カラーマネジメントで決まる映像の世界

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映像作品の世界観は、カラーマネジメントで決まると言っても過言ではない。これまで高価だったカラーコレクションツールも、アップル社のColorやブラックマジックデザイン社のDaVinci Resolve(ダビンチ・リゾルブ)など、安価ながらも高品位なカラーコレクションが出来るツールが登場してきたことで、日本でもカラーコレクション、カラーマネジメントに関する意識がここに来て大きく変わってきたのは事実だ。

今年のCINE GEAR EXPOの開催に併せて施設見学に訪れたEFILM社は、ハリウッドでも有数のD.I.ポストプロダクションだ。特にフィルムレコーディングとカラーコレクションに関しては、ほとんどのメジャー作品がこのプロダクションを通じてカラーコレクション作業を行っているといっても過言ではない。これまでフィルムの世界ではカラータイミングと言われて来たフィルム上の色合わせのプロセスを、デジタルワークフローで一気通貫するDI(デジタルインターミディエイト)の草分け的な存在である。現在、EFILMでは17のカラーコレクションスタジオを有しているが、最近流行なのは、メジャースタジオ内に設置されたカラーコレクション・コンソールとEFILM内のサーバーを光ファイバーの専用回線をつなぎ、遠隔操作でカラーコレクションする方法なども導入されている。もちろん3D作品もハイルッドでは最も手がけているプロダクションでもある。

EFILM

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今回EFILM社では、ヴィンス・ヴォーンとジェニファー・アニストン主演のロマンチック・コメディー映画「The Break-Up(邦題:ハニーVS.ダーリン 2年目の駆け引き)」の、本物のハリウッド映画作品の素材をモチーフに、2Kプロジェクターを備えるカラーコレクション用のシアタールームで、詳細なカラーコレクション作業がどうやって行われているのかのプロセスをデモンストレーションして頂いた。

通常はデジタルマスター化されたデータを、Autodesk LustreをベースにしたEFILM社独自のカラーコレクションシステムを介して、フィルム、デジタルシネマ、HD、Webコンテンツなどの各出力フォーマットへ合わせた色空間に変換して出力される。

デモ素材の撮影時は天候不順で空や海の色が冴えない悪条件が重なったが、それも見事にカラーコレクションされていた。各部分を多数のレイヤーに分割しそれぞれの色を調整できるが、リアルタイムで最大49のレイヤーを同時にカラーコレクションでき、それでも足りなければ、それらをレンダリングして更なるレイヤーを追加してカラー調整することも可能だ。ほとんど作品では、フィルム素材を6Kサイズでフィルムスキャン(合成処理のため)し、そこからダウンコンバートして4K素材を作り出すが、カラーコレクションの場合、フィルムに反映されるカラー情報は2K仕上げでも4K仕上げでもさほど変わらない事から、予算面も考慮して処理には2Kでフィニッシュされている作品がほとんどだという。合成部分ではVFXチームと話し合い、色が大きく絡む合成部分に関してはカラーコレクションで合成する部分もあるという。また男優の筋肉等の陰影をCG合成で加えて行くなどの作業も、プロダクションからの要求があればカラーコレクションの一つとして処理するという。

デジタルカメラ素材とフィルム素材での違いについては、やはりフィルムの方がいいという意見も多いが、ARRI ALEXAはARRI RAWでの素材であればカラーレンジが広い分フィルムに近いのでカラーコレクションしやすいという。その他PANAVISION GENESISやソニーF35、RED ONEの素材も多くなっているが、DSLRムービーの素材やGoProの素材もクイック素材(短い尺の素材)として持ち込まれるケースは少なくないという。もちろん上位機種のようなカラー情報は持っていないので充分なD.I.作業は施せないが…。

カラーはツールで決まるわけでない

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日本のカラーコレクション/グレーディングを語るとき、良く話題に上がるのは、どんなツールを使っているか?という点だ。Lustreなのか、DaVinciなのか、Baselightなのか、Colorなのか?

しかし、海外のカラリストは皆その質問に異論を呈する。どんなカラーコレクションツールを使っているのか?という問いに「どうしてそんなことを聞くのか?」というように、多くのカラリストはその質問の内容を理解していないようだ。つまりカラリストにとって、カラーコレクションのアプリケーションは、ツールのオペレーションに必要な単なる道具であり、そのポストプロダクションにあるものを使えばそれでよい。要はカラーをどうコントロールできるかが一番重要で、その知識を持っているのがカラリストなのである。ゆえにハリウッドのカラリストには、映像畑以外からやって来た意外な経歴の持ち主も多く、ペンキ職人、ガーデニアプランナー、ディスプレーデザイナーなど様々な前職歴を持った色のスペシャリストがいるという。

カラリストとして重要な事、それはまず、シェフがその店の味を決める料理の世界と同じように、カラーもその作品では一人の人が決めるべきだということだ。また最近のソフトウエアでは多くのフィルターが入っているため、自分がいま何のパラメータを操作しているのか、それが何の色に影響を及ぼすのかを把握することが大切だという。

 
Vol.05 [Movie Maker’s GIG in Hollywood] Vol.07