txt:石川幸宏・編集部 構成:編集部

豊作の秋を感じさせる賑わう会場より

この秋のIBC2019のタイミングでは、Vol.01で紹介したソニーのFX9、Z750をはじめ、かなり多くのカメラ・レンズなど新製品が発表され、実際に機材に触れられる機会となった。またこの夏にも各社から多くの新製品発表が続いたことからも、実製品の現物をその目で見られるという来場者にはとても心待ちな、まさに豊作の秋を感じさせる賑やかな会場風景だった。

普段のヨーロッパとの都市では、店舗なども含め仕事は土日完全お休みという傾向が強いが、そのためか週末の休みである14、15日の土日でもかなり多くの来場者が詰めかけていた。

2019年のトレンドとして、カメラはボディサイズや解像度の大小、収録できるコーデックやフォーマットに関係なく、使用分野別、ユーザーのレンジ別で、個人所有できるカメラと、チーム構成で撮影・制作していくカメラシステムの2極化に完全に傾向が別れた年とも言えるだろう。

特にブラックマジックデザインのPocket Cinema 4K、そして今夏の6Kの登場で、スペックと価格という意味では、大きなシネマカメラシステムに匹敵するスペックを持ちながら、OVER 4K+RAW収録のカメラでも20~30万円という低価格で入手できる個人ユースプライスゾーンが確立したように思う。

そことは別に、映画やTVドラマで使用されるシステム型のカメラゾーンは、レンタル機材としていかに堅牢性や対画質保証の価格帯域、またレンズなどの汎用性など総合的な有用性が求められている。フルサイズへの波もここにきて各社から出揃ってきた感がある。

キヤノンが動いた! EOS C500 Mark II 発表!

キヤノンは、CINEMA EOS SYSTEMの集大成となる最新機種「EOS C500 Mark II」をIBC開催直前に発表。前バージョン初の4KシネマカメラEOS C500はすでに販売終了になって久しいが、CINEMA EOSシリーズの、ある意味で現段階で完成形モデルとして蘇ってきた。

ARRIのALEXA Miniに近いコンパクトなキューブ形状に、5,9Kフルサイズ(38.1×20.1mm)の新開発センサーを搭載し、フルサイズ読み出しの他に、スーパー35mm(Crop)、スーパー16mm(Crop)での読出しが可能。撮影スタイルや現場の用途に応じて自由にカスタマイズできる後部への各種ユニットで構成されるモジュール式システム。

さらにレンズマウントをユーザー自身がEF-PL交換できる新機構を採用し、非常に自由度の高いカメラシステムになっている。最大15+ストップの広いダイナミックレンジでHDR撮影も可能、高速処理が可能な新開発の映像処理プラットフォーム「DIGIC DV 7」の搭載で、5.9K RAW⁄60Pおよび4K60P記録、2K120P記録が可能。

また収録フォーマットも、情報量を維持しながらデータサイズを軽くできるEOS C200に搭載されたビデオフォーマット「Cinema RAW Light」を採用。さらにこのサイズの動画データを効率的に圧縮記録する「XF-AVC」に対応。記録メディアも同社初で、おそらく本格的なシネマカメラとしても初採用となった、CFexpress(Type B)カード(2スロット)での記録に対応し(他にXF-AVC記録のみに対応したSDカードスロットも装備)、外部レコーダーを使用せずにRAWデータを本体内で記録可能になっている。

また、HDR収録もHLGとPQに対応。キヤノンの真骨頂でもあるAF機能は、付属のLCDモニターLM-V2使用時に機能するタッチフォーカス対応のデュアルピクセルCMOS AFを採用、AFエリアは画面内の縦横約80%をカバーした。

LogはCanon Log2/Log3を搭載。SDI OUT端子、MON.端子、HDMI OUT端子、VIDEO端子、ファインダーの出力映像にビューイングLUTを適用できる。

カメラ専門メーカーならでは数々の新機能を搭載

EOS C500 Mark IIがこの秋のカメラの中でも出色なのは、キヤノンのカメラメーカーとしての技術力を思う存分発揮されたモデルになっているということだろう。

まず最近流行りのダブル(ディアル)ISOの感度設定だが、EOS C500 Mark IIでは、ISO感度はISO160~ISO25600までの設定のほか、ISO100~ISO102400までの拡張モードでも設定可能となっている。他社との違いとしては、この有効ISOレンジの中で、およそ7段階程度のベース感度の切り替え操作が自動的に行われているとのこと。デュアルISOシステムのカメラとはS/Nの部分では、レンジによって一長一短あるが、他社のように2つのフィルムストックをイメージさせる機能よりも、よりきめ細やかなISO変換がなされているという。

また、ボディ内にEFレンズ、EFシネマレンズ以外の非対応レンズ装着時にも5軸手ブレ補正が可能な電子IS機能を搭載。アナモフィックレンズ使用時のデスクイーズ出力にも対応。EVF及びMON./HDMI出力時は、デスクイーズ後の2.39:1の画角になるよう切り出され、拡大倍率はメニューでOFF/2x/1.3xを選択可能(4K60P/50P撮影時はEVF/MON./HDMIは2Kでのデスクイーズ表示)。

デュアルピクセルCMOS AFでもユニークなのが、今回からプロカメラマンのフォーカシングを模倣した、フォーカスポイントの直前に緩やかに減速しながらフォーカスが合うような動作をオート機能で実現している。また面白いのは、小絞りボケの回折補正機能などがついているところで、いかにもカメラメーカーが考えた機能も多く備わっていることに驚かされた。

ムービーカメラでは、ここ数年で開発してきた、フラッグシップのEOS C700、実質のメインストリーム機、EOS C300 Mark II、コンパクト&RAW収録のEOS C200など、どれも優秀ではあるが使用用途によっては、どこか中途半端なイメージもあったCINEMA EOS SYSTEM。初号機であるEOS C300がまさに名機と言われるほど世界的な普及を果たした中で、現状での必要最低限の機能を完全パッケージ化したこのEOS C500 Mark IIの登場で、実質のCINEMA EOSの次世代機が誕生したようだ。

キヤノンブースではその他にも、4K HDRモニターの新製品で、最大・全白2000cd/m2の高輝度、0.001cd/m2の全黒輝度、200万:1の高コントラストを実現した、DP-V3120を展示。

さらに今年の米アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞でオスカーを受賞した話題のドキュメンタリー映画作品「フリーソロ(Free Solo)」で使用された機材を展示する「DOCUMENTARY PRODUCTION」のコーナーも特別設置。

ほぼ全編、EOS C300 Mark IIを中心としたキヤノンのカメラで撮影されたた本作の監督・撮影監督であるジミー・チン(Jimmy Chin)氏のインタビューを交えたメイキング映像が上映されていた。さらに会期中の15日には、本作がまたもアメリカTV業界の祭典、エミー賞でノンフィクション部門の7部門全賞を受賞するという前代未聞の快挙を成し遂げ、話題になっていた。

IBC2019トピックス:02

パナソニックでは、話題の高級デジタル一眼、Sシリーズのムービー向けカメラ「DC-S1H」を出展。シネマミラーレスと名打った、S1Hは、同社のVARICAMで培われたV-Log/V-Gumutなどの画像処理技術を盛り込んで、本格的なシネマクオリティの映像撮影が可能なカメラに仕上がっている。デュアルネイティブISO対応の2420万画素35mmフルサイズセンサー搭載でベース感度ISO640/4000を切り替えて撮影可能。

イメージセンサーに最適化されたローパスフィルター搭載でモアレなども抑制し、V-Log/V-gamut対応の14+ストップの広ダイナミックレンジを実現した。極力VARICAMの持つ伝統的な「VARICAM LOOK」を再現すべく、VARICAMのLUTライブラリーなども活用できる。

フルサイズセンサー搭載のミラーレス一眼機としては世界初となる、センサー全域を使った「3:2 6K/24p(5.4K30p)、16:9 5.9K/30p動画記録」などの高解像撮影を実現。その他もプロニーズとして、フルサイズ3:2、スーパー35mm4:3から切り出す、あらゆるシネマ画角とfpsに対応した豊富な動画記録モードが売りだ。バックの液晶モニターも新開発のチルトフリーアングル機構を持った3.2型約233万ドットのタッチパネル式液晶モニターを配置。ハンドヘルドやジンバル使用時に有効なボディ内5軸6段の手ぶれ補正機構も内蔵された。

またIBC2019のタイミングで、ATOMOS NINJA Vへ動画RAWデータを出力するファームウェアも発表され、隣接するATOMOSブースでは早速実機展示が行われていた。ブースでは特に学生を中心とした、インディペンデントの映画系ユーザーに人気が高く、いつも人が絶えない状況だった。

またショルダー式カメラ「AJ-CX4000」を発表。4.4Kセンサー搭載のB4マウントカメラで、新たなHEVCコーデック100Mbps mode for ENGを装備し、NDI/HXのコンパチビリティを有した新機種(9月時点では国内未発表)。

今夏、大きな話題をさらった、ポケッタブル・フルフレームカメラ「fp」の海外初出展でも注目されたSIGMA。このIBCでは、7月11日のfpと共に予告発表されていた、CineLensシリーズの新ラインナップ「FF Classic Prime Line」を発表。

ラージフォーマットで8K撮影に対応した解像感と、コンパクトなサイズ感を実現し、ハリウッド作品まですでに多くの映画でも使用されているFF High Speed Prime Lineをベースに、光学系をノンコートレンズを中心に構成し、低コントラストと美しいフレア・ゴーストによるクラシックな映像表現の両立を可能にした、オールドレンズの風合いと新光学技術を融合した新企画のレンズ。

レンズフレアなどを効果的に取り入れつつ、FF High Speed Prime Lineの特長のひとつである大きなボケも活かすことが可能。新規設計の専用コートを適所に施すことで、ラインアップ内のT値(14mm、135mmはT3.2、その他はT2.5)とルックを統一している。

その他にも、Cooke社の通信規格「/i Technology」に対応したPLマウントレンズや、Lマウントを採用したデジタルカメラにてPLマウントレンズを使用するためのコンバーター、SIGMA MOUNT CONVERTER「MC-31」の開発発表を行った。

ARRIでは、照明システムの革命的な製品「Orbiter(オービター)」を中心とした展示になっていた。Obiterは、全く新しいコンセプトを持つライティングシステムで、新型ライトエンジンSPECTRA(スペクトラ)を搭載し、投光部にはまるでカメラのレンズ交換システムのような、QLM(Quick Lighting Mount)という独自の交換アダプター機構を備えた照明機材。

今回は、4つの光学系オプションとして、高輝度で指向性が強い、直線的な光を照射するオープンフェイス光学系、フォーカシング機構を備え、カッターライトやゴボライトとして使用可能なプロジェクション光学系、広範囲に柔らかい光をつくり出すドーム光学系、そして、直接CHIMERAやDoPChoice製のライトバンクを装着するライトバンクアダプタが発表された。

このQLMマウントには電気接点があり、Orbiterは装着された光学系を自動的に認識、接点から48Vの電力供給可能。

ARRIが新開発した、新しいLEDライトエンジンSPECTRAは、レッド・グリーン・ブルー・アンバー・シアン・ライムの6色の素子で構成された最先端のLED素子を独自の配列で並べることで、HMIのような明るく、高い色再現性を実現している。CRI(Ra):99、TLCI:95という高い色演色性を実現、色温度は2,000~20,000Kで調整可能で、SPECTRAは従来のライトエンジンより15%も広い範囲の色をつくり出すことができるので、4K放送の広色域、REC.2020の約90%をカバーすることができるという。

ARRIは、このタイミングでのカメラ系の大きな発表はなく、今春発表されたALEXA Mini LFの実機展示を中心にした展示していた。

韓国SAMYANGのシネマレンズブランドXEENからも新たにメタルよりも軽量なカーボンファイバーボディを配したXEEN CFの参考展示があった。独自のXコーティングを施した8K対応プライムレンズで、現状発表されていたラインナップは、16mm T2.6、24mm T1.5、35mm T1.5、50mm T1.5、85mm T1.5の5本で、16mm、35mm以外は、9月にリリース、2本は来年初頭にリリース予定。PLマウントのほか、EF、Eマウントが用意される予定だ。

中国・深圳に本社を置くDZOFiLMでは、マイクロフォーサーズマウント対応のLingLungを展示。LingLungは、ゼロブリージングエフェクトを搭載したスムーズな操作感と、クリーミーなボケを演出できる10-24mm T.2.9/20-70mm T.2.9の2本で、全長153mm、重量110gと小型軽量なズームレンズシリーズ。

両サイドでの基線表示や回転角270°/26ポイントマーカーのフォーカスリング、100°のズームリング、70°のアイリスリングなどコンパクトながら非常にきめ細かな設計がなされている。ブラックマジックデザインのPocket Cinema Camera 4Kや、Z CAM E2、パナソニックGH5/GH5Sなどに向けた製品で、同機につけたセッティングを今回のIBC会場の各所で目にした。


txt:石川幸宏・編集部 構成:編集部


Vol.01 [IBC2019] Vol.03