これからのレンズ周辺技術をどう考えるか?

本特集の冒頭から唱ってきた”ニューセンセーション(新感覚)”なムービーカメラの出現によって変化して来たカメラマン側の意識。これはまた、周辺機器に携わる関係者にとっても同じ事が言えるようだ。

TV・映画機材のメンテナンス会社である有限会社テクニカルファームは、長年キヤノンの放送・業務用レンズやザハトラー/ヴィンテンのプロ用三脚のメンテナンスを手がけて来た会社として、この世界では有名だ。またプロ映像カメラマンの”駆け込み寺”として、メーカーの手の届かない部分を補う細かい操作を補ってくれるような、まさに「痒い所に手が届く」ユニークなツール群を作り続けている会社でもある。そんなテクニカルファームの仕事にも”EOS 5D markⅡ革命”の後、やはり大きな変化があったという。

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(有)テクニカルファーム 片岡幹貴 氏

やはり5DmarkⅡの、フルサイズセンサーの画質というのは衝撃でしたね。業務用カメラに比べてもちろん良い面も悪い面もあるのですが、すでにF35で撮影していたらボケが足りなくて途中から5DmarkⅡに変更した、というような現場も出て来たようですから、やはりフルサイズセンサーの、あの画というのは多くのカメラマンにとっても異次元レベルの魅力があるようです

とテクニカルファーム代表の片岡幹貴氏は語る。 これまで大手放送局などの放送用レンズをメンテナンスし、その内部を熟知している片岡氏によれば、デジタルカメラのレンズのことを語る上での基本となるのは、すべてセンサーサイズとの関係に集約されるという。

センサーサイズとレンズ、基本はこの関係でしかないんです。要はイメージサークルの問題なのであって、現行のデジタルスチルカメラで言えばフルサイズ(36×24mm)、APS-H(28.1×18.7mm)、APS-C(23.7×15.6mm)、フォーサーズ/マイクロフォーサーズ(18×13.5mm)という、今あるこのセンサーサイズと各レンズの関係性がポイントです。その構造を知れば、センサーが大きくなればなるほど、レンズ周辺の開発も非常に難しくなるというのはよく判りますね。

この関係で考えると例えば高価なカールツァイスのPrime MasterのようなPLレンズは、画質は確かに最高なのですが、カバーしているイメージサークルはスーパー35mm(24.89×18.66mm)サイズまでです。ズームレンズでもアンジェニューのOptimoレンズにしても、センサーサイズとレンズの関係で考えると、実際にはフルサイズをカバーしているわけではありません。現存するレンズで、フルサイズセンサーのイメージサークルを完全にカバーしているのはスチル用レンズしかないんです

その結果生まれたのが、昨年のInterBEEで出展していたCanon EOS EFレンズの改造製品である『Canon EF ZOOM TF-Version』だ。この製品は、スチル用に作られているEFレンズの各リング部分にギアリングを装着、フォーカスアシストシステムによってスムーズのマニュアル操作を可能にして、さらにフォーカスの至近と無限位置にストッパー機構を加え、フォーカスマンがシネレンズと同じようにフォーカス送りが出来るように工夫された製品で、どうしても絞りが必要な映画撮影に必要な機能を装着したもの。

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EFレンズを使ったDSLRムービー撮影時で最も必要とされる部分を補うものなので、会場でも一躍大注目されていた。『Canon EF ZOOM TF-Version』は、まさにレンズ構造そのものを理解していないと出来ない製品であり、固定改造も可能でフォーカスギア&ズームギア&ストッパー/フォーカスギア&ストッパー/フォーカスギア&ズームギアの3種がある。価格はオープンだが、1本あたりレンズ価格+約30万程度で改造可能(※)だという。

(※ただし、各オート機能やデータ通信は不可、特殊改造品になるためメーカー保証は不可)

そんな片岡氏がいま一番気になっている製品とは何だろうか?

いま注目しているのはソニーのPMW-F3ですね。あの画こそ大きなセンサーを採用した良いビデオ映像と言えるものだと思います。PMW-F3はEOS 5D markⅡとともに今後も残っていく機材だと思います。EOS 7Dとほぼ同じイメージサークルですが、それぞれの画質の味わいも違い、使い方も大きく違ってくるでしょう。弊社からも早速F3用のカメラアダプター『TF-F3 Base Rig』を出しました。今春にソニーから新たに出てくるF3用のズームレンズは、その性能も含めて非常に気になりますね。

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TF-F3 Base Rigの価格は27万円(税別)

メイド・イン・ジャパンにこだわってモノ作りを続けて来たテクニカルファームだが、DSLR周辺機器などは海外でも凄い性能で格安の製品が次々と出て来ている。そんな中でもその時代のカメラマンが必要としているツールを次々に生み出している。片岡氏は、「とにかくカメラマンというのは”カッコ良く”あって欲しい」という。これは撮影機材でも、そのスタイルについても言えることだが、カメラマンこそ花形職人であることは間違いない。映像制作という世界において撮った画の責任はすべてカメラマンにあり、そのプライドを持って仕事をして欲しいという。テクニカルファームでは、そのプライドを支える秀逸でカッコいいツールを作り続けている、そんな印象を強く感じた。


Vol.05 [Into the Lens] Vol.07