txt:荒木泰晴 構成:編集部

フィルムの種類

■柔らかい調子のフィルム、硬い調子のフィルム

コダックのカタログには4種類の16mmフィルムが載っており、タングステンタイプは「200T」と「500T」、デイライトタイプの「50D」と「250D」があります。

左から、タングステンタイプの500T、デイライトタイプの250D

数字は感度で「T」と「D」はタイプの頭文字です。一般的に言って、高感度フィルムは特性曲線(Vol.02「なぜフィルムが選ばれるのか?」の項目を参照)が緩やかで、コントラストの柔らかい画面(軟調)に仕上がります。私の時代の高感度フィルムは16mmで撮影すると、少々粒子が目立ちました。低感度になると粒子が小さく、コントラストの高い、硬い調子(硬調)の画面になります。

私は全てのタイプを使い分けましたが、最近のフィルム製造技術は素晴らしく、どのタイプで撮影しても、銀粒子の大きさはほとんど変わりません。室内の撮影で窓の外が見えるようなカットでも、暗部は潰れず、ハイライトは飛びません。たまにフィルムで撮影すると感動すら覚えます。

■フィルムの使い分け

劇映画では、クランクインからクランクアップまで、同じタイプ、例えば500Tで統一し、同じエマルジョンナンバーのフィルムを必要量用意して撮影するのがフツーです。

Vol.01「アナタがフィルムで撮影できない理由とは?」で紹介したフィルム箱に書いてある数字の写真を見てください。この数字がエマルジョンナンバーで、同じ数字は同じエマルジョンが塗布されていることを示しています。エマルジョンによって若干、発色の傾向が違うことがありますから、一定の色を確保するためです。

ただし、現像液が現像機に入っていた時間、現像されたフィルムの長さ=現像薬の消耗によって、厳密に見ると発色が違うことがあります。

現像所は、これらの違いが一定の幅に保たれていることで、「コダックの認証ラボ」資格を得ています。私は、ロンドンとケープタウンのコダック認証現像所で、フィルム現像を依頼しましたが、どちらも安定した現像で良い発色でした。

劇映画とは違って、私の分野、ドキュメンタリーでは、そんなことは言ってられません。何しろ、「本州四国連絡橋」や「ダム」の建設記録では、完成まで10年以上かかります。その間に、エマルジョンはおろか、フィルムのタイプまで変わってしまいます。500Tでも、フィルム製造技術が進化すると、タイプナンバーが変わります。

ちなみに、35mmは頭の数字が「5」、16mmが「7」。16mmの500Tは、「7219」がフィルムタイプナンバーです。

コダックのカタログより。35mmと16mmのフィルムタイプナンバー

でもね、タイプが変わり、エマルジョンが変わったフィルムを繋いでも、「誰一人として判らない」のが現実です。プロでも判らないのですから、一般のお客様が見てわかるはずがありません。

「フィルムはシーンに応じて、必要な感度の適切なフィルムを使え」が結論。デジタルだって、劇映画でも同じ感度で通して撮りますか。

「このシーンは照明をケチったから感度を上げとこう」と、やってますよね。

映画カメラの基本

Vol.01で「映画カメラには、なーんも付いていない」と、書きました。アリフレックスを例に取ると、「フィルムを入れるボディ」「コマ数を変えられる駆動モーター」「3本のレンズを取り付けるターレットマウント」「コマ数を表示するタコメーター」「フィートカウンター」、こんなもんしか見えません。

8V電動モーターと電源コネクター。左は電源コード

タコメーター。赤線で表示されたのが24コマ

フィートカウンター20フィートを表示

「何だよ、それでどうすんだよ」と、思ったアナタ、デジタルカメラのコマ数を見てください。何だかたくさん書いてありますが、24Pという表示がありますね。これがフィルム映画のコマ数です。24Pという意味は「毎秒24コマで撮影する」ということです。

デジタルの24Pは23.98なんて中途半端な数字ですが、フィルムはキッパリ24です。「そんじゃ、シャッタースピードはいくつ?」と、質問できるアナタは、フィルムの世界に片足を突っ込んでいます。

アリフレックスのレンズマウントの中を覗くと、ミラーが見えます。これが毎秒12回回転して、シャッターの役目をしています。

内部の回転ミラー

「そうか、するとシャッタースピードは1/12秒か」と、思ったアナタは間違い。アリフレックス16は、ミラー1回転で2コマ撮影しています。180°回転で1コマです。180°のうち、90°はミラーで隠れています。

1/12(毎秒12回回転)×1/2(ミラー1回転で2コマ撮影)×90/180(1/2はミラーの隠れ)

ですよ。つまり、1/12×1/4で、1/48秒がシャッタースピードです。

デジタルカメラでは、明るさに従って、カメラがシャッタースピードを勝手に上げてくれますが、上げ過ぎると「パラパラした画面」になってしまいますね。フィルムでは、ストロボ効果を狙うような特殊な場合を除いて、1/48秒から1/125秒程度までのシャッタースピードを選びます。

一般に、露出計のシャッタースピードを1/48秒、フィルム感度を例えばISO50にセットすれば、その場面で必要なF値が測れます。ただし、その露出が適正かどうかは、フィルムを現像して見なければ判断できません。

露出計。左はセコニックスタジオ、右はペンタックススポットメーターV

シネレンズの特徴

海外製のPLマウントレンズは1本200万円以上の価格です。レンタルでも高価ですから、初心者のアナタは見るだけにしときましょう。私は1本も持ってません。

シネレンズと写真用レンズ。cooke speed panchro(下左)、ZEISS Planar(下中)、Schneider cine-xenon(下右)、NIKKOR(上)。全て50mmで、新品は製造されていません

現在、ニッコールは1万円程度で中古を売っていますが、シネレンズは希少品になってしまい、探すのも困難になりました。そんな状況の中、中古レンズを「オールドレンズ」と称してブームになっているのは、PRONEWSの読者なら、とっくにショーチ。

いろんな雑誌に「シネレンズは、色もピントもコントラストも素晴らしい。写真用のレンズとは格段の差がある」と書いてあります。

「シネレンズと、写真用のレンズと違いはあるのか」、という論議はカメラ雑誌では欠かせませんし、大きく扱われています。

中古著名レンズを1本ずつテストして解説をすれば、連載を何年やっても終わりませんし、新型レンズは次々に発表されますから、カメラ雑誌には格好のネタなんですね。

でもね、写真用レンズもシネレンズも描写に違いはありません。ニコンのレンズ設計者は、「写真用レンズとシネレンズの設計に違いはなく、その会社によって、コントラスト重視か、解像力重視か、という傾向がある程度」と、語っています。

シグマのPLマウントのシネレンズは、写真用と同じレンズを使い、鏡胴をシネ用に作り変えています。写真用レンズは5000万画素以上のデジタルカメラに対応しているので、フィルムにも8Kにも問題なく使えます。

何しろ、「ツァイスもタムロンも絞りをキチンと絞れば、プロでも見分けがつかない」のですから、レンズの評価がいかにあてにならないか、なんですよ。

「じゃあ、絞り開放では違いがあるのか」と、突っ込めるアナタはレンズ沼に嵌まっています。 「開放絞りでは危なくて撮影しない」のが、プロ。

がっくりきたアナタ、レンズなんてそんなもんです。

ラボのタイミング(色調整と焼き度の調整)

フィルムはネガフィルムで撮影します。

ネガフィルムのネガの状態

ネガを焼き付けると上映用のポジフィルムができます。写真はビスタフレックスⅢ型を構える小林カメラマン

「ネガって何だ?」というのはごもっとも。

映画は、たくさんの劇場に配給するために、焼き増しプリントを作ります。プリントはネガから焼いたポジです。

写真フィルムで言う「リバーサルフィルム」もありますが、結局は焼き増しプリントを作るためのネガを作らなければなりませんから、最初からネガで撮影するのがほとんどです。

「リバーサルフィルムって何だ?」という質問も、ごもっとも。

まあ、そういうもんだと思ってください。

ネガはオリジナルで1本しかありませんから、最後までカットしません。そこで、編集作業用のポジ、「ラッシュプリント」を作成します。イマジカのフィルム現像注文の時の会話で出てきた「ラッシュ」がこれです。

編集のための機材

撮影協力 東京藝術大学大学院映像研究科

(01)スティーンベック電動編集機。シネテープに録音した音声と合わせながら編集できます。

(02)手動ビュアーとフィルム巻き取り機-音声が必要ない編集では、手動で巻き取りながら画面を見ます。慣れるとこちらの方が使い易いこともあります。

(03)フィルムスプライサー。文字通り、フィルムを切って繋ぐ機械です。これはラッシュ用。ネガ用はフィルムを削ってアセトンで接着するタイプです。

(04)フィートカウンター。16mmでは1秒間に0.6フィートですから、カット毎に何秒あるかを計測しながら、必要な全体時間に合わせます。

(05)和バサミと洗濯バサミ-フィルムをラフに切り、洗濯バサミで挟みます。

(06)フィルムバスケット-切ったフィルムをカット順に吊るしておきます。

(07)16mm映写機。これはハロゲンランプを使ったホクシン製。他にエイキ、エルモがありましたが、現在は製造していません。

ラッシュを、使い方がよくわからないくらい種類がある編集道具を使って、監督または編集マンが「ああでもない、こうでもない」と切り刻んで繋ぎ、繋いでは映写機で大きく上映して画面のボケ、ブレや繋がり具合を検証しながら、何度もやり直して、完成ラッシュができます。

パソコン上で、編集ができてしまうデジタルとは別の、アナログ世界。

16mmフィルムでも幅5m、35mmフィルムは劇場で幅10m以上に映写されるのがフツーですから、ピンボケは即NG。加えて、大画面で見ないと、カメラの動きが適切なのかは判断できません。

小さなモニターで、手持ち撮影の画面が揺れていないように見えても、幅10mに上映すると、目眩がするほど揺れて、見ていられないことは、最近の映画によくありますネ。

このようなことを確認し、完成ラッシュができて初めて、現像所で色調整と焼き度の調整をします。これを「タイミング」と言って、責任者が「カラータイマー」です。

デジタルRAWのグレーディングと違って、調整できる範囲は狭く限られていますので、 フィルム撮影の現場では、始めから色彩は管理されてほとんど統一されていますし、ライティングも同じ調子で構成されています。露出も適正から+-3分の1絞りの範囲に入っていて、いわゆる、「揃ったラッシュ」でタイミングします。

カメラマンとカラータイマーは、長年コンビで作業しますから、お互いに言いたいことや、カメラマンの好みも判っていますので、作業時間は長くかかりません。

その後、タイミングの終わったラッシュと「1コマも間違わないように」、専門のネガカッターが最終的にネガを編集します。ネガカッターは細かい作業が得意な女性がたくさん従事していましたが、フィルム撮影の減少に従って、減ってしまいました。

音もフィルムに焼き付けるために「サウンドネガ」を作ります。

サウンドネガ-ギザギザの2本の線が音

画面のネガとサウンドネガを、1本のポジに焼き付けて、光学サウンド付き上映用プリントが完成します。

16mmオリジナルネガ

16mm光学サウンド付き完成プリント

駆け足で説明してきましたが、フィルムは様々なアナログ工程を経て完成します。撮影から、編集、録音仕上げの技術を理解しながら、私がカメラマンになったのは、21歳で入社してから26歳でした。学ぶことが多く、経験も必要なので決して長いとは思いませんでしたし、70歳の今でも、判らないことはたくさんあります。

フィルム撮影は、「最後の仕上がりを予測して、撮影現場に最高の技術を投入する」やり方です。「そんなことはデキネー」と、短絡したアナタは、撮影の本質を間違っています。

デジタルだって同じです。デジタルの現場では、「RAWで撮っときゃ、後で何とでもなる。グレーディングにお任せ、お任せ」と、アナタも思ってませんか。

「それでもできちゃうデジタル」でしょうが、「現場でバラバラ、デタラメに撮影した大量の素材」を繋いで、「後から何とかしよう」と思うと、グレーディングに時間が掛かるのは必定。「作業に掛かった時間通りお金を払ってくれれば」、カラーグレーダーも頑張りますが、「もう予算がないので、こんなもんでよろしく」と、言われて、断れない職種です。

「何だ、ブラックだなあ」と思ったアナタ自身、「何でもかんでも撮ってしまうブラック撮影現場」にいませんか。

ネ、だから、デジタルでもきちんと各部門に必要な予算を割り振って組んでみると、 「何だ、フィルムとほとんど変わらネー!」って、なるんですよ。

4K、8Kになると、データ量も「ハンパナイ!!」ってことになりますから、今のうちにNGを出さない訓練をしましょうね。

デジタルもフィルムも結局は、「現場でどう撮ってあるか、で決まる」んです。

結論

デジタルだ、フィルムだ、と議論する前に知らなくちゃいけないことは、「基本の原理、原則を知らずに撮影を始めちゃうと、金がいくらあっても足らん」というのが理解できること、なんです。

「その訓練をするには、フィルムがいいね」というのが、私の結論。

これだけは言っときます。

「フィルムとデジタルを両方知ってると、長くメシが食えるよ」

「21歳から70歳まで、何となく映像の現場で食えている私」、が実例です。

どうです、フィルムをやりたくなったでしょう。

txt:荒木泰晴 構成:編集部


Vol.02 [Film Shooting Rhapsody] Vol.04