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[映画「万引き家族」〜撮影部と撮影監督の眼差し]Vol.02 色彩計測 小林拓氏が支えたことと目指したことは?

#映画「万引き家族」〜撮影部と撮影監督の眼差し

2018-09-05 掲載

txt:編集部 構成:編集部

撮影監督を支える撮影部の秘密

「万引き家族」の撮影現場では、クリエイティブからテクニカルな面まで小林拓氏たち4人の撮影部が支えてきた。それだけ撮影部は重要な存在である。今回は、撮影現場でどのような課題があり、どのように解決をしたのか?その要である撮影部で色彩計測を担当した小林拓氏に話を聞いた。

――撮影部は本作でどの分野を担当されましたか?

撮影部とは、カメラマンがイメージしている最終地点に到達するまでの技術的なさまざまな工程を担う部門です。

今作の撮影部は、撮影助手4人体制で行いました。「撮影チーフ」が僕で、その他に「セカンド」「サード」「フォース」といった分担があり、それぞれ役割が異なります。チーフの場合はカメラマン、照明技師と連携してイメージの色の出し方、光のバランスを構築していくのが主な役割です。

セカンドはフォーカスを合わせ、フレーム内にバレ物がないかを確認するのが主な役割です。サードはフィルムとデジタルで少し異なりますが、今回は、フィルム撮影でしたのでフィルムを管理、統括し、撮影機材のセッティングをするのが主な役割です。フォースは、モニター出しと機材周りの管理が主な役割です。

話を聞かせて頂いた色彩計測/撮影チーフの小林拓氏
――小林さんのエンドロールクレジットは「撮影助手」ではなくて「色彩計測」でした。これはどのようなポジションなのでしょうか?

撮影部である我々4人は、エンドロールに「撮影助手」としてクレジットされるのが一般的です。しかし今回、僕は仕上げ作業時に「色彩計測」という肩書に変更させていただきました。「色彩計測」は、モノクロフィルム全盛の時代に存在した役職です。モノクロフィルムは、単純に明るいものが明るく写るというわけではありません。

たとえば、同じ明るさの照明が当たっている赤色と黄色が存在した場合、赤色のほうが暗く写ります。そういった特徴を踏まえた上でを最終的にどのようなバランスで作り上げていくのかを決める現在の撮影チーフのようなポジションが「色彩計測」です。今作はカラーフィルムでの撮影でしたが、諸先輩方への尊敬と憧れの気持ちをこめ、恐縮ながら「色彩計測」とクレジットさせていただきました。

――今回の撮影でどのような狙いや指示を受けましたか?

印象的な強い光を俳優部に当て、その分絞って露出を決めることや、じゅりの住んでいる団地前でのナイターシーンにおいて深い海の中を表現すること、その他にもシーンによってはシルエット表現を作ることや、冬の時期の撮影で夏の光を作り出すことなどを狙いとしている旨を伝えられ、それがバランスよく露光されるよう努めました。

また、デイシーンに関しては基本的には2stepオーバー露光し、その分をグレーディング時に調整して黒を締める工程を踏んでいます。

そのため、全体的に、特にデイシーンの室内に関しては暗めの画ができあがっています。こういった部分はカメラマンと照明技師の狙いだったかと思います。

是枝監督(左)と撮影の近藤氏(右)
――本作を撮影する上で、従来の撮影現場とは違うことはありましたか?

基本的には大きな違いはありませんが、唯一あるとすれば、今回フィルムでの撮影でしたが、容易にプレイバックができる環境を整えたことでしょうか。是枝監督はモニター収録した素材を、撮影終了後すぐに編集するスタイルを好みます。そこで本編のフィルム撮影の際に、ビデオアシスト(ビジコン)からの映像を鑑賞・収録するモニターとしてBlackmagic Designの7インチモニター「Video Assist」を用意し、モニタリングと収録機能を利用しました。

Video AssistはTC(タイムコード)でのトリガーレックが利きますので、HD-IVSと呼ばれる35mmフィルム用高精細ビデオアシストのTCを走らせ、トリガーレックを利かせてオート収録し活用しました。ビジコン素材がProRes収録できるという点も、その日の撮影終了後に編集するのに扱いやすいコーデックとして適しているのではないかと考えました。

フィルム撮影の場合、プレイバックではビデオ撮影時のように即座に撮影素材を再生確認することはできません。当然のごとく撮影した結果は現像するまで見ることができませんし、音も貼り付いていません。

撮影された素材を簡易的にでも確認したいという場合においてフィルム撮影はデジタル撮影ほど適していません。充実した機能をもった収録機は少ないですが、Video Assistは機能的にもシンプルで、一度触れば理解できるレベルの機材です。つまり監督以外にも、監督助手、スクリプター、助監督、みんなが手軽に見られる利点もありました。その場で映像を共有できることでも一役かっていたと思います。

――まさに現場での工夫ですね。Video Assistにそういう利点があったのですね

もちろんフィルムカメラのビジコンの画となるので、色も明るさも参考にならず、芝居さえわかればいいと割り切れたからこそ、ピタッとはまったのだと思います。モニター画面が小さいため監督にとっては不便な面もあったかと思いますが、現場ではご自身でよく操作されてましたので、好きなタイミングで確認できることは利点になっていたのではと思います。

撮影現場について振り返る小林氏

カメラの選択。夏編にARRIFLEX 535B、本編にはARRICAM STを

――カメラとレンズの選定はどなたの主導で行われましたか?

基本的には近藤さんで、僕の意見を聞かれることもありました。予算の中で最大限何ができるのかがポイントになります。その中でベストの選択を検討しました。

撮影は夏編と冬本編に分かれていまして、夏編にはARRIFLEX 535Bを使いました。また、1カットだけ海上で撮らなければいけないカットがあり、ALEXA Miniを使ってRAW収録しています。

そのカットのみALEXA miniを選択した大きな理由は、海上でのロールチェンジの手間が少ないということからでした。

また、波の揺れを補正するためにMAXIMAというスタビライザーが必要でした。MAXIMAに搭載できる16mmや35mmのフィルムカメラですと、ARRIFLEX 16SR3やARRIFLEX 235などの小さいカメラが候補になりますが、16mmの粒状性は35mmとは差が出すぎてしまいますし、ARRIFLEX 235ですと装填できるマガジンのフィルム尺が短いので海上でのロールチェンジの回数が多くなってしまうことが予想されるため、最終的にはALEXA Miniを選びました。

また、本編の撮影には3パーフォレーションを採用したくARRICAM STを使いました。ARRIFLEX 535Bも3パーフォレーションはあるのですが、以前作品で使用した時に、傷やゴミが多く出た経験があることと、ARRICAM STですとマガジンをカメラボディの上に装着するか後ろに装着するか選択できるために狭いセットやロケセットでカメラの引き尻をとりやすいこと、さらには前述の理由によりARRIFLEX 535Bには搭載できないHD-IVSというビジコンを使用したかったことから、冬本編ではARRICAM STを使用することになりました。

――夏編と冬本編でレンズも違いますね。

異なりますね。本作で選んだCine Vivoと呼ばれるフィルムスキャナーの上がりは少し柔らかい感じで、シャープネスが若干落ちる傾向がありました。そこで、レンズに関してはシャープネスとコントラストも高いものを選びたいという理由がありまして、LeicaのSummicron-Cを選択しました。

――今回はフィルムで撮影でしたが、小林さんが関わる撮影現場のフィルムとデジタルの比率はどれぐらいですか?

映画やCMなど制作分野で異なると思いますが、個人的な感覚としては、CMは結構盛り返していて2割から3割程度がフィルムで撮影されていると思います。

――今回、フィルム撮影で苦労した点などはありましたか?

フィルム撮影の場合は、どうしてもカメラ本体が大きいものとなります。メインとなる平家のスタジオセットの撮影は非常に狭い中にあれだけのキャストがいました。カメラを置く場所も制限され苦心しました。また、フィルム撮影はどうしてもマガジン部分が存在して、外すことはできません。そういう制約がフィルムのデメリットではないでしょうか。

「万引き家族」本編のワンシーン
――機動力とは意味が違いますか?

機動力とは少し別の話です。間違いなくフィルムのほうが機動力があります。フィルムカメ ラは電源を入れなくてもファインダーを覗けますし、電源ケーブルを挿したらすぐに撮影可能です。しかし、デジタルカメラはファインダーを覗くために電源を入れる必要があり、立ち上がりにかかる時間や設定が複雑です。

そういう意味ではデジタルには機動力がありません。フィルムは回すときだけバッテリーを挿せばいいですし、撮影終了後、次の動きも圧倒的に早いです。

――フィルムとデジタルの現場で違うところはありますか?

デジタル撮影の場合は、簡易的にもモニターで結果がすぐ分かります。これはメリットでもありデメリットでもあります。ファインダーを覗いているカメラマンが観てる画と同等以上のクオリティの映像をスタッフ全員がモニターで観れるという点では大きなメリットですが、その影響で責任の所在が曖昧になってしまう場合があります。

例えば、カメラ脇に立って自分の目でフレーム内外のことを確認するのではなく、高精細ではありつつもスクリーンに比べると遥かに小さなモニターを大勢のスタッフで観ることで「みんな観ているから問題があれば誰かが気付くだろう」という安心感から、フィルム撮影の時代ほどフレーム内外のことを注視しなくなってしまうことがあります。そういったことが、デジタル撮影のデメリットかなと思っています。

――結果がすぐ見えるほうが近道になると思うのですが、違うこともあるのですね

確かにデジタル撮影の場合は、結果が見えやすいのでイメージの共有はしやすいのですが、あくまでも「結果が見えやすい」だけで、決して「結果そのもの」ではありません。モニターで見えている情報は撮影素材すべての情報ではありませんし、モニターとスクリーンでは鑑賞環境も映像の表現力も異なります。明るい暗い、色が出ている出ていないなど、モニター映像だけで判断するのは危険ですので、信頼できる計測数値などを基準にして撮影現場ではコミュニケーションをとる必要があると思っています。

――本作の撮影で特に印象に残っている撮影を教えて下さい

僕の場合は、ロケーションセットとスタジオセットのマッチングが重要でした。今作ではスタジオに平屋の中のセットを再現しています。しかし、平屋自体もきちんと実在していて、庭のシーンや逃げていくシーンはそこで撮っています。

シーンによってはロケーションセットで撮って、その後スタジオセットで撮影をして、またロケーションセットに戻って撮影をすることがありました。このような場合に重要なのはマッチングで、セットとロケが混在したシーンであることを気づかせないことが、自分の中でもっとも重要なテーマでした。結果的には大変うまくいったと思います。

具体的には、屋外ロケーションセットを撮影後、スタジオセットを撮影することは、外の環境をスタジオセットで再現すればいいのでゴール地点が見えており、成功する可能性は高いです。しかし、難しいのはスタジオセットでの撮影後、外のロケーションセットの撮影をするカットです。その場合はスタジオセット撮影の時点で、「この時間帯はどのような環境で撮影しなければならないのか?」を想像するしかありません。

それをどう上手にこなすかは、経験でしかありません。照明技師と相談して、バランスが崩れないように画作りをし、それでも少し直したいときはカラリストの手を借ります。とにかく、屋外と屋内セットの境目がわからないように、現場で作れたのは個人的には印象に残っています。

ロケセットの庭 スタジオセットの庭 ロケセットの台所 スタジオセットの台所
――すべて実在する平屋のロケセットで撮影すれば、いいような気もしますが、不可能なのでしょうか?

色々な理由があります。スタジオセットであれば、壁が外せたり遅くまで時間に縛られずに撮影ができるなど、色々なメリットがあります。また、ロケセットが、必ずしも理想的な間取りとは限りません。スタジオセットはこちらの都合のいいように人物を配置したり、動かすことが可能です。

――最後に、本作の撮影現場を振り返ってみていかがだったでしょうか?

撮影前に懸念したことは、我々撮影部、照明部が是枝組に初めて参加するスタッフであることでした。ある意味チームとして完成されている是枝組に、初参戦の我々が入ることで現場の雰囲気が壊れてれしまうのではないかという危惧がありました。

我々撮影部と照明部は、十年以上ずっと一緒にやっており、我々特有のやり方がないわけではありません。そういったことが、是枝組に合わない場合もあるのでは?現場の雰囲気が壊れてしまうかも?など色々懸念していましたが、それは杞憂に終わりました。

是枝組はみなさんが優しく、穏やかな雰囲気があります。僕も多くの映画制作の現場を経験してきましたが、このような組は日本において他には知りません。それでいて、メインスタッフも助手も妥協せずに全員がやることはきちんと行って結果も出します。

是枝組は、はじめて一緒にタッグを組む僕らに対してのリスペクトがあり、きちんと立ててくれます。意見も聞いてくれるし、大変やりやすい環境が最初から出来上がっていました。そういう意味で当初考えていたほど苦労はありませんでした。その雰囲気が画に表れていると思いますし、大変いい作品に仕上がったと思います。

txt:編集部 構成:編集部
◀︎Vol.01 [映画「万引き家族」はこうして制作された〜撮影部と撮影監督の眼差し〜] Vol.03

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[ DATE : 2018-09-05 ]
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