浸透する「4K」という言葉と新しいインフラ

「4K」という言葉は、いつの間にか誰もが口にするものになった。サッカーのワールドカップでも、ピッチのあちらこちらにSONYの4Kの広告が映し出され、あまり映像に詳しくない人でも「4Kというテレビが流行っている」という認識を持ち始めているのではないだろうか。技術者のみならず、消費者を含む世界中の市場が、ポストHDの行先は間違いなく4Kであると確信し始めている。しかし正直な話、テレビはHDで十分と考える人も多いかもしれない。何せ、テレビのデジタル化が完了したのはつい最近のことで、突然4Kが登場しても、その必要性についてはまだよくわからないところが多いだろう。

HR14_01_01.jpg 総務省の4K/8Kのロードマップ
※画像をクリックすると拡大します

とはいいつつも、インフラは4Kまっしぐらだ。総務省のガイドラインは8Kまでを視野に入れたロードマップを2020年の東京オリンピックに合わせて公表している。もちろん8Kなどという映像は未来絵図の一部のようにもとらえられるが、4Kの映像配信はいよいよ現実となってきた。先述のワールドカップでも4K放送が実験的に行われただけでなく、6月にはCSデジタル放送で「Channel4K」の放送が開始、9月にはひかりTVによる4KのVOD放送が始まる予定だ。2014年は4K放送元年として、意味のある一年になりそうである。このことからも、4K放送は徐々に拡大され、おそらくテレビそのものの規格も4Kになっていくと予想される。手元のスマートフォンなどが4K化されるような時代も、そう遠い未来の話ではなさそうだ。

HR14_01_02.jpg 4Kテレビの出荷推計。当然ながら右上がりの上昇だ。一般の家庭には時間とともに4Kテレビが普及するとみられる
(出典)NPD DisplaySearchによる推計(2013/1/29)

4倍の解像度がもつ表現力の可能性

度重なる説明になるかもしれないが、簡単に4Kの規格について触れておきたい。「K」とは1000を意味する言葉で、4Kとは4000という数字を表している。これは画面の解像度が、横に大体4000ピクセルあります、ということだ。実は4Kには、4K放送などに準拠するUltra HD(3840×2160)と、映画などで使用されるDCI4K(4096×2160)の2種類の規格がある。

一般に使用される4KはUltra HD規格で、家電量販店で購入できる4Kテレビなどは全てこの大きさだ。3840×2160という解像度は、若干4000には足らないものの、4Kを代表する規格として扱われるようになった。いわゆるフルHDといわれるパネルのちょうど4倍の解像度(縦横に2倍)をもつUltra HDは、おそらくパネルの生産を効率的に行えることからも、市場のメインストリームとなった経緯があるのかもしれない。少々回りくどい説明になってしまったが、4Kテレビとは、今あるHDのテレビの「4倍」きれいに見られるもの、とザックリ理解しておけば問題ないだろう。

HR14_01_03.jpg

HDと2種類の4Kの大きさとの比較。HDとUltra HDはちょうど4倍の大きさの関係にある。HDの技術を流用すればUltra HDのパネルは物理的に生産しやすい

この「4倍」きれいな映像は、一体なぜ必要なのか?と疑問に思う人もいるかもしれない。もちろん、バラエティ番組などには、あまり必要とされない(HDで十分)という意見もある。しかし、一度見ると誰もがその違いを認識するはずだ。今までよく見えなかったようなディテールが見えてくるだけでなく、新しい情報をそこから得ることができるようになるのだ。サッカーの4K放送を見ていても、4Kが捉える選手の動きや表情は圧倒的である。家庭のスクリーンが大型化される中、4Kの需要は右上がりだと、誰もが感じるところだろう。

HR14_01_04_4K02b.jpg

4K
※画像をクリックすると拡大します

HR14_01_04_HD02b.jpg

HD
※画像をクリックすると拡大します


HR14_01_04_camparison.jpg

HDと4Kの解像度の違いの比較。上がHDで下が4K。4Kの表現力が持つ可能性は大きい
※画像をクリックすると拡大します

制作者が抱える問題

しかし我々は、いつもの問題に直面することになる。それがコンテンツ不足だ。もちろん技術的な準備が整ったばかりなので、これから中身の制作が問われるところになるのだが、今は4Kという規格が生んだ、技術者と制作者の「時差」の間に我々は置かれている。つまり、4Kの箱はできあがりつつあるのだが、まだ中身がない状態ということだ。制作側としては、ようやくHDの制作ワークフローに慣れてきた中で、突然4K制作といわれても、編集環境や制作スケジュール、ましてはお金にまつわるところまで、どうやって対応していいか、これは正直未知数なところが多い。

一方で、4Kデジタルシネマの制作は、カメラ自体も大変高価で、収録されるデータも重いため、取り回しも大変だ。ハリウッドでもよく使われるRED EPIC DRAGONは一式700万円程度もするし、撮影もRAWで行うため、ポストプロダクションのワークフローはそれなりに複雑だ。誰でも扱えるような代物とは言えない。

HR14_01_05.jpg

デジタル化が進み、映画もファイルベースで行われる時代。カメラの小型化が進むとはいえ、4K機器の価格はもちろんのこと、ワークフローそのもののハードルはまだ高い

4K撮影ということにこだわるとSONYのPMW-F55やCanonのEOS C500も同様で、なかなか“お手軽”に撮影を始められるカメラではない。もちろんデジタルによる撮影は、一昔前のフィルムによる撮影を考えると、時間や費用面でかなりの効率化がすすめられるようになった。画質だけでなく、多くの面で素晴らしい時代になったといえるだろう。ただ、一般的なカメラとして、個人が所有するようなものでは到底ない。

コンテンツ不足を補えるか?Newタイプの4Kカメラ

HR14_01_06.jpg

今年の3月に実質発売になったBlackmagic Production Camera 4K。ハイエンドの画質に迫る機能で、驚きの価格を実現した

しかし技術の力は、いよいよ4Kの敷居を大きくさげることとなる。今年に入って、次々とNewタイプの4Kカメラが発売された。今までは考えられないような機能が搭載された、“お手軽”なカメラだ。そして価格も安く、買えない金額でもない。さらには画質もなかなかとなれば、4Kの世界に興味を持ち始める人も出てくるだろう。今回は今年発売になったばかりの3台のカメラを紹介したい。Blackmagic Designの「Blackmagic Production Camera 4K」と、Panasonicの「GH4」、そしてSONYの「α7S」だ。

HR14_01_07.jpg

Panasonic DMC-GH4。待望のPanasonic初の4Kカメラとなった一台。オールインワンのデジタル一眼カメラとして大注目だ

3台の特徴としては、従来の4K撮影に比べて、より簡単に撮影が行えるというポイントがある。SONYのα7Sのみ内部で4K収録が行えなえないが、ワンマンオペレーションが可能なカメラたちだ。

HR14_01_08.jpg

SONY α7S。内部で4Kは収録できないものの、超高感度フルサイズセンサーを搭載した一台。HDMIインターフェースから4K出力を持ち、外部収録のスタイルで4Kの映像を手にすることができる

今回の特集では、それぞれの撮影スタイルや編集ワークフローを紹介できればと思う。実際に編集をしてみて感じたことは、HDさながらのフットワークの軽さでワークフローを組むことができ、いよいよ4K制作の裾野も大きく広がった!ということだ。誰もがHDと同様な方法で4Kを収められるようになることで、4Kコンテンツの充実が加速されるのでは?と感じている。早いうちに4K制作を始めることが、もしかしたらマネタイズも含め、多くの可能性をつかむチャンスなのかもしれない。

txt:江夏 由洋 構成:編集部


[High Resolution! 2014] Vol.02

WRITER PROFILE

江夏由洋

江夏由洋

デジタルシネマクリエーター。8K/4Kの映像制作を多く手掛け、最先端の技術を探求。兄弟でクリエイティブカンパニー・マリモレコーズを牽引する。