txt・構成:編集部

ラインナップ間の競合は気にしない。全力で良い製品を届け続ける

Cine Gearにおけるパナソニックブースは、S1H開発試作機展示に来場者が多数集まり盛り上がりを見せていた。しかし、パナソニックのシネマカメラといえば、Dual Native ISOやLookに定評のあるVARICAMやAU-EVA1(以下:EVA1)も相変わらずの人気だ。シネマカメラを担当する三井隆博氏にVARICAMシリーズの近況を聞くことができた。

パナソニックの三井隆博氏

――同じパナソニックからS1Hの開発発表が行われました。今後、VARICAMシリーズと一部競合することも考えられますか?

“競合する”という意識はありません(笑)。ちなみに私は、VARICAMやEVA1を担当しながら、S1Hの開発にも関わっています。特にラインナップとして重要な画作りの開発をLUMIX部隊と共に進めております。

――他社カメラメーカーでは、民生用カメラと業務用カメラの開発チームは完全に縦割りで別々という話を聞くこともあります。御社は異なりますか?

実は、LUMIXとVARICAM/EVA1の開発部隊は同じフロアで、しかも隣に座っています。仲は良いですよ(笑)。LUMIXの商品企画の香山氏とは、GH4開発時からいろいろと協力してやっています。我々がVARICAMでV-Logをリリースした時に、「GHシリーズにも搭載したいね」と話を頂いたのがきっかけです。そこから実現したのが、GHシリーズに搭載された「V-Log L」です。

VARICAMシリーズのデモ機のまわりはいつも大勢の人が集まっていた

――LUMIXにシネマ対応で35mmフルフレームカメラが発売すると聞いたときに、それはまずVARICAMででるべきではないか?とも思いました。

そうですね。確かにラインナップ的には、VARICAMのフルフレームのフラッグシップモデルを最初にリリースしたほうが良いように見えるかも知れません。しかしながら、LUMIXが先行して良い商品を開発できるのであれば、パナソニックとしてはその価値を早く市場にお届けするべきです。もはや、ラインナップ間の競合を懸念して、開発順番を調整したり機能制限したりするような時代ではないと思っています。とにかく全力で良い製品を届け続けないと、生き残っていけないですから。

Tシャツに描かれたVARICAM LTのイラスト

次のVARICAMはもっと先に進んだ映像表現を実現できるカメラに

――逆にフルフレームを実現したVARICAMの計画というのはあるのでしょうか?

構想はあります。常に“次の進化”ってなんだろう?と考えています。例えば、VARICAM35の発売は2014年で後発でしたが、いくつかの“次の進化”を搭載したことで、Netflixのオリジナル作品などのビッグバジェットの撮影に数多く採用していただけました。国内でも最近では「轢き逃げ-最高の最悪な日-」など、多くの作品でご使用頂いております。

その上で、次期VARICAMが実現すべき“次の進化”は何か?と考えると、やはり次の新しい映像表現であるべきで、トレンドであるフルフレームに乗っかるだけでよいのか?その先の映像表現とは何か?といった議論が常になされております。新しい世界をお届けできるよう、メンバー一丸となり努力致します。

――先ほど言いました「轢き逃げ -最高の最悪な日-」や「映画 賭ケグルイ」などでもVARICAMで撮影されています。これらの現場では、なぜ御社のカメラが採用されたのでしょうか?

ダイナミックレンジなどの基本特性に加え、シネマカメラなのでLookも選ばれる理由だと思っておりますが、やはり最大の特徴であるデュアルネイティブISOも大きな採用理由だと思います。ここ最近は、撮影監督の皆さんがISO5000の高感度がもたらす様々な価値を見つけて下さっています。

いつもVARICAMを使って下さっているASCの方は、ISO5000による低予算化(照明パッケージが半分になった)に加え、照明セッティングの時間が大幅に削減できることから、どういう画を創るべきか?という現場での議論に、多くの時間が確保できるようになったとおっしゃっていました。シネマトグラファーの皆さんが本質的に欲しているクリエイティビティを高める時間を多く提供できることも、弊社のカメラの価値だと教えて下さいました。

VARICAM 35の性能・機能を凝縮したVARICAM LT

VARICAMやEVA1のシネマテイストをライブ運用で活用

――EVA1とVARICAMシリーズに動きはありますか?

VARICAM/EVA1ともに、HLG(Hybrid Log Gamma)などライブ向け機能を強化したファームウェアをリリースしました。ライブ系コンテンツが爆発的に増えている中、一方で様々なコンテンツにおいてシネマチックな映像表現を要望する声も高まっています。その二つの状況に応えるべく、VARICAMやEVA1にライブ用途の機能を拡充し、「Cine Live」と「EVA-Live」として推進しております。

浅い被写界深度で柔らかいシネマチックなVARICAMのLookの映像表現をライブの世界で使って頂く。これも“次の進化”の一つだと思い取り組んでおります。大変有難いことに、世界中の多くのライブの現場で使って頂いております。

――LUMIXシリーズとVARICAMシリーズで、どういった製品が誕生しそうですか?

冒頭にも言いましたが、LUMIXとVARICAM/EVA1は弊社シネマカメラのファミリーとして、積極的に協力して開発をしていくことが増えると思います。

VARICAMやEVA1が築いてきた価値とLUMIXが築いてきた価値、それらをもっと融合して、より新しい映像表現を皆さんに届けていきたいですね。御期待頂ければ有難いです。

txt・構成:編集部


Vol.03 [Digital Cinema Bülow VIII] Vol.05