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伝説のカメラメーカー「ライカカメラ」が製造した最初のシネレンズ「Summilux-C」

注目のテレビシリーズ「Mr. Robot」や「Stranger Things」でSummicron-CやSummilux-Cが使わたれたり、Summilux-Cが2015年アカデミー科学技術賞のScientific and Engineering Awardを受賞するなど、映像業界でライカブランドのシネレンズの話題を聞くことが増えている。CWソンダーオプティックは2008年に設立したばかりのレンズメーカーだが、今やシネレンズマーケットでは十分な存在感を放っている。そこで、今話題のCWソンダーオプティックのシネレンズについて、アジア太平洋地域セールスマネージャーの塚田理氏に特長を聞いてみた。

――CWソンダーオプティックとはどのような会社ですか

塚田氏:ライカのカメラやスチルレンズをご愛用頂いている撮影監督やレンタル会社の方々から、「映像製作でもライカのルックを求めたい」という要望を多く頂いておりました。そこで、ライカカメラ社のオーナーであるアンドレアス・カウフマン氏を中心に、ライカで映画やテレビプロダクション用のシネレンズを製造するプロジェクトが2006年に立ち上がりました。

しかし、ライカカメラ社内でシネレンズを製造することは当時不可能だったため、2008年に姉妹会社「CWソンダーオプティック」を設立しました。以降CWソンダーオプティックはライカブランドのシネレンズの設計、製造、販売を行っています。

CWソンダーオプティックの「CW」は、「シネウェッツラー」という意味で、ウェッツラーはライカの新社屋が所在するドイツ・ウェッツラーのことです。ソンダーオプティックの「ソンダー」は、「特別」や「スペシャル」で、「オプティック」は「光学系」という意味です。

CWソンダーオプティックのアジア太平洋地域セールスマネージャー 塚田理氏
――2008年に設立ですと比較的新しい会社ですね

塚田氏:その通りでございまして、2011年にSummilux-Cの出荷を開始しまして、市場にレンズをリリースしてからまだ7年しか経っていません。若い会社なので市場のレンズの本数自体も老舗メーカーに比べたらまだ少ないですけれども、お陰様で今ではそれなりのシェアをもっています。これだけ短期間でこの結果を考えると、成功しているのだと思います。

――一番最初にリリースをしたSummilux-Cとはどのようなレンズですか

塚田氏:Summilux-Cは、小型、軽量、明るさ、光学特性の点で最高のシネマレンズの実現を目指しまして、すべてを兼ね備えたレンズの実現には5年もの月日がかかりました。Summilux-CのT値は1.4、イメージサークルは34mmでスーパー35に対応、径のサイズは95mmで同じT値を持つ他のシネマレンズよりもかなり小型軽量です。老舗シネレンズメーカーの代表的なプライムレンズはフィルム時代に設計されたレンズが多く、デジタルセンサーを考慮していないものが多くあります。その点、Summilux-Cは、デジタル時代が始まってからデザインされたプライムレンズであることも特長です。

また、スーパー35をカバーするレンズでありますが、センサーのサイズは大きくなることを想定していまして、Summilux-Cでは34.5mmのイメージサークルを実現しています。そのため、REDの8K HELIUMや6K DRAGONなどスーパー35よりも大きなセンサーサイズに対応する特長も持っています。

最初のプロトタイプが完成したのは2010年頃で、2011年に最初のセットの出荷を開始しました。しかし、予想以上のオーダーを頂きましてお届けまでに1年から2年のお時間を頂かなければなりませんでした。現在は、製造工程を改善しまして、3ヶ月から6ヶ月で出荷ができるようになっています。今でも「注文しても2年、3年は届かない」と思われているお客さんもいらっしゃるかもしれませんが、そのようなことはございません。

小型、軽量、ハイクオリティを全て実現したプライムレンズ「Summilux-C」 CWソンダーオプティックが配布をしている資料より。Summilux-Cは34.5mm、Summicron-Cは36mm、Thaliaは60mmのイメージサークルをカバーする
――ライカブランドからどのようなものを継承してシネレンズを実現していますか

塚田氏:Summilux-Cは、非球面レンズの複数枚使用によるレンズ自体の小型軽量化、シャープでありながら固くない。きちんと見たいことろは見えているのだけれども柔らかいルックを持っています。そのルックはライカのスチルレンズの特徴を受け継いでいると思います。

映像業界では、ライカレフレックス用RレンズをPLマウントにリハウジングしてたくさんの方が今でも使っています。それはまさにそのルックを求めての結果だと言えます。しかし、Rレンズはシネマレンズではありませんので、ブリージングの発生やディストーション、色収差もあります。Summilux-Cではそういった欠点を全て取り除いています。

スペックでは表せないクリーミーな質感が特長の「Summicron-C」とライカMレンズの描画をそのままシネマで実現できる「Leica M 0.8」

――続いてリリースをしましたSummicron-Cとはどのようなレンズですか

塚田氏:Summilux-Cが市場で好調であることがわかりますと、次にSummicron-Cの開発を開始しました。Summilux-Cの出荷ではお客様を相当待たせてしまいましたので、Summicron-Cではスムーズな製造の実現が課題でしたが、それは製造をアウトソーシングすることによって解消することができました。

Summicron-Cは、Summilux-Cよりさらに小型軽量を特徴としています。T値はT2.0です。ルックに関しては、Summilux-Cはコントラストが高く、解像力があるという特長がありました。それに比べてSummicron-Cのコントラストは抑え気味で、Summilux-Cにはないソフトな印象を持つレンズと言えます。

Summilux-Cよりもさらに小型軽量を実現した「Summicron-C」
――Leica M 0.8はどのようなレンズですか

塚田氏:ライカレフレックス用のRレンズの製造中止もありまして、ライカのMマウントをシネマで使いたいという要望を多く頂いておりました。そこで、CWから24mm✕36mmのフルフレームセンサーをカバーしたシネマ用Mレンズ「Leica M 0.8レンズ」をリリースしました。数字の0.8はシネマスタンダードのギアピッチであるモジュール0.8から来ています。

光学的には、Mレンズと同一です。鏡胴がシネマ用に改良されており、シネマスタンダードのアクセサリーで使用するためのフォーカスやアイリスギアが搭載されています。

Mマウントをシネマで使いたいという要望に応えた「Leica M 0.8」
――Leica M 0.8はどのようなカメラとの組み合わせが多いですか

塚田氏:ライカMマウントのフランジバックは27.8mmで、ソニーEマウントのフランジバックは18mmですので、マウントアダプタを使えばEマウントのカメラで使用できます。また、REDデジタルシネマカメラはWEAPONtやEPICなどで使用できるMマウント対応アダプター「DSMC AL LEICA-Mマウント」をリリースしています。ただし、REDで使用する場合は、レンズの種類によってはローパスフィルターと接触する場合がありますので、専用のローパスフィルターに買い替える必要があります。DSMC1、DSMC2用の2種類のローパスフィルターを弊社が販売しています。

――Leica M 0.8に望遠系のレンズをリリースする予定はありますか

塚田氏:Leica M 0.8は、21mm、24mm、28mm、35mm、50mmをラインナップしています。21から35mmまではSummiluxの1.4で、50mmはNoctilux 0.95です。今後、75mmと90mmのF2、50mmのF1.4をリリース予定しています。現在2018年5月の出荷予定です。

また、Leica M 0.8レンズにはもう1つニュースがありまして、ALEXA MiniとAMIRAのMマウントを弊社がリリースします。ALEXA MiniやAMIRAのレンズマウントはユーザーで交換可能ですが、そこにMマウントを付けてMレンズを使うことができるようになります。ALEXA MiniやAMIRAでも一部のレンズがローパスフィルターユニットに接触しますが、ローパスフィルターユニットの交換により対策をすることができます。この交換サービスはARRIが有償で提供します。一度交換すれば元に戻す必要はなくマウントをPLに戻しても今まで通りに使用できます。

ライカSシステムの光学系を流用して大判センサーをカバーする「Thalia」

――2017年にThaliaを発表しましたが、大判対応のシネレンズをリリースするに至ったきっかけは何ですか

塚田氏:Thaliaのエピソードになりますが、弊社社長のゲアハルト・バイヤーがライカの中判カメラのSシステムのレンズを見たときに「いいレンズだ」と絶賛しました。Sシステムのイメージサークルは対角が54mmで、このレンズをシネマレンズに活用できないかという話が、3年ぐらい前に起こりました。

ただし、Sシステムのレンズをリハウジングするだけでなく、ALEXA 65のセンサーもカバーしたい。そこで、Sシステムのレンズの光学系をおおかた流用しイメージサークルを60mmまで拡大しました。また15枚の絞り羽根を用いた新しいアイリスの構造を実現し、レンズコーティングもやり直して実現したのがThaliaになります。

Thaliaは自社グループ内で発売されているSシステム用のガラスエレメントを流用しているのでその分、価格も考慮できるというメリットもありました。大判に対応するレンズなのでSummilux-Cより高いと思われるかもしれませんが、Thaliaは実はそこまで高くありません。Thaliaは、Summicron-CとSummilux-Cの間に入る価格を実現しています。

ただし、一般的なシネマレンズのT値はすべて一定ですが、スチルのレンズエレメントの流用のために開放値は統一されていません。しかし現在撮影中の大作映画の多くでThaliaが重宝されているところを見ると開放値のデメリット以上のメリットが見出せるレンズだと確信しています。

ライカSシステムの光学系をおおかた流用して実現した大判単焦点レンズ「Thalia」
――Thaliaで特に強調したいポイントはどこでしょうか

塚田氏:Thaliaの特長は、絹の質感のようなクリーミーさがあるところです。絞り羽根は15枚持っておりまして、開放から絞りいっぱいまでボケの円形が保たれています。そのため、深度が深い絵でもやわらかなボケが表現できる特長を持っています。それはなかなかほかのレンズでは見られない特長です。また、Summilux-CやSummicron-Cと同様にシャープだけれども、柔らかい印象を持つという特長も持っています。

15枚の絞り羽根により全ての絞り値で円形を実現している
――Thaliaはどのようなカメラと組み合わせて利用されそうですか

塚田氏:REDの8K MONSTRO、ソニーのVENICE、そしてARRIのALEXA LF、ALEXA 65ですね。スーパー35のカメラでも当然普通に使うことができます。またレンズの話に戻ってしまいますがSummilux-C,Summicron-C、Thaliaと同じ色温度にコーティングで合わせてあるのでレンズシリーズを混在させてもマッチングは大変良いです。センサーサイズの異なるマルチカメラ撮影などで重宝されています。

――御社のラインナップの中でフラグシップと呼ばれる最上位モデルはどちらのモデルになりますか

塚田氏:弊社のレンズのラインナップの中で、「特別版」や「廉価版」などのクラスを分ける考え方は行っていません。すべてのレンズはそれぞれ違う画を生み出す道具と考えています。弊社社長言わく「全てがプレミアムプロダクト」です。

――最後に、CWソンダーオプティックのアピールをお願いします

塚田氏:弊社のプライムレンズの最大の特長はルックです。ルックは他のメーカーと異なるものを実現しています。また、弊社のレンズは、ルックを求めてレンズを設計しており、「こういう画が生み出せるレンズを作りたい」というところから設計を開始しています。スペックは結果でしかありません。ほかのメーカーも同じ思想で開発をしているかもしれませんが、弊社の画というものは他のシネレンズメーカーと違うものを実現しています。その特長をなるべく多くの人に知って頂いてレンズ選択をする際、「これだったらThaliaにしよう」「これだったらSummicron-Cにしよう」と弊社のシネレンズも加えて検討頂ければと思います。

CWソンダーオプティックではディオプターの「Leica Cine MacroLux」もリリースしている。クオリティが高く、2枚や3枚重ねても色収差や光量落ち、ディストーションもないという

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Vol.02 [新世紀シネマレンズ漂流:最新単焦点レンズ編] Vol.04