PRONEWS

  • imgABOUT
  • imgTWI
  • imgFB
  • imgYTU

トップ > 特集 > [SXSW2018]Vol.07 成熟しはじめたVR市場から見る、これから必要となる新しい視点と倫理

News

[SXSW2018]Vol.07 成熟しはじめたVR市場から見る、これから必要となる新しい視点と倫理

2018-03-26 掲載

txt:曽我浩太郎(未来予報) 構成:編集部

気になるVRについても考えてみよう

SXSWが開催前に発表した2018年のトレンドの一つとして「THE VR MARKET MATURES:成熟化するVRマーケット」があった。VRはすでに「どう使えるか?」を探るニッチなテクノロジーではなく、エンターテインメントをはじめアートや医療など様々なビジネスでの活用方法が広がりはじめ、テクノロジーのメインストリームになりつつある。果たしてそれらを加速させるためにはどうすればいいのか?というような議論が今年のVR/ARトラック(カテゴリー)には集まっていた。

SXSWでも2年目となったバーチャルシネマ。360度動けることが驚きになる時代は終わり、心を動かすコンテンツ体験をどう作れるかが問われていた

数あるVR /ARのセッションの中でも、特に「SXSW2018事前の見どころVol.02」で解説した「VRジャーナリズム」が今年大きく話題となった。これは「VRジャーナリズムって新しい!」という話ではない。成熟期に入ったVR市場において、より多くの人に届け、より多くの人の心を動かすためには、今後どのようなコンテンツやテクノロジー、そして視点が必要なのか?といったトピックを議論する中で、VRジャーナリズムが一番その分野で功績をあげているからだろう。

果たしてその最先端にいるスピーカー達は今、どのような未来を見ているのだろうか?いくつかご紹介したい。

サンダンス初のVR作品の出品。新たなジャンルを切り拓いたパイオニア

コンバージェンス(融合領域)の基調講演は「VRのゴッドマザー」とも呼ばれるNonny de la Peña(ノニー・デラ・ペーニャ)だった。

VRのゴッドマザーの講演を聞くために、インタラクティブ・フィルム・ミュージックすべてのジャンルから一気に人が集まった。会場はすぐに満員となり、サテライト会場も設けられた

今では懐かしい言葉に聞こえるかもしれないが、2007年頃に日本でも流行した仮想空間「セカンドライフ」。その仮想空間内において、男性が女性のアバターを使っている場合(いわゆるネカマ)に、女性よりもセクハラについて敏感になると言うリサーチがあったそうだ。ノニー氏はこの結果を振り返りながら、バーチャルリアリティにおける身体性と共感装置としての可能性を講演冒頭で強調した。

ノニー氏の功績を少し振り返りたい。2012年のサンダンスに出品されたはじめてのVR作品「Hunger in Los Angeles」」を製作して、VR界にファーストインパクトを与えた。Hunger in LosAngelsは、フードバンク(廃棄前の食材を食べ物に困っている人に届ける公的サービス)で現実に起こった事故を題材にした作品だ。行列に並ぶ男性が糖尿病の発作で倒れる中、人々が何をしていいのかわからずに戸惑う瞬間を360°映像と音声で再現した。

コンテンツの素晴らしさもさながら、この作品が評価されている点としてVRテクノロジーへの寄与もある。というのも、ノニー氏が納得する体験が既存のデバイスでは実現できないため、OculusRiftのリリースの前にも関わらず同社の開発メンバーの一人とともにVRのハードウェアを作り上げたのだ。まさに2013年頃から始まるVRデバイスの流行を、今までにない体験を求めるコンテンツクリエイターが生み出した事例である。

Hunger in Los Angelsを実際に体験した人は何もできず涙を流したり、反応がないことをわかりながら倒れた人を励ましたりする姿を見て、ノニー氏は更にVRジャーナリズムの可能性を感じたと言う

シリア爆撃からLGBTQ、環境問題まで。技術的ハードルも越えた作品を次々に輩出するノニー氏

もう少しノニー氏の功績を振り返ろう。SXSW2015でも展示されていたシリア難民問題を扱う「ProjectSyria(プロジェクト・シリア)」は、VRジャーナリズムのセッションでは言及されない事がないほどの有名作品だ。

「Project Syria」では、シリアの難民キャンプでの空爆をVRで体験できる)

次の作品は、アメリカの若年層のホームレスのうち40%がLGBTQで、特に有色人種が多いというリサーチがあったそうだ。その問題をより深く考えるきっかけを与えてくれるのが「Out of Exile: Daniel’s Story」。実在するゲイの少年ダニエル氏の家族へのカミングアウトの瞬間をVRで再現し、家族に受け入れられずに家を追い出されてしまう瞬間を体験できる

「Out of Exile: Daniel’s Story」ダニエル氏本人が動画で撮影していた音声をほぼそのまま使用。モーションキャプチャ技術や人工知能でボリューム計算を効率化するなど、技術的にも新しい事にチャレンジのある作品づくりをしている

環境問題にも彼女は積極的だ。「Greenland Melting」では、溶けゆくグリーンランドの氷が消失していく様子を時間を超えて確認することができる。

この作品では技術的なハードルだけでなく、科学者と一緒に作品を作るという新たな試みもはじめた

こうして振り返ると、ノニー氏のVR作品が一つ一つ制作されるごとに、ハードウェアやソフトウェアの進化が促されているのがわかる。2012年からノニー氏のスタンスは変わっておらず、常にハードウェアやソフトウェア、インフラ、プラットフォームの枠にとらわれず、自分が作り上げたいコンテンツ体験を妥協をせずに追い続けている。

今、世界はノニー氏のようなクリエイターを求めているはず。それはVRジャーナリズムの話に限らず、先に述べたようなエンターテイメントをはじめアートや医療など様々な領域においてだ。成熟を見せ始めるVR市場が更に世の中に受け入れられるために、ハードウェアやソフトウェア、そしてコンテンツ制作の枠を超えて、人々に本当に価値のある体験を想像できる力と異業種とのコラボレーションがもっと必要なのだと感じた。

安価なワイヤレスヘッドセットと5G通信がVRの未来を大きく変える

「今のインターネットはフラットすぎる。未来のインターネットはボリューメトリック(立体)になるはずだ」とノニー氏は未来像を語る。たしかに5G通信が実現したら3Dコンテンツ向けの通信も問題なく行われるだろうし、安価なデバイスが広がれば多くの人が手に取ることができ、現在スマートフォンで体験しているような事が、立体的な体験(VR/AR)に変わる可能性もある。スマートフォンの普及のスピードを思い返して見ると、その速度は一気にくるかもしれない。

ついつい私たちは「5Gで何ができる?それによって世界はどう変わる?」という発想をしがちだ。しかし「5Gをより意味のあるものにするためには?」という彼女の姿勢こそ、自分も心がけたいこれからのクリエイターの姿勢だと感銘を受けた。

VRジャーナリズム混迷期における資金調達の苦労も語ったノニー氏。VCからの女性起業家への投資はたった2%しかないとジェンダー平等化についても言及した

New Ethics(新しい時代の倫理)の必要性

VRジャーナリズム領域のプロデューサーやディレクター、オンラインプラットフォーマーが集まって、VRにおける未来の倫理について議論をした

多くの人がVRやARを使うようになると、事件や問題も多くなってくる。現にいくつかの事件が起こってきている事例をもとに、これからの倫理のあり方を議論されたセッションが「Ethics in VR/AR Journalism」だ。

正直このセッションの中でVRらしい良い事例はあまりあがらなかった。ハリウッドや映画業界で言われている事と同じように「人種や性別、セクシャリティなどを現実世界と同じように多様性のある配役するべきだ」などが挙げられたくらいで、まだVRとしてはフロンティア状態なのだと確信した。

その中で一つ、ARの事例で非常に興味深い事件があったので紹介したい。昨年、ScnapChatがARアートプラットフォームをローンチした。GPSタグで任意の場所にアーティストが自分の作品を置いて、ScnapChatのユーザーがその場で閲覧できるというもの。米国の人気アーティストJeff Koons(ジェフ・クーンズ)とコラボして行われたキャンペーンでは、公園にジェフ氏のAR上の作品がスナップチャットを通して見られるというものだった。

Snapchatオフィシャルの動画。憧れのアーティストの作品がARで体験できる素晴らしい未来が語られている

しかし、このキャンペーンにアーティスト側から「AR空間は誰のものか?Snapchatが勝手にそれを使っていいのか?」という反発があったのだ。Snapchatのようなイチ企業が公共空間のジオタグに対してプラットフォームを開いた結果、YouTubeのような独占的な市場となり、アート作品自体がビジネスのネタにされてしまう可能性があることをアーティスト達は危惧している。

反発するアーティスト達が、同じ場所のジオタグに、ジェフ氏の作品に落書きをして抗議をした

非常にこれは面白い事件だと関心した。これはどちらが悪いのか? どうするべきなのか?これに対する明確な答えはまだなく、議論や試行錯誤がこれからもっと行われるべき領域なのである。未来に起きるこのような事件や問題を想像し、議論を呼び起こせるかが今のコンテンツやストーリーテリングには期待されていると、改めて痛感した。

txt:曽我浩太郎(未来予報) 構成:編集部
Vol.06 [SXSW2018] Vol.08

[ Category : , ]
[ DATE : 2018-03-26 ]
[ TAG : ]

この記事に関連する記事一覧

[IBC2019]Vol.08 聞こえてくる脱地上波への足音、OTTへのさらなる進展

txt:石川幸宏・編集部 構成:編集部 OTT普及による映像業界への影響 IBCがいま最も先端の映像事情を垣間見れる展示会であることは本特集Vol.01でも言及... 続きを読む

[IBC2019]Vol.06 メディアやエンターテインメント領域のAIと機械学習

txt:江口靖二 構成:編集部 カンファレンス、セッションからみる現状と近未来 IBC2019ではブロックチェーンと同様に、AIや機械学習(マシンラーニング、ML)... 続きを読む

[IBC2019]Vol.04 IP、リモートカメラが変える映像現場の未来

txt:石川幸宏・編集部 構成:編集部 急激に進むIP化の波 このIBCで特に目立ったのが、IPとリモートカメラによる各種制作ソリューションだ。特にライブイベント、リモ... 続きを読む

[IBC2019]Vol.03 今後の映像業界を牽引するのはGAFAではなく中国勢になる

txt:江口靖二 構成:編集部 今年注目のキーワードは“8K+AI” IBC2019での注目キーワードは「8K+AI」だ。そしてそれらのほとんどは中国企業によって先導さ... 続きを読む

[IBC2019]Vol.02 豊作の秋を感じる賑わう会場から〜カメラ、レンズなど注目の新製品と動向

txt:石川幸宏・編集部 構成:編集部 豊作の秋を感じさせる賑わう会場より この秋のIBC2019のタイミングでは、Vol.01で紹介したソニーのFX9、Z750をはじ... 続きを読む

[IBC2019]Vol.01 欧州放送展示会IBCに異変あり!今年の印象と目立つ新製品発表から

txt:石川幸宏・編集部 構成:編集部 今年のトレンドを探る 毎年9月にオランダ・アムステルダム市街地にある、RAI会場で開催される、欧州最大の業務用映像・音響... 続きを読む

[BIRTV2019]Vol.09 DJI、Zhiyun Tech、FeiyuTech、MOZAの4大ジンバルメーカーに注目

txt・構成:編集部 FeiyuTech、未発表のジンバル「AK3000」を参考展示 BIRTVの展示会場で見逃せないのは、DJI、Zhiyun Tech、Feiy... 続きを読む

[BIRTV2019]Vol.08 Pilotfly、カメラをあらゆる方向に向けてもモニターの角度は保てるスマートトラッキングローラー「Pilotfly Cavalier」を展示

txt・構成:編集部 モニターやライトを一定方向に固定可能な「Pilotfly Cavalier」 Pilotflyは2013年設立の台湾を拠点とするブランド。主力... 続きを読む

[BIRTV2019]Vol.07 Aputure、LS C300dより20%明るくなった人気のLEDライト「LS C300d II」を展示

txt・構成:編集部 人気のLEDライトが更に明るくなって新登場 LEDライトメーカーのAputureは、ここ数年間で世界中のクリエイターが注目する急成長中のブラン... 続きを読む

特集記事

Inter BEE 2019 Inter BEE 2019
千葉幕張メッセにて開催される国際放送機器展“Inter BEE“をレポート。
InterBEE 2019の歩き方 InterBEE 2019の歩き方
今年もInterBEEの歩き方をジャンル別にピックアップし、6種類のコースを紹介。
Film Shooting Rhapsody Film Shooting Rhapsody
フィルム撮影の経験をしたい人に向けてフィルム撮影で必要な各種の工程について解説していく。
IBC2019 IBC2019
欧州最大の業務用映像・音響の専門展示会「IBC2019」をレポート。
新世紀シネマレンズ漂流 新世紀シネマレンズ漂流
シネマレンズを中心に一眼やミラーレスデジタルカメラの動画撮影機能と組み合わせて使われる交換レンズの最新動向を紹介する。
BIRTV2019 BIRTV2019
中国・北京の中国国際展覧中心で開催された展示会「BIRTV 2019」をレポート。
SIGGRAPH2019 SIGGRAPH2019
世界最大のコンピュータグラフィックスとインタラクティブ技術に関する学会・展示会SIGGRAPH2019をレポート。
QBEE2019 QBEE2019
九州放送機器展(QBEE)をいつもの会場練り歩き方式でレポート。
4K・8K映像技術展Report 4K・8K映像技術展Report
東京ビッグサイト青海展示棟にて開催された4K・8K映像技術などの最新技術が一堂に出展する「通信・放送Week2019」をレポート。
DSJ2019 DSJ2019
幕張メッセで開催された国内最大のデジタルサイネージの展示会「DSJ2019」をレポート。
Digital Cinema Bülow VIII~Cine Gear 2019 Digital Cinema Bülow VIII~Cine Gear 2019
米国ハリウッドのパラマウントスタジオ内で開催された映画撮影機材の専門展示会「Cine Gear Expo」をレポート。
After Beat NAB SHOW 2019 After Beat NAB SHOW 2019
東京・秋葉原のUDXにて開催されたAfter NAB Show 2019をレポート。
NAB2019 NAB2019
米国ネバダ州ラスベガスにて開催される世界最大の放送機器展覧会「NAB2019」をレポート。
SXSW2019 SXSW2019
テキサス州オースティンで開催されたSXSW2019をレポート。
CP+2019 CP+2019
パシフィコ横浜にて開催されたカメラと写真の総合展示会「CP+2019」をレポート。

トップ > 特集 > [SXSW2018]Vol.07 成熟しはじめたVR市場から見る、これから必要となる新しい視点と倫理