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[SIGGRAPH2018]Vol.05 応用例が広がるCG/VFXの世界

2018-09-06 掲載

txt:安藤幸央 構成:編集部

SIGGRAPH 2018全体を振り返る

展示会会場で大人気だったNVIDIAのレイトレーシングブース

リーマンショック以降、展示会ブースの出展を取りやめる企業や、ブースの規模が縮小する中で今年のSIGGRAPH展示会場は、昨年、一昨年と比べても大変活気のある様相であった。特に展示会場入り口付近に設置されたNVIDIA社のブースは、ちょうどSIGGRAPH会期中に革新的な新ハードウェアRTXシリーズの発表があったこともあり、たいへん活況を呈していた。なによりも人気があったのは1980年代、CG黎明期の技術を模倣したレイトレーシングのサンプル画像そっくりのブースだ。

これは1980年のSIGGRAPHでTurner Whitted氏が発表した論文に基づくもので、その当時のサンプル画像は512×512ピクセル(最近のパソコンのアイコン一個分の解像度しかない)の画像であった。その当時の最新コンピュータ、価格が1億円ほどするVAX11/780を用いて、512×512ピクセルの画像1枚描くのに74分もかかっていたというものだ。

現代のスマートフォンの性能であれば、1秒もかからず同等の画像が描けてしまう程度だ。展示会場を歩く若い世代は、キョトンとしながら通り過ぎていたが、古くからCGを学んだり、CGを生業としている人にとっては一度は見たことのある親しみのある画像であるため、多くの人が長蛇の列に並んで写真撮影を楽しんでいた。

Turner Whitted氏によるレイトレーシング画像
■レンズのLeicaがこんなものを作っていた?

展示会場の隅でひときわ異彩を放っていたのは、Leicaのブース。カメラ付き、映像制作に関わる人であれば、知らぬ人は居ないLeicaのレンズであるが、最近はスマートフォンなどにもLeicaのレンズが搭載され身近なものになってきている。SIGGRAPHにおけるLeicaは、Leica Geosystemsという工事用、測量用の専用機器を提供するグループ会社によるもの。紹介されていた製品は小型高精度の3Dレーザースキャナであった。

Leica BLK360というボタン一発で360°全方向の3Dスキャンが可能な装置

サイズは旧来の同等品から比べるととてもコンパクトな手の拳程度の165mmの高さ、100mmの幅しかない。重さは1kg(通常の解像度設定の場合)、3分の時間で360°、60m級の全天周のスキャンが可能。AutodeskのReCapという3Dスキャンデータを扱うソフトとセットで利用して欲しいとのこと。価格は15,990ドル(約180万円)。

Emerging Technologies、最新技術展示にみる先進性

最新技術のデモ展示コーナーであるEmerging Technologiesでは、現在研究開発中であり、製品や商品になる一歩手前の最新技術展示が目白押しであった。

■SEER: Simulative Emotional Expression Robot
SEERとその動きのもととなっている顔キャプチャの様子

SEERは独立系インディペンデントな研究者、藤堂高行氏による研究展示で、SEERは、感情表現シミュレーションロボット(Simulative Emotional Expression Robot)の頭文字をとった名前だ。これまでも各所で展示され話題を集めていたSEERのSIGGRAPHでの展示は、従来のデモに加えて、人の顔をリアルタイムキャプチャし、その動きを瞬時にSEERの感情表現に写し込むというデモだ。

一般的に日本人は目や眉で感情表現し、欧米人は口元、口の周りでの感情表現が多いと言われているが、本展示では年齢、性別、住んでいる国などに関係なく、多くの人が瞬時にSEERの感情表現を感じとり、楽しんでいた。ロボットを人間に近づければ近づけるほど気持ち悪い感情が生じる「不気味の谷」がロボット研究者の間で大きな課題になっているが、このSEERは人間そっくりではなく、大きさも異なる。けれども目や眼球、まぶた、眉が表情豊かに表現されるだけで、なぜか本物の人間以上に豊かな表情を感じ取ることができるのだ。

SEERの顔の表情と同期している様子を収録した動画
SEER has obtained real-time face-mirroring ability
何の説明がなくても、小さな子供も表情をクルクルと変化させてSEERの表情を楽しむ様子
■Fusion: Full Body Surrogacy for Collaborative Communication
VRヘッドセットをかぶった被験者が、遠隔ロボットで自分の背中や頭を触る様子

本展示は、VRヘッドセットをかぶった被験者と、二つの目と腕を持った遠隔ロボットの組み合わせで動作するコラボレーションのためのコミュニケーションシステムだ。VRヘッドセットで映像を観ながらロボットの腕を操作する人と、ロボットアームを背負った人とが協力し、腕4本分の動作ができる。

遠隔ロボットを担いだ例。手が4本になったかのような二人羽織風の不思議な感覚が体験できる

また、遠隔操作できるメリットを生かして、VRヘッドセットで自分の後頭部や自分の背中を観て、自分の背中を触ったり、頭を叩いたりすることができる、不思議な感覚を体験することができる。まだまだ技術的に「触った」という感覚のフィードバックは難しいそうだが、その感覚抜きでも、幽体離脱して自分を見下ろすようなことは滅多にできないことだ。

Fusion: Full Body Surrogacy for Collaborative Communicationの説明ビデオ

東京大学と慶應義塾大学の共同研究。プレスリリース
遠隔二人羽織ロボット「Fusion」他者の視点に寄りそう遠隔共同作業システムを開発

アートギャラリー展示

SIGGRAPH 2018アートギャラリーのダイジェスト動画

SIGGRAPHでの人気コーナーの一つにアートギャラリーがある。SIGGRAPHでのアート展示は、一般的な美術館に飾られるようなアート作品とはまた異なり、デジタルテクノロジーを生かし、かつ社会的に何か提言を示したメディアアートが高く評価される。

■Archaeology of CAD: Interactive Software Reconstructions of the ‘Coons Patch’ and ‘Sketchpad’
1963年当時のSketch Padの様子(Wikipediaより)。直線しか描画できないブラウン管式のディスプレイと、ダイアル、ボタン、ブラウン管上の位置を取得できるライトペンが使われていた

本展示は、今年のSIGGRAPHで殿堂入りしたVRの先駆者の一人でもあるアイバン・サザランド氏が1963年ころに生み出したグラフィックユーザインタフェースの先駆けともいれるデモシステムを、現代の技術で再現した展示だ。今となってはごく普通の操作感だが、55年も前にこれだけのものが考えられ、現在のインタフェースの基礎となっていること、その一方では、55年も経っているのにいまだ基本原則はなんら進化していないことなど、考えさせられる展示であった。

SIGGRAPH 2018アートギャラリーにおけるSketch Padの再現品。タッチパネル端末と、タッチペンで当時のSketch Padの操作を模倣し、再現している
Archaeology of CADの操作解説動画
■Transformation Mask
マスクが開いた時の様子。閉じた時は、巨大な鳥の頭風の筐体

本作品はマイクロソフトバンクーバーのチームによる制作、単なるVRヘッドセットではなく、それをかぶることで変身してしまえるような、大掛かりな呪術的なヘッドセットだ。カナダの先住民ヘイルツク族が儀式に用いたマスクを模倣したもの。過去と未来のギャップの埋めるために考えられたこのマスクはテクノロジーの起源を考えさせるものでもある。筐体は3Dプリンタで形成されている。中身はMicrosoft HoloLens、スマートフォン、Arduino Mega、NeoPixel RGBテープLEDなどで構成されている。HoloLensの映像と連動して変化するマスクなのだ。

Transformation Mask展示風景
Transformation Maskメイキング動画

SIGGRAPH全体を通しての雑感

CG、VRが手軽にかつ安価に扱えるようになってきたとともに、最新の技術開発は映画製作など最先端のニーズと合間って切磋琢磨しつつ、進歩が続いている。CG/VFXが映像製作のかなめとなるSF映画やアクション映画は当然としても、CGを使っているように見えないドラマや映画においてもCG/VFXの役目は重要になってきている。

また、プロが扱う最新機材、最新ソフトも、価格さえおりあえば一般でも手に入れることが容易になったが、プロのノウハウ、テクニック、技術開発、現場における対応力などは、まだまだ一歩も二歩も抜きん出ている印象が例年よりも強くなってきている。ここ数年で映像製作に関わる層は確実に広がっていることが実感され、多くの予算と時間をかけたハイエンドの映像から、少ない予算で手間と工夫で作られた映像まで、さまざまな映像を目にするようになってきた。

それらの背景にはYouTubeやVimeoといった映像配信プラットフォームや、Netflix、Hulu、Amazon Prime Videoといった旧来の映像配給経路に依存しない、新たな映像視聴プラットフォームの浸透がある。それらのプラットフォームにおける競争力はコンテンツ製作には豊富な予算と、それにともなう新しくて魅力的なそこでしか観られない数々の映像コンテンツだ。

SIGGRAPHのプロダクションセッションでも発表のあったテレビドラマシリーズ「ゲーム・オブ・スローンズ」(米国HBO配給)も最初のシリーズでは予算も少なく、CG/VFX利用のカットも数えるしかなかったところから、人気がでてシリーズを重ねるごとに予算もCG/VFXカットも指数的に増加していき、監督や制作サイドがやりたかった映像表現が自由にできるようになってきたとのこと。

これらのオンライン映像配信プラットフォームの映像製作予算は、日本の人材、日本での映像製作やアニメ製作にも予算が割り振られており、今後の映像コンテンツ製作の広がりが大いに期待されるところだ。

今年の冬、12月4日から7日の4日間開催されるSIGGRAPH ASIA 2018は、数年ぶりの日本開催だ。交通の便も良い、有楽町の国際フォーラムで開催される。SIGGRAPH ASIAは、全体的なセッション数、参加者数などを米国SIGGRAPHと比べると規模こそ6割ほどだが内容は大変充実しており、普段なかなか知り得ない最新情報や、アジア各国からの発表や作品を楽しむことができる。またReal Time Live!やE-Tech展示など、現地で参加しなければ、見なければわからない体感・実感できない展示、発表も多く、おおいに期待して欲しい。

SIGGRAPH ASIA 2018公式ページ

また来年夏のSIGGRAPH 2019は7月28日から8月1日の5日間、米国ロサンゼルスで開催され、さらに、来年2019年冬のSIGGRAPH ASIAはオーストラリアのブリスベンでの開催が決定している。次回も、さらに新しい映像技術と映像作りには欠かせないCG/VFX技術の最先端に触れられるSIGGRAPHに期待したい。

txt:安藤幸央 構成:編集部
Vol.04 [SIGGRAPH2018] Vol.01

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[ DATE : 2018-09-06 ]
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