txt:安藤幸央 構成:編集部

制作過程を洗いざらい公開。メイキングの話題がいっぱいのプロダクションセッション

プロダクションセッションは、最新のCG技術/VFX技術を紹介するセッションだ。いわゆるメイキングや、”Behind the Scene”と呼ばれる制作の裏話などが惜しげも無く公開される。なかには現在公開中の映画の映像も含まれるため、セッションの内容の録画、録音、写真撮影は報道関係者も含め完全に禁止だ。

なお、セッション開始時にアナウンスされる撮影禁止のお願いは、世界各国の言葉で表示されるのだが、ILMのセッション時には「スター・ウォーズ」のチューバッカのウーキー語で「がるるる がるるる がるるー」みたいに書かれていたり、ピクサーのセッションでは、映画「カーズ」に登場する車のように「ブルルン、ブルーン、カチャウ!」みたいに注意書きが書かれており、会場の笑いを誘っていた。

全体的に、どのメイキングも、実際の制作の前段階の試作や調査にとても手間をかけていること、CG映像といえども「リファレンス」と呼ばれる実世界のさまざまなものを、素材として綿密に参照しながら制作してることが伝わってきた。


■Crazy Eight:The Making of a Race Sequence in Disney/Pixar’s “Cars 3”
ディズニー/ピクサー「カーズ3」メイキング

予告編

メイキング動画:CGRecordによるもの

今回のメイキングでは、劇中の重要シーンのひとつである「どろんこラフレース」の部分が紹介された。実際の制作の前には、数多くの調査から始まり、まずは全米のカーレースを見て回ったり、YouTubeにあるレースの動画を分析し、どのように車が壊れるのか、どのように凹むのか、どのように車が潰れてクラッシュするのかを調べていった。その上でカートゥーン的にどうクラッシュしたら雰囲気が出るのか、クレイモデル(形状を確認するために粘土で作られる縮小モデル)に紙を被せたり、紙の箱を潰して実験したりした。

また、車体のペイントも実際にスプレー缶を使って、グラフィティ風の乱暴な文字を描いて、その画像をスキャンして文字ライブラリを用意して使っている。頻繁に参考にしたのはEast Alabama Motor Speedwayというアラバマ州にある土のコースで、土ぼこりで汚れた車や、車輪の跡の轍(わだち)、コースの脇に枯れ葉が積もった様子を真似ながらCGで再現しているそう。

「どろんこラフレース」のシーンはCrazy8と呼ばれる八の字型のコースを描いたもので、全部で160ショット、映画内では8分のシーンだが、通常のシーン以上に手間をかけ、臨場感を出すために様々な試行錯誤が行われていたことが分かった。


■ILM Presents:Behind the Magic,the Visual Effects of “Rogue One:A Star Wars Story”
ILM「ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー」メイキング

メイキング動画:BBCによるもの

ILMのメイキングは、昨年公開された「ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー」より、ドロイドK-2SOの映像制作、宇宙船の模型制作などに関するメイキングが紹介された。セッションの冒頭では、Photoshopの開発者の一人として伝説となりつつもいまだ現役のJohn Knoll氏から、ローグ・ワンの特殊効果カットが全部で1697カットあり、それらを2年間、特に後半数ヶ月でほとんどを制作したという苦労話から始まった。

今回の「ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー」であらたに登場した背の高いドロイドK-2SOは、見た目はメカニカルだが、映像としては全てCGで作られており、実写用の実物大模型は使わず、旧作の「スター・ウォーズ」にでていた脇役のドロイドや、座席が動くジェット機の航空シミュレーターの脚など参考にデザインされた。

K-2SOの稼働部は、最初のコンセプトデザインとは多少異なり、肘や肩、膝などの間接や、既存のロボット技術や機械工学に基づいて現実感があり、実際に稼働可能な構造に修正されていったそうだ。また、単純ながらも目の表情でコミュニケーションできることを考え、目が動いたり、瞳が開いたり、閉じたり、まぶたもあるような、人間と同じ目の構造で作られている。

K-2SOの実際の動きは、スタント俳優によるモーションキャプチャで集録されているが、背の高さが異なるため、脚の長さを拡張する竹馬のような靴を取り付けておこなわれた。また、歩くのが難しいところでは、顔のお面がついたリュックをしょっての集録がおこなわれた。

ローグ・ワンで登場する宇宙船に関しては、現存する旧作の模型を参照し、すべてをカラースキャンして色や形状のライブラリを作成し、作業を進めた。そこで役に立ったのは、サンダーバード2号などのプラモデルで、旧作の「スター・ウォーズ」では市販のプラモデルの部品を切り貼りして模型を作成していた。寄せ集めだったが、なかなかのディテールが表現されていた。いろいろ調べた結果、模型の素材としてはタミヤのフェラーリ、バンダイのキングタイガーなどのプラモデルが使われていることがわかり、それらのパーツを3Dモデル化し、CGツール上で簡単に使えるよう、準備がなされた。また、模型の撮影には画角が分かり易いよう、タブレット端末で動作するバーチャルカメラが用いられた。


■Valerian and the City of a Thousand Planets
Weta Digital,ILM,RodeoFXによる「ヴァレリアン」メイキング

予告編

メイキング動画:FRESH Movie Trailersによるもの

SF映画「フィフス・エレメント」などで知られるフランスの監督リュックベッソンによる新作SF映画。ちょうどSIGGRAPH会期中に近くの映画館でも上映が始まっていた。映画「ヴァレリアン」を見て「スター・ウォーズ」そっくり!と言う人がいるが、実は、映画ヴァレリアンの原作となるコミック(正確にはグラフィックノベル)の方が「スター・ウォーズ」よりも先で、「スター・ウォーズ」がヴァレリアンの世界観を真似ているとも言われているのだ。

プリビズ(実際の映像制作の前に、ラフなCGで3Dのストーリーボードを作成し、撮影やCG制作の指針とするテスト映像)の作成は、主にRodeoFXが担当、CG/VFXはロードオブザリングで知られるWeta Digital、スター・ウォーズで知られるILMなど、総勢800名以上がかかわって制作された。

映画の中で、バーチャル世界を探索する“BIG MARKET”というシーンがあり、撮影は全てスタジオ内のブルースクリーン撮影で、風を送りながらの撮影であった。“BIG MARKET”の街中の配管、ネオンサイン、エアコンなどの家電機器などいろいろな物体は、現実世界のいくつかの街を参照し、それぞれをモジュール化して扱えるように準備、スーパーマーケットに陳列されているものは、すべてコピー&ペーストで増やして準備した。マテリアルライブラリも用意され、ある素材の雰囲気がざまざまな物体に当てはめることができるように準備された。また、さまざまなキャラクタが身につけているものも分解して用意してある。“BIG MARKET”には全部で200万のキャラクタと、34000の店がひしめき合っているそうだ。

宇宙ステーションのシーンは、コンセプトアートをもとに1977年の実在の宇宙ステーションのドッキング風景にはじまり、2020年、2050年を想定して作成し、さらに2150年には相当おおきな宇宙ステーション、2700年には増築に増築が重ねられ把握できないほど複雑で巨大な宇宙ステーションとなった。これらの描画は、コミックブックのなかでも様々な解釈や描き方がなされており、統一されていないため、それらを参照した上で、香港の夜景なども参考にしながら構築していったそうだ。

宇宙船や着陸ステーションの船体デザインは、米国で開催されるコミックの祭典「コミコン」で映像を公開し、そこでの反応や意見を参考に修正を進めていったそうだ。ちなみに一人乗りの小型ビークルSkyJetのデザインは、現実世界の車レクサスをリファレンスにしているそうで、ロゴや船体の丸み、ヘッドライト、グリルデザインなどを真似ており、制作の途中まではしばらく本物のレクサスのロゴを貼付けて作業していたそうだ。そしてこの逸話はレクサスも公認で、映画初公開日のプレミアショーには、実際にレクサスのロゴが入ったSkyJetの実物大模型が展示されたそう。


■Industrial Light&Magic’s Visual Development and Effects Simulation for Marvel Studios “Doctor Strange”
ILM「ドクター・ストレンジ」メイキング

メイキング動画:Framestoreによるもの

マーベルシリーズのひとつである映画「ドクター・ストレンジ」はもちろん原作はコミックで、映像制作のための調査や、参照もとの素材は、まずはコミックからはじまった。奇妙な映像表現には、さまざまテクニックが駆使され、特に映画「マトリックス」で有名になった時間が止まったままでカメラが回り込む映像表現「ビュレットタイム」と、古くから使われる写真技法の「スリットスキャン」を組み合わせた「ビュレットスキャン」という表現が使われた。

またグネグネ曲がる奇妙な建物の制作には、現実世界でも相当奇妙なカーブをもった建築物をデザインしている建築家フランク・ゲーリーの設計したビルディングを参照し、万華鏡のような表現を建築物に加えたりして表現されている。さらに発想を広げるために参照したのは、生物のような建築物をコンピュータによって設計するMichael Hansmeyer氏のデザインも参考にしているそうだ。

コンピュータアニメーションフェスティバル

本レポートのVol.01でも紹介したコンピュータアニメーションフェスティバルから、受賞こそ逃しながらも、上映会場では拍手喝采を浴びた興味深い短編CG作品をいくつか紹介しよう。今年はMOPA(フランス)やFilmakademie(ドイツ)といった、ヨーロッパの映像教育学校による共同作品が多い傾向がみてとれる。


■作品名:Analogue Loaders(イギリス)

監督/制作:Raphael Vangelis

映像本編:約2分

メイキング映像

実写と3Dプリントによるモデル作成、CGによる映像処理を駆使した、監督一人による映像制作。動きの面白さや、綿密に計算された色や動き、コンピュータ内での出来事をモチーフとしたひとつひとつのカットは、映像作りの苦労が想像でき、開場のウケも良かった。


■作品名:ASTERIA(フランス)

監督/制作:ESMA

予告編約1分。本編は未公開

月にたどりついた宇宙船と、奇妙な宇宙人との遭遇を描いたコメディ映像。


■作品名:Canal Kitchen(フランス)

監督/制作:Unit Image

映像本編:約1分

メイキング映像

キッチンの中で暴れる小さくて奇妙な生き物たちを描いた、実写+CG合成の映像。メイキング映像を見ると、意外と手間がかかっていること、綿密に準備し、プリビズ映像も数多く作りながら検討を進めていることがわかる。


■作品名:Elemental(ドイツ)

監督/制作:Filmakademie

映像本編:1分23秒

ドイツで開催されるCG/VFX映像制作のためのイベント、FMXの告知映像。流体や、粉体の表現を駆使した、映像表現の数々をダイジェスト的に繋いだもの。


■作品名:Our Wonderful Nature(ドイツ)

監督/制作:LUMATIC

映像本編:約3分33秒

カメレオンが主人公の、自然界における弱肉強食をリアルかつユーモラスに描いた作品。


■作品名:Pirate Smooch(ドイツ)

監督/制作:Filmakademie

映像本編:約54秒

船と船で戦う海賊達と、そんな喧噪とはおかまいなく、愛し合う二人を描いた作品。ドイツの国際映画祭ITFS(Internationales Trickfilm-Festival Stuttgart)の告知映像。


■作品名:POILUS(フランス)

監督/制作:ISART Digital

映像本編:約4分38秒

擬人化したウサギが主人公の戦争をモチーフにした平和を訴える作品。


■作品名:Résistance(フランス)

監督/制作:MOPA

予告編33秒。本編は未公開

レストランに食事にきた虫を撃退するレジスタンスを描いたストーリー。虫嫌いの人にはたぶん耐えられない映像なので、視聴にはご注意を。


■作品名:Scrambled(オランダ)

監督/制作:POLDER ANIMATION

予告編24秒。本編は未公開

電車に乗り遅れて、ひとりたたずむ乗客と、意志を持って動き出すパズル、ルービックキューブを描いた作品。柔らかな人物表現と、カラフルな映像にほっとする作品だ。


■作品名:Seasonal Changes in Carbon Dioxide(米国)

監督/制作:NASA/GSFC

映像本編:約4分38秒

今回のSIGGRAPH Computer Animation Festivalのうち、唯一の科学映像作品。二酸化炭素量の季節による変化を地球規模で可視化したもの。科学情報の可視化映像は、一般のエンターテインメント映像とは違い、科学的に正しく、誤解なく、正しく、かつ分かり易く情報が伝わることを重視する傾向にあり、かつ映像として惹き付けられ、興味をもって見てもらえるよう工夫がなされている。

txt:安藤幸央 構成:編集部


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