新たな撮影スタイルを実現する製品群が登場

映像制作の現場では、ますます多様性に富んだ撮影スタイルの変化と拡張が止まらない。性能・スペックという点では、一昨年あたりからの、小型・実用4Kカメラの登場と定着により、解像度の仕様はすでに4K標準化が定着したように思う。

さらには8K、HDRといった技術に進もうという機運もあるが、解像度などのスペックではなく「表現力」と「個性」という部分が話題に上がってくるようになった。画像のルックや描写力、色調などの雰囲気といった言葉で表される、スペックなどでは計れない画質部分が、クリエイターやカメラマンの間でも話題に多く上がるようになり、それを実現するツールにも目が向けられるようになってきた。

また一方では、プロ市場で恒常的に求められるバランス感覚へのシビアさも重要だ。映像コンテンツの制作費の低価格化は以前から進んでいるものの、例えば制作された映画本数は過去最多になっているという現実もある。そこで使用される製品は様々なバランスを考慮したものが選ばれる。いくら機能やスペックが高くても高価格では受け入れられず、低価格でも基本機能がお粗末ならば、すぐに飽きられてしまう。そんな市場でのバランスを上手く内包した製品が、今の市場にフィットしていると言えるのかもしれない。

製品傾向としては、まずミッドレンジクラスのシネマレンズが今年後半の盛り上がりとして話題となった。特にキヤノン、トキナー、KOWAなどに続いて、国内メーカーからシグマが本格的に映像業界向けの製品を出してきたことは、夏期以降の大きなニュースだった。またカールツァイス、アンジェニューといった海外のレンズメーカーからも、スーパー35mm市場にあわせた、このクラスの高性能レンズを発表してくるなど、今年後半はシネマレンズの世界が一気に広がった。

また新たな映像市場を喚起させるような、ミニAVミキサーやメディア・デュプリケーターなどのライブ配信&ディストリビューションソリューション製品の台頭や、さらにここ数年のドローン、ジンバルなどのブームに加えて今年はDJI、GoProからもさらに小型で性能も大きくアップしたドローンカメラ=フライングカメラが登場したことも話題になった。

2016年のPRONEWS AWARD/プロスーマ・ネクストソリューション分野では、市場バランスにフィットして汎用性もさらに広げる製品群から、新たな撮影スタイルを実現する製品、シネマレンズ新製品、新しい映像クリエイティブを支援する、新規業界参入者でもアイデア次第で面白い映像が作れるような、使い勝手重視の機材を中心に選出した。

PRONEWS AWARD 2016 プロスーマ・ネクストソリューション部門ノミネート製品

  • DJI ハンドヘルドジンバル Osmo Mobile
  • DJI フライングカメラ MAVIC PRO
  • ブラックマジックデザイン Blackmagic Duplicator 4K
  • 富士フイルム デジタル一眼カメラ X-T2
  • シグマ シネレンズシリーズ
  • キヤノン シネサーボレンズ CN-E 18-80mm T4.4 L IS
  • ローランド AVミキサー VR-4HD

何が受賞するのか…?

PRONEWS AWARD 2016 プロスーマ・ネクストソリューション部門受賞製品発表

プロスーマ部門
ゴールド賞
シネサーボレンズ CN-E 18-80mm T4.4 L IS

キヤノン

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今年のNABで発表され、秋に発売されたCINEMA EOS SYSTEM EFシネレンズラインナップの新シリーズ「シネサーボレンズ」の最初の1本が、このCN-E 18-80mm T4.4 L ISだ。焦点距離4.4倍ズームの全域で絞り値T4.4を実現。シャープな描写力を誇るキヤノンの放送用レンズのノウハウを思う存分注入しつつも、シネマレンズとしての仕様も併せ持つハイブリッドレンズが完成した。全長182mm/1.2kgの小型軽量で価格も税抜70万円というジャストレンジなプライスは、大判センサーカメラを持つ業務用レンジカメラマンには必携のアイテムとなりそうだ。

フォーカスリングがハードストップでないことなど、キヤノン独自のデュアルオートフォーカスを活かすための工夫がされていることから、一般のシネマレンズとは若干使い勝手が変わってくるかもしれないが、ワンマンオペレーションで、ドキュメンタリーや企業VPなどの制作現場では、これ1本でかなりの仕事をこなせるレンズだ。同社のEOS C300 Mark II、C100 Mark IIなどのカメラはもちろんのこと、Blackmagic URSA mini、JVC GY-LS300CHなど、スーパー35mmセンサーカメラでのクリエイティブの幅を広げる1本であることは間違いない。使い勝手、価格、描写力ともに現行の業務用レンズの新時代を切り開いた。

プロスーマ部門
シルバー賞
スマートフォン用ジンバル Osmo Mobile

DJI

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昨年発表されたOsmoのカメラ部を取り払い、近年ますます高機能になったスマートフォンのビデオカメラ機能を助長するための、安定したハンドヘルド撮影を提供するワングリップのジンバルシステム。Osmoの基本機能である3軸スタビライザー機能はそのままにカメラを取り外し、手持ちのスマートフォンを装着するだけ、というスタイルで簡単に安定した撮影が可能になる。

またDJI社が提供するアプリケーションソフト「DJI GOアプリ」と連携することで、被写体を自動追尾するアクティブトラック機能やタイムラプス撮影、長時間露光撮影、パノラマ写真機能、ライブストリーム配信などの機能拡張が可能になる。まだ細かいアプリの改善は必至だが、スマートフォン自体の進化が著しい現況において、このOsmo Mobile+スマートフォンの動画コンテンツは、今後の映像制作の進展においても、非常に期待できるものだろう。

総括

プロスーマ・ネクストソリューション分野としてこのところ注目なのは様々な特機の進化だ。ここ数年、進化し続けて来たドローンやジンバルなどのカメラスタビライザーは、一応の安定期に入ったと思われる中、拡大する市場の幅を意識し、様々なレンジのユーザーが使用できるような製品バリエーションが増えている。

そして今年最も目立ったのがレンズ分野だ。2010年以降に起こったDSLRムービー、そしてスーパー35mm以上の大判センサーカメラの台頭、また4K、8Kへの進展により、それに対応するレンズ不足が叫ばれて来た。今年になって現況の市場要望に呼応するレンズ製品が各社から出て来たことは、全レンジのカメラユーザーにとって喜ばしい出来事だろう。なによりレンズの選択肢が広がることで、表現の幅が拡がることは映像制作業界にとって最も好ましい。来年はさらに多くのメーカーの参入やアナモフィックなどハイエンド映像制作向けにも新たなレンズが出てきそうな気配もあり、今後も拡大するレンズ市場に目が離せない。


Vol.01 [PRONEWS AWARD 2016] Vol.3