txt:Yoko HIRANO 編集部 | 構成 編集部

SXSWは、世界でも注目されるべき映画祭のひとつ

世界に数多くある映画祭でもSXSW(以下:SXSW=映画祭)は異色だと言われている。もちろん作品ラインナップにも現れているが、それは奇を衒うわけでもなく、先進的であり参加者を魅了してやまない映画祭なのだ。昨年25周年を迎えたこの映画祭、今回はなぜSXSWが他の映画祭と違うのか?

長らく映画業界でプロデューサーを務める汐巻裕子氏はSXSWにも通い続ける日本でも少ない映画人の一人だ。実際に自らプロデュースした作品が正式出品されるなどSXSWには精通している。映画業界をいかにして渡るのか?海外で活躍するために何が必要なのか?汐巻氏にだからこそ見えてくるものを聞いてみた。

SXSWとの出会いとは?

汐巻氏:SXSWは、プロデュースした「サケボム」(2013年作品)が正式上映されたきっかけで参加するようになりました。SXSWの名前と評判は聞いていました。初参加して雰囲気はもちろんのこと、全てにおいてインパクトが大きかったのを覚えています。

メジャーな映画祭は、運営やプラットフォーム自体他のイベント運営に比べ、前時代的なところが多いのですが、SXSWはかゆいところに手が届くほどITを駆使してオーガナイズされていて、巨大映画祭にありがちな、映画祭を分かる頃には終わり、という徒労がまったくないことにまずは驚きました。

SXSWは、音楽とテックが融合され、当時からエンタメの未来は、ITと掛け合わせた体験になっていく私自身常々思っていて、それを易々と実現しているSXSWが、最高に楽しくて毎年進化し、その風景が変わるSXSWって最高と思いました。SXSWは、独自アプリで全体把握やスクリーニングの予約などいろんなことができます。2013年の時これが標準で世界の映画祭もこれを取り入れるべきだと相当インパクトがありました。それ以降毎年参加し、SXSWの魅力を広く伝えたいと思って今日に至っています。

数年定点観測していて感じるのは、インタラクティブ部門はかつてほどの勢いはなく、大企業病に陥っているのかという懸念はあります。日本人で純粋に映画部門に参加している人はほとんどいないのではないではないでしょうか?かつてローカルのイベントだったSXSWは、今やグローバルの一大イベントになっていますから。スポンサーにもグローバル企業がずらりとラインナップしていますから、その飛躍ぶりは一目瞭然ですね。

2018年は、「旅するダンボール」が正式出品され、段ボールアーティストと監督、作曲家を連れて参加しました。今年2019年は運営側に司会を依頼されまして参加しました。今年はアメリカ色が強くてそれも世界情勢を提示していて面白かったです。

今年のSXSWフィルム部門の傾向。大きな三つのトレンド

SXSW film部門プロデューサーを務めるジャネット・ピアソン氏

SXSW2019、今年のセレクションは内向的だったと言えます。「トランプ政権批判」、「多様性」、「女性の地位向上」とこの三つを徹底的にラインナップさせてましたね。このトレンドは、SXSWに限ったことではないんですが…。このトレンドは、作品のスクリーニンングだけではなく、キーノートやカンンファレンスにも表れていました。

昨年の25周年のラインナップでは、スピルバーグ「Ready Player ONE」のワールドプレミアなど多くの著名映画監督や俳優陣が集い、華やかしい回でハリウッドと密接な関係性が感じられ、映画祭も大きくなってきたしこれからはメジャー路線で行くのかな?と、ハリウッド大作のプロモーションをSXSWで行うスタイルが立ち上がったように思ったのですが、そうでも無かったのかと。恒例のシークレット上映もありませんでしたしね。とはいえ、その傾向は、年によって大きく変化するものだと思います。

Keynoteやカンファレンスに登壇する女性も多く見られた

映画祭側が、意図的に変えたのか、ラインナップの妙なのか?わかりませんが、このトレンドが多かった。ラインナップで感じるように徹底的にトッピクスを選定するのも映画祭の役割なんだと思いました。白人と黒人の対立構造があり、そこにカフェオレ(ヒスパニックやアジアなど)の人を持ち込んだマイノリティー重視のラインナップが目立ちましたね。

これは、SXSWだに限ったことではなく世界的な映画祭でも、最近は優先的に女性映画監督をフィーチャーする傾向にあります。世界的なトレンドとしてSXSWもそれを取り扱うしかないのかもしれません。

映画産業はやはりその国の国威を反映しますから、グローバルに向けたSXSWといえどもアメリカの今の現状を如実に映し出していますね。結果25周年と比べるとまったく違うものでした。

SXSW2018では、スピルバーグが「Ready Player One」のワールドプレミアをSXSWに選んだ

女性の地位向上でいえば、未だ#metoo文化も根深い。女性地位向上の運動がここ数年で盛り上がったけれども、社会に根付く根本は変わらない。そのために女性が未だに繰り返し声を上げているのだと実感しました。今回、オフィシャルスクリーニングの質疑応答の司会を努めさせていただいた際に、女性監督の作品を担当することが多かったのですが、よりそのテーマに踏み込むことができました。

まだまだ息苦しい世界なのだなと。建前と本音は、日本のだけかと思ったらアメリカでもあまり変わらない。

セレクションについては、日本からは応募はほとんどなかったと聞いています。唯一の日本人は、チャイルディッシュ・ガンビーノの「this is america」のヒロ・ムライさんぐらいでしょうか。ただ彼もアメリカベースのディレクターです。『Mr.Jimmy』も日本人のギタリストを扱ったものですが、製作・監督はアメリカ人でしたしね。

SXSW映画祭に参加するということ

Mr.Jimmyのスクリーニング後にトークショーで司会を行う汐巻氏

今や、知名度、認知度も高いSXSWでスクリーングされることは非常に名誉なことです。オフィシャル・セレクションにラインナップされれば次のオファーにつながる太いパイプになります。

ただ、日本からの作品参加は、純粋にハードルが高いかもしれません。基本的にはアメリカの映画祭ですからアジアの作品群は少ない印象があります。SXSWに応募した後の展開イメージを掴み、なぜこの映画祭に出品するのか?を考えておく必要があると思います。

映画祭は、入選して、さあこれからどうビジネスを展開していくのか?この作品を商業的に高めていくというセールスの場でもあり、真剣な交渉の場です。スクリーニングされて終わりでは、もったいない限りです。日本よりも過酷なマーケットなので、全てとは言いませんが日本人の監督が、海外映画祭に出品することがまだご褒美的なところはあるのはちょっと残念なことだなと思います。

国内である程度ヒットしたので、国際映画祭もついでに出品する程度のモチベーションが多いケースをよく見かけます。

もし海外映画祭に出品するのであれば、例えば自費で数年通い、その映画祭の傾向と対策を掴み、戦略を持って臨んだ方が、自分の強みがクリアになると思います。

ピクチャーズデプトは海外セールスや国際共同製作を手がけているので「国際映画祭に出品したいんです」とよく相談を受けますが、ただ漠然と「海外で」と言われても、ヨーロッパ、アジア、アメリカと広いわけです。

どこに出したいのか?を決めてない人が多いのです。相談を受けたら最初にどこで何をしたいのか?とまず聞きますが、明確に答えられる人はほぼいないのが実情です。

もしアメリカで勝負したいと思っているなら、今ならSXSWを狙うべきです。サンダンス映画祭に出品するにはいろんな意味でハードルが高くて、予算もすごくかかります。予算がなくても存在感を示したいときは、SXSWを行くべきで、他に選択肢はないと言い切れます。アメリカ市場への入り口であり映画ビジネスのスタートアップの機会となるとも言えるかもしれません。

逆に、アメリカを目指していませんとか、英語が話せない人は映画的な感性が近いヨーロッパの方が角度は高くなるのではないでしょうか?また日本人のスターが出演しているならばアジア圏にいけば高く売れますし、注目もされます。

まずは、自身の作品の立ち位置を決めて、どこに向かうのかだけでも決めた方がいいです。方向性が決まれば、誰もがSXSWに出品した方がよいわけではないことを理解してもらえると思います。

ストーリーテリングの難しさ。映像制作好きに光明

日本人が海外で「映画」で参入するのは難しいですが、「映像」をやりたい人には可能性があるかもしれません。プロモーションビデオやミュージックビデオなどは、アメリカ市場の方が需要が多いですから。

アメリカのプロデューサーで「日本人監督と映画を作ろう」と思う人はほぼ皆無です。全く需要がないところに挑むより、アジアっぽいテイストが求められているリージョンであればチャンスはありますよね。これも戦略次第です。そういう世界中の映画、音楽、IT関連のクリエイターたちとネットワーキングできるところはSXSWのいいところです。

脚本が世界的に照らし合わせてもすさまじくよい!場合は別として、作品をどうしたいのかというビジョンがないと、何もアドバイスできません。日本人の奥ゆかしさゆえなのか、ヴィジョンが見えないので、戦略の立てようがないんです。

逆に海外のクリエイターからの売り込みの場合、荒削りでも熱いパッションが伝わってきますし、何をしたいかの思いがクリアーなので、自分が協力できる内容なのかどうか?瞬時に判断できます。この差は大きいですね。

自分をどうするのか?映画祭をどう使うか?を、考える必要がありますね。それがあれば、そこから先は専門家がいますのでまかせてみたらよいとおもいます。当のフィルムメイカー本人が何も考えてないと、コンンサルではなく、それはカウンセリンングでしかなく、もっとひどいとただの悩み相談になってしまいますので(笑)。

今、海外で挑戦するなら確度が高いエピソデックに注目

実情を言えば、映画監督になりたい人が減少していることも否めません。しかし若い人に映像をやりたい人は多い。NetflixやAmzon PrimeなどのVODでは、映像制作エピソード毎にストーリーが完結するエピソディックがトレンンドです。

そこを考えると映像表現と編集技術のクオリティを世界標準に合わせればチャンスはあると思います。日本の映画製作はDPシステムがなく、また照明の色の好みが世界のお客さんが見慣れている映画の色の好みと違うので、まずそこから指摘されることが多いです。

日本人監督には、10億円で1本の映画ではなく、エピソデックの1話を3億円の予算で取り組むことによって、そこでオリジナルの世界観や存在感をアピールするチャンスもありますよね。私の経験上から言えることですが、オリジナリティのある監督は、どのカットを見てもその人の作品だとわかります。デビュー作からこれは誰の作品だということがわかりますよね。

ですのでこの画はこの人だ、と言われるようになれば良いですね。オリジナリティがないと海外市場へのセールスポイントを見出すのが厳しくなってしまいます。

映画の製作にはとにかく予算がかかりますから、前衛的でチャレンジングな企画は多くの予算を持つ企業が行います。かつて映画界にいた人々がテレビに流れそして今NetflixやAmazon Primeの方へ流れています。

そういう時代の流れもあり、例えばNetflixのワールドワイドでは今後50%以上がオリジナル作品になるそうですので、そこも視野に入れておくのも戦略の一つです。とにかく最近は、潮流が早いので、世界戦略を考えたい人は、積極的にいろんな映画祭を見て歩くことで、流れを掴むことが近道だと思います。

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txt/構成:編集部


Vol.07 [SXSW2019] Vol.09