[NAB2014もうひとつの視点]Vol.01 NABで浮き彫りにされる「4Kはどうやって放送するのか」
2014-04-21 掲載

4Kに向かって着々と進む準備
4Kに向かって業界は邁進中、といった感じがますます強まるNAB2014である。こうした流れは、撮影、ポストプロダクションという上流領域がNABで、表示装置である4KテレビがCESで、一昨年辺りから主要なテーマとして扱われてきた。今年のNABでは、これらの間をつなぐ、放送局内のシステムを4K対応させるための装置やシステム提案が多くなった。
っで、肝心な話である「4Kをどうやって放送するか」に関してはまだまだ明確ではない。まずはNAB2014の話の前に、各国の4K放送はどうなっているのかをざっと並べてみる。
■韓国
韓国は日本よりも4Kに関しては先行していたので、日本がこれに追従した形であったが、日本のスピードが加速したために、逆に韓国もこれに呼応して計画が前倒しになっている。
- KBSを中心に地上波民放3社(MBC、SBS、EBS)が2012年10月から12月に地上波で4K放送の実験を実施
- CES2013においてLGブースでは、KBSと共同で4Kのデジタル放送のデモを行った。さらに2013年5月から10月に第2弾の実験を実施。今後は2014年9月のアジア競技大会(仁川)で4K実験、2018年平昌(ピョンチャン)冬季オリンピックで8K実験の計画がある
- 4Kの地上波本放送開始時期を、当初予定の2016年から2015年12月に前倒す計画を発表
- ケーブルテレビ放送協会が2013年7月からケーブルテレビで4Kの試験放送を開始(MSO5社参加)。2014年7月頃より本放送開始予定
- 衛星放送KT SKylifeが2013年8月に衛星で4K放送の実験を実施。2015年より本放送を開始予定
■アメリカ
アメリカは、日本や韓国と比較すると4Kの「放送」に対する動きは遅い。これはアメリカにおける4K化の最大の動機はどちらかと言うと大画面化であって、高精細化が必ずしも主たる目的とは言えないことに原因があるようだ。そのため当面は端末側でのアップスケーリングで十分という考えがあるようで、地上波局に関しては今のところ4K化の動きは見えてこない。
- DirecTV
2015年ないし2016年の4Kサービス立上げの可能性を検討中。これは放送サービスというよりは、かつてサービスを行っていたファイルダウンロードサービスであるDirecPCをベースとした4Kコンテンツダウンロードになる模様 - Netflix
CES2014において、4Kコンテンツのストリーミング配信を2014年内に開始することを発表。LG、サムスン、パナソニックのテレビに4K配信を行うとCES2014で発表した - YouTube
すでに一部で4K配信を2013年から開始。ソニー、サムスンのテレビ向けに4K配信を行うとCES2014で発表した - Hulu
日本での事業を日本テレビに売却するHuluであるが、日本はもちろん、アメリカにおいても、これまでのところ4K化の話は出ていない - Comcast
CES2014において、2014年内にHEVCを使用した4K対応次世代STBをリリース予定と発表
■フランス
- 4EVER
フランステレビジョン(公共放送)、オレンジ(旧フランステレコム)、アテメ(エンコーダ)等、9つの産学が4Kの共同研究開発を2012年から3カ年計画で実施中
■イギリス
- UHDフォーラム
BBC(公共放送)とBSKyB(衛星放送)が中心となり、欧州の標準化団体や国内の放送局等と連携して、4K放送等の互換性(サービス、ネットワーク、端末)に関する要件を検討中 - BSKyB
4K放送の計画を進めており、2013年8月にサッカーの試合を4K画質で試験的に放送
4Kの「放送」に関しては、韓国と日本が先行しており、特に韓国は極めて積極的だ。NABでは日本のNHKにあたるKBSがブースを出展。2012年からの実績と今後のスケジュールについて説明を行った。これまではいわゆる完パケ番組を送出していたのに加えて、つい先日韓国のバスケットボールリーグのライブ放送に対応したという。9月に仁川(インチョン)で開催されるアジア競技大会でもライブ中継を行う予定だ。

※クリックすると拡大します
韓国の4K放送は日本のように衛星で行うのではなく地上波である。4K60pをHEVCコーデック35MHzで処理を行い、DVB-T2で送信する。試験放送は韓国のUHF ch66(782−788MHz)で行われている。KBSは、本放送の実現のために700MHz帯を割り当てるよう、政府に強く働きかけを行っている。放送開始は2014年12月を目指している、とブース担当者が熱く語ったのは印象的である。
先ほどの海外事例の中でもう一つ、NABで展示ブースを展開していたのがフランスの共同研究組織「4EVER」である。4EVERはフランス政府が推進しているプロジェクトで、フランステレビジョン(公共放送)、Orange Labs(フランステレコムの研究機関)、Institut Telecom Paris Tech(仏国立高等電気通信大学)、INSA-IETR(仏国立応用科学院レンヌ校電気通信研究所)、ATEME(帯域圧縮技術供給会社)、Team Cast(デジタル変調技術供給社)などが参加している。

HTML5ブラウザを利用した4K表示
展示はインターネット経由で4KをMPEG-DASHで圧縮、HEVCでコーデックし、HTML5のブラウザで視聴するというもの。OTTサービスを意識して、HTML5ブラウザ利用による汎用性と低価格を特徴としている。MPEG-DASHによってマルチデバイス向けにも対応している。他にはDVB-T2のよる4K60pのデモもあった。
日本の地上波デジタル放送の規格は欧州のDVB-T、アメリカのATSCとは異なるISDB-Tである。ISDB-Tの特徴の一つとして、13セグメント構造の採用によって携帯端末向けの1セグメント放送が12セグメントの本放送と共存できることだ。しかしこのワンセグが活用されているとは言いがたく、最近のスマートフォンやカーナビなどでは、ソフトウエアベースのB-CASによるフルセグ受信機も実用化しているのが現状である。このISDB-Tで4Kを送るのは…うーん確かに現実的ではない。
ということは、地上波は4K放送ができない。残された可能性は
(1)ケーブルテレビ
(2)衛星
(3)インターネット
(4)DVB-T2
くらいだろう。
(4)は相当なウルトラCだ。制度改正を含めて国の放送行政を変更する話になる。(3)は最も手っ取り早いが、地上波クラスのトラフィックを賄うネットワークインフラが大きな課題。(2)も現実的だがトラポンの空き枠をどうするか。幸いにして?地上波局はすべてCSでチャンネルを保有しているので不可能な話ではない。だが、この場合は全国1波になるので、ローカル局をどうするかという別の大きな課題がある。ローカル局を無くすというのはあらゆる点から見てあり得ない。(1)も比較的現実解と言えるが、問題は加入率というか接続の問題。相当な施策を打たない限り、4K地上波の視聴可能世帯数は今より減少せざるを得ないだろう。
NAB会場ではあらゆるフェーズで4Kが現実的なフェーズに入っているからこそ、どうやって家まで送るのか、具体的な指針が日本でも必要だと改めて感じた。従来であればこうした指針は国が示すもので、実際に4K8Kのロードマップは総務省から示されている。しかしこの中には地上波に関する言及は一切ない。この指針はもはや待っているものではなく、自ら作り出していくほかはないのだと思う。
txt:江口靖二 構成:編集部
[ Category : SPECIAL, NAB2014 ]
[ DATE : 2014-04-21 ]
[ TAG : NAB SHOW NAB2014 NAB2014もうひとつの視点]
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