Blackmagic Design社は、なぜ話題を集めることができるのか

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今年のNABでもBlackmagic Design社が新製品ラッシュで話題をさらっていったことは、なにも今年だけに限ったことではありません。他の出展社も毎年4月に開催されるNABショーに向けて、参加者や業界に対して注目を集めるようなアピールを狙って新製品を開発しているはずです。ではなぜ毎年BMD社はユーザーの注目を集められるのでしょうか。

今年のNAB会場でCEOのGrantが他のメーカーのエンジニアから、どうしてBMDからカメラなんか出すことにしたのだ?と詰め寄られたそうです。Grantは「簡単な話さ、先行するメーカーがユーザーの目を引く素敵なカメラを出さないからだ」こう言ったと聞きます。この言葉の中にBMDが注目される理由が、はっきりと現れていると私は感じました。一般的にメーカーは製品の開発サイクルを作成するためには、製品の特徴とリリースできる時期などたくさんの「事情」を抱えながら計画しているはずです。大きなメーカーになればなるほどたくさんの事情が交錯して、日本人ならそれを「しがらみ」と呼ぶでしょう。ユーザーが望んでいるものは理解できていたとしても、簡単に開発計画の方向転換が実行できにくいとの歯がゆさがあるのでないかと思うのです。

特にRED ONEが登場して以来のカメラ業界のように、新機種やトレンドが劇的に変化する中では、ユーザーの志向も過去に比べて早い周期で変化するようになりました。このユーザーの志向の変化に大手メーカーは対応できずにいて、それが大きなメーカーの苦戦を物語っています。いかにして早期に開発の方向を修正して、いかにして早いタイミングでユーザーが求めている製品に具現化できるか。それができるかどうかが、NABショーで大きな注目を集められるかどうかの分かれ目になっています。

Blackmagic Cinema Cameraの気になるところ

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Blackmagic Cinema Cameraの持っている秘められているはずのスペックの全貌は、まだ私は知ることができません。しかし、なぜそんな未知のツールに対して期待感を持ってしまうのでしょうか。その背景には先に書いたようなBMD社がユーザーの志向を知っていて、それを開発にフィードバックできている実績を見ているからです。

スペックを見ると4kではない2.5kセンサー、Logではなくまだどこも採用しなかったCinemaDNGフォーマットを採用、PLマウントが使えないなど、スペッキーなカタログから製品を判断するひとたちの目には、先行するカメラに比べて物足りない部分がいくつもあることでしょう。突っ込みどころ満載な製品ではあるわけですが、これらの点は表裏一体で長所でもあると考えられます。

4kではない解像度により、登場間もない段階でも低い価格設定に貢献できますし、レンズの選択肢もフルサイズのイメージセンサーに比べて広くなります。PLマウントは使えませんがEOSムービーで使えるレンズ群が装着可能なため、豊富なレンズ資産がすぐに活用できます。これはEOSオーナーからの2台目カメラとして、購買の可能性があるとのマーケティング面の思惑も見えます。CinemaDNGはまだどこのカメラにも採用されていませんが、Adobeが業界標準を目指しているデジタル・ネガティブのフォーマットなので、制約が少なく汎用性の高いフォーマットになる期待があります。RAWやLogは独自の規格になりがちですが、記録したデータの互換性を高めることは、ポストプロからの視点で見ると非常にポジティブに映るはずです。

極論を言えば、このBMCCによりこれまでEOSで動画を撮影していた層は、今後このレンジのカメラにシフトするのではないかと私は感じるくらいです。それにより、EOSは本来の動画ではなく写真の撮影に特化していくと。すべてがその方向に行くとまでは言いませんが、大きな流れになる可能性を秘めていると思っています。

進化してレガシーさが消えるResolve

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7月に登場するDaVinci Resolve 9は、ユーザーインターフェースを一新してこれまでのResolveの面影は残すものの、既存ユーザーが面食らうほど印象が変わっています。その反面これまでの課題だったオーディオサポートが実現するので、ポストプロ行程でのカラーコレクションだけではなく、撮影現場でデイリーズを作成するための強力なツールとして使えるようになり、これまでにはなかった特徴を加えることになります。BMD社のセールストークでは、3クリックでグレーディングが始められるくらい操作性がシンプルになったと言います。これまではタイムラインに素材を並べるところまでが面倒だったので、この点では新規ユーザーにも敷居は低くなり、Resolveがカラーリストだけのものではない世界が、現実的なところまで来ています。

Resolve9は秋にリリースのBMCCにもバンドルされる予定なので、BMCCに限らずデジタルカメラが撮影後になんらかのカラーコレクション作業が必要であるという業界の認識がさらに広がることに期待できます。Resolveでは早くからRED ONE/EPICに対応していて、メニューの一部にRAW素材のハンドリング機能を持っています。またLog素材への対応として各種のLUTをサポートしているのなど、ResolveはRAWでもLogでも素材の形式にはあまり影響されることなく、内部の32bit空間の演算処理を活用できるようになっています。

高解像度対応とResolve

DaVinci ResolveはすでにEPICの5k素材も取り扱うことが可能で、それを高速化するRED Rocketにも対応済みです。Lite版は書き出し時の解像度がHD1920x1080の上限は設けられてはいるものの、読み込み素材に関しては上限が一切ありません。日本では4kサイズさえ取り込めれば、書き出しはフルHDサイズで十分なケースが大半です。アメリカの事情とは異なるのはこの点で、それを踏まえた上での現実的な高解像度対応がユーザーの冷静な選択になると思っています。

ユーザーが4k書き出しにも積極的になれるタイミングは、4kで表示できるディスプレイやプロジェクターが一般化する時期だと思います。それまでの間は現実的な高解像度対応で十分だというのが私の考え方です。4kの表示デバイスが登場するまでは何もせずに待っているだけかと言えばそんなことはなく、すでにアプリケーションは高解像度に対応済みのものばかりですから、検証は先行してやっておくことは自由です。4kへの書き出しでHDに比較してどのくらいの処理時間が増えるか、データのビットレートはどのくらい必要でそれに見合ったストレージはどう選択するかなど、事前に予習できることはたくさんあるのです。

今年のNAB会場では、iMacとThunderbolt接続のストレージを組み合わせた展示が目についたと聞きます。大手メーカーも製品価格を大幅に下げる傾向にあり、業務用の映像機器とはいえ高額な設定では購買者は見向きもしてくれない時代になってきました。ツールのコモディティ化はすでにはじまっているので、これからは先入観にとらわれずに自分が使う映像の道具は自分で選択する時代です。それは、今後登場の高解像度の場合でもまったく変わることはありません。

txt:山本久之 構成:編集部


Vol.03 [R! S! High Resolution!] Vol.05