アフォーダブル展開する映像クリエイティブの現状とその周辺

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“DIGITAL”のドアは、自らの手で開けないと開かない…

本特集では、主に小型軽量、そして低価格化した映画制作機材を中心に、以前にも増して全レンジに向けて、アフォーダブルに展開されている映像クリエイティブの現状とその周辺を観て来た。

その中でデジタルシネマでは、今年後半に出てくる予定のソニーF65、そして今後出てくるであろう新たなデジタルムービーカメラのトレンドは、間違いなくRAWデータ収録に向かっている。これからは来るべきRAW時代に向けて、準備を始めるべきかもしれない。その際にやるべき事は2つ。1つは高画質への追求の道。非圧縮RAWデータをどう使いこなすのかというハイエンドな世界の話。もう1つ重要なのは圧縮映像をどう使いこなすか?ということ。デジタル=圧縮技術であることは周知の通りだが、これからの映像プロフェッショナルは、より幅広いレンジに対応しつつも、バジェット(予算)とのバランスを何かで取る必要がある。それがすなわち”圧縮”技術との戦いでもあると言える。多くのコンテンツや処理の過程では、非圧縮データのクオリティは必要ない。その場その場でニーズにあった圧縮技術を理解しつつ、選別をしながら使いこなす術が求められるだろう。

この点はおそらく、かつてスチルの世界がそうであったように、ムービーの世界も同じ道を歩む事になりそうだ。その際に、必要なのはやはり制作者個人、クリエイター個人の知識と、それを使いこなす能力である。機材のアフォーダブルへの進化は、より人間力を求められる時代に突入したことを意味するようだ。

以前、CINEGEAR EXPOのデジタルシネマ・カンファレンスで、ある撮影監督が語った言葉が印象的だった。

テクノロジー云々が常にこうした席のテーブルに上がるが、撮影監督にとって大切なのはテクノロジーではなくストーリーだ。我々はストーリーを語る為に、ライティングして、フレーミングを決めて、ビジュアルをデザインしている

まさにこの言葉の通り、デジタル・テクノロジーがいくら発展してもフィルムメーカーは、”映画”を作る所から始まり、映像クリエイターは”映像”を作る所から始まる。『使いやすい優れたデジタルワークフローの確立』=『思考停止状態でも誰にでもモノを作れる仕組み』であってはならない。これでは機能が向上した、とは言えないのだ。

インディペンデントの中に潜む本質的な力

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イベントの主要構成メンバーが日の丸を囲んで記念撮影

ハリウッドと言えばメジャー作品ばかりが思い浮かぶが、その実、膨大な量のインディペンデント映画の産地でもある。もしそこに”インディペンデント力”という言葉があるならば、『映像を生み出す人間力』の回答となる本質がそこにあると考える。さらに今、その力は、東日本大震災という困難をも救う手立てともなっている現実を見た。

6月5日、LAの北に位置するバーバンク近くのライブハウスを貸し切って行われた、とある映画上映イベントに参加した。実はこのイベント、この日に上映された作品に登場する日本人の主人公の、仙台市にある実家が震災で倒壊、その家の建築費用カンパのための、東日本大震災のチャリティ・イベントだった。

こうしたチャリティイベントは3.11以降、LAでは規模の大小に関係なく様々な形で日々開催されており、この日もLA在住の日系人や、親しい地元の映画仲間が7~80人が集まって開かれた。上映された作品はもちろんインディペンデント作品で、DVカメラで制作された低予算作品だ。しかしアクション映画として見所もあり、主軸のストーリーがちゃんと存在し、映像も独自のトーンを持ち、見応えもある映画作品だった。

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TONY LAUDATI氏(右)とチャリティイベントの主催メンバー

このイベントの発起人でもあり、上映された映画にも関係している、女性だけのカンフーパフォーマンス集団「KUNG FU FEMMES LLC」のプロデューサー/ディレクターで、自ら映像制作も手がけているTONY LAUDATI氏と話をした。その中で印象的だったのは、東日本大震災被災者への大いなる気遣いとともに、自分達の作り出す映像をあらゆる方向で今後も活用して出来る限り援助して行きたい、と語ったこと。さらに新たなコミュニケーションの方法として、今は”Webisode“とFacebookなどのソーシャルメディアを連動活用することで、お金が無くても映像を作り、短いストーリーの中で意味のあるメッセージを多数の人に届けられる手段がある、と語っていた。それこそがアフォーダブル時代の映像のあり方だと確信した。

最後にTONY氏から『震災被災者と、この震災でショックを受けている日本の映像制作者達へのメッセージ』を紹介したい。

「大きな不幸に見舞われたが、どうかこれからも映像を創ることに躊躇しないで欲しい。皆さんは一人ではないので、僕らがいつも傍らにいる事を忘れないで欲しい。いつまでも心が折れないように祈っています」

Webisode=テレビ番組の放送前に短いエピソードをインターネットで閲覧、もしくはダウンロードできるコンテンツを指す最近出来た造語。元来は予告編を指す言葉として用いられていたが、現在では本編とは別の、Web上にある独立した別コンテンツを指すことが多いという。

 
Vol.07 [Movie Maker’s GIG in Hollywood] Vol.00