4Kコンテンツの制作にあたり、撮影現場からポスト作業まであらゆる場面で叫ばれているのが、4Kディスプレイによるリアル4K視聴だ。今後4K制作を推し進めるにあたり、フォーカス問題も含めて、4K解像度での視認は重要不可欠な問題でもある。キヤノンは2012年の春、4KカメラのEOS C500を発表した際に、そのポテンシャルを現実化すべく、同社初の4Kディスプレイを技術展示として参考展示してきた。その後、しばらく具体的な製品発表はなかったが、昨年のInterBEE2013で、ついに業務用30型4Kディスプレイ「DP-V3010」を正式発表、2014年1月28日に正式発売となった。

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昨年のInterBEEで満を持して正式発表された業務用30型4Kディスプレイ「DP-V3010」

キヤノンとして新たに参入する映像制作用ディスプレイの市場で、その高い画像技術を推進し始めたことは注目で、まして4K時代の到来を告げているこの機に、4Kのディスプレイ製品を出して来た事には業界的にも多いに意義のある出来事だと言える。本製品開発に関わったスタッフに製品発表の沿革と開発エピソードなどを訊いた。

TRUE4K_04_Canon4KDis.jpg 写真左から、ディスプレイ事業推進プロジェクト 部長 小松秀之氏
ディスプレイ事業推進プロジェクト チーフ 和愼一氏
ディスプレイ事業推進プロジェクト 担当課長 秋元利之氏
ディスプレイ開発センター 主任研究員 余西理氏
――キヤノンとしては、初の映像制作用ディスプレイで、しかも4K解像度を持つ「DP-V3010」ですが、開発までの経緯についてお聞かせ下さい。

和氏:元々キヤノンとしてディスプレイ製品を作りたいという願望は長い期間持っていまして、実は4Kありきで開発を進めて来た訳でなく、最初の発表の機会がちょうどタイミングとして、「4Kディスプレイ」という製品になった、ということなのです。ディスプレイは映像・画像制作において重要な要素となる製品ですので、いずれは自社製品として世に出したいという気持ちはずっと変わっていませんでした。それがいまのディスプレイ開発にあたっての基礎となっています。その中でどういったディスプレイを作ろうか?という議論になったとき、すでに世の中にある優れたデバイスである液晶を選択し、その上で当社として特徴のあるディスプレイを作ろうという方向性になりました。

ちょうどそのころ社内ではEOS C500 / 4Kカメラの設計開発が進められていたため、「業務用ビデオカメラ」を使用する映像制作のプロが求める「最高画質の業務用ディスプレイ」という組み合わせを考えていこうということになり、これが具体的な製品化へのスタートとなったわけです。結果として、この製品の完成は、4Kというこれから拡大していくであろう市場に新規参入する機会と考えて、今回の発表になりました。

――「DP-V3010」の製品としての特徴は?

和氏:なるべくキヤノンの技術の特徴を出して行きたいという事で、16:10というアスペクト比を採用しています。これは、当社が開発するディスプレイ製品として、必ずしもシネマサイズにピッタリということではなくてもいいのでは?という点と、もう一つはキヤノンにはEOSという一眼レフカメラの歴史があり、4K以上の解像度は元々あって、しかもアスペクト比も限られているものではありません。やるからにはキヤノンの持っている入力装置(カメラやビデオ)のアウトプットとして、相応しいものを作りたい、それには必ずしも現行の映像アスペクト比(=16:9)に縛られたディスプレイでなくても良いのでは?という判断もあり、16:10の今回の製品が生まれました。

また、キヤノンの入力装置の最大の特徴はレンズです。この高性能レンズ群の特徴を最大限に引き出し、忠実に再現しなければならないというところを目標にこのディスプレイは開発されています。そのため、パネル本体が既存のものですと、どうしてもその再現力に欠けるため、設計部分ではカラーフィルターも含めてキヤノンとパネルメーカーとの共同設計により新規開発したものを採用しています。

またバックライトについても既存の製品ではなく、キヤノンが求めるレベルのポテンシャルを引き出すために独自設計を施しています。さらに画像処理のLSIについては、膨大なデータ処理を可能にするために独自に新規開発したLSIを採用しています。4Kのディスプレイということ以前に、現時点で最高性能のディスプレイをどうやったら作れるのか?というところをポイントに注力されて開発した製品なのです。

――ハリウッドの画づくりというのは参考にされたのでしょうか?

和氏:ハリウッドの意見としては、CINEMA EOS SYSTEMの営業部門が現地に拠点を持っているので、そこからのフィードバックを一部取り入れています。今回の製品は、放送用というよりもシネマ用ということでDCI規格にチューニングされていますので、4Kデジタルシネマを最高峰の画質と捉えて製品開発してきました。

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付属のディスプレイコントローラー

――コントローラーにASC CDLの切り替えスイッチがあるのは、これまでにないユニークな特徴だと思いますが、ユーザーの反応は?

余西氏:開発当初、ASC CDLの存在を認知していましたが、まだ開発の時点ではこれを付ける意味があるのかどうかの議論がありました。実際にユーザーの間でASC CDLが今後どれほど普及していくかは、我々にも予測できていなかったのですが、製品発表段階を迎えた昨年には、一般的に広まってきたこともあり、タイミングとしては付けておいて良かったと思っています。

小松氏:3年ほど前にハリウッドに行って映画関係者等へのヒアリング調査をさせて頂いたときに、ASC CDLへの対応などのご意見を頂き、こうしたニーズを取り込んでいこうということで搭載された機能です。昨年のInterBEEの際に海外メディアの方々にもこのディスプレイを見て頂き、ASC CDL機能の搭載に加えてコントローラー部分の操作性に対しても高い評価を頂きました。

――映画用に開発された製品ですが、放送用ディスプレイとは差別化されているのでしょうか?

和氏:この「DP-V3010」は、あくまで画像品質確認用の映像モニターとしての使用を想定し開発した製品です。今後のラインナップ展開を図る中でしっかりやって行こうと考えています。

秋元氏:現在、放送の業界では4Kになってフォーカスをどうやって合わせるのか?から始まり、映画業界のいわゆるポストプロダクション的な工程を入れなければならないという流れがあるようで、実際にASC CDLを使ってポスト作業を行ったという番組も実際出て来ているようです。本製品は映画業界をターゲットにして開発したディスプレイではありますが、テレビ業界の4K化が始まっている中で単に高解像度化するだけでなく映画的な画づくりが普及してきている流れにはフィットしたのかなと思っています。

――「16:10」という画角について

和氏:この部分は社内でもかなり議論して迷ったところです。2010年に一度試作した際には、16:8.4というサイズで試作モデルを作ってみたのですが、デジタル一眼のスチル画像の基本が3:2、コンパクトデジカメや従来のフィルムの画角が4:3など、様々なアスペクト比が存在している中で検討した結果、やはり16:10が最も使い易いだろうという結論に至りました。

ディスプレイの開発にあたってのアスペクト比の問題は非常に迷う要素だと思っています。社内でも開発の初期段階では多くの議論がありました。アプリケーションとして必要とされるアスペクト比はモノによって様々に存在するので、今回は汎用性も高くて使い勝手がよいということで、この16:10を採用するという結論に至ったのです。

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秋元氏:16:9または16:8.4の画を表示した際に、16:10を採用したことによる黒帯部分に、画に被らずにタイムコードや色調整のデータ等、様々な情報表示ができます。この点においては、様々なところでデモをしてみますと、多くの方からこれは便利!発想として面白い!というご意見を多く頂いています。今後もメタデータの表示可能な種類を拡げるなど、そこを上手く使っていくことでワークフローの改善に貢献出来るのではないかと考えています。

――高解像度の静止画を扱うという点で何か考えはありますか?

余西氏:Display Portのインターフェースを付けたり、Adobe RGBの色域にも対応しています。また、従来ポストプロダクションにおけるモニターキャリブレーションというと、ホワイトバランス調整程度までだったと思われますが、このモデルではもっと細かい設定も可能なPCレスキャリブレーション機能を搭載しています。映画制作などでCGや合成処理等が多用されている現在、高画質な静止画は必須と考えますので、細かい設定を必要とされる静止画ユーザーの方々にも利用価値の高い製品になっていると思います。

――今後のラインアップとして民生用や下位機種などの考えはありますか?

和氏:下位機種や民生機に近い安価なモデルの需要があることは良く理解していますが、現段階では、そういった製品を計画する予定はありません。高画質な映像が求められるハイエンドのユーザーの皆様が持つニーズにこたえるための製品開発を行っており、その考えに基づいたラインナップを揃えて行きたいと考えております。

txt:石川幸宏 構成:編集部


Vol.04 [TRUE 4K] Vol.06