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[Film Shooting Rhapsody]Vol.02 なぜフィルムが選ばれるのか?

2019-02-06 掲載

1973年「ヨーロッパの高速道路」ロケ。背景はスイス、マッターホルン。カメラはアリフレックス35IIC。35mm映画カメラでもスタッフは4名、左からセカンド助手の私、木村監督、関口カメラマン、田中チーフ助手 txt:荒木泰晴 構成:編集部

NGを出せないからこそ、フィルムを選ぶ

フィルムを選ばなくても、映像制作に困ることはありません。そんなメンドーなことは考えずにデジタルで作ればよろしい。

「フィルムの方が美しい、ボケがいい、画面がなだらか」などなど、いろんな意見があります。また「デジタルは、はっきりくっきり写り過ぎて、ギラギラした画面が嫌」と言う意見もあります。アナタもそう思っていませんか。

「雑誌に書いてあるから、プロがそう言うから」、というのが理由なら、アナタに確信を持った根拠はありませんね。

1973年「アメリカの高速道路」ロケ。背景はアメリカ、ナイヤガラ瀑布。カメラはアリフレックス35IIC

「デジタルとフィルムを比べると、画像の仕上がりに顕著な差があり、格段にフィルムの方が美しい」なら、フィルムを選択すべきでしょう。でもね、フィルムでできることは、ほとんどデジタルでできますし、逆にデジタルでは簡単にできることがフィルムではできません。

デジタルでは、「NGを出したら、消してもう一度撮ればいいや」と、アナタも思ってませんか?フィルムではできません。「何だ、そーかよ」と、納得したアナタはリタイア勧告。

間違っちゃいけません。「NGを出せないからこそ、フィルムを選ぶ」のです。

劇映画では、「デジタルを使うと、とたんにカット数が増える」傾向にあります。フィルムではほとんど一発勝負ですから、コンテを書き、カット割りをきちんとして、リハーサルを入念に行ってから本番になります。NGを出したら二度とその部分のフィルムは使えないのですから、役者の緊張感と気迫がまるで違います。

もちろん、スタッフにも周到な準備と技量が要求されます。過去の名作フィルム映画は、全てこの方法で作られました。ハリウッドでは、「ストーリーボード」にほとんどの情報が表示されています。最近、学生の映画の作り方を見ていると「行き当たりバッタリ」としか思えません。

日本のプロの現場はダイジョーブなのかな。

別のジャンル、例えば、動物のドキュメンタリーでは、「二度と同じチャンスはありません」から、デジタルであれ、フィルムであれ、NGは出せません。フィルムを使っていると、この感覚が嫌でも身に付きます。

イースター島でモアイの撮影。左は伊藤カメラマン。ハレーションを切るのは絶対の手順

IMAXで使う65mmフィルムは、1000フィートで20数万円します。撮影できる時間は3分間です。クリストファーノーラン監督の「ダンケルク」で使われました。

アナタが使う16mmの100フィートは5千数百円で、撮影できる時間は2分45秒です。

これでもアナタはフィルムを選びますか?

デジタルとフィルムの違い

■乳剤とピクセル

デジタルカメラのセンサー=フィルムに相当する感光部分は、ピクセルというツブツブが並んでいます。ざっくり言えば、横に4000個並んでいるのが4K、8000個が8Kです。「何だ、そんな数なのか」と思ったアナタは思慮深い人です。デジタル一眼レフでは、5000万画素を超えるセンサーを搭載したカメラが珍しくありません

ここにもカラクリがあって、色を作るピクセルはRGGBの4個1組です。

ピクセルのベイヤー配列

「え、4Kと言ったって、4分の1しか使えないのか」と理解できるアナタはスルドイ。

私の理解もそうです。

例えば、星を撮影すると、無限に小さな点である星は、ピクセル1個の中に入ってしまい、星固有の色が写りません。露光時間を長くすれば周りのピクセルも影響を受けて、写るとは思いますが、オーロラを撮影できる露光時間で背景に写る星々は、デジタルでは色を感じません。フィルムでは星固有の色、赤や青に再現できます。

一方、フィルムは、BGRに感光する乳剤がベースのフィルムに薄く層に塗ってあります。画像を形作るのは銀の粒子と染料で、ピクセルではありません。

銀の粒子をピクセルと思って数えると、35mmフルサイズセンサーと同じ大きさのライカ判では、10億を超えます。

フィルムの構造

「フィルムの写り方はなだらかで柔らかい」と言われる原因は、ここにある、と私は思います。「お、すると、シグマのフォビオンセンサーと同じ構造だな」と、思ったアナタは称賛に値します。

フォビオンセンサーの構造
図版提供:株式会社シグマ

フォビオンセンサーを考えた人は、ベイヤー配列の欠点に気が付いていたのでしょう。ただし、「フォビオンセンサーでは、その構造のために感度が上がらない」、とシグマの担当者は言います。フィルムも同じで、映画用フィルムの最高感度はISO500です。

「何だ、柔らかい画質が必要ならフィルム、高感度を求めるならデジタルなのか」と、理解できたアナタは、この先を読む必要はありません。

デジタルとフィルムは、それぞれ特長も欠点もあるので、「優劣を論じても意味がありません」。アナタが、必要に応じて選べばよろしい。

あっと、すみません、アナタはフィルムを見たことがなかったですね。「それは不幸なことだ」と、同情します。

絵画を描くにも方法は様々です。油絵、水彩画、パステル画、水墨画。筆を使うか、手で絵の具を投げつけるか、表現の方法は何でもいいので、画家によって手法は多彩です。映画、動画も同じで、「表現方法はたくさんあった方が良い」のは、当たり前。

どうです、フィルムをやりたくなったでしょう。

1977年、テレビ番組「あすの世界と日本」アイルランドロケ。カメラはエクレールACL(ミニエクレール)。この頃、私はカメラマン。左右はアイルランドのコーディネーター。私の右は相沢監督

デジタルのシネガンマ、フィルムルック(logの意味)

■デジタルの特性曲線は直線?

「特性曲線って何だ?」と、思ったアナタはフツーです。知らなくても何も困りません。知っておくと、知らない人にイバレます。

デジタルの特性曲線は曲線ではありません。黒の0から白の100までの直線です。黒は0でその先はデータがありません。100は白でその先もデータがありません。

直線部分が12とか14ストップある、というのが、そのカメラのダイナミックレンジです。「白と黒の範囲が広いか狭いか」の違いですね。「何だ、フィルムとどこが違うんだ」と、思ったアナタは早トチリ。

■フィルムの特性曲線

フィルムの感度は直線ではありません。ホントに曲線です。黒の部分は、ダラダラと下がっていって、なかなか0になりません。白の部分もダラダラ上がっていって、なかなか100になりません。フィルム界のベテランカメラマンが「締まった黒、艶やかな白」と感覚的に表現するのは、このことを言っているのです。

フィルムの特性曲線は、Logを基準にしています。デジタルのLogは、このフィルムの曲線に似せようと思って、開発された技術です。

「何で、似せなきゃいけないんだ」と、思ったアナタは正しい。

コダックVISION3 250Dカラーネガティブフィルム5207/7207の特性曲線

フィルムルック、シネガンマって何ですかね。「そうまでするならフィルムで撮りゃあいいじゃないか」と、思ったアナタは慧眼です。

デジタルでもフィルムでも特性曲線のどの部分を使って作品を仕上げるかは、カメラマンが決め、その作品のルックを決定します。

「まあ、監督の好みを聞いてやってもいいね」というのが温厚なカメラマン。

だから、デジタルはデジタルのルックで名作を創造すればいいんですが、「フィルム命の巨匠に毒されてないかねェ、メーカーさん」というのが、私の実感。写り方の違いは、上映方法にも顕著に現れます。フィルムは映写機で、デジタルはプロジェクターで映しますね。

「バカにするな」と、思ったアナタ。最近、劇場でフィルム映画をフィルム映写機で見たことがありますか。見たことがなければ、比較のしようがありません。

フィルムの白は、光源の白を見ていますから、強い光源なら輝くような白が見えます。黒はほとんど光を通さない黒を見ていますから、漆黒です。

デジタルプロジェクターは、デジタル映像を拡大していますから、フィルムに比べて白と黒の範囲が曖昧です。「ありゃ、今まで見ていたデジタル映像は何だったんだ」と、思ったアナタ、フィルム映写機の画像を再現したいな、と思って開発されたのがHDRと思えば、何となくイメージがわかるでしょう。

「何だ、フィルムは最初からHDRだったんだ」

レーザープロジェクターや有機ELモニターなら、フィルムに近いコントラストが再現できるようになるでしょう。HDRやレーザープロジェクターで「映画」の画面を見ると、「暗い」と感じるデジタル技術者がほとんどでした。放送用の画質を見慣れていると、そう感じるようです。

先頃、国立映画アーカイブで「2001年宇宙の旅」の70mmフィルム上映が行われましたが、瞬時に入場券が売り切れたそうですね。そんなにフィルム上映に渇望していたのか、と私は思います。

どうです、フィルムをやりたくなったでしょう?

1997年プラネタリウムドーム向け大型映像「星空のロマン」トルコロケ。カメラはビスタフレックスII。左から大塚チーフ助手、田上監督、白岩カメラマン。もう一人は立ち合いのクライアント。大型フィルムでもスタッフは4人

フィルムで撮影する費用は高くはない

■総予算はデジタルとほとんど変わらない

フィルムはデジタルの収録メディアに比べて高価です。フィルムで制作する場合、私の時代の基準では「完成時間の3倍のフィルムしか支給されません」でした。30分の映像を作る場合、1時間30分々のフィルムです。それできなければ「カメラマン失格」ということです。

アナタは3倍のデジタルデータで30分の映像ができますか。

デジタルでは、1本の作品が終わったらデータを消去してまた使えますから、2本目にはカードの投資は必要ありません。カードのデータ量も膨大になり、収録時間はバッテリーの性能を考えなければ「ほぼ無限」ですね。 撮影現場でも「デジタルなんだからNGはいくらでも出せる」んだそうですね。アナタの現場でもそうですか?ちょっと待て。

劇映画なら役者=人間が演技するのを忘れてませんか。どんなに優れた役者でも「同じ演技を10回」はできません。また「違った演技を10種類」はできません。

そんなことをやってたら、スタジオや電気代、スタッフの延長ギャラなど、費用がどんどん嵩んでいきます。編集も、OKカットを選ぶだけで膨大な時間が掛かります。グレーディングも凝りだしたら際限がありません。日本の映画は、この辺に目をつぶって「なかったことにしよう」として、正当な対価を払いません。

ハリウッドでそんなことをしたら、訴訟になるのは当たり前。だから、厳しくスケジュールを守り、カット数も始めに決めて契約するんですね。

デジタルもフィルム並みの撮影許容データ量を決めて、編集とグレーディング時間を厳しく制限すれば、その分は安くなるでしょう。

人件費、交通費、宿泊費など、デジタルでもフィルムでもかかる費用は同じ項目が沢山ありますから、きちんと予算を管理して、「総合予算で見れば、デジタルもフィルムもほとんど変わらない」のが、私の経験です。

監督がよく言います。「編集用の素材をたくさん撮影して、自由度を確保したい」。アナタもどっかで聞いたことがあるでしょう。

「IMAXフィルムでそんなことを言ってみろ、張り倒すぞ」

どんなフィルムカメラでも露出は別に測ります。左はペンタックスデジタルスポット露出計で計測する杉浦チーフ助手。右は岸本セカンド助手。マウント・レーニア国立公園

私はプロデューサーでしたから、各領域のスタッフに「君の何の能力に対してギャラを払うのか」と、よく質問しました。「監督には、現場で決断してOKを短時間で出す能力に対してギャラを払う」んですが、わかってないね。

スケジュールと質を守って、スタッフと出演者を和やかにして、予算内で収める能力のある監督、「いないねェ」

それでもフィルムやりますか?

35mm3面マルチカメラのヘリコプター搭載テスト。カメラはアリフレックス35IIC、3台同時駆動システム txt:荒木泰晴 構成:編集部
Vol.01 [Film Shooting Rhapsody] Vol.03

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[ DATE : 2019-02-06 ]
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