動画機能搭載デジタル一眼

動画撮影に対応したデジタル一眼レフカメラをいち早く開発し世に出したニコンが、満を持してフラッグシップカメラD4に動画機能を搭載して登場した。キヤノンはEOS-1Dxやデジタルシネマに対応したCINEMA EOS SYSTEMで迎え撃つ。一方シグマは、RGB3層構造のX3ダイレクトイメージセンサーを搭載したSD1をプライスダウンしたSIGMA SD1 Merrillを出展していた。ミラー機構を採用したデジタル一眼の新製品は年々少なくなるようで、徐々にミラーレスタイプの一眼にその座を譲っていくような印象だ。その分、各社ともフラッグシップカメラや特徴的なカメラに仕上げているようだ。特に動画機能搭載デジタル一眼は今回のトレンドともいえ、ニコンとキヤノンを中心にデジタル一眼の動画撮影機能にスポットを当ててみよう。

ニコン

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デジタル一眼レフカメラはスチールを撮影するという基本に忠実なニコンブース

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D4、D800のハンズオンコーナーは長蛇の列。最後尾1時間というプラカードを持つスタッフの後ろにも列ができている

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マグネシウム合金によるボディを採用

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35mmフルサイズのイメージセンサーユニット

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動画を全面にアピールしてはいないが、シャッターボタンの隣には動画撮影のRECボタンがある

世界初のデジタル一眼動画撮影対応カメラとしてニコンD90が発売されたのは2008年だが、センサーサイズや動画記録のフォーマットなどからその後発売になったキヤノンのEOSにお株を奪われた感があった。今回フラッグシップカメラであるD4と中級機にあたるD800に動画撮影機能が搭載され発表された。センサーサイズはフルサイズの35mmで動画記録のフォーマットもD90のMotion-JPEGからH.264/MPEG-4 AVC方式になっている。ちょっと面白いのはフルサイズのセンサーをほぼフルに使ったFXベースの動画フォーマットのほか、DXベースの動画フォーマットや1920×1080のHDにも対応していることだ(D800はFXとDXのみ)。これにより、レンズのイメージサークルに応じた選択が可能で手持ちのレンズ資産を生かすことができるようになっている。

ニコンは1959年に発売したニコンFから一貫してFマウントを採用しており、一部機能的な制約があるもののニコンF当時のレンズから現在のレンズまで、Fマウントを採用しているカメラに装着することができる。ただ、デジタルカメラになってからセンサーサイズの小さいDXレンズがシリーズに加わった。DXレンズはセンサーサイズがAPS-C規格相当なので、イメージサークルが小さい。フルサイズのFXフォーマットのカメラにDXのレンズを装着すると撮影できても周辺部が蹴られてしまう。デジタル一眼では、D3やD700がFXフォーマットセンサーを搭載しているが、こうした蹴られが出ないようにセンサーの撮像範囲をDXに切り替えられるようになっている。D4やD800も当然こうした機能を搭載している。ニコンは可能な限り過去の資産を活用できるように互換性を重視しているといえ、その開発思想が現在でも続いている。

キヤノン

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中央にCINEMA EOS SYSTEM、左右にはプリンターやミラーレス一眼という配置のキヤノンブース

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CINEMA EOS SYSTEMのコーナーにはEFレンズのラインナップや放送用の箱型レンズなども出展

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セミナーコーナーにもC300がデジタルシネマスタイルで展示されていた

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CINEMA EOS SYSTEMとしてアナウンスされている4k動画記録に対応したデジタル一眼レフ

一方キヤノンはオートフォーカスに対応するべく、1987年のEOS発売時に過去のFDマウントからEFマウントに変更し、絞りやフォーカスなどボディとレンズ間のやり取りをすべて電子化した。その後ニコン同様イメージサークルの小さなセンサーを搭載したカメラ用にEF-Sレンズをシリーズに加えている。EOS D1xはフルサイズのセンサーを採用したEF専用で、EOS 7DはEFもFE-Sのレンズも使用できる。ただし、EOS 7DはセンサーがAPS-CサイズなのでFEレンズの場合は画角が表記焦点距離の約1.6倍になる。キヤノンはEOS 5 QDで世界初の視線入力オートフォーカス機構を搭載するなど新たなテクノロジーを積極的に採用しているといえるだろう。

30年ほど前(1980年初頭)になるがカメラメーカーもビデオカメラを発売していた時期があった。まだ他社がVHSやβマックスの大きなデッキを採用していた時代である。キヤノンはカメラメーカーで唯一1/4インチテープを使ったCVC方式を採用し非常にコンパクトなビデオVC-100を1981年に発売している。1984年4月に8ミリビデオの規格が8ミリビデオ懇談会により決定された翌年にVM-E1を発売するが、他社がVTR部分のアッセンブリをOEM供給を受ける中キヤノンは独自開発している。その後DV規格になってVTR部分の技術が生かされたXL1の発売で、業務用の分野でもキヤノンのビデオカメラが注目されるようになる。

ニコン×キヤノン

ニコンもビデオカメラ用のレンズやビデオカメラを手がけていた時期もあるのだが、現在はカメラや顕微鏡など光学機材を中心に事業展開を行っている。キヤノンはカメラだけでなくビデオや事務機など(事業売上としては事務機が一番大きい)も扱っており、新たなテクノロジーの追求も積極的である。CP+の出展でもキヤノンはブース中央でCINEMA EOS SYSTEM展開、ニコンもD4とD800を中心に展示していたが、動画撮影機能に関してはあまり表に出しておらず、あくまでも静止画撮影用のカメラとしてのアピールであった。

デジタル一眼としては両者はほぼ市場を二分しているメーカーである。ビデオやデジタルシネマ系では、現状ではキヤノンということになるだろう。キヤノンのC300PLもニコンのD4とD800もまだ発売前の製品だ。動画の業界でどれだけ受け入れられるのか、すでにソニーのPMW-F3KやパナソニックのAG-AF105が大判センサーを採用したカメラを発売していることから、ビデオやデジタルシネマにどこまで食いこめるか、単純にスペックや会社の姿勢などでは語れない部分が多い。製品が市場に出そろう4月のNABあたりが本当の勝負どころと言えそうだ。

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キヤノンEOS-1D x。秒12コマ、感度は最大ISO204800、フルサイズのセンサーを搭載しており、動画はフレーム間圧縮を行なわない記録モード(ALL-I)が加わったEOSシリーズのフラッグシップモデル。3月下旬発売予定。

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ニコンD4。3つの撮像範囲が選択できるマルチエリアモードフルHD Dムービーを搭載しており、イメージサークルの異なるレンズに対応。記録フォーマットはH.264/MPEG-4 AVCで最長約30分の記録が可能。HDMI出力からは情報表示などはスーパーされないフルフレーム出力が可能。発売は当初2月だったが3月15日になっている。

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ニコンD800/800E。偽解像や偽色を防ぐため通常センサーの前には光学ローパスフィルターがあるが、少なからず解像度に影響がある。D800は一般的な特性のフィルターを採用。D800Eは性能の良いフィルターを採用しており、価格も5万ほど高い。発売はD800が3月22日、800Eは4月12日。

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シグマSD1。一般的なベイヤー配列とは異なるRGB3層構造のセンサーFoveon X3を搭載しており、単板だが原理的には3板式のビデオと同じ性能を実現している。SD1は当初70万ほどしたが、同じ外観と仕様でSD1 Merrillを出展。価格が約20万と大幅にコストダウンされた。Foveonは同社が2008年に買収したものだが、コストダウンという形で効果が現れたようだ。性能向上により動画撮影の可能性も秘めている。2月下旬にSD1に対して差益還元など具体的な発表が行われる。


Vol.05 [CP+2012] Vol.07