アナログからデジタル、SDからHD、VTRからファイルベースへテクノロジーの進化やメーカー各社の思惑、さらにはビデオや映画、ITなど業界間のボーダーレス化とグローバル化により映像を取り巻く環境は変わってきた。それにともない、広い意味での映像ファイルの多様化が始まった。

電気動画はビデオ屋さんが、フィルムは映画屋さんがという垣根やNTSCとPAL圏という国単位での垣根もなくなり、動画は様々な分野、業界で利用されるようになった。そのかわり扱うコーデックが増え、ある種の混乱状態に陥っているように思う。ここでは、ビデオ業界で使われる主なコーデックについて分類し整理してみようと思う。

アナログからデジタルへの変遷

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アナログからデジタルへの転換期には圧縮フォーマットは忌み嫌われており、特に編集で使われるものは非圧縮でなければ使えないとまでいわれていた。そこで、編集用途としてD1が開発されたが、コスト的な問題やパラレル信号をどう扱うか、スイッチャーなどの周辺機材の開発の遅れもあり、その後開発されたコンポジットデジタルのD2へ軸足が移っていく。D2は1/2圧縮を行っているが、アナログコンポジットと同様同軸ケーブル1本で接続可能なこと、D1に比べて価格が安かったこと、周辺機材の充実などの理由から急速に普及していく。

撮影用としても使えるデジタルVTRのフォーマットも登場してくるが、これはアナログベータカム系のものと民生用のDV系のものが市場に出回っていく。このあたり(95年ころ)からVTRフォーマットが急速に増えてくることになるが、これはSDだけでなくHDがあったからともいえるが、ソニーやパナソニックといったメーカー間の競争とも無縁ではないだろう。

アナログVTRもいくつものフォーマットがあったが、このようなことからデジタルVTRはさらにその種類が増えたものの、いわゆるデファクトといわれるフォーマットがあり、それほど大きな混乱はなかったように思われる。

ハードディスクや半導体メモリーにビデオ信号を記録する機材は、編集用のやりくりとしてHDDに非圧縮で記録できるアベカスのA60やスポーツ番組のスローモーション用としてNECが半導体メモリーを採用したもの、光磁気ディスクを採用したCMバンクなどが開発された。いずれも価格的にもスペース的にも広く一般に普及するものではなかった。 簡単に動画を撮影できるものとしては、コンパクトデジカメやトイカメラを中心に様々なタイプの製品が発売されるが、画質的な面やまだメモリーの価格が高価だったこともあり、これもあまり一般に普及していない。

本格的なファイルベースの到来はパナソニックのP2や各社民生用のビデオカメラが引き金といえるが、それ以前に池上通信機がEditcam(エディカム)いうENGから編集までの(編集はAvid)システムを発売しているものの、記憶媒体であるHDDパックが高価かつ信頼性の面での実績がなかったこと、テープ納品のようなワークフローには適さない、ノンリニア編集システムの普及状況などから主流にはなれなかった。ほかにもソニーのSXやIMX、ブルーレイディスクを採用したXDCAMなどがあるが、いずれも主流にはなっていない。

現状のファイルベースを整理する

ファイルベースの元はといえば、こうした流れのほか、民生機からの派生もありまさに百花繚乱状態だ。前置きが長くなってしまったが、こうした歴史を踏まえながら、現状のファイルベースを整理してみよう。

放送用や業務用、民生用のデジタルVTRから派生した物、民生機器やトイカメラから派生した物など様々なフォーマットがあるが、まず大きく分類すると非圧縮系、Motion JPEG系、MPEG系の3つに分けることができると思う。

非圧縮系

現在でも非圧縮はデジタル記録では理想的な記録フォーマットとされている。ハイエンドなレコーダーや編集システムが採用しているフォーマットであり、記録に必要な転送レートや記録媒体の容量もかなり必要とされるので、ビデオ関係では合成などを行う用途以外はあまり利用されていない。

非圧縮というと元の信号をそのままデジタル化したものという解釈があるが、デジタル化した段階で元の信号から欠落した部分があることを認識しておく必要があるだろう。デジタル化でキーとなるのはサンプリング周波数と量子化ビット数だか、デジタルコンポーネントのSDのサンプリング周波数は、4:2:2の場合輝度信号(Y)13.5MHz、色差信号(Cb, Cr)6.75MHzでサンプリングされ、HDではアスペクト比の関係もあり、輝度信号(Y)74.25MHz、色差信号(Cb,Cr)37.125MHzでサンプリングしている。

解像度はサンプリング周波数に依存するが、サンプリング定理によりその上限はサンプリング周波数の半分までになっており、アナログのように周波数が高く(解像度が高く)なるにつれ徐々に低下するということはなく、サンプリング周波数で決まった周波数以上の信号はまったくない。HDの場合は最大1920となっているので、このサンプリング周波数で問題ないが、4:2:2の場合は色信号の帯域は輝度信号の半分しかないので、合成を行うような場合は非圧縮でも不足することがあるので、4:4:4が必要になるだろう。

量子化ビット数は、信号の強弱(輝度レベル)をどのくらいの分解能にするかを決定する要素で、ビデオがデジタル化される当初8bitあれば充分ということで、現在でも8bitが一般的に使われている。8bitに決まった過程のなかで、コンピュータなどの当時のデジタル機器が8bitの倍数だったことからメモリーなどのディバイスやシステムを設計する上で8bitがやりやすくかつ経済的といった事情もあったようである。8bitというと諧調は256ということになり、微妙なグラデーションなど表現に無理がある場合があり、最近では10bit以上の分解能を採用するビデオ機器もある。

非圧縮といってもその内容であるフォーマットが様々であり、ワークフロー上フォーマットをそろえないと変換することになり、少なからず画質の劣化が伴うことになる。特に、フレームレートは現状24、25、29.97、30、50、59.94、60がある。29とか59といった中途半端なフレームレートがなぜ存在するのかといえば、白黒からカラー放送に対応するためで、25、50はPAL、24は映画である。また、インターレースとノンインターレースはテレビ系とITや映画など画像の扱いからきている。整数倍の変換の場合は影響が少ないが、そうでない場合は注意を要する。

Motion JPEG系

Motion JPEGはJPEG圧縮された静止画をひとまとめにして動画としたもので、初期のノンリニア編集では一般的に採用されていたコーデックである。圧縮効率はあまりよくないが、編集を行うには1コマ1コマが独立しているため有利である。現在でもデジカメやデジタルシネマ関係で利用されており、汎用性は高い。Motion JPEGは不可逆圧縮だが、ノンリニア編集システムにはMATROXのロスレス圧縮のような可逆圧縮を採用したものもあり、これは非圧縮と同等な画質といっていいだろう。

MPEG系

フレーム間圧縮を行うMPEGは、もともとフレーム単位で編集を行うには適さないコーデックとされていたが、現在ではネイティブでの編集も可能になっている。MPEGは、原則としてIPBフレームというGOPで構成されている。各フレームの特徴を簡単に説明すると、Iフレーム(Intra Picture)は基準になるフレームで圧縮されていても1画面を表示するための情報を持っている。Pフレーム(Predictive Picture)は、Iフレームとの差を元にしたフレーム間圧縮とフレーム内圧縮。Bフレーム(Bidirectionally Predictive Picture)は、前後のフレームとの差を元にしたフレーム間圧縮とフレーム内圧縮。ということになるが、これらIPBをどのようにグループ化するかによって性格が異なってくる。

フレーム単位で編集を行う場合Iフレームだけで構成すれば(イントラフレーム圧縮(I-only)方式)編集を前提とした場合有利なのは、言うまでもない。I-onlyで記録する方法を採用しているのは、DVCPRO HDやHDCAMなどが代表的だ。一方IPBのLong GOPを採用しているのは、AVCHDやHDVなどである。

テープなどのメディアに映像が記録されていれば、そのテープを見ただけで対応するVTRはほとんど特定することができた。さらに記録した内容などもパッケージなどに記入することで、いちいちVTRで再生しなくてもその内容を確認することができる。ファイルベースになってもメモリーやディスクに内容を記入して受け渡しするだけなら良いが、伝送したりファイルサーバを使って共同作業を行うようになると、素材のインデックスや途中の作業がどのように誰が行ったのか混乱することになりかねない。ましてや様々なコーデックやビデオ形式が出てくると拡張子だけではフォーマットを判断することができない。そこで登場してきたのがMXFである。

MXFは簡単にいうと、ビデオやオーディオのファイルを入れる入れ物とそれに貼るラベルとその表記を統一しましょうということである。ちょうどスーパーなどで売られている食材をラッピングしているトレーやそれに貼られているラベルのようなものである。そこには産地や生産者、重さ、添加物といった一見しただけではわからない情報がそこに表示されている。中身は、キャベツでも白菜でもラッピングできるものであればなんでもいいわけで、MXFも中身のコーデックはMPEG2のこともあればH.264ということもある。

さらに1920だったり60iだったりフォーマットも色々あるし、ビットレートも25Mbpsや50Mbpsであったりする。これが原因でMXFの互換性という面で誤解されることもあるようだが、事情はAVIやQTでも同じようなものである。ただ、AVIやQTは対応できるコーデックをバージョンである程度わかるようになっているところが違いだろうか。

ビデオ業界で扱う映像は、モノクロからカラー、アナログVTRからデジタルVTRといった時代の流れと共に進化してきた。ファイルベースになってもこうした過去の遺産を引き継ぎながらMPEGなどの圧縮技術を取り入れ、映画業界やIT系といった異業界との親和性も包含している。

古くから映画をテレビ放送していたが、2-3プルダウンやテレシネなどフィルムからビデオに変換する上での問題点があった。また、テレビ番組をインターネット上で公開したり、DVDやブルーレイといったパッケージメディアにして販売するなど日常的に行われている。コーデックの多様化は、こうしたクロスメディア化するなかで生まれたものだが、ワークフローを充分に吟味しないと画質劣化を招いたり、制作におけるフローが非効率化してしまう諸刃の剣でもある。


Vol.00[ファイルベース新時代]Vol.02