタジオでS3D活用を初めて実現

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バーチャルスタジオシステム VRCAM S3D。S3Dの3DCG映像のなかに2D映像を配置し仮想カメラポジションを設定することで、擬似的なS3D映像を実現できる。

小宮氏の話にもあるように、朋栄は3Dオンエアグラフィックス系の取り組みとして、以前よりBrainstorm Multimediaと共同でバーチャルスタジオシステムの構築に取り組んでいる。放送局・プロダクション向けのハイエンドシステムはdigiStormとして展開しているが、今回S3D制作に対応したのは、簡単に設置できるエントリー製品のVRCAM S3Dとなる。

「今回は、より簡単にS3Dコンテンツを制作することを想定して、VRCAMにS3D機能を持たせました。一般的にS3D収録は機材の調整が難しく、技術的にもハードルが高いものになりますが、バーチャルスタジオを活用すれば3DCGの中に、これまでと同様に2Dのカメラ映像を配置して、擬似的にS3D映像として利用できますという提案です」

VRCAM S3Dは、最大4台までの固定カメラの切り替えに対応している。この4台のうち1台は、センサー付カメラも利用できる。これらのカメラで撮影した映像を元に、各カメラで8つの仮想カメラポジションを設定することで、カメラを動かすことなく、多彩なカメラワークを可能にしている。また、バーチャルスタジオ自体は擬似3次元空間であり、撮影した被写体も3Dオブジェクトとして取り込まれているため、3Dリグを使ったS3D収録をしなくても簡易的なS3D映像を実現することを可能にしている。PC 1台、カメラ1台の最小構成でもS3D映像が利用できることから、ショールームなどのプレゼンテーションに活用してみたいといった問い合わせが入ってきているようだ。

「VRCAM S3Dは3DCGと2Dのカメラ映像を組み合わせることで、ローコストでS3D映像を作ることを可能にしています。実際に出展してみると、こうした簡易版のS3Dで満足するお客様だけでなく、3Dリグを使って収録したS3D映像も使いながらバーチャルスタジオを活用したいというお客様もいました。実際にデモを見せることで活用のイメージが湧いて来るということもあり、バーチャルスタジオのS3D利用も今後は期待しています」

エントリー製品のVRCAMでS3Dの対応を行った朋栄だが、製品に含まれるバーチャルスタジオソフトウェアBrainstorm eStudioはハイエンドのdigiStorm製品でも使用されており、すでにS3Dの出力やレンダリングなどに対応しているため、digiStormをお持ちの方であればすぐにS3D機能を利用することができるそうだ。

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昨年の2009 NAB Show以降、朋栄は、ハードウェア製品、スイッチャー製品、バーチャルシステム製品、営業など各部門が連携して、新製品の開発や搭載機能の追加などを柔軟に検討することができるように、S3D製品開発に特化したチームを編成したという。今回は、HD/SDデジタルビデオスイッチャやMXFクリップサーバMBP-100PDでもS3D対応機能を追加してきているが、今後も各製品のS3D対応を図っていく考えだ。小宮氏は「ライブで使えるS3D関連製品という視点で製品開発を行っているが、どの製品もリアルタイムで処理することが乗り越えなければならないポイントです」と話していたが、朋栄は画像処理技術をベースにしながら開発を続けている。画像処理・ライブ機器という視点からS3D制作にアプローチし始めた朋栄の取り組み。今後も要注目だ。

(秋山 謙一)