Panavision x Light Iron × REDが産んだ8Kデジタルシネマカメラシステム「DXL」

ハリウッド映画の歴史と技術をもう一度考えてみる

2月の特集を受け、今年2回目のDigital Cinema Bulowをお送りする。これまで幾度とデジタルシネマについて考えて来たが、今回も例年通り、この時期ハリウッドで行われる映画機材専門の展示会イベント、Cine Gear Expo 2016のレポートから見えたデジタルシネマの現況などを伝えて行きたい。例年通り、6月最初の週末に開催された(6月2日~5日、展示会2日間のみ)Cine Gear Expoは、映画撮影の現場機材とその関連製品を中心に、カメラや照明周りに特化したハリウッドの撮影関係者へ向けた展示会だ。

今年で21回目の開催を迎える。筆者も2006年からこの展示会の取材をはじめて11年目になるが、過去にはMGM、ワーナー、ユニバーサル、ソニー(元コロンビア)などメジャースタジオが毎年持ち回り制で巡回していたようだが、2009年以降はパラマウントスタジオ内での開催に固定されてきた。

パラマウントスタジオはハリウッド市のほぼ中央に位置し、有名な「HOLLYWOOD」サインからまっすぐ降りて来たGower st.とMelrose Ave.の交差点にある。チャイニーズシアターやハリウッドハイランドといったハリウッドのシンボル的な場所からも近い距離だ。

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開催両日とも好天に恵まれ、30℃を超えたであろう暑さの中、多くの来場者が訪れた

このパラマウントスタジオでCine Gear Expo開催直前の5月20日、ある特別なイベントが行われた。それは全米で今夏7月22日から公開となる新スター・トレックシリーズの第三弾「STAR TREK BEYOND」の公開を記念したファンイベントだ。TVと映画で1960年代から絶大な人気を誇るこのSFドラマ「STAR TREK(スター・トレック)」が最初に生まれた場所が実はここパラマウントスタジオなのである。

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各Stage(スタジオ)前には、そこでどんな作品が撮られたかが刻印してあり、Stage32には、1966~1969 STAR TREKの名前が!

イベント当日、会場には2009年から始まったこの新スター・トレックシリーズの初代監督であり、最新作の製作総指揮を務めたJ.J.エイブラムスをはじめ、メインキャストのカーク船長役のクリス・パイン、ミスタースポック役のザカリー・クイント、そしてドクターマッコイ役のカール・アーバンが登場、さらに初の本シリーズ監督を務めた「ワイルド・スピード」シリーズの監督で有名な台湾出身のジャスティン・リン氏など豪華メンバーが揃って登場し、新作に関する熱いトークが展開されたという。

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LEONARD NIMOY WAYと名付けられた、Stage32の前のストリート

そのイベント内でスター・トレックのファンにとっては重要な発表があった。実は、今回Cine Gear Expoが開催されたメイン会場NEWYORK Backlot(オールドニューヨークタウンセット)に併設する、Stage31、32の2つのスタジオは、1966年に放映開始された初代スター・トレックのTVシリーズが撮影された、まさにスター・トレック生誕の聖地なのである。

そしてCine Gear Expoではソニー、ARRI、パナソニックなどが出展する室内展示のメイン会場にもなっている。このスタジオ前のストリートが先述のファンイベントで、初代ミスタースポック役の名優レナード・ニモイ(1931-2015)氏の名前をとって新たに「LEONARD NIMOY WAY」と名付けられた。その命名以降、今回のCine Gear Expoが、一般人がその名を目に触れることができる初のイベント開催となったわけだ。

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セミナーやシアター会場へ抜ける道が、MICHAEL BAY Ave.

ちなみに広いパラマウントスタジオの中でも固有人物の名前が命名されているのは「アルマゲドン」「トランスフォーマー」のマイケル・ベイ監督の「MICHAEL BAY Ave.」のみ。それぞれがパラマウントスタジオに大きく貢献した表れなのであろう(余談ではあるが、ニモイ氏が1988年に再婚した女優スーザン・ベイは、奇遇にもマイケル・ベイ監督の従姉妹)。

こんなエピソードが身近に存在し、ハリウッド映画好きであれば、長いその歴史的な時間の中をタイムトラベルするような感覚に否が応でも引きずり込まれるのが、Cine Gear Expo参加への醍醐味の一つだとも言える。

過去の映画制作ノウハウが、新たなデジタルシネマ制作に貢献する

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Panavisionのブースには、新型カメラをいち早く確認しようと朝から多くの来場者が訪れた

さて、今年のCine Gear Expoでは、映画撮影関連の新製品や関連イベントにも、ハリウッドの長い歴史を肌身に感じることができる瞬間が多くあった。最も大きな話題を呼んだのは、Panavision社から突如発表された「Millenium DXL」カメラだろう。Panavisionは長きに渡ってハリウッド映画製作の中心にいる。とりわけ65mm、70mmといった大型映像用レンズ資産は数知れず、映画用レンズメーカーとしては世界最大だろう。

Cine Gear Expo開催当初から出展企業では業界最大手として大きな出展をしてきたが、映画撮影がデジタルに移行し、DSLRムービーなどの普及で、ダウンサイジング化が図られて以降、Cine Gear Expoへの出展を控えていたが、昨年からRED Digtal Cinema、Light Iron、Quantelらとともに8Kソリューションワークフローを出展。そのコラボレーションから生まれた新型8Kカメラ「Millenium DXL」を今回発表するに至った。過去の資産と最新のテクノロジーが凝縮された現在のデジタルシネマカメラの理想型カメラは多くの撮影監督、カメラマンの注目を集めていた(▶Vol.01)。

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ソニーF65で撮影された、ウッディ・アレン監督の最新作「Cafe Society」はDPXでのプレミア上映が行われた

その他、ソニーからはOVER4K、120fps等に対応する新しいファイルフォーマット「X-OCN」が発表された。またスクリーニングイベントでは、ソニーF65/4Kで撮影されたウッディ・アレン監督の最新作「Cafe Society」を上映。しかも通常のDCI上映ではなく、RGB非圧縮DPXで上映されたり、今回もメインスポンサー(Gold Sponsors)にブラックマジックデザインとともに名を連ねるなど、ソニーがこのCine Gear Expo=ハリウッド映画業界において、かなり力を入れて来た感が強く感じられた(▶Vol.02)。

その他では、他のイベント同様にDJIが比較的大きなブースを出展して来たり、それに反比例するかのように、昨年まで盛り上がりを見せていた中小のドローン関係企業の出展が減り、また各種シネマレンズ関係の出展が増えた。一時期のDSLR関係の小型カメラ用リグやサポート製品群も、群雄割拠するなかで次第に淘汰・整備され、安心品質の定番メーカーに絞られてきたようである。また今年は新たな照明関係の出展も多く、かなり企業数も増えたことなど、毎年微細ながらも変化する出展事情に、いまの映画業界の変遷ぶりを垣間みることができる。

年々参加人員と参加企業が増え、海外からの出展、来場者も増えているが、いずれにせよ、過去の映画に関わる歴史が長く深いハリウッドにあって、その中心で行われるCineGearExpoには、それ相応の意義が毎回確実に感じられる。

■特集:Digital Cinema Bülow V Index

txt:石川幸宏 / 猪川知紀(編集部) 構成:編集部


[Digital Cinema Bülow V] Vol.01