txt:石川幸宏

「色」の事、気にしている?

自然の風景も街の装飾も人々の服装も、海外に比べて目に入ってくる景色のコントラストが低い日本では、これまで映像の色に関する意識が低かったように思う。しかし、このところカラーグレーディング、カラーコレクションといった、『色』を意識する言葉が様々なところで使われるようになってきたことで、映像における色の意識もこれまでとは大きく変わって来たようだ。

現在の映像コンテンツのほとんどを占めるビデオの世界、つまりフィルムにプリントされる劇場公開映画以外の全ての映像では、数年前までカラーコレクション、カラーグレーディングという概念すら存在しなかった。ところがノンリニアシステムの普及に始まり、アップル”Color”の登場、そして昨年はブラックマジックデザイン(BMD)の”DaVicni Resolve”など、カラーコントロールできる安価なシステムが出てきたことで、映像の色調整がようやく注目されるようになってきた。海外視点からすれば、外国作品に比べて日本の作品では、この”色”と”音”に対する感覚がどうにも見劣りする部分のようで、世界レベルに届かなかったケースも多いかもしれない。日本の色彩をもっと忠実に再現、もしくは魅力的に演出するには、やはりもっと色調整の本質を理解することが重要だ。

©2011 TAKAMINE製作委員会     カラーグレーディング前の画像

©2011 TAKAMINE製作委員会 カラーグレーディング前の画像

これに関して見習うべきは紙の世界=印刷業界である。そこでは昔から色について最も深く研究されてきた。しかも『カラーマネジメント』などいま映像の世界で一番重要とされる知識も深く研究され、町工場の社長クラスなら皆一遍通りの知識は持っている世界だった。惜しまれるのはその知識が印刷産業の崩壊によってすでに数多く消え去っているところだが、このノウハウこそが今後映像の世界も最も重要となってくるはずである。まずは最新のカラーグレーディングシステムのオペレーション(操作法や機能)を習得するのも重要だが、色はそれを操る人の知識と感性が最も反映される分野。オペレーションを習得したことは単にスタートラインに立った事にしかならないことを認識にすべきだ。今夏からBMD社の『DaVinci Resolve Lite』が無償提供された意味は、そんなことを暗に示しているように思われる。

©2011 TAKAMINE製作委員会     カラーグレーディング後の画像

©2011 TAKAMINE製作委員会 カラーグレーディング後の画像

カラーグレーディングとカラーコレクション

カラーグレーディングとカラーコレクションという言葉の存在にも注目したい。現場の人がどう解釈するかは自由だし、異論反論もあるかも知れないが、筆者のこれまでの取材による個人的感覚から言えば、単にビデオ素材の色を調整するのは『カラーコレクション』であり、出来上がった色をさらに出力デバイス別に調整して追い込んで行く作業が、基本的には『カラーグレーディング』なのではないか?と考える。

©2011 TAKAMINE製作委員会     カラーグレーディング前の画像

©2011 TAKAMINE製作委員会 カラーグレーディング前の画像

こうなってくると重要なのは『カラーマネジメント』という考え方だ。紙の世界では印刷/プリンター別の出力の際に何を基準に色を決めるかが常に問われて来た。その際に色を基準化する「カラーマネジメント」技術が深く研究されてきた。映像の場合、特に機種/個体差の大きい現行液晶ディスプレイ/映像モニター、もしくはプロジェクターで正確な色見を判断するのは難しい。また多くのプロダクションではこれまで、マスターモニターの正確なキャリブレーションがなされていなかったのも事実だ。厳密に言えば同じ場所に1ヶ月放置しておいただけでモニターの色は微妙に変化するという。さらにカラーコレクション/グレーディングを行う部屋の照明環境も様々で、酷い場合は自然光が入るような環境で行われていることも多々ある。非常に初歩的な話だが、こんな条件下では時間によって室内の光が変化するため、到底正確な色など識別・計測出来ない。ここで詳細まで語り尽くせないが、少なくともこのあたりは映像プロダクションも今後はデザイン事務所などを見習うべきである。

©2011 TAKAMINE製作委員会     カラーグレーディング後の画像

©2011 TAKAMINE製作委員会 カラーグレーディング後の画像

様々な作品から色のインスピレーションを受けることは色に対する感性を鍛えるという点では大切だ。絵画を観ること、映画を観ることは欠かせないが、いずれにせよ”色”をコントロールする上で大事なのは、数値や物理的環境であって、単に見た目の感覚だけではないということ。そして機材のオペレーション以上に、やる事は多いという現実は再確認すべきだろう。

石川幸宏

映像専門雑誌DVJ編集長を経て、2009年4月よりリアルイベントを中心とした「DVJ BUZZ TV」編成局長として活躍中。


Vol.04 [PRONEWS課題図書] Vol.06