txt:江口靖二 構成:編集部

さらに進む8Kの世界へ

NHKはノースホールの「NAB Labs Futures Park」という近未来技術の展示を集めたエリアに、今回も8K技術を展示した。シアター形式の350インチと22.2chの音声で、和太鼓の演奏や「東京ガールズコレクション2015」などのコンテンツを上映した。このクラスのサイズと22.2chのサウンドは、言うまでもなく圧倒的な迫力だ。また今回は同じコンテンツを85インチの液晶ディスプレイでも見ることができたが、これによって一つ感じたことがある。

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旗を振りかざすシーンは350インチでは風すら感じるが、85インチではそうでもない

太鼓の演舞で旗を振りかざすシーンでは、350インチと22.2chではまさに風を感じるかのような臨場感であった。一方、同じシーンを85インチのディスプレイで見ると、そこまでの息遣いは感じられない。350インチだと、かなり引いた広めのシーンでも、人物は等身大で表現できるが、85インチでは寄った絵ではないと等身大にはならない。8Kの超高解像度では本物の臨場感を得ることができるが、どうやらこれは実物大以上に表示された場合にいい意味の違和感がさらに臨場感を拡大させて、本物以上のインパクトを感じるのではないかと思った。

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13.3インチの有機ELディスプレイはやはり小さい

つまりシアターなどでは通常の画角でよいのだが、85インチくらいのサイズでは、通常よりはタイトな画角が生きてくるように思える。そしてこれらはサッカーのフィールドのような場合とドラマのような場合でも変わってくるに違いない。映画関係者からは、見えなくてもいいものまで見えるので必要がないという声もあるようだ。こうした議論は、今までとは別の次元の映像に関する議論になってくるのだろう。

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手術室などが当面の利用シーンとのこと

しかし85インチクラスのディスプレイが家庭で一般的になるかと言われれば、それは困難と言わざるを得ないだろう。そこで今回は、非常に小型のディスプレイも展示された。これはCAAC-OSという技術を用いて、13.3型の画面サイズで8Kを表示する有機ELディスプレイだ。CAAC-OSとは、アクティブ駆動用バックプレーンにCAAC-OS(C-Axis Aligned Crystalline-Oxide Semiconductor、C軸配向結晶性酸化物半導体)技術を用いたもので、半導体エネルギー研究所とシャープとの共同開発技術である。

これを見た印象は、案外いけるかもということだ。まだまだディスプレイ自体や再生環境には課題がある。しかし、これはあくまでも想像でしか無いが、おそらく人間の目では理屈上13.3インチといった小型サイズでは、4Kでも8Kでも認識できる情報は同じなのかもしれないが、元の素材の解像度によって印象が変わるのではないかということだ。表示先が同じであっても、元素材のクオリティーによって見え方が変わる。かつてアナログコンポジット放送の時代にテレビCMを35ミリのフィルムで撮影したものを4:2:2のD1デジタルでポスプロ処理した素材を、1インチテープで局納品してOAしていたが、明らかにクオリティーが違っていたのと似ているのかもしれない。こうした小型サイズで、同一素材を4Kと8Kのディスプレイで見比べてみたい気がした。

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85インチ8K120Hz

 また85インチ120Hzの制作環境とディスプレイ展示も行われた。噴水やサッカーの試合のシーンなどでは、120Hzの良さは一目瞭然となる。

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MMTの概念図 電波とネットが完全同期する

さらに直接は8Kの技術ではないが、NHKらが開発を進めているMMT(MPEG Media Transport)の要素技術展示も行っていた。デモ展示における利用シーンは、番組本編をテレビで視聴しながらCMになると属性に応じたCMをネット経由で同期させて表示させるというもの。これも民放的にはそう簡単には踏み込めない領域ではあるが、将来的には検討されて行く可能性は否定できない。このMMT伝送に関しては5月のNHK技研公開で実際に衛星からの電波を通じたデモを行うとの事だった。

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MMTのデモの様子

NAB_EX02_00940左が本線、右がネット経由で完全同期したCM(番宣)の出し分けされた映像

NAB会場内はまさに4K一色の感じだ。しかし人間の欲望というのは果てしないもので、4Kに見慣れてしまった目には8Kへの期待が高まってくるから不思議なものだ。やはりカギを握るのは伝送路の問題と家のテレビになり得るのか、という根本的な問題であることは間違いない。またそもそも4Kの放送に関しても先行きのビジョンははっきりしていない。まもなく示される4K/8Kのロードマップにも注目をしていきたい。

txt:江口靖二 構成:編集部


Vol.01[NAB2015もうひとつの視点] Vol.03