キヤノンからCinema EOS C300が販売開始されたのは、今年の1月末のこと。それから1ヶ月以上が過ぎレンタルも開始され始めている。すでに実際に使ってみた方も多いだろう。キヤノンといえば、最近は5D Mark IIIも発表され、巷ではDSLRの話題も多い。ここでまず注目したいのはCanon Logが搭載されているのは、3月20日現在でC300だけという事だ。

キヤノンが投入する新しいジャンルのカメラシリーズ「CINEMA EOS」の最初のカメラとして、2011年11月にハリウッドで発表されたのがCinema EOS C300だ。このC300のみに搭載されているのがCanon Logだ。2月のCP+では、会場近くのブリリアシアターでデジタルワークショップも開催され、筆者もゲストで出演した。

IMG_1395_s.jpg

ここでの内容は反響も大きかったようだ。また、会場では「Canon Logガイドブック」も会場で配布されていたので、手にした方もいるだろう。

canon_log_book_s.jpg

このワークショップで話し足りなかった事などをいつか書いてみたいという思いもあり、また、その後C300を仕事で使ってみて、C300とCanon Logについて誤解の無いように知って欲しいというちょっとした使命感のようなものもあり、今回のこの記事の執筆を引き受けた。それでは改めてCanon Logについて、そして使い方、メリット、デメリットなどまとめてみたい。

Cinema EOS C300の作例1

前置きが長くなったので、C300で撮影した映像から切り出した写真を一枚。

karmann.jpg

どうだろう? カラーグレーディングはプライマリーのみ。セカンダリーは使っていない。ナンバープレートだけ迷惑がかからないように消してみた。

映像としてもここで観ていただきたいところだが、Web環境ではコーデックや圧縮率などの問題もあり、どの程度再現することが出来るか自信が無いので止めておく。Canonの公式サイトでもC300の作例は観れるはずなので、そちらに期待して、ここでは写真のみにする。

先述のデジタルワークショップで、最も言いたい事ととしてDaVinci Resolveでの波形の動きを説明した。今回の記事でも一番書きたい事は、やはりこれだ。百聞は一見にしかず。DaVinci Resolveの画面収録を観ていただきたい。

Canon Logで撮影した素材に、ビューアシスト相当のLUTをあてた状態で始めている。そのほかは全くいじっていない。

全体にハイキーな映像のハイを抑えてくると、出てくる、出てくる。これはいい。

今までのビデオカメラ、デジタルカメラでは思ったより早くとんでしまい、「アレ、こんなものか? 参ったな…」というシチュエーションが多かった。もちろん、民生機からハイエンドまでカメラは多々あるので、一概に全部そうだった訳ではないが、その傾向は強かった。このC300のCanon Logでは、少なくともこの写真のようなクオリティは出せるという事だ。

チャート(ノーマル、1/16、16倍の3枚紹介)

C300は、どれくらいのラティチュードがあるのだろうか? 画的につまらないのであまり気が乗らないが、チャートを掲載してみよう。チャートについてはサラッと進めるが、1/32から32倍まで1ストップおきにテストした中から3枚掲載した。いずれもLUTは当てていない。見慣れていない人のために、反射の値を示してある。

chart_00_s.jpg chart_+4_s.jpg chart_-16_s.jpg

これはISO感度800で撮影している。Canon Logでハイの階調を重視した場合、ISO 850が基本のベース感度となるが、今回はISO 800でテストした。正直なところ、まさかISO 850という設定があるとは考えていなかったためだが…。光源はAAAの蛍光灯だ。チャートのテストに関しては、やはり自分でやってみるしか納得のいく答えは出ない。このチャートは、jpgでサイズも小さくなっているため、実際より分かりづらくなっている

はっきり言って驚異だ。上は32倍弱、下はなんと1/128前後まで差が確認出来た。上5stops弱、下7stopsだ! Canonの公式発表の感度/ダイナミックレンジの表では、

   ISO 640 上 4.9 stops 下 7.1 stops
   ISO 800 上 5.2 stops 下 6.8 stops
   ISO 850 上 5.3 stops 下 6.7 stops

となっているから、今回の例はISO 640の場合にぴたりとハマる。

編集部註:stopsとは絞り係数にあたり、1stopの差は絞りを1段分動かすことになるので、露光量が2倍または1/2倍となる。

実は、1/3 stop程度の誤差はメーターや光源によってあり得る事で、それほど気にする必要はない。すごいのは上下あわせて12stopsあるということだ。これでCanonが発表しているダイナミックレンジが本当であると確認できる。

C300は色の飛び方や沈み方が素直である。これは、Logの効果もあるが、センサーそのものの素性がいいのだろう。C300を手にして最初に行ったこのテストで、すっかりC300が気に入ってしまった。

Cinema EOS C300の作例2

さて、このダイナミックレンジを生かして撮影した例をいくつか挙げておこう。

sun.jpg

太陽入れこみの画は、撮影した事があれば難しさがわかるはず。

fire.jpg

何気ない画像だが、実はハイコントラスト。

night.jpg

高感度もC300のウリの1つ。

今まで使用してきたカメラでこのような画が撮れるなら驚く事はないはずだが、どうだろう?

実践での注意点

ここで、C300でCanon Logを使用する際の注意点を2つ挙げておく。

・低感度ではハイ側のレンジが狭くなりロー側が増える。

Canon Logの説明にも何度も出てくるので当たり前の様に思えるが、実際にISO 320の設定にしてハイキーな画を狙ってみるとウェーブフォームの途中でクリップするのが分かる。これは知らずに使うと、まだ上に余裕があると思っていたが実際はクリップして情報が無いという事態に陥りかねない。感度設定を変えてもウェーブフォームの表示を変化させていないためにこうなると思われるが、低感度で使う時は要注意だ。

・暗部についても同じ事が言える。ウェーブフォームの表示欄の一番下までいって黒という訳ではない。

撮影時のキモとも言えるウェーブフォーム。感度設定に注意して使用したい。

現場でのモニタリングとポストプロでの時間

Canon Logで撮影時に液晶モニターやEVFではアンダーに見える。感覚的には2倍くらい暗いという印象。ここで適正に見える様に絞りを開けてしまうと、実際には2倍近く明るく撮影している事になる。適正露出をどうやって見るか? 仕上がりの状態をどう確認するか?というのが一番の課題だ。

ビューアシストという機能を基準に使うという手がある。この方法が一番スタンダードかもしれない。設定はCanon Logで、液晶モニター上ではビューアシストでLUTをあてた状態で見ていれば、Logのローコントラストさ、アンダーさに起因する露出ミスは避けられるだろう。

残念なのはHD-SDIアウトにLUTをあてられない事だ。現場のモニター上でもLUTをあてた状態で確認したい場合、別な機材が必要になる。この点については、今後改善できたらして欲しい。もしくは次期種ではぜひ搭載してほしい機能だ。

撮影後は、XF Utility(Canon純正ソフトウェア)にLUTボタンがあるので、ワンプッシュでLUT有り、無しを切り替えられる。これはシンプルでいい。ロケ先のホテルでルックを確認したい時など、簡易的にあてて確認するには使いやすいだろう。

筆者も2月上旬に地方ロケに行ったのだが、このXF UtilityとLUTボタンでラッシュを見て仕上がりのイメージを確認した。

デメリット

Canon Logを使う事でカラーグレーディングの幅が広がり、求めるルックに近づいていけることは大きな利点であるが、デメリットもないわけではない。

1つは、仕上げに時間が必要という事だ。仕上げに時間がかけられない状況、編集してカラーグレーディングするというワークフローが成立しない場合には、Logで撮影するより現場で最終的なルックになるようにしなければならないだろう。C300ではそういう目的用にカスタムするガンマや色調整もあるので、それを利用した方がいい場合もあるかもしれない。

もう1つは、素材の尺が長くなる時だ。前述した仕上げの時間にも関係してくる。素材が多く完パケの尺が長い場合、Logからのカラーグレーディングは大きな負担になってしまう。

作品に求められるクオリティ、そしてポスプロにかけられる時間。そのバランスの中でCanon Logを使用出来るか判断していく必要がある。

最後に

C300というカメラは8bitのCanon Logを搭載した事で、今までハイエンドのカメラのみで使えていたLog撮影を一般的に可能にした。10bit Logに比べるともの足りない面も無いわけではないが、かなりのコストパフォーマンスである。このC300とCanon Logの組み合わせで、日本で作られる映像の平均点は格段に上がるだろう。

誰もが手を出せるような額でレンタルも出来る。EFマウントでマニュアルフォーカスのレンズも今後出てくる。

そういう環境の中で、我々プロの撮影という職業の人間は戦って行かなければならない。もちろん、カメラの性能以外にもライティング、アングル、レンズの選択、カラーグレーディングなど映像作りには様々な取捨選択があり、人としての感性と腕が重要なのは変わりがない。が、振り返ればそれは多くの芸術的分野であたりまえの事である。

映像という世界も成熟期を迎えたとしみじみ思う次第である。ほんの数年前まではSDが主流だったのだから──。

txt:倉田 良太 構成:編集部


Vol.01[RAW side LOG side] Vol.03