[IBC2018]Vol.04 ブロックチェーンで映像ビジネスはこう変わる
2018-10-01 掲載

AI関連のセッションが18本もあったIBC2018では、もう一つ、日本ではほとんど扱われていないブロックチェーン関連のセッションが少なくとも6本実施された。日本ではブロックチェーン=仮想通貨=怪しいものというイメージがあるのかもしれないが、IBCでは真剣に映像やコンテンツビジネスにおけるブロックチェーンの可能性を議論する機会が数多く設定されていたのである。
映像業界的に見たブロックチェーンとは何か
ブロックチェーンは放送・映像業界には正直馴染みのない、あるいはよくわからない、関係ないと思われがちである。いったいどういうものなのかを簡単におさらいしておこう。
Wikipediaには次のように記載されている。
(以下、Wikipediaより引用)
ブロックチェーンとは、分散型台帳技術、または、分散型ネットワークである。ビットコインの中核技術(サトシ・ナカモトが開発)を原型とするデータベースである。ブロックと呼ばれる順序付けられたレコードの連続的に増加するリストを持つ。各ブロックには、タイムスタンプと前のブロックへのリンクが含まれている。理論上、一度記録すると、ブロック内のデータを遡及的に変更することはできない。ブロックチェーンデータベースは、Peer to Peerネットワークと分散型タイムスタンプサーバーの使用により、自律的に管理される。フィンテックに応用されるケースでは独占や資金洗浄の危険が指摘されることもある。
わかりにくい。そしてビットコインという単語がいきなり登場し、P2Pとか資金洗浄などというマイナスイメージを持つ単語が並んでしまう。間違いではないが、これを読む限り、映像とは関係ないと感じるのは当然である。
もう少しわかりやすく言い換えてみよう。ブロックチェーンとは、トランザクションをほぼリアルタイムで時系列に記録する、変更不可能で、中央集権型ではない、分散型のデジタル台帳である。台帳に新たなトランザクションを追加するには、その都度ネットワーク全参加者(ノードという)のコンセンサスが必須であり、これによって、操作、エラー、データ品質の管理を連続的に行う仕組みができあがる。
まだわかりにくい。完璧で精緻な説明ではないが、あくまでもわかりやすく書く。ブロックチェーンとはP2P技術のひとつである。ネットワークがスター型やツリー型ではなく、フルコネクト型である。下の図を見ていただくと一目瞭然だと思う。

そしてブロックチェーンでは、各ポイント(ノード)に分散して管理され、履歴は全ノードに記録(これが前述の台帳のこと)され、書き換えには全てのノードの合意が必要であるため改ざんができない。また特定の管理機関がないため、権限が一箇所に集中することはない。そのためシステム障害に強く、かつ低コストで運用できる。ブロックチェーンのブロックとは、個々のコンテンツの取引台帳のことで、この取引台帳が相互にフルコネクト型でチェーンしている(繋がっている)ことを示している。
ブロックチェーン視点で見た映像ビジネスの課題とその解決策
現時点では、ケーブルテレビはもちろん、NetflixやHuluも、結局は放送と同じく、まだ中央集権的なアグリゲーターである。コンテンツ制作者はこうしたプラットフォーマーとビジネス契約をしなければ、ユーザーにコンテンツを提供することができない。つまり従来型のテレビ局のネットワークと、OTTサービスの本質的な違いはさほどなく、次のような課題がある。
■プラットフォーム巨大化の弊害
- クリエイターに分配比率の主導権がない
- サーバーコストの増加を中央集権モデル(Netflix、YouTube、AWSなど)では支えきれない
■広告モデルでの持続的な成長の限界
- SEOやアドブロックなど、広告モデルでの発展に限界がきている
これに対しブロックチェーンによって分散化された世界では、リアルタイムでもオンデマンドでも、世界中に点在する数千台数万台のコンピューターが、分散型アプリケーション(Dapps,Decentralized Apps)を介することで、階層型ではない配信システムを構築できる。すでに分散型の動画配信インフラとして、既存のブロックチェーン(ビットコインやイーサリアム、ネムなど)か、全く新たなブロックチェーンを使ったプロジェクトが、以下のようにすでに続々と登場している。このあたりについて日本では情報が皆無に近い。


そしてブロックチェーンでは、不正・改竄できない台帳を著作権管理に利用し、「トークン」を利用した報酬分配システムを利用できる。トークンとはブロックチェーン上で企業・個人によって発行・流通されている価値交換可能な代替貨幣(引換券)のことである。
映像ビジネスでの利用はeスポーツや実況系のコンテンツから?
IBC2018では、ブロックチェーンの世界で新たなコンテンツとして想定されるのは、いきなりレガシーな放送的なビジネスに利用するのは現実解ではなく、まずはeスポーツやライブイベントのような実況系のものだろうという議論があった。その次にはニュースのようなもので、かつてCGMとかUGMと言われたものに近い。今でも一般人が撮影した現場映像を既存のテレビ局がニュース素材として収集して放送する例が非常に多いが、これらがシステム的に収集、配信され、報酬が支払われるといったものだ。
こうしたコンテンツは、これまでのような受信料や月額料金という考え方ではない、デジタル権利証であるトークンを使うことで、有料でも無料でも、広告主を介在させることで広告モデルにもできる。このトークンはユーザへのインセンティブにも、コンテンツ制作者への報酬にもなり得る。下の図はIBMの子会社であるALPHANETWORKSのブロックチェーンにおける映像ビジネスの概念図である。

インターネットは新たなコンテンツの流通経路にはなったが、結局は中央集権型の構造に本質的な変化はもたらされていない。ブロックチェーン技術は、こうした閉塞感が高まる一方のインターネットに、P2Pによる真の分散構造におけるコンテンツの流動に大きく貢献すると思われる。この点について日本では、ほとんどと言っていいほど議論さえ生まれていない点がひたすら気がかりである。
txt:江口靖二 構成:編集部
[ Category : IBC2018, SPECIAL ]
[ DATE : 2018-10-01 ]
[ TAG : IBC Report NOW! IBC2018]
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