注目はLight Iron × Panavisionの8Kデモ

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8Kデモには毎回の周囲に多くの人が集結

今年のCine Gear会場で最も人気を呼んだのはおそらくパナビジョンのブースだろう。2000年代中盤までの開催では、いつも会場内でARRIと最大規模の出展ブースを構えていた映画機材専門のレンタル会社で映画用レンズメーカーでもあるパナビジョン。しかし2000年代後半になるとその影も薄れ、近年では身売りの話も出る等、その行く末が案じられていた。

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やはりPanavisionのロゴマークには誰もが映画を想像させる魔力がある

しかし昨年からパナビジョンが経営陣も入れ替わり業界にもその勢いを復活させてきた。今年は「Panavision」という名義での出展ではないが、Stage32の中のLight Iron社ブースに共同出展というカタチで、あの有名なロゴマークがCineGearに戻ってきた。そこで行われていたのが、注目の8K映像のデモ上映だ。これまでNAB等ではNHKが率先して8K上映をしてきたが、実験映像的なものはいくつかあれど、他社が8K映像の本格的なワークフローを元にデモ作品として上映したのはおそらく始めてではないだろうか?

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今年Digital Cinema ReportのCatalyst Award Winnerに選ばれた Pablo Rio 8K

正確に言えば、今回の作品はQuantel/Snell社のPablo Rio 8Kを使ってカラーグレーディングされた、Light Iron社の8Kグレーディングワークフローのデモである。そこにRED Dragonの新しい8Kセンサーを搭載したWEAPONを使用して、Panavision社の新しいプライムレンズシリーズ“Panavision Primo 70”で撮影した。

さらに、そのフッテージをいまや映像業界の風雲児として名を挙げているマイケル・シオーニ氏率いるLight Iron社がPablo Rio 8Kでカラーグレーディングを施し、上映ディスプレイも中国・北京に本社を置くBOE Technology社(京東方科技集団)の今年4月に発表された最新の98インチ/8K(QUHD=7,680×4,320)ディスプレイで上映するという、一気通貫の8Kワークフローのファーストデモである。ちなみにBOE社は4月の同時期に透明シート型の液晶ディスプレイなども発表し、近年の液晶技術では先端を行っている企業でもある。

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PanavisionのOn-setシステム“OUTPOST”も展示

8Kのデモ映像の内容は、およそ3分程度の自然のテクスチャーや夜景空撮をモチーフとした、昨年マイケル氏が作成したPanasonic VARICAM 35のデモフッテージに似た作風。そのテクスチャー表現の繊細さや、入念にグレーディングされた色調の度合いもさすがLight Iron社と言わせるものがあり、これまでの8K映像のクオリティを完全に凌駕するものだろう。

ただし現場では、8KPabloからの直接出力のため、かなりのデータ運用を強いられる環境であるためか、やはり何度か不可解なマシンダウン等のトラブルがあったようだが、いずれにせよHDRとともに次世代高画質の試金石となるデモであった。

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Primo 70のプライムレンズシリーズと8KカメラのRED WEAPON

その他、ブース内には実際にカメラに装着されたPanavisionのPrimo 70プライムレンズシリーズの展示の他、同社の新しいリグシリーズも展示公開。ARRI以上にいかにもアメリカ製的な堅牢かつフィルム現場を熟知した作りが関心を呼んでいた。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA ステディカムやスタジオセットなど使用用途に応じてフィットできるパナビジョンのリグキット

HDR/IMAXを前提とした「Tomorrowland」4K上映

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4名の著名なクリエイターが登壇するとあって大人気のイベントに。終了は深夜11時ごろになったとか…

展示会初日の夜に、メインシアターとなるパラマウントシアターでディズニーとソニーの主催により、ジョージ・クルーニー主演の新作映画「Tomorrowland」が4K上映された。この映画は、今後のデジタルシネマの行く末を占う意味でも非常にチャレジングな制作が行われた。まず4Kフォーマットでの撮影〜仕上げに加えて、通常のSDR(スタンダードダイナミックレンジ)に加えて、HDR上映を前提にしたハイダイナミックレンジとIMAX上映に対応、アスペクト比も通常のシネスコサイズである2.39:1ではなく、IMAX上映を前提とした、旧来からのIMAXの画角である2.2:1で制作されていることも興味深い。

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スタジオ内で最大のシアター施設、Paramount Theaterも当日は超満員で入場制限

この映画の撮影ではソニーF65が採用されたが、今回の4K上映前には、「Mr.インクレディブル」「レミーのおいしいレストラン」の2作でアカデミー長編アニメ賞を受賞している、本作の監督、Bred Bird監督。そして撮影監督でディビッド・フィンチャー監督の「ベンジャミン・バトン 数奇な人生」でデジタルシネマカメラ撮影で初めてアカデミー撮影賞にノミネート、さらに3Dで撮影された「Life of Pie」で同賞受賞の経歴をもつ、Claudio Miranda A.S.C.氏の2名のオスカー受賞者。それに加えて、本作のCo-ProducerでVFXディレクターでもあるTom PeitzmanやCompany 3のシニアカラーリスト、Stephen Nakamura氏の4名を迎えてのQ&Aとパネルディスカッションが行われた。

この中では、なぜF65が選ばれたのか?までが解説され、カメラ選定にあたりF65をはじめ、65mmカメラ、ビスタビジョンカメラ、35mmのフィルムカメラからRED、F55、ALEXA、果てはGoProまでと、ありとあらゆるカメラをテストした上で、この映画に最もフィットするカメラとしてF65を選択したという。

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Stage32に設けられたソニーブースには話題のSDR/HDR比較コーナーも設営

ソニー自体は、Stage32の中に大きなブースを出展。NABでも見せていた、業務用OLED4KモニターBVM−X300による、SDR/HDRのデモ映像コーナーを設け、その他カメラやアクションカム、またドローン系へのアプローチも独自に展開する等、積極的な展示を行っていた。

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SDR/HDR比較コーナー。BVM-X300もSMPTE ST 2084サポートに

txt:石川幸宏 構成:編集部


Vol.00 [Digital Cinema Bülow III] Vol.02