会場となったアナハイムコンベンションセンター
txt:安藤幸央 構成:編集部

VR映像が大流行り。SIGGRAPHはより多角的な展開へ。まずはCAFの紹介

SIGGRAPH(シーグラフ)は世界最大のコンピュータグラフィックスとインタラクティブ技術に関する学会・展示会である。第43回となるSIGGRAPH 2016が7月24日から28日の5日間、米国アナハイムコンベンションセンターで開催された。アナハイムでのSIGGRAPHは、2013年に開催されて以来となる。1万4000人を超える参加者を73ヶ国から迎え、発表者の数も総勢1760名という情報量、展示量も膨大なカンファレンスであった。昨年から予兆はあったが、今年は特にVR関係の勢いがあり、新しいハードウェア、最新の研究、工夫をこらしたコンテンツといい、会場のあちこちでVRの話題が広がっていた。

それでは初代ディズニーランドの地でもあるアナハイムより、まずコンピュータアニメーションフェスティバル(以下:CAF)から紹介しよう。

今年のCAFでは、昨年までのカテゴリ分けと若干異ることとなった。「BREAK IT DOWN」という映像のメイキングにまつわるもの「THE ARCADE」というゲーム映像にまつわるもの「>DEMOSCENE_」という少しふざけた表記の、サイズの小さな映像生成プログラムであるデモシーンにまつわるもの「WINNDER’S CIRCLE」という過去7年間からのCAF受賞作品の再上映という4種類の分類だ。CAF入賞作の中からよりすぐりの作品が毎晩上映されるElectronic Theaterでは、そのうち25作品が2時間にわたって上映された。上映には昨年に続きスポンサーであるクリスティデジタルの最高峰のプロジェクタ「CP4230」が用いられた。

毎年好例の、CAFの目玉となるPixarの短編作品上映は、愛らしい小鳥の小さな冒険を描いたAlan Barillaro 監督の「Piper」(注:笛を吹く人という意味)、さらに体の中の器官を独立したキャラクターとしてコミカルに描いたWalt Disney Animation Studiosの「Inner Workings」が、このSIGGRAPHで一般には初公開となり、会場でもおおいに拍手喝采を浴びていた。

「Piper」予告編

またCAFのカテゴリの中にはReal-Time Live!というゲーム映像や、VRなど、リアルタイムでCG映像を生成して活用するもの、Production Sessionsという映画やゲームのメイキングセッションもCAFの中に含まれる。その中でも大きな話題をさらったのは、Real-Time Live!の発表会場で「Best Real-Time Graphics and Interactivity賞」を受賞した「From Previs to Final in Five Minutes: A Breakthrough in Live Performance Capture(訳:ライブパフォーマンスキャプチャで現状突破。5分でプレビズから最終映像に)」であった。

SIGGRAPH会場でのReal-Time Cinematographyの実演と制作システムの解説

SIGGRAPH2016_P7271278 左画面が生成中の映像、右側の画面がフェイシャル+全身キャプチャ中の女優さんと、バーチャルカメラ用のリグを構えるカメラマン
映像制作を担当したNinja Theoryのサイトに、さらに詳しい解説あり

このリアルタイムデモストレーションはタイトル通り、たった5分間であらかじめ用意した試作/テスト用の簡易映像であれるプレビズを、ファイナルと呼ばれる最終品質の映像にしてしまうというもの。デモは、全身のモーションキャプチャーと顔全面のフェイシャルキャプチャと音声集録用の機材を装着した女優さんが1名、CG映像空間内でのカメラ撮影を担当するバーチャルカメラ用のリグをかかえたカメラマンが1名待機し、女優さんは1人で2役をこなすというものであった。

システム構築を担当したのはEpic Games、Ninja Theory、Cubic Motion、3Lateral Studio。映像生成には、高画質の汎用ゲームエンジンとして知られるUnreal Engine4が使われた。まず最初に1人目の演技をリアルタイムで集録し、声に加えて顔と体のモーションキャプチャのデータが、瞬時にCG映像内のキャラクタに反映する。その収録後の映像に追加する形で、2役目の動きも集録してしまうのだ。もちろん綿密な準備が必要で、事前準備には7週間かかったとのこと。技術的には現在の技術で充分可能であることは誰の頭でも理解できることなのだが、ほんとうに数分で高品質な映像がなんともスムーズに完成してしまい、会場からは賞賛の拍手喝采であった。

何も無いところで、顔中に照明を浴びながら迫真の演技を、それも役どころを変えながら何度も演技しなければいけない女優さんも大変であるし、小さなプレビュー画面で確認し、何も無い背景を想像しならが撮影しなければいけないバーチャルカメラのカメラマンも相当な習熟が必要と思われる。けれどもその苦労を払拭してしまうほどの、リアルタイム性の高い高品質の映像作成の手順をSIGGRAPH参加者は、まじまじと見せつけられたのであった。

Computer Animation Festival受賞作品

■Best in Show(最優秀賞)

作品名:Borrowed Time(アメリカ)
監督:Andrew Coats, Lou Hamou-Lhadj
公式サイト

荒野にたたずむ保安官の過去の悲しい出来事と、それを乗り越える想いを描いた作品。


■Jury’s Choice(審査員賞)

作品名:Cosmos Laundromat(オランダ)
監督:Ton Roosendaal
公式サイト

落ち込んだ羊と、奇妙なセールスマン、ベクターとの風変わりなストーリー。長編作品を作るためのパイロット版として作られた短編作品。この映像作品はBlenderという無料の3DCGソフトのコミュニティが主導の映像作品プロジェクトとして作られたもの。


■Best Student Project(優秀学生プロジェクト賞)

作品名:Crabe-Phare(フランス)
監督:Mengjung Yang, Gaëtan Borde, Benjamin Lebourgeois, Clarie Vandermeersch, Alendandre Veaux
公式Facebook

船舶をコレクションしている巨大で老齢なカニのお話し。フランスのアート系の学校ルビカの学生チームによる作品各種映像祭で多数の賞を受賞している。独得の色合いと、雰囲気を持った美しい作品。


■日本からのElectronic Theater上映作品

作品名:Tokyo Cosmo(日本)
監督:Takuya Okada(ストーリー、ストーリーボード)Takahiro Miyauchi(監督、CG)
公式サイト

東京で生活する一人暮らしの寂しいOLの日常と、その生活の中での妄想を描いた、コミカルなアニメーション作品。CGプロダクションに勤めるメンバーによる自主制作作品。

その他のCAF注目作品と、リアルタイムグラフィックス作品は、続くレポートで紹介する。

txt:安藤幸央 構成:編集部


[SIGGRAPH 2016] Vol.02