オタク社長の私も、オタク趣味で遊ぶだけで飯が食えるわけでは無い。私の会社であるアイラ・ラボラトリの本業は、小規模ながらも現場部隊を持つ映像制作会社だ。得意ジャンルはCGを中心にしたアニメ制作と映像合成であり、特に合成業務ではLog方式の映像の扱いにも、当然慣れている。ガンマに対数を使ったLog方式収録素材では、CG合成やバレ消しの際に相性が良いという特徴がある。今回は、女優、吉澤直美さんにご協力を願い、Canon C300を使ってLog時代の合成とバレ消しを実際の手順を追いながら紹介していく。

古代技術、滅び去ったLogの15年ぶりの復権?

「Log」は、CG映像屋には実は大変馴染みが深いものだ。CG実写合成のデファクトスタンダードファイル形式の1つであるKodakのCineon形式がLogの元祖であり、現役形式でもあるからだ。

当時最新鋭の編集機であったCineonは、1994年の貧弱な機械環境でもなんとかしてハイダイナミックレンジ(HDR)を実現しようとしてLogガンマを採用した。それほど古い形式のため、大半の市販CGソフトにもCineon形式でのレンダリングがディフォルトで入っている。Cineonの灰色かかった映像への合成処理は、CG業務に携わったものなら誰でも一度は経験があるだろう。Cineon形式は、1994年に制定された元祖CG合成ファイル形式の1つだから、10年以上映画系の仕事をしていれば使った事の無い人を探す方が難しいはず。要するにLogとは、Cineon形式の話とその応用だ。

Kodakは、Cineonのソフトウェアの販売自体を1997年に終了してしまっている。1997年と言えば、私がまだ24歳。将来に夢を馳せる大学を出たばかりの若造で、あちこちの制作会社やゲーム会社に愛想を売ってバイトをしながら、デジハリに通ってSoftimage 3Dを勉強し、当時個人で買える最高位のソフトだったCaligari TrueSpaceを使って仲間と一緒に映像を作り続けて雑誌投稿やコンテスト出品を繰り返していた。セミプロというのも恥ずかしい頃の話だ。今では創立13年、日本のCG業界でもかなり古い会社となったアイラ・ラボラトリだが、Logは、当社もまだこの世に存在しない時代に無くなったソフトウェア用の技術として誕生したという、古い技術だ。

2カ月ほど前、ソーシャルコミュニティでLogの話題を出したところ、CG系の知人から、お前は伝記物の本でも書くつもりなのかと爆笑された。CG屋にとっては古代技術のような、あるいは化石のような古い技術が今更注目されるあたりに、実写技術とCG映像の技術ギャップと面白さを感じる。ちなみに、CGの世界で現在標準的なHDRと言えば、ILMが開発してオープン規格化した「OpenEXR」。これはこれで大変便利な形式なので、いつか機会があれば紹介したい。

さて、Logの有利な点は、実はこの「古代技術」であるという点にある。急速なフルHD化によって、機材が性能的に限界に達している2012年の現状で、さらにHDRの負荷を掛けるのはワークフローとしては大変な冒険だ。しかし、ユーザーの視聴環境は急速に改善しており、HDR抜きには十分な映像を提供する事が難しい場面も出てきた。

前述のOpenEXRのように、24bit以上の色深度を持つネイティブHDRを、業界では「High Dynamic Range Image files(HDRI)」と呼んで、Logのような擬似的なHDRとは明確に分けているが、これは何も格好つけでは無い。24bit以上の色深度を扱うには、モニタからコンピュータから収録機、編集機などの全てに、それなりの設備と予算が必要だという実情があるためだ。例えば、REDカメラなどのRAW形式はHDRIとしての性質も持つが、これはデータ量も膨大で、現像と呼ばれる可視化を行うための一次レンダリングだけでも高速なコンピュータと十分な予算組みを必要とする。

しかし、Logは、コンピュータも何もかもが貧相な時代に開発された手法で、ガンマを対数化する事によって通常の24bit(各チャンネル8bit)の画像にそれ以上の色深度を持たせるという、機材負担の軽い簡易な方法である。その代わり、撮影された映像は色味の狂った灰色がかった映像となるが、これにはdeLogといって、単に記録時の対数とは逆の指数を掛け合わせるだけで、ダイナミックレンジを元ファイルに維持したまま通常の色味に戻す事もできる。つまり、扱うファイル自体は扱い慣れたデータ量の軽い24bitファイルであって、後処理も軽く、モニタやその他の環境もHDR向けの特殊なものである必要は無い。そうした古代技術だからこそ、フルHD化で映像環境が切迫した今、改めて注目されているのである。

今年になって注目されている各社のカメラに搭載されたLog方式が、古式ゆかしいCineon形式と1つ違う点が、最近のLog形式の場合、完全な対数式ではなく、ガンマを歪ませるルックアップテーブル(LUT)に対数風に数値を並べた、マトリクス式のルックアップを使った疑似対数によるガンマ圧縮をかけている所だ。そのため、今までのCineonを前提とした指数をかけ算するタイプの本物のdeLogでは対応しきれず、専用のカラーグレーディング環境が有った方が良い事もある。また、Logが再注目されて間もないため、カメラによってはdeLog用のLUTが充分に用意されていない場合もあるようだ。そこにだけ注意をすれば、今まで通りの合成手順で全く問題は無い。

つまり、Logは24bit環境で使うからこそ価値があり、データの軽さと手軽さがウリということになる。PRONEWS読者の仕事で多いと思われる、予算の限られた業務においては大変役立つ技術であると言っていいだろう。その点、今回お借りしたキヤノンCinema EOS C300は、24bit(各チャンネル8bit)映像収録でのCanon Log撮影が主体であり、これは今流行のLogスタイル撮影の大本命と言えるカメラだろう。

Logでの撮影は、色よりも光量!

今回のミニムービー『UFOの春ー飛び梅ー』収録では、キヤノン製の最新鋭カメラCinema EOS C300を借り、これを用いて最新のCanon Logによる撮影を行った。収録は、内蔵CFカードへの収録のほか、HDMIからの出力でAtomos製NINJAをサブモニタ代わりに使いつつ、インテル製SSDに収録した。

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Cinema EOS C300での撮影風景。非常に扱いやすいカメラだ

C300は、100万円中盤という低価格ながらも映画用途を意識したカメラで、Logによる低予算撮影にはまさにうってつけのカメラと言える。今回は実際の撮影状況を想定して徹底した低予算を考え、レンズには、手持ちの中からCanon EF-S 18-135mmの標準レンズを選んだ。全カット屋外昼間撮影なので、多少暗いレンズでも問題が無いという判断だ。C300にEF-Sレンズが使えるのは、嬉しい驚きだ。C300はスーパー35mmで、APS-Cサイズとほぼ同寸のセンサーのため、フルサイズ用レンズでは距離が読みづらいところがある。従来DSLRで動画撮影をしていたワークフローに慣れた現場には、EOS 7DやEOS Kissで使い慣れ、距離も読みやすいEF-Sで撮影できるのは、大きな利点だろう。スタッフは、私の他に2名。最小限の構成での撮影となった。

実はたまたま、弊社で自社プロモーション向けのミニムービーを作ろうとしていたところで今回の記事の話があったため、私の普段のオタク系オッサンだらけの記事とは異なり、ちゃんと女優を起用しての撮影となった。ご協力頂いたのは吉澤直美さん。舞台を中心に活躍する経験豊富な若手女優で、彼女の麻薬被害撲滅キャンペーン映像での、真面目そうな若い女性が次第に廃人と化してゆく迫真の麻薬中毒演技は、覚えている人も多いのでは無いだろうか。今回も、撮影場所の度重なる変更とそれに伴うシナリオ当日現場渡しという無茶振りにもかかわらず、完璧な演技を見せてくれた。

C300の撮影は、シネモードをオンにするだけで、あとは自動でCanon Logでの収録となる、大変楽なものだった。借りたC300は1台だったので、慣れないカメラを借りた当日から現場投入するということもあり、念のためにバックアップカメラとして自社所有のPanasonicのAG-AF105での同録も行った。慣れないカメラだけに苦労もしたが、撮影が半分くらい進んだ段階でバックアップ映像の出番は無さそうな雰囲気で、C300が触った当日からそれなりに使えたという点は驚く他無い。C300はこうした低予算映画の少人数運用でのワークフローを研究し尽くした操作形態になっているのだ。

撮影は2月末に2日間にわたって集中して行い、幸い天候にも恵まれた良い撮影状態となった。翌日には大雪の予報が出て急遽組まれた短縮スケジュールで、2日間で25カット、音声カット込みで全100テイクを取り切ったのは、ひとえに、吉澤直美さんの優れた演技力と、C300の扱いやすさのお陰である。

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C300を借りた当日から撮影、翌々日には大雪の予報という無謀なスケジュールのため、バックアップカメラとして使い慣れたAG-AF105を入れたが、C300は大変に使いやすく、バックアップ収録データの出番は無かった。右側は主演の吉澤直美さん

Logを使った撮影は、現場での色よりも、とにかく照度をしっかり取る事が大事だ。今回の撮影でも、カラーメーターだけでなくルックスも測定して、十分な照度を取れるように工夫した。

Log特有の伸び代のあるダイナミックレンジによって色味自体は変えられるが、照度が不足して被写体の陰影がぼやけてしまうと、撮影時のダイナミックレンジが狭くなる。これではLogの意味が無いどころか、白と黒の領域を生かすLogの特性が逆に作用して画質の劣化も見られる事がある。とにかく少しでも陰るとレフでガッツリと光を当てて、C300のモニタにも波形モニタを出し、上下が白飛び黒潰れしないようにぎりぎりまでレンジを広げるようにして撮影を行った。Logでは、通常の撮影よりも意識的に多めの光量で望む方がいいだろう。そうやって被写体に実際の陰影を出した上で、NDフィルタで全体の光量を減らすとダイナミックレンジを広く撮りやすい。

「雨の日に雨のシーンを撮るバカはいない、夜に夜のシーンを撮る間抜けはいない」というのがフィルム時代の映画の大原則だった。Logでの撮影はそこに立ち返って、撮影自体は豊富な光量で行い、シーンの色味作りは後で行う工夫が大切だ。ビデオのハイテクのお陰で、実際の雨や夜でも撮影できてしまう現代の便利さはそれはそれでありがたいものだが、それは映画の画作りとは、やはり相反する部分がある。

とはいえ、あまりに変な色にするのも、Logによる広いダイナミックレンジの範囲にすら収まりきらずに、まずい結果を生む可能性もある。そこで、C300での撮影時には、ビューアシスト機能を使えば、本体モニタ上ではdeLogした状態で見る事ができる。もちろん、HDMIやHD-SDIの出力はLogのままだ。C300のビューアシストは、deLogに大がかりな装置やPCが要らない上、撮影しながら確認できるのが大変にありがたい。今回も、もちろんその機能を活用し、本体でdeLogしたビデオに近い生の色味を、NINJAのサブモニタでLogの灰色がかった画面をそれぞれ確認しながら撮影をした。Logによる撮影では、こうして、Logの画面とdeLogの画面の2つを見ながら撮影するのが必須だろう。

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撮影風景。少人数の晴天撮影なのだが、被写体の照度には気を遣った。モニタは本体がdeLog、NINJAのサブモニタでLogを確認。常に本体には波形モニタを出し、白飛び黒潰れの無いようにしつつ、広いダイナミックレンジでの撮影を意識した

連番静止画化

さて、収録したデータはフィルム合成ワークフローに乗せるため、各カットごとにフォルダを作り、24pでの連番静止ファイル化を行う。昔でいうところのキネスコ作業だが、昔と違って一度映写したものを再撮影するのでは無いので、キネスコのような画質劣化は生じない。ビデオデータとして収録されている映像を、フィルム素材としてのワークフローに入れる大切な作業だ(もちろん、収録時の生データ自身も、同録音声データとしてアフレコ音声とのタイミング取りのためにつきあうことになるので、連番静止画化したからといって破棄してはいけない)。

Logの優れたところは、ここでわざわざ連番静止画をデータ量の多いHDRI形式に変えなくても構わないところだ。HDRとはいえ、Logでは通常の24bitカラーチャンネルに全ての色味が乗っている。そのため、通常の連番ファイル形式で構わない。連番静止画はただでさえデータ量が膨大に膨れあがるので、24bit映像で済むのは大変にありがたい。

24bit映像ならば、モニタも、わざわざ10bitの外付けのものを使わずに、17インチMacBook Pro(Late2011)の公称「数百万色以上対応」というアバウトなモニタでもほとんど問題が無い。モバイル環境の現場でも仕上げと同程度の映像を見られるということで、実に素晴らしい。撮影後、USTCAMPのベースでもある私のキャンピングカーで、内蔵CFカードの映像を変換してスタッフ一同で実際の撮影状態を確認し、そのままアフレコ素材として車内で流して音声収録をしたが、一連の作業で全く問題が無かった。こうした現場運用性の良さは、通常の24bitの枠内に色味を収めるLogの最大の魅力と言えるだろう。

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アフレコや現場確認、合成素材制作でのロトスコープ向けなど、撮影現場などで活用するためのオフラインデータとしてNINJA収録のQuickTime ProRes422を用いたが、最終出力向けの合成作業では連番静止画として扱う必要がある。今回は、オンラインデータとして、Adobe Media Encoder CS5.5で、C300の内部収録映像からHDR対応の連番TIFF形式に変換した

今回「UFOの春(仮)」では、内蔵CFカードに収録のデータを利用したが、念のためにbit数の余裕のあるTIFF形式で連番化を行った。本来ならば、迷わず、24bit標準のTarga形式でのストリッピングでいいだろう。C300はネイティブ プログレッシブ収録なので、バレ消し作業がなければ、わざわざ連番静止画化をしなくても、そのままのデータファイルのままでワークフローを流しても良いだろう。

CFカードへの内部収録データを使う場合には若干の注意が必要だ。Canon C300は新しいカメラのため、内蔵収録データに対応している編集ソフトはまだ少ない。Adobe Creative Suite 5.5の対応の高さはさすがだが、もう1つの愛用ソフトであるアビッドのMedia Composer 6の場合は専用のAMAのダウンロードが必要であった。

ただし、C300内蔵データの場合は初めからプログレッシブで撮影されているので、合成やバレ消し用に連番静止画化する際も、フィールド合成チェックの手間は要らない。ファイル書き換えによる劣化もないので、これだけでも大きなメリットがある。C300の設定をちゃんとシネモードで撮ってさえいれば、24fpsの静止画化は容易にできるはずだ。

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C300の内部データはプログレッシブ収録なので、スムーズに24pの連番静止画に変換できた

合成素材の制作

合成素材のUFOは、オートデスクの3ds max 2012を用いて制作した。モデリングは、当社副社長にして共同経営者でもあり、今回の撮影で助手を務めた橋本修平氏にお願いした。この作品では、UFOが春を連れてくるという重要な役割を持っており、この素材こそが吉澤直美さんと並んでもう一人の主役とも言える。4月中旬完成予定のミニムービーのため、まだまだ練り込み段階で、画像は仮のものである事をお許し頂きたい。

Logとの合成におけるCG制作での問題は、レンダリングファイル形式だ。本来なら、専用のLUTを利用した形式でレンダーしてしまいたいところだが、C300は新製品ということもあって、あいにく対応するレンダリング方法が存在しない。だからといって、HDR形式でレンダリングしては、せっかくLogを使う意味が無い。そこで今回は、Cineon形式でレンダリングをして合成素材を作った。

Cineonレンダーでは対数を適用してレンダリングするため、疑似マトリクスを用いたC300のCanon Logとは適用されている色味が大幅に違う。また、Cineon形式ではアルファチャンネルの保持が困難なので、別途アルファ成分を出力し、それをマットチャンネルとして合成しなければいけない。合成の手間が大変だが、色味の余裕がなくなる事を危惧して、敢えてこの形式を選んだ。

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UFOは3ds maxで制作した。今回はCineon形式でレンダリングしたが、正直その必要は無いだろう(画面は3ds max試用版のもの)

3ds maxなどでは、LUTを読み込んで作業画面の色味調整が可能だが、これはレンダリングされた色味が行方不明になりやすいので、あまりお勧めしない。むしろ、C300の撮影で、本体モニタのビューアシスト機能を使ってdeLogをしたように、あくまでもLogでは無い普通のカラーガンマ環境で制作をして、最終処理で色味に余裕を持たせた方がいいだろう。

経験上だが、実は合成素材に関してはLogを意識しない普通の24bit(各チャンネル8bit)のレンダリングでもまったく構わないだろう。CGのレンダリング素材は、理想空間で撮影された完璧な配色バランスのRGB素材であり、実際のカメラで撮影されたYCbCr 4:4:4よりも実は遥かに安定した色データを持っているからだ。ましてや、C300は内部収録8bitのカメラ(トータル24bit)であり、その撮影データはYCbCr 4:2:2だ。Logで圧縮してあるとは言え、その色情報はCGよりも格段に少ない。つまり、C300の内部Log収録データを使う分には、合成をするCG側は通常の24bit映像で充分というわけだ。

今回は、Atomos製NINJAでC300のHDMIスループットを収録別途した。このデータは、内部収録よりも色数の遥かに豊富な10bit(トータル30bit)のProRes 422での収録になっている。しかし万一こうしたデータを使う場合も、正直に言えばCGでの24bit映像を、Log撮影でのトータル30bit映像に合成しても全く違和感がないことが多い。むしろCG側に色味の劣化処理やノイズを多めに乗せる事すらある。こうした合成処理は、CGの色の豊かさを知ると共に、現実を捉えるカメラの難しさを思い知る場面でもある。

余談だが、何bitと言う表現は、CGではRGB3チャンネル合計でのトータルbitを、カメラの世界では各チャンネルのbitを指し示すのでややこしい。CGでは、アルファチャンネルを常用するため、アルファの無い各チャンネル8bit映像を24bit、アルファチャンネル入りの各チャンネル8bit映像を32bitと呼ぶためだ。実写では、アルファチャンネルは存在しないので、1チャンネルを示せばそれで全体が分かるのだ。

いよいよAfter Effectsによる合成!

合成作業は、業界のデファクトスタンダードAdobe After Effects CS 5.5での作業とした。AEは最近躍進しており、合成においてはハイエンドの映画でまで使われるようになって来ている。とはいえ、合成作業自体で語る事は少ない。合成素材のアルファ抜きがしっかりしていて、マスクがちゃんと切れていればそれでいい。作業手順は通常の合成の範囲だ。

しかし、Logでの合成には注意点がある。それは、色浮きだ。Log素材に対して通常の合成のように見た目だけでの合成をして、最終的なカラーグレーディングで色を大きく転がすと、撮影素材とCG素材のガンマカーブの違いから、合成素材やバレ消し部分が浮いて出てしまうことがある。これを回避するには、合成時に、各素材にエフェクトからLUTを適用し、Log状態とdeLog状態の両方を切り替えながら、両方で浮きがないかを確認しながら合成作業を進める必要がある。

もちろん、2カ所だけのチェックでは、大きく外れた場合には色浮きが出てしまう。そのため、LogとdeLogの2カ所から大きく外れた色で最終カラーグレーディングをする事が決まっている場合には、deLogではなく、その最終的な色味での確認も必要だ。

CG合成素材がCineon形式の場合には、実写側にもCineon形式へコンバートするLog to LogのLUTを適用できれば、実写合成素材両者共にCineonで作業するとガンマカーブが揃ってスムースだ。この辺は、カメラメーカーからのCineon形式変換LUTの有無を確認して貰いたい。

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AfterEffects CS 5.5上での合成処理。CG側にはCineonコンバーターでdeLog処理をしている。素材を全てまとめてプリコンポーズし、その上でC300での実写映像にマッチするように手動でdeLog処理を行っている。CG側が鮮明すぎるので、カメラブラーとノイズを掛けて色味を合わせた。その上からマスクで抜いた電線部分を乗せている

新しいカメラでは、LUTファイルが用意されていないことがある。実際、今回のC300でも、LUTの配布予定こそホームページに書いてあるが、Canon USAのWebサイトにCVS形式のモニタ向けLUTが提供されているだけで、.lut形式やcube形式などの実用的なLUTファイルはこの記事執筆時点ではまだ配布されていなかった。Cineon形式へのコンバーターはあると便利なので、この辺の充実は早期に改善を望みたいところだ。このようにdeLogができない場合には、調整レイヤーを置き、その調整レイヤー上で最終的な出力だと思われる程度のガンマを仮に当てて、Logとその調整後の2つの状況を見比べながら作業をすると良いだろう。

当社でも使っているパナソニックAG-AF105のような実験的なカメラの場合には、ハイダイナミック映像を用意していても、初めからLogではなくただのHDRであるとしてLUTを用意して居らず、将来もその予定がない場合もある。実のところLogとHDRの違いは、おおざっぱに言えばLUTの有無に過ぎない。LUTの適用を自動化して暗部を自動的に持ち上げて白飛びを自動的に押さえている場合にはHDR、それを仕様公開して外部に出して後からグレーディングしやすくしたものがLogだ。LUTファイルが無いのにLogを名乗るのはどうかという向きもあるが、この辺は過渡期なので、そのうちに棲み分けができてくるだろう。

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After Effects CS 5.5には、本格的なカラーグレーディングソフトSA Color Finesse 3が付いている。今回はこれで調整した

Log制作の場合には編集後の最終段階でまとめてカラーグレーディングを行うので、合成カットの出力時には、Log、deLog両方での色浮きが無いという確認が終わり次第、LUTを切ってLog状態で合成してレンダリングをする方が理想的だ。今回はUFO側をCineon形式からdeLogして、その後Canon Log風に再度ガンマを歪めてCanon Logガンマの実写に合成し、最後に実写部分を含んだ全体をプリコンポーズしてからCanon LogをdeLogして確認をする形を取った。もちろんレンダリングの際には最後に掛けた全体へのdeLogは消してから出力を行う。そうする事で、次のグレーディング過程までCanon Logの情報を持っていくことができる。

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Cineon形式でレンダリングしたCG画像は限りなく灰色に近い。これでも色味はちゃんと含まれている。代わりに数兆色の色味を持つが、もちろんdeLogしないと使い物にならない

ここまで来れば、あとは普通に編集し、アフレコ音声をミックスし、グレーディングを行うだけだ。Log環境でのカラーグレーディングについては、既にPRONEWSでもさまざまな人が語っているので、この記事では割愛したい。

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最終的な画像。これはCanon USAのLUTを参考に、それっぽく出力したもの。Logを使わなければあり得ない綺麗なマッチングだ。当初、あまりに違和感が無さ過ぎたので、敢えてUFOの色味を青く転ばせて目立たせている

Logでの合成作業では、最終的なグレーディングまでLogの情報をいかに保持するかという点に注意して作業を行えば、何も難しいところはない。Log形式あるいはHDRでの撮影は、多少の作業増加分の予算組みをするだけで、映像の可能性を飛躍的に伸ばすことができる。特に、フィルム的な表現には欠かせないものであるといえる。驚くほどの効果があるので、是非、挑戦して頂きたい。

今回の「UFOの春ー飛び梅ー」収録では、記事向けのいわゆる「ナンチャッテ収録」では無く、ちゃんと、ミニムービー1本分の映像素材を実際に撮影し、合成・編集作業も行っている。現在合成処理中だが、4月中旬には完成する予定。完成し次第、実際の作品として私のコラムなどでご報告をするつもりである。

txt:アイラ・ラボラトリ 手塚一佳 構成:編集部


Vol.04 [RAW side LOG side] Vol.06