キヤノン 約1億2,000万画素APS-H CMOSセンサー開発と各社DSLR新製品投入

ここに来てDSLR(デジタル一眼レフ)関連の新商品情報が目白押しだ。ミドルレンジを中心にDSLR市場が活性化していることも後押ししているが、各社動画撮影機能部分にも大きく注目した新製品を出してきている。

まず、このムーブメントの本家本元であるキヤノンは、フルハイビジョン動画撮影機能を搭載したミドルレンジクラスの新機種 EOS 60Dを発表。5D markⅡより一回り小さな筐体に、3.0型のバリアングル液晶モニターを搭載。これと同時に7Dなどで活性化されたDSLR市場で交換レンズも堅調な売れ行き増を示していることから、フルサイズで全周囲魚眼を実現した世界初のフィッシュアイLレンズ『EF8-15mm F4L フィッシュアイ USM』を始めとする、新たな交換レンズ群6機種も今年11月以降に順次発売を予定している。

しかしそれ以上にDSLRムービーファンにとって大きな発表と言えるのは、なんと約1億2000万画素(13,280×9,184画素)という脅威の画素数を誇る、世界最高の新型APS-H CMOSセンサーの開発に成功したことが8月24日に発表されたことだろう。

これはこれまでの同社製品搭載CMOSで最高画素数であった5D markⅡのフルサイズ/2,110万画素の約7.5倍で、解像度も約2.4倍に向上しているという。35mmフルサイズでなく、29.2mm×20.2mmというAPS-Hサイズ(現行のEOS-1D markⅣに搭載されているもの(27.9×18..6)より少し大きい)ながら、驚くべき機能を有している。

重要な読み出し機能部分では、通常CMOSセンサーでは、多数の画素を高速に読み出すために並列処理が行われるが、処理する信号数が増加すると信号遅延やタイミングのわずかなズレが問題となる。この新開発CMOSセンサーでキヤノンは、読み出し回路のタイミング制御方法を工夫、最高で秒間約9.5コマのスピードでセンサー信号を出力することに成功した。 これにより超高精細画像の連続撮影が実現する。

さらに驚きなのは、フルHD(1,920×1,080画素)の動画を、CMOS内の1/60の任意の領域で出力する事ができるという。つまり画面の一部のトリミングや電子ズーム、そして任意の領域でのフルHD動画の切り出しが出来るという事だ。

このセンサーを使えばさらにDSLRでの様々な可能性が見えてくる。更なる高画質化への布石としても注目すべき開発報告だ。ただし、CMOSセンサーが開発されていても、製品がすぐに出てくるというわけではない。これは単にキヤノンの底力を知るというでは意味では重要だが、事実キヤノンは2007年にすでに約5,000万画素のCMOSセンサー開発も発表しており、これらが製品にシフトされるのはまだかなり先なのかもしれないので、ぬか喜びはしないように心に留めておきたい。

各社さらに開発に力が入る様相

さて他社に目を向けてみると、各社中軸の入門機に力を入れている。ニコンからはフルハイビジョン動画撮影が可能な1,480万画素のCMOSセンサーを搭載した、D3100がこの9月18日に発売される。

sony_0824.jpg ソニーα55を発表する、ソニー(株)パーソナル イメージング&サウンド事業本部 イメージング第3事業部 事業部長 勝本 徹 氏

またソニーもαシリーズの普及機として、新開発1,620万画素の”Exmor”APS-HD CMOSセンサーと、新たに透過ミラーを用いたTranslucent Mirror Technorogy(トランスルーセント・ミラー・テクノロジー)によるα55/α33を発表。これにより秒間10コマの連写が可能、フルハイビジョン動画撮影中にも高速オートフォーカスが対応。視野率100%の新開発電子ビューファインダー”Tru-Finder”も搭載(9月10日発売)。

vg10.jpg

またソニーは、DSLRの素性を受け継いだ新コンセプトのビデオカメラ、NEX-VG10を8月5日に発表。NEXで採用されたEマウントによる交換レンズ式のビデオカメラだ。民生機ではあるがこれまでのビデオスタイルでありながらレンズの特性を活かせる動画用カメラとして、こちらの使用動向にも注目したい。NEX-VG10も9月10日の発売予定だ。パナソニックからはこの秋にも、いよいよNABで発表されたAG-AF100なるDSLR遺伝子を持った業務用カメラも登場してくるはずだ。

DSLRムービは誰に福音をもたらすのか?

DSLRムービーが作った新たな映像撮影のムーブメントが、様々な方面でテクノロジーの進化に拍車をかけていることは間違いない。しかしここまで各クリエイター達が語っていたように、これはまだほんのきっかけに過ぎない。

この取材を通して見えてきたのは、ビデオカメラもそもそもはカメラであることだ。デジタルテクノロジーの侵入で、カメラの根本的な部分よりも、フォーマットの違いやデータ形式、おまかせ機能といった周辺技術に捕われて、そこを”肯定”して撮影する道具になっていたと思う。

しかしDSLRにムービー機能が搭載されたことによって、再びカメラそのものの基本機能や露出や光の調節といった撮影方法、またレンズの重要さといったところに再度視点が向けられてきたことは面白い。筆者自身もレンズマウント等に関して再び勉強した。  

そして何よりもクリエイター自身がレンズの先にある被写体に対して、より多くの時間と創造性を与える事ができるようになったことが一番の収穫だろう。テクノロジーの進化で問題なのは、『楽をさせる』のと『便利になる』とではその意味が大きく違ってくるということだ。DSLRムービーの登場で、カメラは確実に正しい進化の方向へ再び向かっているような気がする。

また機会を見てDSLRについて3回目の探求を行いたいと思っている。それまで状況がどのように変化しているのか?楽しみではある。

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