txt:石多未知行 構成:編集部

10年の歴史を誇る Mapping Festival開催!

毎年5月に開催される「Mapping Festival」は、今年で9年目を数えるビデオマッピングやオーディオビジュアル(AV)、VJカルチャーの祭典として10日間開催される。その立ち位置は、メディアアートカテゴリーとして歴史を積んできたフェスティバルのひとつである。そもそものスタートとなったきっかけはVJソフト「Module8」や「Mad Mapper」の開発チームが、そのソフトや映像表現のフィールドをアウトプットする機会としたのが発端だ。

日本では、昨年の東京駅頃よりやっと市民権を得たプロジェクションマッピングの世界だが、欧米では既に10年の歴史があり、日本で起こっているマッピングブームとは異なった面を多々発見することができる。このフェスティバルをレポートしたい。

フェスティバルの開催地はジュネーブ(スイス)。四カ所のエリアで構成されている。

  • (A)BAC(BILLETTERIE & QG LE COMMUN)
     フェスティバルの事務局が置かれ、5つの常設インスタレーションが観ることができるオープンスペースギャラリー。
  • (B)FONDERIE KUGLER
     ギャラリースペースと多目的に使われる広い空間でワークショップやセミナーが行われ、夜はクラブとなり、オーディオビジュアルパフォーマンスやVJショーなどが行われた。
  • (C)ZOO / KALVINGRAD / USINE / CINEMA SPUTNIK
     CINEMA SPUTNIKはミニシアターで、それ以外はクラブとバーになっている。期間中は昼頃から早朝朝まで解放され、映像が溢れる空間でのクラブサウンドを楽しむ空間となった。
  • (D)MUSEE D’ART ET D’HISTOIRE
     ジュネーブの歴史美術館で、建物への大規模なプロジェクションマッピングが行われる会場。また子供向けのワークショップも開催された。

ジュネーブの町中に点在する多様な会場を使って、多くのビジュアルアーティスト達がしのぎを削っている。彼らと話をすると一様に返ってくる答えが、”コミュニケーション”。10年近い歴史があるが、決して規模が大きいフェスティバルではない。それでも多くのアーティストがアプローチするのは、そのコンパクトさならではの一体感ある空気だ。各会場にあるBARやカフェスペースではアルコール片手に、アーティスト同士、また一般の参加者も含めてオープンでフレンドリーな語らいの場がある。スタッフは、他の大きなフェスティバルとは違う方向を目指したいという。大規模にすると多くの人が集まり過ぎるので、コミュニケーションが希薄にならないように大規模化は望んでいないという。

最新のPMがそろい踏み

さて、それでは具体的な作品やフェスティバルの雰囲気を紹介していこう。このフェスティバルのタイトルにもなっているマッピング作品のインスタレーションからまずはいくつか紹介する。

Constellation Neverland by SEMBILAN MATAHARI (INDONESIA)
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インドネシアのSEMBILAN MATAHARIによるとてもオーガニックな作品。綿とロープを使い雲とそこから落ちる雨(雪)の世界をクリエイトしている。4方向からのプロジェクションで雲部分とロープ部分それぞれにイメージを投影、キネクトによるインタラクションも持たせている。素材感の有るモノを使ったインスタレーションで空間に質を与え、雲に与えられる映像の光はとてもリアルでスケール感のある演出だった。まだ荒削りな印象でもあったが、アイデアと挑戦のある作品で現地でも評判が良かった。また、この作品は今年の冬にジュネーブのあるブティックの空間ディスプレイとしても使われることになった。

Chiaroscuro by SOUGWEN CHUNG (US/CA)
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グラフィックと半立体を空間の三面に配し、そこにプロジェクションマッピングと照明演出を加えた作品。SOUGWEN CHUNGは香港出身でNYで活動している女性アーティスト。作品からは女性らしい美しい色使いと世界観が感じられ、心地の良い作品であった。近年、完全な立体への映像投影から、こうした平面や半立体に対してのグラフィックを用いたプロジェクションが増えているようだ。

Submergence by SQUIDSOUP (UK/NO/NZ)
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マッピングというよりもはやメディアアートと呼ぶべき作品かも知れないが、会期中一番のクオリティだった作品。天井から幾筋ものLED球体がつり下げられ、制御されたその小さな球体LEDがインタラクションにより繊細で美しい光を空間に描き出す作品。約6千の光が空間をダイナミックに動く様は、海中でイワシの群れを見るかのごとき視覚体験を与える。

ハイライト

その他、インスタレーション作品などのハイライトが公開されているので参照頂きたい。

VJ/Clubing(ZOO/KALVINGRAD/USINE/CINEMA SPUTNIK)
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主に(C)エリアで行われるVJ中心のクラブイベントが毎夜行われる。SPUTNIKではVJコンテストが行われた。日本のクラブVJとの大きな違いは、実写やユーモアが溢れるビジュアルが中心となっている部分。アート性、オリジナリティを求める欧州のシーンらしい世界観を競うものだった。映像自体のCGクオリティ等は日本の方が進んでいる感はあるが、印象の残り方という点で、今の日本にはない刺激的な空間であった。

Workshop
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全部で8つのマッピングワークショップやAVのソフトウェア、ステージ演出、インタラクティブ、LEDやペイントと映像を連動させる等のワークショップが展開された。子供向けのプロジェクションマッピングのワークショップに注目。内容はコピー用紙で三角錐のユニットを作ってレイアウトし、それにマッピングをしたり、石膏像の顔に子供達の顔がマッピングされたりした。 AntiVJという最前線で活動しているクリエイターが子供達にむけたワークショップをおこなうというのはなんとも贅沢だった。

Architectural Mapping(建物へのプロジェクションマッピング)
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フェスティバルの一番の華となるのはやはり建物へのプロジェクションマッピングだ。昨年は美術館の中庭で行われたのだが、今年は美術館の正面ファサードを用い、OnionlabとBordos.Artworkの二組による大規模なマッピングショーが行われた。

3カ所から20000ルーメンのプロジェクターを2台スタックしての投影で、合計6台のプロジェクターをWATCHOUTで制御しての上映。対象となる美術館のファサードの情報は3Dスキャンを使ってモデリングされ、映像制作のベースとなっている。

美術館の前の一本の道路をはさみ、反対側には緩やかな丘になった公園の芝生があり、そこに約4000〜5000人の人が詰めかけた。直前にはそこかしこから口笛を吹き鳴らす音や手拍子で上映の催促が起こった。日本のプロジェクションマッピングではなかなか体験できない高揚感ある空気感だ。ちなみにこの時期は日没が21時頃。22時になってやっと暗くなるという明るさ環境のためスタートも22時〜で終了は深夜を回る。昨年はこれを美術館内で行ったのだから、こちらでのマッピングカルチャーへの寛容さを窺い知れる。

Bordos.Artworks(HU)
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昨年は、3Dプロジェクションマッピング+3D視という組み合わせで来場者を涌かせたが、今年も非常に印象に残る映像だった。まず開始から30秒は映像が無く音のみ空間に響き渡る。そこにフラッシュのライトがたかれた様な映像が映され、柱を人がよじ上っている様子があぶり出されてくる。そしてすべての柱に人が溢れた状態になったかと思うと、ぐにゃりと空間が歪み、建物がタイル状に渦を巻かれ、触手の様なテクスチャーがダイナミックに空間を揺り動かした。そしてシンプルなラインが波打ちながらこちらに迫る様に向かって来て、人々を飲み込む様な印象を与えた。モノクロの光と影の強いコントラストで表現された作品だった。

Onionlab(SP)

スペインから最近注目を集めているOnionlabがこのフェスティバルに初参戦。冒頭、下から照らされた月の様な半円形が中央に現れ、前半はソリッドなスクエア状のモノトーンタイルのグラフィックがゆっくり下から持ち上がってくる。徐々に細分化されていくと中央からそれがガラスボールの様に盛り上がってきて、ぽっかりと巨大な穴が建物に空いたかの様になる。中盤から3Dを用いて柱や梁がぼこぼこと音に合わせてうごめき始める。後半は淡いブルーの光の中で花火が柱の奥ではじける様な演出が入り、最後には建物全体のブロックパーツが中央にダイナミックに吸い込まれていき、冒頭に現れた月に戻る。夢の世界に連れ込まれ、最後にはたと我に返ったという様な印象の作品であった。

まとめ

今回の美術館へのふたつの作品を通しても見えてくるところだが、基本的に日本のシーン、特に広告業界でのマッピングで見られる様なサービス精神というのはあまり見られない。それよりもアーティストはいかに自分の個性や世界観を見せるか?に注力しているように感じられた。その意味でプロジェクションマッピングに限らず、欧州でのアーティストのスタンス、フェスティバルのスタンスというものがはっきりと見られた。

今回の2作品はほとんどモノトーンであった為、少し似た印象になってしまったのは少し残念なところでは有ったが、突き詰められた世界観にオーディエンスからは惜しみない拍手が送られていた。ちなみに両クリエイターにも話を聞いたが、どちらも制作には約2週間という時間を費やしているそうだ。そしてこうした作品を作ることは「クレイジー」だと言っている。それは単純に大変だという意味もあるだろうが、与えられた課題に対して向いあって、その答えを創造し続けることの困難さ、決して楽をしようとしていないことを意味していた。

 
Vol.02 [ProjectionMapping] Vol.04