突然発表・発売になった次世代のミラーレス一眼

SONYから、ちょっと驚きのカメラが発売になった。それがフルサイズセンサー搭載のデジタルミラーレス一眼「α7S」だ。今年の4月に米国ラスベガスでおこなわれたNABで突然の発表となったα7Sは、会場でも大きな注目を集めた。何せISO感度を409600まで上げることができるという“超高感度カメラ”なのだ。

どこまでも暗い場所で撮影できるというのが一番の売りなのだが、何よりもHDMIインターフェースから4K出力を完備しているというのが、更なる特徴となっている。当然、内部収録で4Kを収められないとなると少し残念に思う人たちも多いだろう。何せ外部収録機器でHDMIからの4K映像を可能にするデバイスはそこまで多くないだけでなく、正直お手頃なものがないのが現状だ。しかしXAVC SによるハイビットレートのHD収録を搭載し、次世代のデジタル一眼動画記録を可能にした一台として、このカメラの可能性は計り知れない。

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超高感度のフルサイズセンサーを搭載したα7S。HDMIで4K出力も

異次元の超感度とS-Log2

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まずは簡単にこのカメラのスペックを紹介しよう。SONYのサイトで「圧倒的な高感度で新しい撮影体験を」と記されているように、異次元の最高ISO感度を実現している。常用でISO100~102400、そして拡張ISOで409600までの感度を設定できる。35mmフルサイズのセンサーに約1220万画素で、従来よりもセンサー内の画素ピッチを拡大。更に高集光プロセス技術を詰め込むことで、イメージセンサーの感度特性を約3倍に向上させることに成功した。つまりは、光が少ない室内や夜の撮影時でもノイズの少ないキレイな撮影が行えるというのが、このカメラの最大の特徴だ。

ISOの感度比較動画。いかにノイズが少ないかがわかる

そして最も嬉しいことは、デジタル一眼カメラとしては世界で初めて「Logガンマ」を搭載。SONYのS-Log2を動画で使えるのだ。前述のBlackmagic Production Camera 4KもBMD FILMというLogガンマを搭載しているのだが、αシリーズのように、大変コンパクトで機動力の高いミラーレス一眼カメラにS-Log2が採用されたことは大きなニュースである。これにより最大1300%というダイナミックレンジを手にすることが可能になった。

当然ピクチャープロファイルをS-Log2に設定して撮影を行うと、必ずポストプロダクションでカラーグレーディングが必要になるものの、例え内蔵のXAVC Sで収録したとしても10bit相当の色情報を収めることが可能になる。ちなみにS-Log2を設定すると、自動的にISOは3200以上になるのだが、ノイズで困ることはほとんどないだろう。難しいことはさておき、このカメラのもつ「超高感度」「ハイダイナミックレンジ」の特性を活かせば、今まででは有りえなかった美しい映像表現が行えるということになる。更に加えるならば、フルサイズセンサーが捉える、よりフィルムライクなボケ味が加わって、このカメラの持つ可能性は爆発的なものになると言えるのだ。

HR14_04_03_1b.jpg XAVC Sで撮影されたS-Log2の切り抜き
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1300%のダイナミックレンジをミラーレス一眼で手にすることができる

XAVC S記録で、非常に高いHDカメラとしての完成度

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多くの収録フォーマットに対応したα7S。但しほとんどの場合はXAVC Sになるだろう

動画のコーデックはAVCHD(Ver.2)とXAVC S、そしてMP4の3種類から選ぶことになる。ビットレートの低いAVCHDはカード容量を考えた上での運用では有効かもしれないが、やはり50Mpbsを誇るXAVC Sを選択するのがいいだろう。XAVC S規格は2012年にPMW-F55がリリースされた後に発表されたコンシューマ向けの次世代コーデックで、4Kまでのサイズに対応している。しかしα7Sの場合はHDサイズまでの収録となっており、60fpsまでをカバーする仕様だ。ちなみに1280×720の場合は、なんと120fpsまでのハイスピード撮影に対応しているとのことで、使い方次第によっては多岐に渡る映像表現が可能な一台と言えるだろう。ちなみにMP4は12Mbps以下の“超お手軽”動画記録となるため、あまり使用する機会はないと思われる。

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収録メディアはSONYのメモリースティックに加えSDカードにも対応している。但し、XAVC Sを収録する際は必ずSDXCカードのClass10以上でないと記録を行えないので注意が必要だ。64GBであれば、XAVC Sであっても2時間30分以上の収録が行えるので、撮影には十分な余裕があるといっていいだろう(連続記録は29分まで)。

ここまでの記述でも分かるように、HDサイズの撮影においては、おそらくその筐体の小ささからでは想像もできないような美しい映像を記録できるカメラであるというのは、誰もが頷くところであろう。実際にISO6400であっても、HDの映像には気になるノイズは殆ど確認できない。それどころか実際の目でみえるよりも「美しく」映像を捉えてしまうほど、このカメラのポテンシャルは恐ろしい。

現状では「挑戦」となる4K収録

ここからは我々が行った4K記録について記していきたい。まず結論から言うと、4Kにおいても素晴らしい映像を収録することができた。数学的には4KとHDにおけるノイズ量というのは、ビデオでいう6dBもの差があると言われる。つまり同じ映像であったとしても4Kの場合はHDよりノイズが多く発生してしまうということだ。にも関わらず、α7Sの4Kで収録された素材には、いわゆる赤い色が混ざる「嫌なノイズ」というのは非常に少なくて驚いた。ちなみにこのカメラのノイズ感というのがフィルムでいうグレインノイズのようなキレイなノイズなので、あえて気にするものでもないというのが非常に評価の高いところだ。

HR14_04_05b.jpg ISO12800で撮影した素材の切り抜き。暗闇で撮影したとは思えないほどキレイだ。この時点ではまだノイズリダクションは行っていない。下記はYouTubeの映像。その美しさをご覧頂きたい
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但し今のところ、4K収録を可能にする機材セッティングは少々煩雑になってしまう。α7SのHDMI端子から出力されるのはHDMI2.0規格によるUltra HDの30pと24pだ。これをそのまま4Kで収録するには、それなりの機材を用意しなければいけない。今回の撮影ではα7Sの高感度センサーが捉える映像を収録したかったため、どうしても夜の屋外での使用を考えていた。しかし4K周辺機器はどれも電源が必要ということで、カセットコンロ式の発動発電機を現場に持ち込んだ。

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カセットコンロ式の発発。4K収録のための機材はどれも電源を必要とする

今回使用した4K収録機はBlackmagic DesignのHyperDeck Studio Proである。SSDのスロットを2基搭載し、4Kの収録を30pまでカバーしている。PCレスで動かせるので、操作も非常に簡単・単純だ。収録コーデックはQuickTimeのProRes 422 HQで、ビットレートは約750Mbpsである。ここで工夫したのは、HDMIケーブルの変換だ。カメラの位置と、収録する位置はどうしても10m以上の距離が必要だ。被写体に対してカメラの機動力を上げる意味でも、モニタリングや収録を行うベースはカメラから切り離したほうがいい。HDMIの信号は10m以上だと減衰の恐れがあるため、SDIに変換する必要があるというわけだ。

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HDMIから6G-SDIへのコンバーターをつかって信号を変換

そこで登場となったのがBlackmagic Designの6G-SDI規格である。6G-SDIはSDIケーブル一本で4Kの信号を送ることができるもので、現状ではBlackmagicの4K製品に採用されている規格だ。今回は4K/HDMIの信号を6G-SDIに変換し、SDIケーブルを20mまで用意し、それをそのままHyperDeck Studio Proに入力した。6G-SDIはケーブル一本で4Kを取り回しできるのがとても魅力だ。HDMIから6G-SDIの変換はBlackmagicのコンバーターを使用し、HyperDeck Studio Proは6G-SDIに対応しているため、そのまま入力できるという仕組みである。またHyperDeck Studio Proには4K/HDMIの出力がついているため、DELLの24インチ4KモニターであるUP2414Qを繋げて、4Kモニタリングを実現した。

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6G-SDIを20m延長し、収録ベースへ。そのままHyperDeck Studio Proで4K収録。また4Kモニターを使って、4K解像度でのモニタリングも行った

4Kでも美しい超高感度撮影

ということで、少々機材の多い組み合わせとなってしまったα7Sの4K撮影であるが、収録時にはなんのトラブルもなく、撮影はとてもスムーズに進められた。基本的に日没後の暗闇の中、ノーライトの撮影に挑戦するということだったので、ISOはほぼ10000超えだった。常用でISO102400が最大ではあるが、暗闇でもISO25600で十分に被写体を捉えられ、その映像の美しさに現場で驚きの声があがったほどだ。ちなみに4K出力をONにすると、内部での収録はできなくなる。

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収録時の様子。暗闇の中での撮影となったが、カメラでは肉眼で捉えられない画をしっかりと収められていた

EFレンズを使ったレンズワーク

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Metabones社のレンズマウントアダプター。これを使用すればCanonのEFレンズをそのまま使用することが可能だ

夜間の撮影で更に工夫したのが“明るい”レンズを使うことだ。4Kの収録なので、フォーカス調整がかなりシビアになるものの、開放のF値がなるべく明るい単焦点のレンズ群を使用することで、露出を稼ぐことを意図的に行った。嬉しいことにα7Sはフルサイズのセンサーなので、CanonのEFレンズ群を使うことができる。これを可能にしてくれるのがMetabones社のEマウント-EFマウント変換アダプタだ。電子接点もあるため、本体でもアイリスコントロールを行える、大変便利なマウントアダプターである。一世代前のVer.2からαシリーズのフルサイズに対応しているのだが、今回はVer.3を使用。剛性もよくなり、フランジバックのズレも全く心配はいらなかった。使用したレンズは、CanonのLレンズシリーズで、EF24mm F1.4L II USM、EF35mm F1.4L USM、EF50mm F1.2L USM、EF85mm F1.2L II USMの4本で、どれもほとんど開放で使った。

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今回は単焦点の明るいレンズを多用した

意外にスムーズなポストプロダクションフロー

素材の編集は、4KのQuickTime(ProRes 422 HQ)になるので、Blackmagic Production Camera 4Kと全く同様である。但し、今回は敢えて暗所での撮影となったため、やはりノイズリダクションは強めにかけることになった。コンポジットは全てAfter Effectsで行い、ノイズリダクションはRed GiantのDenoiser IIを、色補正はAfter Effects内のトーンカーブだけで行った。

S-Log2での撮影だったのだが、暗部の黒がほとんど沈んでおり、単純にREC.709へのLUTは使用しなかった。ダイナミックレンジが広いため、暗所の撮影でも微妙な光の集積が画になっているのには、ちょっと感動だ。従来のワークフローだと、ノイズリダクションを行うとディテールが失われるため、かならずアンシャープマスクを使ってディテールを取り戻す。しかし今回のフッテージはそれをするとノイズが際立ってきてしまうため、弱めにアンシャープマスクをかけることにした。ちなみにスタジオでの撮影を行った際には、MacBook Proを経由して4K外部収録を行った。インターフェースには同様にBlackmagic Design社のHyperDeck Studio Proを、ストレージにはPromiseテクノロジー社のPegasus2を使用し、QuickTimeの4K非圧縮のレコーディングを行った。

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スタジオであれば4K非圧縮といった記録も行える。Thunderbolt2をインターフェースとしたPegasus2の高速ストレージが肝になる

4K収録を加速させる「SHOGUN」が登場間近

作品はYouTubeに4KでUPしたのだが、α7Sの注目度の高さか、再生回数も10万回を超え多くのコメントをいただいた。そのほとんどがα7Sの感度の高さと、4Kでもノイズの少なさへの高い評価だった。世界中でもこのカメラに対する関心が非常に高いことを示しているのではないだろうか。確かに4K収録には少し手間のかかるシステム構築になってしまうが、それを考えても手にできる画質の素晴らしさには変えられないだろう。

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ATOMOSのSHOGUNとの組み合わせたイメージ。4K収録がこのように“簡単に”行えれば、相当機動力のある美しい映像を手にできるようになるだろう

また朗報と言っていいことだが、9月下旬にATOMOS社から「SHOGUN」という4Kレコーダーが発売になる。このSHOGUNはバッテリー駆動する4Kレコーダーで7インチのフルHDモニターを搭載した、期待大の機材だ。もちろんα7SのHDMIアウトをそのままProResで収録することが可能になる。4K収録をする際に今回のように煩雑な設計をしなくてもよくなるということだ。ちょっと先の話になってしまうかもしれないが、α7Sの4K映像が「手軽」に撮影できるとなると、それはそれで無敵のコンビネーションになるかもしれない。いやはや今から秋が楽しみである。

txt:江夏 由洋 構成:編集部


Vol.03 [High Resolution! 2014] Vol.05

WRITER PROFILE

江夏由洋

江夏由洋

デジタルシネマクリエーター。8K/4Kの映像制作を多く手掛け、最先端の技術を探求。兄弟でクリエイティブカンパニー・マリモレコーズを牽引する。