3D映像を撮影する際の根本的な考え方

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3D映像制作ワークフローセミナー 中級編 /講師:マリモレコーズ 江夏由洋氏

7月19日に開催された「3D映像制作ワークフローセミナー 中級編」では、PRONEWSでもお馴染みのマリモレコーズの江夏由洋氏を講師に迎えて、3D制作の基礎となる撮影方法について、3D映像を撮影する際の根本的な考え方と、その論理解説が行われた。ここでもソニーの『HXR-NX3D1J』が、3D撮影の基本的な考え方と3D撮影上の注意点を判りやすく認知できる機材として使用された。

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ソニーHXR-NX3D1J

セミナーの中でも江夏氏が最も強調していたのは、”ステレオベースとコンバージェンスの交差するポイントを常に意識する”ということだ。2つのレンズ間の距離であるステレオベースと、レンズの光軸が交差するポイント、一番立体視として際立たせたいと思う像の目標点までの距離である”コンバージェンスポイント”までの距離が重要である。2つのレンズからコンバージェンスポイントまでの、各々の光軸が交差するクロスを常に意識する事が重要だ。 ステレオグラファー(3Dカメラマン)は、コンバージェンスポイントを境に前後で画像破綻が起こる限界となる線(=ズレ幅)までの領域を常に認知していることが重要だという。

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重要な事は、ステレオベースとコンバージェンスの交差するポイントを常に意識すること

この2つのラインが交差する図を常に頭の中に描いておくことで、3D撮影の肝である”3D表現可能領域”を感覚的に感知でき、江夏氏曰く「3D撮影において絶対に回避しなくてはならない、3つの破綻」と言われる破綻領域を回避できることになる。この破綻を意識しながら撮影する部分が2Dと3D撮影の大きく異なる部分だ。

回避しなければならない3つの破綻と回避方法

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『3つの破綻』は何か?1つ目は『前方発散』のことで、これはカメラ側の発散領域に被写体が存在する、いわゆる『飛び出しすぎ』と言われるものだ。これは撮影時にズレ幅よりも手前に物体を移し込まない、もしくは置かないことで回避することができる。

2つ目は『後方発散』。目標点より奥の発散領域に被写体が存在する場合のことで『引っ込み過ぎ』の状態。そしてこれは人間に対して吐き気やめまいなどを起させる、いわゆるモーションシックネス(3D酔い)などを引き起こす要因となる最も危険な破綻と言われる。この『後方発散』を回避するには、後方のズレ幅のエンド部分に壁を作ってその奥の画を存在させないことが重要だ。またグリーンバックなどで遮断することも効果的だと言う。

この上記2つは、3D撮影を経験した人ならばある程度誰でも気がつく破綻であるが、3D編集の段階を経験しないと判らない破綻が3つ目の『額縁効果』である。これはカメラをパンした時等に起こりやすい『片側収録』と呼ばれるもので、左右どちらかの画像の画面端にだけ収録されてしまう3Dゴーストのこと。これの回避には、まずパンなどの映像の場合は被写体を必ずコンバージェンスポイント上に置く事がルールであり、さらにその際には左右のはみ出しを必ずチェックすることが必要になってくる。江夏氏は、その経験値から撮影時には左右約15ピクセル程度を必ずチェックするという。しかしこの15ピクセルというはある程度、編集で画面の『額縁効果』破綻を見知した経験がなければなかなか把握するのは難しいかもしれない。

このように3D撮影では、2D撮影時とは違って、ズーム、フォーカス、アイリスに加えてコンバージェンスを撮影感覚として習得する必要がある。これは撮影回数もしくは制作回数による経験値からでないと感覚的にはなかなか把握しづらい部分であり、手軽に3D撮影カメラが入手できる環境がなければ習得出来なかったものだ。昨年発売されたパナソニックの『AG-3DA1』はステレオベースが約60mm、これに対し『HXR-NX3D1J』はステレオベースが31mmとなるので、コンバージェンスとのクロスポイントまでの距離を稼げるため破綻領域が少なくなり『3D表現可能領域』は単純に広く取ることができる。3D制作初心者には破綻を回避しやすい構造になっているため、3D撮影の訓練用としてもこうしたハンディ型3Dカメラの存在意義は大きいと言える。


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