際立つソニーの存在感

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マウント改良バージョンのF65には、パナビジョンPrimo70シリーズレンズを装着

Cine Gear Expo 2016で特に目立ったのはソニーの存在感だ。ここ数年のゴールドスポンサーとしての参加はもちろん、F65をはじめとするシネマカメラの技術発表や4Kコンテンツのシアター上映とVIPを呼んでのイベントなどを積極的に開催するなど、イベントの盛り上げ役として牽引して来た感があるが、今回は入場バッヂのストラップがソニーのロゴ入りにするなど、Cine Gear Expoでのソニーの存在感をますます強めていたのが印象的だ。

そして今年の大きな発表として、デジタルシネマ向けの新たなファイルフォーマット「X-OCN」のベータ版が発表があった。

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これは16bitの諧調を保ちながらも、RAWでもなく、Logでもなく、さらにビデオファイルでもないという、現時点ではまだ未知のファイルフォーマットで、その詳しい内容も全く明らかにされていない。このX-OCNについては、関連セミナーが展示会初日の3日に行われたので参加してきたのだが、その中でも文章的には、X-OCN=16bit Extended Tonal RangeーOriginal Camera Negativeの略であり、ソニーの新たなファイルフォーマットであること。F55、F5のセンサー用として設えたユニークなファイルフォーマットで、16bitの諧調を保ちつつも、従来のF55のRAWよりも20%~30%程度、データ量を抑えて軽く扱えること。そして今夏に発売予定のF55用の新型RAWレコーダー「AXS-R7」から正式搭載される予定であること、などが発表されたが、具体的なファイル構造などは一切明かされなかった。

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X-OCN=16bit Extended Tonal RangeーOriginal Camera Negative

関係者筋によれば、4月のNAB時点ですでにAXS-R7の発表と同時に、どこかでは少し見せていたようなのだが、プレスにもこの存在は公表はされず、ベータ版の技術発表という形での今回のCine Gear Expoが正式発表になったのだという。

また4月の時点で何社かのカラーコレクションツールメーカーに対応を依頼したところ、この6月時点で、FilmLight社のBaselight、Colorfront OSD、そしてブラックマジックデザインのDaVinci Resolveがすでに対応してきており、ソニーのRAW Viewerとともに会場のブースではすでにデモを見ることができた。実際に見た感じの画は非常にワイドダイナミックレンジの再現性に富んでおり、今後の4K×HDR×120Fpsといった重負荷が掛かる映像データにとっては非常に興味深いファイルフォーマットになりそうだ。

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X-OCNのワークフローコーナーでは、ソニーRAW Viewerのほか、すでにBaseLight、Colorfront、DaVinci Resolveがネイティブ対応

16bit RAWの諧調をなんとか保ちつつも、データ量などのマシンに負荷が掛かる部分をなんとか軽減してほしいというのは多くのポストプロダクションが切望しているわけで、そこに近づけるべく開発されたX-OCNが、今後どこまで実働でその実力を見せてくるのか?今年後半の展開に期待したい。

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セミナーで公開されたやや曖昧なグラフだが、16bitデータを軽く扱えるという特性は見て取れる

“Wrighting with Light”光の巨匠が見せるデジタルシネマ最新作

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ヴィットリオ・ストラーロ氏の登場とともに会場はスタンディングオベーション!

ここ数年、ソニーはパラマウントスタジオ内にある最大のシアター“Paramount Theater”で、最新の4K作品などのプレミア上映を行っているが、今年の作品発表のインパクトはこれまでにないものだった。

今回紹介されたのは、ウディ・アレン監督の最新作「Cafe Society」。これがソニーF65で撮影され、さらに撮影監督にはウディ・アレン監督とも初顔あわせとなる、アカデミー3度の受賞経験を持ち、「光の魔術師」の異名を持つ名匠Vittorio Straro(ヴィットリオ・ストラーロ)氏を迎えたからだ。ストラーロ氏はその光と影の表現、色彩の絶妙な調整で芸術的と言える世界観を作り上げる撮影監督として有名だ。同じイタリア出身で同じ歳のベルナルド・ベルトルッチ監督とのコンビで「ラストタンゴ・イン・パリ」「1900年」「ラストエンペラー」などを手がけ、フランシス・コッポラ監督の「地獄の黙示録」の撮影監督としてあまりにも有名。この「地獄の黙示録」(1979年)と「レッズ」(ウォーレン・ベイティ監督 1981年)、「ラストエンペラー」(1987年)で、3度のアカデミー撮影賞を受賞している。

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「Cafe Society」の撮影現場の様子を語るストラーロ氏

ヴィットリオ・ストラーロ氏といえば、やはりWrighting with Light!(光で書く!)ー光の巨匠として知られ、また色は物体の象徴であるとする彼の撮影哲学は、多くの他の芸術から育まれた膨大な研究と知識から構築されており、その実績と技術が多くの後輩カメラマンから支持されてきた。近年撮ったカラヴァッジョの作品でも、その撮影に向かったときのカラヴァッジョへの深い研究と知識が話題となった。現存するカメラマンの中で映画撮影、映像撮影における第一人者であり、レジェンドであることは間違いない。

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開催初日の夜にプレミア上映された「Cafe Society」のポスター

会場には、御歳75歳のヴィットリオ・ストラーロ氏が生出演で登場、しかもソニーF65という最新のデジタルカメラで撮った最新作を自らが解説し、フィルムで撮り続けて来た奇才ウディ・アレン監督とコンビを組んだというから、これだけでも大きな話題なのである。さらに驚かされたのは製作会社がなんとAmazon Studioということで、2人の映画界の至宝×最新テクノロジー+最新ビジネスモデルで映画製作が行われたという、なかなか興味深いコラボレーションが実現したわけである。

今回の作品は1930年代のハリウッドを舞台に、映画華やかり黄金期の熱狂に巻き込まれて行く青年の恋愛を通じて、ハリウッドの虚実の実態が解き明かされていくというもの。その映像も今回はDCIではなく、非圧縮DPXでの上映となり、一段と美しい映像がスクリーンを飾った。このプレミア上映が始まる前にウディ・アレン監督からのメッセージビデオも流され「自分がまさかデジタルで映画を撮るようになるとは思わなかった…」といった発言もあったが、まさに様々な意味でも奇跡のコラボレーションが実現したわけである。

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講演後に多くのファンに囲まれるストラーロ氏

当日に語られたストラーロ氏の解説やエピソードは、多くのカメラマンを魅了し、興味深いものだったに違いない。また2日目にもストラーロ氏は単独講演に登壇、その終了後、会場から出てくるや否や多くのファンに囲まれ、サインや写真撮影をせがまれていたが、老若男女問わず誰にも嫌な顔など一切せずに丁寧に一人一人に対応して話を聞いていたのがとても印象的だった。本作品の日本公開が待ち遠しい限りだ。

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txt:石川幸宏 / 猪川知紀(編集部) 構成:編集部


Vol.01 [Digital Cinema Bülow V] Vol.03