誰もが疑った4K REDの実力

rshr01_01.jpg

日本におけるRED1号機。当時からその映像の表現力は圧倒的だった。初めて4Kという世界を知った人も多いはず

4Kデジタルシネマカメラという、夢のようなカメラが登場したのは日本のリーディングカンパニーからではなく、誰も聞いたことのないアメリカのメーカーからだった。2007年の10月、世界でも屈指のサングラスメーカー「Orkley」の創始者であるジム・ジャナード氏が作った新鋭のカメラカンパニー「Red Digital Cinema Camera Company」が、ファイルベースの4KデジタルシネマカメラRED ONEを発売した。

日本に1号機がやってきたのは2008年2月のことだった。もちろんなんら実績もない会社であっただけでなく、そのビジネススタイルや、プロモーションの方法も日本のスタイルとは異なっていたため、現場に馴染むまでに時間がかかったと言っていいだろう。しかも、当時まだパソコンでHDの編集をすることでさえ「大変」だった時代に、いきなり4Kの編集ワークフローを確立するのには相応のマシンスペックが必要であったことに加え、初期のファームウエアが完全でなかったこともあり、REDの4Kの魅力は十分に発揮されなかった。未だに当時のREDの悪い印象を引きずっている人も少なくはないだろう。

ところが編集用のマシンスペックの向上と、度重なるファームウエアの改善により、次第にREDの4Kが本格的に現場で使われるようになった。なんといっても、REDの基本設計があまりにも飛びぬけていたため、他のカメラメーカーの4K技術が追い付かず、3年以上もの間ファイルベースの4K市場はREDが独占していたことは間違いない。

ちなみにRED ONEではフルHDで100pの撮影も可能で、2Kサイズ(2048×1024)では120pの撮影も行えるため、ハイスピード撮影という条件でも多くの需要が重なることとなった。そしてREDが更に加速した大きな2つのステップがあった。それがMysterium-Xセンサーの登場と、Adobe Premiere Proをはじめとするノンリニア編集ソフトへのネイティブ対応だ。

4K・REDが飛躍した2010年

rshr01_02.jpg

Mysterium-Xを搭載したRED。一気に映像の表現力を増した。このセンサーでREDの評価は一気に上がった

2010年になって本格的にRED ONEのMystrium-Xセンサーが流通し始めた。ISO基礎感度が800というMysterium-Xセンサーが捉える映像はいよいよ35mmフィルムを凌ぐ映像表現を持っているとも評されるほどで、「デジタルシネマ」の世界を一気に広げることとなった。

これを機会にハリウッドでも多くの作品がRED ONEで撮影されることになり、REDという名前自体も世界に知れ渡るようになった。更にAdobe Premiere Pro CS4のバージョンで、初めてノンリニア編集ソフト(NLE)にネイティブ対応し、2010年には業界でも初めて、64bitソフトウエアとしてAdobe Premiere Pro CS5で4KのREDファイル(R3D)をネイティブで扱えるようになったことは、REDの評価を後押しすることになったと言える。

rshr01_03_1.jpg

Adobe Premiere Proで初めてノンリニア編集ソフトでR3Dをネイティブに扱えるようになった。現像もPremiere Pro内で行えるため、ワンストップのワークフローが組めるように

従来の4Kデータの編集ワークフローは非常に複雑で、REDのもつRAWデータの魅力を活かしきれていなかった。専用の現像ソフトでDPXやProResといった中間コーデックに書き出すことは、多くの時間とファイルスペースの消費を必要とするだけでなく、4KやRAWといったR3Dデータの特性を制限してしまうことでもあった。ところがR3Dデータそのものを編集ソフトのタイムラインに4Kそのままを載せてしまうことができるようになったため、最終の書き出しのギリギリまで4K/RAWの特性を保持することが可能になった。またパソコンにコピーしたカメラのデータをそのまま編集するといった、他のカメラと全く同様の感覚で作業を進められるようになったのは非常に大きく、4K撮影の敷居を一気に下げることになったといえよう。

rshr01_03_2.jpg

After EffectsにもR3Dデータをそのまま載せることができる。中間コーデックの変換なしに4K映像をコンポジットできるのは夢のよう

更にREDのすごい点は、決して現状にとどまらないところだ。2011年にはRED ONEに引き続き、2台目のデジタルシネマカメラEPICを発売にこぎつけ、なんと5Kの解像度で120p、さらには2Kの解像度で300pまでのハイスピードも実現してしまった。またボディだけで100万円を切る4KHDカメラScarletも3台目として遂に市場に出始め、いよいよ他者の追随を許さないところまでコマを進めることになった。

rshr01_05_1.jpg

2011年に流通が始まったEPIC。5Kという未知の世界をファイルベースで実現。ハイスピードやHDRといった機能も大きな話題に

少々前置きが長くなってしまったが、REDが4K・ハイスピードカメラのパイオニアとしてここ数年4K市場を独走してきたことがわかっていただけたと思う。

2012年そして6Kへ

rshr01_06.jpg

NAB SHOW 2012で展示されたドラゴンセンサー。早くその映像を見てみたい

今年のNAB SHOW 2012で、更にREDは新しい領域へ足を踏み入れることになった。それが「ドラゴンセンサー」だ。REDの3代目となるセンサーで、なんと6Kの解像度を実現し、更には15Stopなるダイナミックレンジを実現しているというのだから、本当に驚きである。フルフレーム5Kの120pにも対応し、いよいよ誰もが追い付かないスペックにまで飛躍することになった。

今年の夏以降にEPICのオーナーに対してのセンサー交換プログラムが始まるとのことであるが、おそらく35mmフィルムを超えた世界がいよいよ始まることになるのかと、REDの快進撃には目が離せない。センサーのアップグレードも$6,000という破格の価格設定になっている。今回のNAB SHOW 2012では残念ながらドラゴンセンサーの映像を目にすることはできなかったものの、センサー部分だけは実機(?)が展示されていた。いつも予定が遅れるREDだけに、今年中にドラゴンセンサーがお目見えすることを願うばかりである。

ちなみにREDの魅力はそのコストパフォーマンスにもある。現地からカメラを直接購入するとなると、$1=85円の換算レートでも、SSDやモニターなどすべてのキットがセットになったEpic-M Collectionが約500万円で購入することができる。ちなみに今であればドラゴンセンサーの無償アップグレードが付いてくるとのことで、この価格でフラッグシップカメラを手にできるというのだから、素晴らしい時代になったと言えよう。

カメラ以外の4Kソリューションにも注目

rshr01_07.jpg

REDRAYと4Kプロジェクター。レーザー式に驚いた人もいるはず。発売が始まれば、多くの人が購入に踏み切るはずだ

またREDのブースではカメラ以外の4Kソリューションが展開されていた。以前から発表になっていた4K再生機のREDRAYも少しずつ形になってきている。4本のHDMIケーブルを使用して、4Kの120pまでの再生に対応。7.1chのオーディオなども再生可能ということで、リリースが楽しみである。更には4Kのレーザープロジェクターの開発も発表。レーザー式でキャリブレーション不要の2K×2の円偏光式3D上映にも対応し、価格も$10,000以下の設定(85万円)を明言している。

ちなみに最大180インチまで投影できて、対応時間は2500時間というスペックが記されていた。REDRAYとの組み合わせによる4Kシアターの確立が可能なため、3Dも含めて、かなり多くの需要が見込まれることは間違いないだろう。

日本ではSONY、Canonと対抗か

ここまでスペック的には独走しているREDではあるが、4Kソリューションという点では、まだ日本でそれほど浸透していないところもある。それは独特なビジネススタイルと、日本におけるサポート体制がなかなか即時的でない点が挙げられるだろう。また4Kのアウトプットのソリューションがそこまで充実しておらず、多くの作品の最終形態がHDであることなどがREDの日本における需要が上がらない理由とも言える。

しかし4K再生機やプロジェクターなどが登場し、撮影から上映までのトータルソリューションが日常的になれば4Kやハイスピードの価値が認知されていくだろう。もちろんそうなれば、SONYのF65や今回発表になったCanonのEOS C500、EOS-1D Cといったカメラとの対抗になることは必須だ。いよいよ4Kによる映像制作が2012年から本格稼動することが予想される。

txt:江夏由洋 構成:編集部


Vol.00 [R! S! High Resolution!] Vol.02